夜が泣いている





『んにゃ?』
「なんというお力を秘めているんですか貴方というお方は……」
「久しぶりに疲れたですますよ……」
「攻撃を交わすだけでなく、相手に当てるまで誘導するとは、お見事。」
『そう?』
「ええ」

そう言われて、ソレはよかったとメルはニコリと笑う。

「ま、それは少々甘いですがね。」
『えー』

行けると思ったのに、そう言ってメルはゆっくりと地に足を下す。
コルンの頭に手刀を下ろそうとしていたのだ。

しかも真正面で。

「こ、怖いもの知らずですか……???」
「怒りや恐怖を余り感知させないようにさせちゃったのが原因でしょうねぇ。」
「お兄様!!」

そう説明したのはサワアだ。
ふむとメルを見てメル様と声を上げることで
メルと隣に居たコルンがサワアの方を向いた。

「攻撃をそろそろ出せばいいのに何故出さないので?」
『あーーーーー、あーーーーーーーーー』
「…あの、全員天使で、貴方の心が分かるの、
分かっていますよね?やってますよね???」

メルは明後日の方向を向きながら、
どう弁明というかしようか悩んでいた。

しかしそれは人間ならいいとしても、相手は全員天使である。

そう、心の中で考えたこと全て伝わるというのだ。

だってメルは思ったのだ。
天使をつなんて、そんな酷いこと
一体誰が出来るんだ馬鹿たれとか、そんないや、

「いやいや、我々滅茶苦茶甘く見られてますよね…」
「まぁあれ程の速さが出来るなら、
攻撃を覚えれば勝ち目ないですし。」
『私勝ちたくないからねぇ。』

そう、メルは勝ちに意味を見出してないのだ。
だから強さに変えれない、変化が起きない。

「それにしても、一瞬何処に行っているというのですますの?」
『しらなあい』

メルはそう言って過去を思い出しつつ、その世界を想い出した。
そうすれば、彼女達は此方側を見れないのだ。

綺麗な優しい額縁の世界。

何処までも綺麗で、何よりも行きたいと思う場所であり、

行ったらもう、完成すれば、もう、二度と帰れない場所にもなるだろうと思った。


『ねぇ皆』
「なんです?」
『さっきの感じって、敵にやってもいいやつ?』
「……い、いや、」
「考えずにやってたんですか????」
『うん』

うんじゃないがという声が聞こえなくもない。

『繰り返してもいいけどさあ、なぁんかしっくりくるような来ないような。
肉体が維持されたらまた攻撃変えなきゃいかんだろうしねぇ。』
「え?肉体?」
「メル様は未だ綺麗な完全体ではないのですよ。」
「……あの、レベルで?」
「ええ、あのレベルで。」
「とんでもない者ではないですか、もうお父様と肩を並べられてもおかしくないのでは?」
『そりゃない、あの人攻撃も綺麗に入れてくるからずっと私は低いよレベル。』

何なら君らとちゃんと戦えばモロクソよわ雑魚って分かるもん。
そう顎に手を置いてしゃがんで言うメルに、はぁと声が漏れる。
視線は浮遊しているので、常にメルは上から物を言っている。

「メル」
『なあん』
「貴方そのまま私に攻撃を入れてきてください。」
『…10のうちどれ程でいい?』
「8」
『こう』

瞬で音がしない。後から来る衝撃と光に、ポカンとする一同。
成程とサワアがにやりと笑う。

「貴方、ルトラール様に似ましたねぇ?動きがほぼソレですよっと!!!」
『うひゃ!!!』
「おやおやあ?綺麗に出来るのではないのですかあ?」
『う、煩いな!!』
「私は幼い頃から貴方の御父上と組手をしているのです。」

