「大丈夫、君にはまだ未練がある」
数日後
『じゃあ行ってくるね。』
「いいですか?一度入って帰ってきたら必ず此処に来るように。
連続で行こうなんて考えは捨てて下さい。」
『分かってるって。』
「一応念のため彼女達にも見させていますが…」
月経が終わり、体調も戻った数日で結構な進展があった。
メルの力が少しずつだが取り戻されているということ。
ルメリアに色々請け負って貰っており、その中から
本来持っていた力を抽出し、現在は10ある中の3、4程度は貰えている。
「ま、新しい仲間のこともあるし、私達は心配しなくていいですよ。」
「そうそう!メルが帰ってきたら捕獲して此処に投げ出しますから!!」
『いや、別に捕獲後すぐに飛ばそうと意気込まなくてもだな…』
というか君ら本当についていかないつもりか。
逆についてきて欲しい?
いいや絶対来てほしくない。
『ま、身体一つでいけるのはありがたいというものだな。
そいじゃ、後よろしくお願いします。』
「ええ、お気をつけて。」
『行こう皆!』
「お!!」
「ねぇねぇ、向こうの気候ってどんな感じだろうね?」
『え〜どうだろ。あの感じ的に熱帯雨林って感じしたけど。』
「うひゃ〜暑いのやばそう〜」
そんなミラやミシュメールの話を聞きつつも
メルは答え、その穴に足を踏み入れる。
階段を降りていく間に、すっと穴は消えて無くなった。
ルトラールはそのまま、華樹の下で待機することに。
他の子達は、ちゃんと元居た場所に戻って仕事をしているだろう。
「待っていますよ。いつまでも。」
++++++++++
『じゃ、本当に行ってくるね。』
そうメルは第4章の額縁に背を向けて言う。
周りの子達はオウという声が上がった。
「何かあればこれを。」
『これは?』
「一応向こうからこっちに戻れる用の避難紐です。」
そうフィズが説明をしながら渡してくれたのは金色の紐だった。
似たような紐をメルも持っていたが、ソレを模したものらしい。
リボンのように付けて、外すことでこの場所に帰るとか。
「自然に解けたり、髪が崩れてとかの場合は発動しません。
あくまでも帰りたいと強い想いを持つことが大事ですので。」
『わかった。ありがとう。』
「じゃ、気を付けてね。」
『うん。』
そう言ってメルはその前に立つ。
さあ、此処からが本番なのだろう。
メルはその足で、一気に額縁の中に飛び込んだ。
『っだ!!っと……』
入った中は、想像していた通りの場所だ。
気温は高く、湿度も高い感じがする。
『あっっつい!!!!やっぱり涼しげな格好をしてきて正解だった。』
とは言っても、こっちで蚊に刺されるのは嫌である。
そういうわけで、メルの恰好もそれに合わせてきた。
下は紺のサルエルパンツでくるぶし近くまで肌を見せず、
上は白い長そでの襟付きシャツだ。勿論薄い生地。くそ涼しい。
一応足も靴を履いて今回は行動する。
力を其処迄使わなくてもいいだろうというものと、
後は普通に何が起きるか分からないというのもあるから。
鞄という鞄を付けず、とにかくポケットに入る程度の必要最低限にとどめた。
一応スマホに近い長方形の通信機を持ってきていた為、ソレの確認をと電波を通す。
『あ〜もしもし?聞こえる?』
ええ、聞こえますよという声が聞こえる。
近くに誰が居るかを聞くと、
どうやらルトラールだけではない模様。
「此方は偶々来ていたコルンさんとスピス、
後はメルトリアさん、メリアさんが居ます。」
『は〜了解。声って聞こえてる感じ?』
「ええ聞こえていますよ。続けてどうぞ。」
『はぁい。現在気温恐らく25度前後、
熱帯雨林特有の樹木が
縦にすご〜〜〜〜く伸びてるのは見えてます。』
熱帯特有の草やら木の実やらが
生い茂って動きずらいったらありゃしない。
だが、今までの服装で来なかったのは
大正解と言った所だろう。
『直感は当たってそうで、この額縁の中に入ってるところは
誰かと直接会話ができる可能性もあるからね。』
「だからこうして何かがあった時用の為の、通信機器を創ったと。」
ま、発案者は私だが、作ってくれたのはブルマさんだ。
彼女には色々世話になっているので、後で礼をしなければいけない。
『人に会ったり何かあればまた連絡します。』
「よろしくお願いいたします。」
ピッと音を立ててスマホをポケットの中に入れる。
さぁ行動だ行動。わくわくすっぞ!!!
