天使でもこうは上手くいくまい
それから、月日が流れた。
久しぶりに母親が帰って来て、気分が上がる。
勿論嫌な予感も胸のドアをノックしていた。
『あ、帰って来た!お帰りなさい!お母さん!!』
なんだかんだ言って、母親。少し悲しそうな目をして、父親は仕方がないという。
「ごめんね、都佑、お母さんとお父さん、どっちがいい?」
嗚呼、危惧していたことが起きた。
その言葉に、なんで?と子供が言う。
自分の気持ちではない、言葉がつらつら出てくる。
『お父さんとお母さんが一緒じゃなきゃ、やだよ……?』
嗚呼、そう、そうなのだ。
この子は、何処まで行っても、その空にある、太陽しか手を伸ばさない。
その残酷な言葉に、母親が泣き崩れる。
どうして泣くの?ねぇ、泣かないで?という子供にダンと音が聞こえた。
「都佑、選びなさい。お父さんとお母さんどちらかを」
『っやだ!!ふたりがいい!!!!』
「都佑。もし、お母さんを選んだら、お父さんとパピには金輪際会えなくなる。」
『…っ』
それは、死刑宣告だ。
彼女にとって、選択肢は一つという形にしか見えない。
何が選択しろだ、何が選べだ、一つしかないじゃないか。
「お父さんならお母さんに会わせてやってもいい。」
『そ、んな』
「ごめん、ごめんね…都佑」
その言葉に、目からボロボロと涙が零れ落ちていく。
胸に在った、その形が綺麗に剥がれ落ちて
何処にあるのか探せなくなってしまった。
まだ、まだ、子供だ。選択させるなんて、酷すぎる。
8が9に変わる頃、子供は選択を迫られた。
その一つしかない、選択に、指を指すしかできない。
そうねと笑ってくれる彼女の姿を見るたびに、目から零れ落ちるのだ。
嗚呼、此処に今、存在しているのだと。
あの額縁に飾っていた、優しく強く、私だけの母が。
今目の前に笑って頬を撫で、頭を優しく撫でてくれているのだと。
捨てなくてよかった、願ってよかったと、想いが涙に落ちる。
その綺麗な笑顔を、この時間ごと、切り取ってしまえばいい。
そうだ、そうすれば、この子は覚え続けられる。
何よりも強い、忘れない、願いになってしまう。
それが、華神として、生きるなら、最善なのだろう。
メルはそっと、自分の手を下ろして、母に抱きしめられる
その背中に手を回した。
それに母は泣き叫ぶ、ごめん、ごめんねと言うのだ。
一度しか言わなかった、厳しい母が、何時しかの優しい母に戻った。
繰り返し、繰り返し、言ってくれる、
あの日の母が、此処に帰って来てくれただけで、
もう、私は満足しなくてはいけないのだと。
メルは胸に誓ったのだった。
++++++++
その日は母を放置し、父と二人になって彼の実家に帰って報告した。
まぁ父の父は怒鳴った怒鳴った。子犬を祖母に任せて、帰って行く。
「んなこと言われても仕方が無いよなあ、仕事もあるんだし」
『ぱぱ・・・?』
「嗚呼、そうそう、都佑、今日は一日悪い子になってみようか?」
あ゛あ゛???
どういうことだと思っていたが、
『わあーーーーー!!!!』
「好きなだけ居て良いからな。」
現在時刻、19時半。この歳の時間、16時。
保護者同伴とは言えど、余り宜しくないもののハズ。
勿論店員さんに滅茶苦茶引き留められたりしたが、
事情を説明すると、直ぐに納得されて、少し困った顔で見て来てくれた。
まぁ、離婚した直後で、加えてまだ年齢的には8歳なのだ。
身体も細く、4歳から5歳程度に間違われてもおかしくない程の状態。
虐待されていてもおかしくない所を、
無理だと言って追い出せる状態ではないのは目に見えていた。
なんならお巡りさん来ました。お巡りさんこいつじゃないです。
理解したのか、どうやら21時ギリギリまで居て良いらしい。
やっふうううう!!!!遊ぶぞ遊ぶぞこの世の限り遊んでやるぞおおお!!!!
久しぶりに見たUFOキャッチャーに、コインで遊ぶ子供用ギャンブルコーナー!!