似たようなことは通用しません。

「コルンさんは後から変えたやり方で教わったのと、
メル様のことをあまり知らないから隙が出るだけであってですね。」

知る者が貴方に隙など見切れない訳がない。

『むう』
「ぷっくくくく、いや〜〜にしても本当にお強くなりましたね。偉いですよ?」
『あ〜〜!!子供扱いしてる!!!!』
「いえいえ」

じゃあなんで頭撫でてくれるの!!!
褒める時はいつもこうしてって仰っていたではないですか。
そう痴話喧嘩が始まりだすのに、周りの天使達も苦笑いを零した。

「廻廊の件もそうですが、あの力今見せて貰っても?」
『え?ああこれ?』
「っちょ!!メル様?!!!?」
『ああごめんごめん、戻そ戻そ』

そうじゃきっと後ろからも銃やら何やらが出てきたのに天使達がぎょっとする。
焦る周りにメルは片手をあげ、もう片手にあった銃のみにした。

『ほい、これが実際使った対魔女用銃。』
「ほぉ…これが。」

他の天使らも気になるのかと気付いたメルは浮遊して他の者達にも見せれるように空を飛ぶ。

『ゆっくりやるよ。誰か何処かに敵作って。』
「はいどうぞ」

そう言って指を鳴らしたコニックの先に、その飾りが立つ。
それを横目で見つつ行くよという。

『種を願いの根本を、胸に咲いた華からはじき出す。
この間エネルギーは圧縮し続けつつ、その形を維持。
加えて銃の球に触れてその種は銃弾の中に。』

ガチャリとセットして、姿勢をどうでもいいからと
体勢が明らか悪い反りあがった状態で睨む。
まるで其処に振り返るように言いながら。

『意識は常に向こう側。先を見据えたスコープに敵を合わせてただ撃つのみ。』

撃った。

その撃った場所からバンとツタが生えてうにゃうにゃと気持ち悪い動きをする
それに何人かがゾッと身体を震わせた。

『願いに寄りけりで濃度やら何やらが変わる。』
「あれは?」
『濃度10』
「…此間撃ったのは?」
『濃度89』
「ほぼほぼ本気じゃないですか!!!!」
『肉体持てば本当の願いが分かれば、半分以下の威力だろうがなぁ???』

速く見てみたいとうっとりするメルは、
銃を抱えてニヤニヤして口元に手を置いて悪く笑う。

『いやぁ〜〜〜た〜〜〜のしみだねぇ〜〜〜???
この威力、実は気に見えてちょっと外れてんだわ中身の核。』
「は???????」
『似たようにして物が違う。
その幻想が崩れ落ちる時の表情、姿、願いの変わる瞬間。
は〜〜〜〜〜〜どうやって殺さずに活かすか考えるの楽しい。』
「あ、悪魔……」
「神様の言う話じゃない……」
「これ、お前達…」
『ぷっはははは!!!まぁ人間も混じってるからねぇ。』

にしてもとメルがううんと唸りながらも銃を見る。

『姿形は変えれるとはいえど、もう少し早く
意識出来るように訓練は欠かさずやっとかないとか。
これに慣れ過ぎて、過剰になるのもまずいし。』
「良い心がけですね。」
『ん、そうかなあ』

メルは浮遊しつつ、空を見上げてううんと唸る。

「ええ、ちゃんと教えも聞いているようですし。」
「…っ!ま、まぁ、出来ていると言えばそうでしょうね?」
『〜〜〜〜〜!!!!!!』
「凄い嬉しそうですね」
「ええ、そうですますわね」
「ですが!!攻撃のこの字も考えない様ではまだまだです!!
貴方がそれ程の力を持てるならば、
もっともっと上を目指すべき。厳しくいかねばなりませんね。」
『〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!』
「凄く悲しそうになりましたね?」
「ふふ、そうですますわね?」

ぱああと花が咲くように笑ったと思いきや、
コルンの一言で一喜一憂が酷いのなんのだ。
周りの天使達もクスクス笑う。

ソレをくるくると見て二パリとメルは笑って華を咲かせる。
銃は未だに抱きかかえているが。

「正直どう思います?」
「何がです?」
「彼女の力、勝てます?」
「…少々揺さぶりをかけたら勝てそうですが。」
「なしなら?」
「……勝てませんね。」

ほぼ、確定で。どうあがいても。
そう言ったコルンに、でしょうねとサワアは答える。
本気といったのも、天使達が本気で彼女に立ち向かう訳にもいかない。

9割以下でうたないと、下手に消滅するのも勘弁こうむりたいのだ。

「本当は戦いなんて覚えさせたくないんですがね。」
「…それは同感ですね。」
「おや、貴方もですか?」
「日向でのんびりと過ごしているのがお似合いでしょう。」

そうできる為の、場所を、作る為にも。
彼女は今を生きているのだろうが。

「皮肉ですよね、願いを捧げて、願いに殺される末路なんて。」
「サワアお兄様……」
「あの子何処に行っても天使って言われてるんですよ?」
「まぁ、貴方に似たんでしょね。」
「おやおや、言いますねぇ?」
「ええ」