メルはガサガサと音を立てつつ前を進む。
そういえばこの時代私は一体何をしていたのだろうか。
キラリと光る反射に、メルはひょいっと避ける。
『おお…っとお!?!?』
タタタ、と矢が同時に近い速度で横に刺さり、加えて上下と
勢いが止まらない為に急いで動く動く。
『ぴゃ〜〜〜!!うたねぇでくだせぇ!!僕悪いことしてねぇが!?!?!』
樹木の中を駆け巡るのも
服の中で動く鬱陶しいスマホを片手に持ち替え、
ぴょんぴょんと木々を移動して言っていた時だった。
『い゛っ!!!!』
足を射られ、その手にあったスマホがぱりんと矢に撃たれてお亡くなりになった。
あああ!!!開始数十秒で死んだ!!!!泣いちゃうって!!!!!
身体を強く打ったのか、それとも打ち所が悪かったのか、
頭がぐらんぐらんして何が起きてるか分からない。
何かの声が聞こえるのに、そのまま意識を失ってしまった。
++++++++++
『…っん』
「あ、起きたか。」
『ここは…った』
「敵じゃないならそう言ってくれれば良かったのに。」
はいこれ食べ物。そう出してくれたのは木の実のスープだろうか。
赤茶色の食べ物に少しうっとするも、勇気を出して飲んでみる。
『んんんま!!!美味しいなにこれ!!』
「キジャクロウのスープ」
赤い髪の毛を左右にツインテールで結んでいる彼女が言う。
青い髪飾りか、羽根飾りがアクセントになっている子。
白いワンピース姿の彼女は肉を喰らっているが、
それは鶏肉で合っているんだよな?
人とか言わないよな?な?
「安心しろ、ちゃんと人肉ではない。」
『良かった…良かった??』
「その、機械については、すまん。」
『いや、こっちも油断しすぎてたので、お互い様ってことにしませんか。』
そうしてもらえると助かる。
そういう彼女にメルもホッとする。
『にしてもごちそうになっていいの?』
「せめてもの詫びだ。元に戻るまで此処に居て貰って構わない。」
『いや言うて2日くらいで治りそうなのに』
「…アタシの力も充分込めた魔弓の矢だからな。」
そんじゃそこらの回復でも追い付かない。
ひぇ、私死ぬの?
「だからそうしないようにアタシが回復を入れてこうなっているんだ。
大体一週間は此処に軟禁ってところか。」
『ひえ』
「そういや見ない恰好だな、お前外の人間か。」
『外?内と外とかあるの?』
「…まさか、お前記憶が?」
『あ、あはは…失礼ながら覚えてなくて。』
打ち所が悪すぎたか、と頭を片手であちゃーと言いたそうに悪そうな顔をして困る彼女に、
ごめんとメルは答える。
『頑張って思い出すようにはするから、その。』
「いやいい。どう考えても確認出来るアタシの責任だ。
名前くらいは憶えて居るか?」
『…メル』
「メルか、良い名だな。私の名前はフォルスだ。」
よろしくという彼女の横長い耳がぴくぴくと反応する。
それに目を取られつつも、メルはよろしくと手を取って握手した。
「にしてもメル、お前本当に華奢だな。ちゃんと飯食ってるのか?」
『む、ちゃんと食べてます!これでも食べれるようになった方なんだよ?』
「へぇ?肌も白いし、外出てるのか心配だったが。」
『貴方も言うて白いでしょ。此処に何年暮らしてるのよ。』
「まぁ18年はいるな。」
『え゛成人手前とかびびる。』
「成人なぞしとるぞ。餓鬼程度に見えるとは困るが…」
『…まった、成人何歳。』
「15」
『いや何処の元服だよ。何処の。』
何処の江戸時代だ何処の。
そういうメルに、首を傾げていたフォルスに
気にしないでとメルは首を横に振ってこたえた。
『それにしても貴方一人で此処に?』
「嗚呼、父と母は物心つく前に居なくなった。