周りを見て遊んでいると、一つのゲームが足を止める。
「ん?嗚呼これかあ、懐かしいな〜パパも遊んでた。」
『パパも?』
「嗚呼、よくかめはめ波撃てたらなぁって遊んでたよ。」
照れくさそうに言う彼に、座ってみなと板の前に座る。
音にびびったが、直ぐに慣れるのは子供だからか、私だからかは分からん。
『(本当に…本当に、記憶の通りだったとは、)』
その目の前には、悟空が、その中でよっ!オラ悟空と自己紹介をしていた。
ビルスやウイス達の姿が見え、どうやら気の説明をしてくれるらしい。
トランクスが。そう。未来のトランクスが。
誰でも選択できるうえに、横にお金を入れてお父さん迄入ってきました。
お兄さん?!?!?!!?
「都佑、どれが好き?」
『え!??!?!ど!?!??!!?』
いやこんなゲームあったかにゃあ!??!?!?
そうメルはそのキャラの選択肢の多さに驚く。
人間、敵、神々という選択肢に、バトルフィールドも変わる。
神々を選択してみると、見たことある子達に、ポロリと涙が落ちてしまった。
それにぎょっとした父だが、直ぐにいいとメルは答える。
『ねぇ、パパ、それえらんで!』
「え?嗚呼こいつ?別にいいが…」
『私こっちにする!』
メルはクスを選択し、実の父親にサワアを選択させた。
グズッとしたのを何とか腕で無理矢理ふき取り、勝負だと叫んだ。
その板の中で、闘う二人に、押し負けるのは仕方がない。
自分で操作しているのだから、自分の感覚を彼女に与えないといけないから。
もっと、もっと、彼ならこう動くから、とメルは考えて隙を見せた所にボタンを押す。
「っわ!!み、都佑、お前強いな…!ならこれは!?」
『っわ、お、お父さん大人げない!!!』
「っぷははは、いやいや、普通に強いから!!!」
それに、
「手を抜かれるよりも、手を抜かれずに
一緒に居れる方がずっとずっと楽しいぞ?」
『………っ!!!!うん!!!!!』
それからというもの
「いや、普通にもういいかな、お父さんは……」
『え〜〜なんで???』
「だってアレから3戦連続で天使と天使戦わせてばっかだろ!!!」
一人でやってていいよと言う彼に、じゃあとメルはNPCと戦うことにした。
銃とか持たせてみてぇなとか思ったが、天使に銃とか、にあ、にあ…物騒すぎるので
想像しても現実には表せないほうがいいなと思いました。まる。
「楽しい?」
そうこの椅子に座る前に入ったカプセルの上の方に手を置いて言う父に
前に戦っていたサワア達を思い出して、今の気持ちを表す。
『うん!!』
「……そっか。」
嬉しそうに、愛おしそうに、父親は彼女に触れる。
私ではない、きっと、彼女に、触れて欲しい。
嗚呼でも、私も、触れてくれるなら、それは、とっても嬉しいということで。
普通に21時以上も居たのバレまして、その後退散。
家に帰ろうと言う私を無視して、ホテルに突撃しましたこいつ。
っていうか明日学校ではと思ったが、どうやら無視していいらしい。
やっふううううう!!!!!さーぼりださぼりださぼりだああああ!!!!!