コルンはクスリと笑って、メルの方を見ていう。

「貴方に似ましたので。」
「…そうですか。」

メルはウイス達と話をしている。
全員の天使なんて中々お目にかかれないのだ。
少し恥ずかしくなって、ウイスの背後に隠れ、
もじもじし始めたのに可愛がられていた。

初めましてとぺこり頭を下げるメルに、
丁寧にどうもと各天使達もぺこりとお辞儀をし返した。

先程見ていた彼女の姿は、もう何処にもいない。
狭間に挟んだ、その姿が、見つかった時。

彼女は何処に走り出すのだろうか。

「出来れば、此処に居続けて欲しいんですがねぇ。」
「…いないとでも?」
「ええ、きっと。全てが完成されたら、もう二度と、会うことはないでしょう。」
「…それまで、ゆっくりと味わうとでもいうのですか?」
「さあ?」

サワアは気付いていた。

メルが何処に向かって走ろうとしているのか。
そして、その先がどうなっているのか。
何となく、察していたが、何も言う事ではないと思ったのだ。

「私はあの子が笑えられるなら、それだけでいいのですから。」
「…っ!!…貴方達二人を見ると、
じれったくてしょうがありません。」
「ふふ、すいませんね?」
「ええ、此方の身にもなって頂きたいものです。」
「そうすれば今すぐにでも、彼女を抱きしめ、
口説き倒して来れなくもありませんが。」

そうして慣れられても、楽しめないというものです。
そう笑うサワアに、げぇという顔をするコルン。

「なんです?」
「……いえ、メル様が酷く憐れだと感じまして。」

彼に見つかった、いや、見られたのが運の尽きかもしれないが。

「まあゆっくりと見ていきますよ。」
「…外堀を埋めすぎて泣かせないで貰っていいですか?」
「おや、彼女を泣かせる人だとお思いで?」
「いえ、そういう訳では…」
『あ、コルン様』
「嗚呼はい、なんでしょう?」
『先程モヒイト様ともお話していたのですが、お兄さん方お二人とも破壊神と界王神をお連れしてもらってもかまいませんか?』
「それは別に構いませんが…メル様、ひょっとして。」

ニヤリと笑うメルにはぁとため息を吐く。

こうなったら彼女が止まらないのは、もうサワアだけでない。
皆が分かることだった。

「…少々時間がかかりますが、
それでもよろしければお呼びしてきましょう。」
『よし!』
「そんなに急いでいいんです?」
『え?どうしてです?』
「戻れなくなっても知りませんよ?」




そういうコルンに、嗚呼気にしないよとメルは笑って言う。






「そんなの、なんて……嘘を付くようになって。」


コルンはふと思っていた。
先程メルが笑ってさらりと嘘を付いたことを。


「…酷く気にしているではないですか。」



もう、戻れないのは分かっているから、
この時間を、噛み締めるしかないの。


そう泣きそうな言葉が聞こえて、
此方が逆に顔を変えなければいけなくなったのは、
彼女が分かるかどうか、知らない。

でも、彼等がメルを大事にする気持ちは、
触れれば触れる程分からない訳ではない。

その昔、太古の神々、完成されていた
宇宙に住んでいた者達の、末裔であり、
その核でもあられる存在。

それが、あの子、メルという存在なのだ。

「何時だって全力で、その場所に向かうならば手を抜かない。」

なのに、自分が守れるというならば、
その力を抜いて手を広げて飛び込んでいく。
その勇気は、誰もが持つなんてありえない。

彼女のみ、出来るというものであって。

それは同時に、諦めているという意味でもあって。

「…手を伸ばせば、直ぐに取れる場所に居るというのに。」

何故それをみても、笑ってその手を下ろしてしまうのですか。

努力をして、その評価に値する願いが、貰えるとしても。
きっと彼女はその願いすらも誰かに譲って、何も貰わないでいるだろう。
無いのに、まるでもう貰って満足しています、なんて顔までする始末。

「………本当に欲の無いお人で、困りましたね。」

此方が大事に見えて、向こうは全くその目すら合わせない。
見て欲しいと思ってしまえば、最期。彼女はその場所に居ない。
もう二度と、その場所に、帰ってくる気すらしないのだから。