…ま、一度か二度くらいの想い出くらいはあるが。」
『…そう、ごめん。』
彼女もまた、幼少期に難があったらしい。
何処の時代も何処の場所でも、同じ様な状態。
余り深く聞かないようにと思っていたが、
ケラケラと笑って大丈夫と答えてくれた。
「それ以外は何不自由なく暮らしている。
かなり離れた場所には稼ぎ場所である村もあるしな。」
『外と内ってそういう?』
「いや、もっと広くだ。この星、ラフルートは多くの土地が薄い膜に包まれている。」
そう上を指さすが、何も見えないのはこの樹海がそうさせているのだろう。
「更に上を突っ切れば、外の世界に通じる。
外の世界はいろんな種族が暮らしていると言われていて、
衣服やら髪色やら不思議な力は外の人間と呼んでいるんだ。」
『あ〜日本で言うアメリカ人やらフランス人を外国人って
言っている様なもんだろなぁ。』
「…?まぁ、そんなもんだと思ってくれて構わないとは思う。」
『種族はどんな奴らが?』
「お前の様な者は初めてだが、透明の羽根を持つ種族ファルシータ、
足が4足で上半身が人間のラグゾール、そしてアタシ達人間の3種族だ。」
『足が4て…はは、そんな冗談を。』
「冗談なんかじゃない。なんなら知り合いがいるが、会ってみるか?」
いや怖いが、怖いもの見たさというものだ。
どうやらその羽根を持つ種族ファルシータと駆け落ちしてきたらしい。
えっまって恋の予感?!何それ大好き!!はよ教えろ!!!!
「ま、まぁ今日はもう夜も深い。この樹海に夜は向いていない。」
今日は寝ようという彼女に、メルは大人しく従うことにした。
熱を持っているのか、それとも緊張していたのが解けたのか。
メルはそのまま言われた場所に入って眠りに落ちたのだった。
「……記憶がない、わけではなさそうだが、警戒心の無さには呆れるな。」
そうメルを入れた場所に鍵をかけて言うフォルスが腰を掛けた。
メルの持ってきていた通信機器に向かってぼやく。
「外の人間が戦争を企んでいるとか聞いたから
怪しい奴全部足から撃って毒を入れて
徐々に飼いならそうと思っていたんだが…」
あの目の柔らかさと来たらもう、本当に呆れてため息しか出ない。
「は〜〜〜どういう生活をしていたらあんな目になるんだ。
あの誰もを真っすぐに見ているようで、
全く違う場所しか見ていないその目を。」
そんな癖して、大事なことも、自分がどうなるかも、不安だって何一つ漏らさない。
大丈夫ではないのに、言い聞かすこともなく、ただ前を見て話すようにする姿勢。
「…戦争目的の人間に唆されて連れてこられたなら話は別だが、
いやだとしても憐れ過ぎてもう手の付けようがないなアイツは。」
頭が元々おかしいとしか言いようがないだろう。
絶対嘘がつけないタイプだとフォルスは確信した。
なんなら嘘を付く時そっと左側に目が向くのだ。
あの子気付いてるんだろうか。
気付いてやっていたらそれもそれだが、
だとしてもバレバレなのに気付かないのもまずいだろうて。
「はぁ〜〜〜ま、あの感じもう白に近い白だろうな。」
通信機器が使えて居るかは分からないが、一応言っておこう。
「メルという奴はアタシが今軟禁しているが、悪い様にはしない。
どういう躾をして嗚呼なったのか端から端まで聞いてみたいが、
それはまた「いつか」してみたいと思っている。」
単なる独り言だ。その「いつか」が来ないだろうに、
何処か来てしまう予感がしてならなくて、わくわくしてしまうのだ。
「ま、こっちの落ち度が高いので、
もし帰した時深く叱ってやらないで欲しい。
寧ろアイツは凄い勘の持ち主だ。
あそこら辺一体全て罠を仕掛けていたんだが、」