って
『いいの?』
「勿論。明日はお休みしていいよ。」
沢山頑張ってくれたんだという彼に、そんなことはないと思った。
素直に、思ってしまったのだ。これくらい、どうってことないと。
『お母さんのお願い聞けない都佑は、悪い子だから。』
「…っ……そんなことないよ、都佑。」
君はいい子で、優しい、人を想いやろうとする
素敵な自分の子だと抱きしめてくれる。
こうしてくっついて寝るなんて、久方ぶりだった。
あいされていると思えば、ボロボロと涙が零れ落ちる。
優しく頭を撫でてくれて、大丈夫と答える。
「名前の通り、誰かを助けられる子で在って欲しい。
でも、どうしようもない、助け続けても、駄目な日だってある。」
『ぱぱ?』
「そんな時は助けを求めて良いんだよ、都佑。
誰かを助け続けるのは、辛く苦しいことだ。」
そんなこと、そんなことない。
「君がそうやって、誰かを助けようと、前を向いて
その子を見ようとする限り、君を見捨てる人なんて
いい子なら猶更、人っ子一人いやしないだろう。」
『…どうして、そう言い切れるの?』
「ん〜?さあ?でもま、都佑は優しいから、きっと分かってくれる。」
助けられる、そんな子で。
「君は悪い子じゃない、いい子なんだよ。」
『天使の日に生まれた、悪魔の子じゃないの?』
「…っ、違う、違うよ?」
『此処に、いて、いいの?』
「いい、いいよ。」
ぎゅっと抱きしめる力が強まる。
うんと嬉しくなって目を閉じれば、涙も零れ落ちた。
「そういや天使ばっか見てるけど、都佑お前天使が好きなのか?」
『うん。だって、いい子なら天使さんが迎えに来てくれるでしょう?』
いい子はお願い事を一つ叶えてくれるってパパ言ってた。
嗚呼そんな昔のことよく覚えているなと父親は空笑いする。
『だから、都佑ね?いい子でずっとずっと居続けて、何時かお願いするの。』
「…なにを?」
『…っ、”パパとママが、何時までも仲良しで”って!』
「っ、そうか、でも、叶えられないなあ」
そう泣いて笑う男性に、メルはまたくしゃりと笑って見せた。
嗚呼そうだ、これは、絶対に、叶わない、願いなのに。
その額縁に飾られた時間は、確かに願いは叶っていた。
だから、この時間は酷く辛く、優しく、恐ろしいのだ。
底なんて見えない、無限を見せれる、何よりも輝いた時間。
嗚呼だから、それだからいいのだ。
ひとしきり泣いて、メルは目を閉じた。
朝起きれば、父が居た。おはようと言ってくれる。
嬉しいという気持ちを、これから知ればいい。
全てを否定され、拒絶していた時間はない。
勿論その後、母親にもあったが…
『(それでも、時間は戻らない、と)』
向こう側に、出る額縁は見えることはない。
ちょっと試しにと、祖母が私が生まれてから始めたという
絵画の展覧会に遊びに来たりもしているが、
『…戻る気配処か、薄れているのが怖い。』
現在、11歳、入退院を繰り返している現在の体重は何と未だ15キロである。
いや滅茶苦茶軽いと思って医者も怒ってた。主に祖母に対して。
あの人が悪いわけないんだがな。恐ろしいほどに食欲が消えたんだもん。
いや廻廊に置いて来た???待ってそれは普通に困る。
『流石に怖いから、書き記しといた方が良いか。』
と思ってだ、祖母に相談をしていると、
隣の女性があら、可愛らしいわねえと
声を掛けてくれたので挨拶をする。
『はじめまして、都佑です!11歳になりました!!!』
「あらあら〜〜〜可愛らしいお孫さんねぇ〜〜〜!!!!」
「さっき何か言いかけてたけど、何かしら?」
『えっと、絵とっても綺麗で、こう、日記みたいなのつけたくて。』
物語を思いついてと言うメルに、ならと女性が声を掛けてきた。
「いや本当にいいんですか?」
「いいんですよ、ほら都佑ちゃん一つ選んで?」
『いやいや(マジでええんか)』
黒髪の女性が、メルと祖母の背中を押して言う。
その世界は、軽く自分の知っている図書に近い量だったのだ。
この本は、世界中から集めた本ばかりで、古書にもなるが
近々此処を閉めるという彼女になんでとメルがばっと振り返る。
『こんなきれいな本たちは…』
「ごめんねえ、もう売り払う予定なの。
嗚呼でも一つや二つくらいは持ってって構わないわ!」
そのつもりの契約なのという彼女に、すいませんと祖母が頭を下げる。
「いいんですよ、こういうのはパッて思いついた方が良いの。」
いや、そう言われてもだな。
放置されて、前に会ったカウンセラーの人を想い出す。
育児放棄をされ、離婚した次の週くらいに広い部屋の奥、
ガラス側に座っていた黒髪の女性を思い出した。
何が好き?とかどんな事しようとか
言ってくれるのにびくりと反応してしまった。
どうも母親に近い人は苦手らしい。
それに気付いて欲しくないという思いもあって、
それでもいいのと彼女は言ってくれた。
ー貴方が思った通りになるのだから
『あ、これ』
そう見つけたのは、かなり高い場所にあった赤い本だった。
妙にあの本が気になった。いや、気を探ろうとするも、やり方を忘れてしまってだな。
押さえつけて更に忘れるとか、絶対コルン様辺りに呆れて長いため息を貰う気がする。
ううう、帰りたくないから…もういっそのことこのままでいっかなぁ????