覚悟を決めたようなその目が、何処か揺れる。
それは隙があるといえばそうだが、同時に喜びにも変わる。

それ程、自分達が、大事だと思ってくれているのだ。

幾ら厳しくしたって、悪口一つ言わないどころか思いもしない。
それどころか、自分を見てくれていいひとだなんて思って尊敬してくる始末だ。

嗚呼本当に、毒気を抜かれて骨すらなくなってしまいそうだ。

「なんなら、追いかけたら逃げられそうですね。」

例え、想い人と両想いだったとしても。

それでも、その願いの為ならば、祈りならば、その身を捧げるのだろうな。

「…先を急ぎましょうか。」

彼女がまだ、生きれるこの時間を、少しでも、色濃く残せるように。

ゆっくりなんて、させてやるものか。

とんでもなく、濃い時間にして、その身に刻み付けてしまえばいい。

忘れない程に、酷く恋焦がれ、縋りたくなるくらいに。

そうすれば、きっと優しい彼女は隙が生まれる。

振り返る余力があれば、此方の勝ちというものだろう?


++++++++++

という訳で

『お久しぶりです』
「嗚呼…で、いいのか?」
『多分いいよね?フェル?』
「っ!!!メル様、何故その名を!!!」

そう驚くリキールに、だってとメルは言う。

『私は唯一彼女に触れていない人間だからねえ?』
「…っ」
『廻廊の中に入らずとも、こうしたら君が持ってる。』

そう言ってリキールの手を取る。
するとぶわりと世界が広がる。
その周りに、ほおらとメルは微笑んだ。

カチャカチャと食器を片付け、外に出て伸びる彼女。
横髪でも前を三つ編みで編み、上の方は左右に編み込み
そのまま後ろで一纏めにし、黄色いスカーフを付けていた。

ちらりと向いて、ああと声が上がる。

「もぉ!狐さんったら、其処に居ててって言ったじゃない!!」
「っ、だ、だがなあ、お嬢さん君に色々やってもらうには…」
「そんな重症で外に出歩こうだなんて、救った私が許しません!!」

そうプリプリと怒っている彼女に、リキールがしゅんとする。
見たことない姿に、瓜二つである別人かと疑うレベルだが、
どう考えても、リキール本人で間違いないのだ。

「全く、どうしてこうも無茶ばかりするのかしら!」
「…なあ」
「んー?」
「どうして俺を助けた。俺がお前を狙った奴かもしれないのに。」
「そうねぇ〜、貴方はそんな目を
私に一度たりともしていないから、と言えば嘘になる?」

その瞬きすらも、私は見ていたというのに。
そう言って振り返るフェルの目は、
綺麗なオレンジ色の目をしていた。


「…いや、信じるよ。」
「あらら、信じちゃった。嘘なのに。」
「っくくく、それこそ嘘だろう?君は俺を欺こうとしているが、百年は早いぞ。」
「あら、逆に言えば百年頑張ればいけるってこと…???」
「ぷっはははは!!!嗚呼嗚呼、出来る者ならしてみろ。」

気長に待っているよというリキールに、傷が痛むでしょとフェルが駆け寄る。
変に笑うから痛みも広がるというものだが、フェルが悪いとは、思っていないのだろう。

「フェル」
「ん〜?どうしたの?狐さん。」
「あの…いい加減俺を狐というのは止して欲しいんだが。」
「狐なんだから狐でいいんじゃ」
「それなら君を人間と言い出すが、それでもいいのか?」
「っふふふ、え〜それは困るなぁ〜〜〜????」
「絶対困ってないだろ君……」

そうため息を吐くリキールにフェルはクツクツと笑う。

「ええ。名前なんてあの子が付けてくれた夢の話だもの。」
『…ん?』

まて、知らないソレ。そう思ったメルが声を上げたのに、周りもメルを見た。

「ほお?君の名付け親はご両親ではないのか。」
「本当は生きていたんだけどね、流行り病で倒れちゃって。」

気付けば祖母と一緒に。そう言ったフェルにすまないと謝った。
その祖母は、リキールが守り切る前に、死んでしまっていたのだから。

もう少し早ければという彼に、いいのと答える。

「私はあの子が生きていれば、それだけでいいのだから。」
『…っ(君も、同じことを言う。皆、どうしてそういうの?)』
「…メル様」
『(貴方は特に、その次だって、手を下した時間。
助けようとしたら皆、私に願いを捧げる。)』