それも全て、綺麗に交わされ、
何なら木々に伝って移動し始めた
その機敏さ、判断の速さと言ったら驚いた。
「だから余計に話したあとの阿保らしさに
毒気を抜かされたってわけだ…
は〜〜〜〜〜〜本当にどうしようあいつ。」
こっちまで頭が壊れてしまいかねない。
「アタシの罠は外の人間ですら普通にかかる奴なんだがな。
綺麗に避けたから本気で弓を射って、さぁ尋問しようとしたらアレだ。」
ま、いい奴なら話は別だ。
「ちゃんと綺麗に治して、綺麗なまま帰すつもりだよ。
だから暫くの間、彼女を借りて生活を共にすることを、どうか許して欲しい。」
久しぶりに人とこうしていると、気がくるってしまいそうだ。
いやもうとっくのとうにおかしくなっていて、手遅れなのかもしれない。
嗚呼それだったらいいのに、なんて思ってしまうから恐ろしい。
「さ、アタシも寝よう。そいじゃ、お休み。」
そう言ってフォルスは席を外す。
本当に通信機器が生きてるとも知らずに。
++++++++++
翌日、メルの熱は上がっており、やっぱり駄目かと声がかかった。
念の為と通信機器は弓矢を外し、
極力補正魔術の資料を睨めっこで
何とか元の形にはギリギリ保たせたから良いものの。
「駄目だな、ちゃんとした電源ってやつは入りそうにない。」
『…っそ、う。』
「すまない、今薬草を取ってくる。」
『いい、よ。これくらい、私、大丈夫、だから。』
そうへらりと笑う彼女に、目を丸めたフォルスは苦い顔をして
ソレは違うと言い切った。
「熱があって身体の力も殆ど入らない。
ぐったりした状態で大丈夫とは言わないだろうに。」
『っは、っで、でも』
「確かに敵に弱いところを見せない様にするのは良いが、
昨日言ったようにアタシの落ち度だ。
ちゃんと素直に言ってくれればその通り動くから。」
『…お、みず』
「…本当にお前欲まで飛ばしたのか???」
その熱なら冷却とか何から何まで言い出せるだろうに。
そう言うフォルスにメルは首を傾げた。
嗚呼そうか、色々飛んでいるんだったなとフォルスが言う。
「ったく、水はこれ。飲んでな。」
『っん、く、っんく…ぷあ』
「冷却っていうのは、こういうやつだ。」
そう言ったフォルスがメルの前に手をかざす。
するとその手から白い冷気が出てきたではないか。
『わあ〜〜〜きもちいぃ〜〜〜フォルスってすごいねぇ〜〜〜』
「っぷ、ふふふ…ああそうかいそうかい。そりゃあ良かった。」
食べ物やら熱を冷ませやら言ったり
なんなら罵詈雑言言っても文句はないはずなのに。
彼女ときたら、自分も避けれなかった非もあるし、
加えて大事にしていたのを手に持って移動したので
そりゃあソレを壊して下さいと言っている様なものだからと、
さも自分が悪いようにぺらぺらぺらぺら言い出すものだから。
本当に、いい子なんだろうなと思ってしまった。
「不得意な処だからこれくらいしかできないんだが」
『これくらい?そんなことないよ。
とってもとっても、優しい力だと私は思うよ?』
「〜〜〜〜っ!!!……ほんと、お前は天使みたいだな?」
『っ!い、いやあ、よく言われる。』
「これくらいの力は貶されて褒められるものじゃない。
…なのにお前という奴は、本当に、不思議な奴だな。」
大丈夫じゃないのに、大丈夫なんだと思えてくるもんだから。
「不思議とこの力も、嫌いじゃなくなるんだ。」
『ふふ、嫌わなくていいよ。私この力好きだなぁ。』
「…っ、ほんと、お前はそのままで生きれていればいいな。」
『んん?あれ、私もしかして貶されてる????』
「ぷっはははははっはっは!!!今更かよ!!!!!!」
ひぃ、やめてくれ、腹痛い!!