そう思いつつ、女性が見つけて、その本を手に取ってくれた。
「こんなきれいな本をいいんですか!?!?」
「いいんです。寧ろ千代木さんには良くしてもらえているのに、
全く恩返しもなにも出来ずに困っていたので。」
寧ろ貰ってくれた方が私も助かるんです。
そう言う彼女に、祖母は頭が上がらず、分かりましたと答えるしかなかった。
大事にしなさいと言う彼女をガン無視し、メルはありがとうとお礼を言う。
「ええ、出来ればその物語が出来たら、私にも読ませてもらえるかしら?」
『ええ、必ず。』
その先は、私が、生きれない世界であったとしても。
++++++++
さて、家に帰って来たは良いが。
『…まぁメリア辺りから書き記した方が良いか。』
他の設定は別の用紙に書き記し、その物語を兎に角書き記し続ける。
何か知らないが、奥にペンが入っていたのでと送ってもらった万年筆を使って印す。
スラスラと物語を簡潔に書き記し、んんとメルは本を叩いた。
すると、
『あれ?!?!書いたのどこ!?!?!?』
いや記憶違いかと思って、メルは逆側を開いてないものにため息を吐いた。
間違えて別の本を取って来たのかもしれない。緑いろの表紙に
仕方がないからと設定を全て書き記すことにした。
サワアやコルンらの天使も含め、神々や、悟空達の設定もだ。
それが、自分の時間軸迄綺麗に描けたのは、高校2年生くらいになってからだろうか。
母とは幼い頃から話をしていて、中学生の頃に一度自殺未遂を経験しちゃいました結果
精神病院とカウンセラーさんとタッグを組まれて見られているが…まぁ見ないことにしよう。
今まで起きた、あの酷い惨劇の所まで書いてからというものの
さぁ次なら私どうしようかと頭をうならせる。
「おや、物書きさんがなんのようだい?」
『ああ〜マスターそんなこと言ってくれるんだ〜?』
「っくくく、オレンジジュースをはいどうぞ。」
夏になりつつあるこの季節、
ラッキーと思いつつ少々早い到着に徳をしたと
メルは思いながら出てきたオレンジジュースに口を付ける。
ちゅーっとストローを吸えばひんやりした
果実の味が口に広がって、
控えめに言ってどちゃくそ美味い!!!!
『ぷは〜〜〜うっんめ〜〜〜!!!』
「っくく、そりゃよかった。それで?物語は終わったのかい?」
『いやそれがさあ〜スランプはいっちゃって。』
「ドラゴンボールの世界だったよなあ?おじさんもその世界好きでさ」
『えっ待って待って誰だっけ推し』
「確かリキールだったかなぁ。動物は面白くていい。」
その前は17号とか好きだったという彼に、
へぇーと声を上げる。
「君は誰が好きだったんだい?」
『いや天使ならもう全員推しで良いわ私。』
「ぷっはははは!!天使の日だったっけ?誕生日。」
『そうです。なので安直に天使好きになりました!』
まぁそれ以外に、その世界から落ちたなんてそんな話は通用しないだろうが。
「…にしても考えたね?カクテルの名前が天使らにつけられているからって
古い昔に、華を咲かせ、その華が生きる次が天使の卵である加護天使だと。」
『ほんと作った人天才だと思います。』
「いやいや、他の華神や加護天使の設定は君だろうに」
『っはははそりゃね?』
一応生きていたことを記したものだ。
本当に綺麗にまとめられて、間違っていないか考えたくなるが、
恐らく大丈夫だろうと思った。思い込むことにした。
『神様なんだから、華を想いを一途に想う力があってもいいなあって思ってさ?』
「太陽に向けて、祈りをってか?いや〜〜若い子の想像力とはいいねえ!」
『マスターほんとこういうの否定しないよね、なんで?』
「嗚呼?そりゃあお前さんの言う事まるで事実みたいに言い切るしなぁ?」
うぐ、それは気付いて欲しくねぇな???