だから、最初から距離を置いてしまったのだ。
でも、あの子は私が付けた名前を嬉しそうに言う。
まるで、好きな人の名前の様に、愛おしそうに言うのだ。

フェルと、その目は、遠くを見つめているように見えて。

「…臆病な子。皆きっと、貴方だからその力に身を委ねるというのに。」
「お嬢さん?何か言ったか?」
「いいえ?お風呂湧いたから入る?」
「いや、先に入ってきていい。俺は後からでも」
「え〜傷跡の血くらい使っても大丈夫よ。いざとなれば湯はりくらい軽くするし。」
「助けて貰えた上に何から何までは少々荷が重い。」

そう両手を前に軽く出して首を横に振るリキールに
じゃあと、上を向いて考えたフェルがとんでもないことを言い放つ。

「一緒に入る?」
「ぶっ!!!!!」
「いっ!?!?!??!ちょ、っだ、お、お嬢さん!!!!!」
「ぷっはははは!!!!冗談冗談!!!!じゃあ私先に入って来るから。」

逃げないでねと手をひらひら振って彼女は廊下に消えて居なくなった。
はぁとため息を吐いた過去のリキールがぼやく。

「全く、本当に冗談が過ぎるお嬢さんだ……」
『…でも、ちゃんとみてくれる人が居たんだ。』
「メル様…」

良かった。本当に、心の底から。

「貴方この時は何をされていて?」
『…嗚呼誰も知らないから言えるかなあ?』

私ねこの時私殺してたの。

そうさらりと言う彼女に手を繋いでいたリキールが固まる。

「は?」
『ミシュメールが余りにも酷くて。もう自分が許せなくてさ?
なら自分の感情とか感覚が相手に知られないくらいに
消し去ったらいいじゃんってなっちゃって〜!』
「…呆れた、たった、その時間が酷いからって、己を殺すのですか。」

何処までも、自分ではなく他人に価値を求めている彼女に、ゾッとする。
もう此処までくれば馬鹿とかの話など可愛らしいものだ。

『最初は胸、次に足、何度殺したって、
その身体は出てきて壊そうとする。
フェルが何よりも自由に、笑って生きれるように。』

ただ名前だけは、憶えちゃってたのが悲しいけど。
そう笑うメルに、フェルがぼやく。

「あ〜あ、でも会ってみたい子がいるんだけどさ夢の中でしか会えないんだよ。」
「夢?夢で逢えるなら別にいいんじゃないのか?」
「いや〜それが顔も体もぼやけていて、声も割と変わってるから無理。」

特定できそうなときに限って目覚めるのが早いんだもん。

「まるで、私に見つからないようにしているみたいで…ちょっと、寂しいなあ。」
「お嬢さん…」
『…』
「でも、いいの。ひょっとしたら、とっても優しい子なんだよ。」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、私の名前を愛おしそうに言って触れてくれたんだよ?」

この身体を、手を、満月の月明りの下で。
ベットの上で、腰を掛けて愛おしそうに、微笑み笑った。

「貴方が何時までも、笑っていられますようにって。」

だから僕は、遠い場所から君を見守っていると言ったらしいのだ。
強いていうなら、夢の中、その一瞬だけ、会えれるならば。

その時だけは、笑って話くらいは聞いてやってもいいのだとか。

「…殺す、ねぇ?」
「彼女の方が上手だったようですね?」
『うぐぐぐ…ちょっと、間に挟んでるからってもう…第8嫌い。』

ぷくりと頬を膨らますメルに、
クツクツとリキールは笑い、クスリとコルンは鼻で笑った。

「遠い場所なんて、私の方がずっと遠い癖してね。」
「お嬢さん?」
「なんでもない。それよりご飯は美味しい?」
「嗚呼もう、とんでもないくらいにはな。」

そりゃよかったと笑うフェル。
風呂もあがって、次の日の朝食と言った所か。

外を見たフェルがわぁと声を上げた。

「雨だわ!!!」
「そんな喜ぶことか?」
「そりゃあ喜ぶわよ!!この雨普通の雨じゃないもの!!!」

急がなきゃという彼女にリキールらだけでなく見ていた者達も首を傾げた。
フェルは二階に上がり、そのまま屋根裏に上り、タライとかを持って屋根のドアを開ける。

幾つか出窓があり、其処にタライを置いて中に入ってくる時にリキールと入れ違いになりそうでリキールが軽く退いた。

「あ、お、お嬢さん!!!」
「貴方は待ってて!これは私のお仕事だし!!」
「そういう訳にはいかない、君は命の恩人だ。」

どうかこの家に住まう間は、君の言う通りにとお辞儀をする彼に
じゃあともじもじしてお願いを言う彼女の小さな願いに
リキールはお安い御用だと鼻で笑って答えた。


「わあすごい!!!」
「これくらいで本当にいいのか?」
「ええ!そこらじゅうのタライだけじゃなくて、
穴開けて溜めれるようにしてくれるなんて。」
「本当に欲がないね君…何何処かに捨ててきちゃった?」
「あ〜確かにそうかもねぇ?」