そう笑うフォルスに、メルは力なく笑って見せた。
「ありがとうね。頑張って覚えた甲斐があるってもんだ。」
『ふふ、努力は報われるんだよ?必ず。皆は。』
「…お前は?」
『叶わないよ、報われる処にいれないんだあ。』
そう、何時だってそうだ、熱が出た時そうなのだ。
『皆私を置いて何処かに行くんだ。』
「メル……」
『手を伸ばしても無意味なのに、伸ばしちゃう。
掴んだ後、安心できるのだろうかねえ』
「お前…逃げてきたのか?」
『ううん、迷い込んで来ちゃったの。だから、帰ろうとしてる。』
一体何処に?それをも知りに来たんだというのだ。
『ふぉるす、貴方に、私、会いに来たの。』
「……っ、そう、か。」
『うん』
「なら、尚更ごめんな?酷い目に合わせた。」
『いいよ』
大丈夫
「…手を伸ばしてもいい、努力だって報われる。」
『ふぉるす?』
「置いて行くんじゃない、少しだけ傍から離れるだけだ。」
お前が、より笑顔になれるように。
「その場から一度離れないと、いけない何かがある為に。」
『いけない、なにか…』
「嗚呼そうだ。だから、そんな悲しいことを言ってくれてやるなよ。」
『そう?これは、かなしいっていうの?』
「…っメル、お前まさか、待て、ちょっと調べさせろ。」
嫌な予感がしたフォルスはメルの胸元に手を当て、呪文を詠唱する。
彼女に掛かっている魔術系統やら何かしらの紐が見えるはずだが、
「った!!」
『ふぉる、す…っく』
「わり……凄い魔術系統だな。生半可な技術じゃねぇよこれは。」
お前、本当に何者だ?そう言う彼女に、
メルと答えるもんだから笑ってしまう。
だからそういう意味じゃねぇのになあ。
「アタシの得意分野は炎だが、こういう土地っていうのもあって
薬学そして呪術系等の魔術はちゃんと教わっているが……
にしても見たこと無いものまで見えるな。」
これ、お前死なないのか?というか騙されてないよな?本当にないよな?
「騙されてたらアタシが全力で守って
此処で暮らせるくらいにはしてやれるが。」
『なんで、そこまで、してくれるの?』
私、まだ会って数日すら立ったか分からないくらいなのに。
そうか細い声で言う彼女にそりゃお前をみたらすぐ分かるという。
「あの機敏な動きは生半可な努力じゃ身に付かない。
アレは何かに怯え本能で培った魂からの悲鳴だ。
何かの経験がないと動けないし、
出来ても教わるならかなりの時間練習しているはず。」
そんな奴が、何もなく、アタシの前でボトリと落ちて
スラスラペラペラ此処まで危機感も警戒心も何もなく言えるなんて
余程の策略家か、大馬鹿者の二択だろうて。
一応言っておくが、絶対後者だろ。前者だったらアタシはなく。
「その目、アタシや周りの姿だけじゃない。
視覚に入る情報だけでも相手の動き、性格を知れるが、桁を越えている。
なぁ、何処に居た。どうやってソレを手に入れた?」
どうしたら、そんな、酷い場所でそんな顔して綺麗に笑える?
そう頬の熱を取ってくれて、目を閉じるメルに、フォルスは目を細めた。
「其処迄健気に追い求めた先に、
お前は笑えていないこと、
そんなこと、お前自体が知っているのに。」
『……そうだねぇ、きっと、笑えない。』
きっとつらいくるしい、さびしいよ。
そのばしょには、だれひとりも、いきていないの。
でも、そこがいいの、そこじゃないと、いきていけないの。
まっしろな、とうめいの、がくぶちのまえで。
赤い華を咲かせて、眠るのが、私の、今の夢なのだ。
独りぼっちで、縋り付いて、眠るだけ。
其処が私の一番の幸福だと、言い聞かせるのだ。
『それがいいんだよ、それでいいんだよ。』
「…そうしないと、息が出来なかったんだな。」
そうでもしないと、誰かが傷付くから。
そうなるくらいならば、自分の方に刃を向けたと。
そう言うフォルスにメルはニコリと笑みを作って答える。
「…誰も居ないよ、此処はお前が思う以上に。独りぼっちだ。」
『いるよ、此処にも、沢山のものが、生きている。』
「…っ」
『私の夢なの。白い世界で、独りぼっちなの。』
だあれもわたしをみていない。しらないの。
『白い透明の、額縁の前で、全てを抱きしめて、眠るのが夢なの。』
「…っそんなの、誰一人、受け入れねぇのに?」
『それが良いの。それで、いいんだよ。』
それが普通の、気持ちなのだから。
ほう微笑み、ポロリと涙を零す彼女。
頬を拭ってやるしか出来なくて、胸が痛い。
人は、感情は本当にその人を映すというもの。
一日、半日でも、すぐに分かる。
彼女がどういう生き方をしてきたのか。
そして、どういう生き方しか、出来なかったのかも。
「…やっぱり、お前は優しい天使みたいな人間だよ。」
『ふぉ、るす?』
「…フォルス。フォルス・クレア・アインマール。」
私の本名だ。そう言うフォルスに、メルは笑って言う。
『める、ほんとのお名前の、一部なの!』
「…っ!そ、うか。良い名前だな。」
二度目の初めましてをして、メルはそっと目を閉じた。