「んで?今はどこらへんだ?。」
『一応、別の1に戻ってきて、其処から元の世界に戻って、11の子に願いを渡そうって思ってる。』
そうして、11が犠牲になって、帰って来た子が、その願いを覆す。
『覆した子が千年くらいの眠りについて、目覚めないけど
その子は別世界を転々と歩きまくって、
本当に生きていた全てを知り、目醒めるとか。』
「いいねぇ?壮大だねぇ???」
『それで、一度きりいい所で殺してから、12を始める。
その時には、全員の神様に所々会わせてもらって、
最期の最期に最悪の魔女プラティアを会わせ、闘い決着と!!』
其処まで考えてるなら書けばいいのにという彼に、
いやそれでいいのかなあってメルは言う。
『まだ色々話したいことも、やりたいこともあるの。』
「お嬢ちゃん……君、」
『千年眠って、その先に消えてもいい。』
なんなら、プラティアを滅ぼすんじゃなくて、取り込んでしまえばいいとさえ思う。
『天使だったプラティアが、欠けたカタバミの一部だったってことにすれば、
その子が狙われた一理由になるし、いいかなあって。』
「本当に物語の才能あるって。違う形にして応募すりゃ、夢じゃないだろうに。」
『いいんです。こういうのは、知った者同士で、ゆっくり話すくらいがいい。』
それに、あの世界だからこそ、言えるという形。
これを別の物語にしてしまえば、それこそ、戻れなくなりそうで怖かった。
そう、未だに、私はこの世界で生きている。
猛勉強して、これ以上ないくらいに書き殴った書き殴った。
何か知らないが、あの赤い本、二回ずつ叩けば色が変わる。
赤、緑、青、黄色、白の五色があり、
私はその色ごとに書き記す内容を変えた。
赤は向こう側の世界の物語を。
緑は向こう側の世界の設定を。
青はこちら側の世界の物語を。
黄はこちら側の世界の設定を。
白はこちら側の世界の情報を。
日本語やら知識は全て白に書き殴る。
驚くことに、この本面白くてだな、
全部書き記したらまっさらになるんだわこれが。
ペンで3回叩いたら元の文章が出てくることに気付いたのは早くて助かったが。
その設定は一切彼等には見せていない。
見せるのはあくまでも、赤の本一択である。
「いや〜でも、まさか名前にこれを入れるとはツウだと思ったよ。」
『あ、ブラックベルベットですよね。』
黒い液色と、グラスの中にできる泡による
キメ細かいなめらかな舌触りが
布地のベルベットに例えられたものであるものだ。
ビールと合わせたそのカクテルは、とてもじゃないがまだ飲めない。
未成年飲酒駄目絶対なのだ。
「そ、いや〜〜父親に入れるとは本当にきっついわ、救急車欲しい。」
『そうなら呼びますよ?』
「いやいや、冗談だって。」
【忘れないで】
「その言葉を入れ、落とした先に、父親と呼ぶパピと犬の名前にまで付けて。
本当に、可愛らしい子の物語なんだねぇ?会えるなら会ってみたいくらいだ。」
『いやいや、この主人公物語の子ですよ?それに、エフェメラルって知ってますよね?』
「嗚呼、【儚い、一瞬】天使と真逆の存在である、永遠から離れた者。」
「…瞬きの灯火すらも、忘れないで、ねぇ?」
『マスター?』
「いや、気にしないでくれ。そんなことより、正直悲しいお知らせがある。」
『え何』
「今日は君の出番じゃない。」
だあああと崩れ落ちるメルに、いやーすまないすまないと頭に手を当てて笑うマスター
「普通に俺が間違えて用事を言ってしまっていてね〜!」
『なら言ってくださいよ!!』
「今見て気付いたんだからしゃーねぇーだろ?ほら予定は来週の方な。」
『あーはいはい。一応開けときますよ。』
じゃ、ごちそうさまでしたと言ってメルは楽器を背負い直して走る。
嗚呼待ったとマスターに止められて、なんですと振り返る。
「…気を付けてな、華樹に選ばれし神と人を繋ぎし子よ。」
『……はい!』
カランと音を聞きながらメルは階段を降り、左に曲がって軽く走る。
自転車の在る場所に入ってその止めていた足を足で蹴って跨り、坂を下る。
『えっと〜なら来週は歩きか。テスト期間だし、焦らなくていいんだもんね。』
彼の元に行くのは、テスト期間でも点を取れての話。
テスト期間は時間が在る為、そう言う時楽器を持って帰って
勉強道具と共に彼の元で猛勉強しつつ、余力があれば話を持っていたのだ。