そう雨を見ていた目を閉じて身体を軽く揺らすフェル。
あの雨はこの世界で必要な魔術に使う術用の水らしい。
その水でないと使えないものもあるらしく、
他の水が入ると通常の水に変化するため、
タライを大量にその日だけは置いて家で過ごすらしい。


雨の日は何時だってこうやって軽く眺めた後、本を作成しているらしい。
入ってもいいかというリキールにどうぞとフェルは答えた。

中は新しそうな本から古そうな本がずらりと並んでいた。
スラスラと見ながら書いているのは、恐らく清書いや、
古い本の中身を読解しながら新しい本へと書き写しているだけだろう。

一通り集中を終えた後、声を掛ける。

「魔術とやらで書き記せばいいのではないのか?」
「別にそれでもいいけど、今外に取っている
あの液体が死ぬほど必要になっちゃうのよ。」

そう今使っていたのはあの溜めている液体だというのだ。
放置すれば黒く染まりあがるらしい。
そのままペンに能力を付与し、付与したまま液体を使えば
その効果は自然と写るらしく、へぇとリキールが唸る。

「他にもこの星には色々あるのか?」
「え?ああ、うん。というか貴方見ないけど、何処から来たの?」
「別の星からだが」

そう言ったリキールに、ペンを持っていた手が開くこともないのにペンがことりと落ちて動きを止めるまでフェルはリキールを見たまま固まっていたが。


「いっ!?!?!?べ!??!?!?うぇ!?!?!?」

別の星!??!?!?!?!

そう言ったフェルに大事なのかと焦るリキール
フェルが詰め寄って、リキールの胸が触る寸まで来たからだ。
後ろに下がったリキールに、いやいやとフェルが一歩下がって言う。

「この惑星ロスフェリ、別の星から来る者達を
余所者って呼んでいるんだけど、
見つけ次第殺しに行かなきゃいけなくてね。」
「なんだその理不尽な話は」
『それをお前が後々言えるんか、お前がそれを。』

理不尽な破壊してねぇのかとちらり見るメルに対し
そっと目を閉じ目を逸らすリキールを見て
メルは空笑いするしかなかった。

「成程、だから貴方滅茶苦茶追いかけられたりしてたのね…」
「うぐ…す、すまない。そんなことも知らずに…ん?待て
じゃあ君は何故俺を殺さずに生かしているんだ???」
「…はぁ、あいつらはこの魔術を極める為に
外の人間と断絶させる風習を守っているだけなの。」

ペンを持って、定位置に置いたフェルが
椅子に座って周りに散らばっていた
メモ用紙を片付けながら話す。

「素直に外の人間と仲良くなるだけなって、距離を取れば
外の人間だって私達みたいな感情を持っていると思ってるんだけど。」
「お嬢さん……」
「そうそう、ね?人間上手くいかないの。」

くしゃりと、寂しそうに笑う背後は、雨音が強く鳴り響く。
まるで、彼女の心の底を見せてくれているような気もして。
リキールは黙って彼女を見つめるしかできなかった。

彼女が言葉を発する迄、ずっと。

「ま、そうやって人間は同じ過ちを同じ様に繰り返す。
そうして守っているんだろうけどね?」
「どういうことだ?」
「気にしないで。…ほんと、どうでも良い話だから。」
「…どうでも良くないだろう。」

そう言ったのは、この場所を見ていたリキールだ。
メルの手を握った方ではない手に力がぐっと入る。

「何処に行っても何をしても、魂が違えど「人間」は同じ「過ちを犯す」。
そういう「決まり」として見てしまえば「仕方がない」と思って流せるから。
だから貴方は「仕方がない」と言い聞かせるしかないとでも言ったのか。」
『リ、キール、様』
「…どこまで、貴方という人は…お人よしだというのだ。」
「さ、食事にしましょう?あと貴方の傷を確認したいの。」

困ったように笑ってリキールの手を腕を取ったフェルに、
過去のリキールは何も分からなそうに首を傾げ、嗚呼と生返事で答えたのだった。