君に向ける一の愛の為に




「まさか、こんなになるとは…」
『なははは、滅茶苦茶買ったねぇ。』

一人一袋という形でも滅茶苦茶重いと痛感したサワアらは
結局メルが一人で殆ど持っていたことに罪悪感を持っていた。
何か指示できるものとかはというコルンに、あるはあるけどと苦笑いする。

『いやいや、現役高校生舐めんな。これくらい普通に持てるよ。』
「で、ですが…」
『だとしてもだよ?君らには私沢山命を救われてるんだからさ』

これくらいさせてよ。…ね?

「…無理ならちゃんと言ってください。ちゃんと立ち止まります。」

いっしょに、そういうコルンにメルは目を丸めて驚いた。
そんなこと、言われるなんて、まるで

『夢だったら、いいのに』
「え?」
『嗚呼いやなんでもない!そうだね、そうさせてもらおうかな。』

でも、私はそんなことしない。
無理しかする日しか見ていない歩んでいないから。
する必要性を感じ取れなかった。

夢だったら、いい。
そうしたら、この痛みなんて、可愛いものだ。
嗚呼、そう、これは夢だ、夢であって欲しい。

目が覚めたら、またあの時間に戻ってくる。
灰色に染まり続けるその時間、残酷な現実しか見えない世界。

手を伸ばしても届かない。
唯一願った言葉は、決して叶うことなどない。
選択肢は一つしかない。その時間に、帰れない場所に。
私はその心を置き去りにするしか術を見いだせなかった。

その場所に、飾った、綺麗な額縁に、縋り付いている。

その時間だけしか、私は生きることを忘れてしまった。

思い出すなんて、もう、したくもないのだと、心が叫んでいる。

もう無理だと、もう、歩くことすら、無理なのだと。
立ち止まれば、天使らである彼らの時間と私の時間は違う。
そもそも、生きる場所が違うのだ。

いやだ、嫌だと声が聞こえるのを押さえつける。
どれ程殺してきたのか、どれ程頑張ったか、分かっているのか。
分かっている、分かっているから、その姿は分かる。

『……嗚呼、コンクール。頑張らないとなあ、』


今年の課題曲が決まっている。

あの曲の意味を、私は酷く痛感して、
胸が痛くて痛くて最近その曲しか聞いていない。


「こんくーる?なんですかそれは」
『え?ああ、この世界は子供、まぁ人間が6年生きたくらいから
18年生きたくらいの間に学校っていう学ぶ場所に通うんだけどさ。』

そこで部活動っていう、勉学以外に励む場所があるんだよ。
そうメルはサワア達が分かりやすい方向性に言い方を変えて話す。

彼等も流石にメルばかりに持たせてはと思い、
各々ギリギリ運べる範囲で持ってくれているおかげで、
メルもかなり楽になっている。

『その中で吹奏楽っていうこう、
物に口を付けて音を奏でるところがあってね。
私はその中の一員ってわけ。』

こう見えても割とプロと肩を並べられるかどうかと言われているのだ。

実演も正直何度かさせて貰えて、
寧ろプロで食っていけるのにと言われる始末だ。
ま、そっちの道なんて正直鼻から考えていないが。

「そのこんくーる?とやらは忙しいのですか?
どのようなことを?」

『課題曲と自由曲があって、一曲ずつ演奏する。
課題曲は文字通り課題があって、その中から一つ。
自由曲は文字通りなんでもいい。
曲であればなんでもいいので自由曲。』

「もう決まって練習はしているので?」
『勿論!最近自由曲が少々悩まれているんだけどね、
課題曲は決まってもう永遠に聴きまくってるところだよ。』

ははは、マジで鬼畜だからな。吹奏楽程ブラックはないと思いたい。

『気になるなら演奏するし、曲も聴かせるし、楽譜も見せるよ。』
「それは是非とも興味深い話です。」

嗚呼ウイスさんはちょっと、なんです?そうむすっとするウイスに
彼にアニメの彼を見せてやりたいくらいだが、ソレは気が引ける。

『まあ、別にってあ、雨か。』

ぱらぱらと振って来たことで、少し走るよとメルは答えた。
土砂降りになる前に何とか帰って来たはいいが、割と濡れたので荷物を置いて
ちちーと声を掛ける。

「おお、ってうわどうしたそれ」
『ずぶぬれーお風呂入らせていい?』
「メル様の方が先です!!」
「我々は昨日貰っていますし、先に済ませて来ては?」
『…後悔するなよ???』

ええという各々に、じゃあとメルはお先にと席を外す。
一体何事だと思っていたサワアらだが、彼女の言ったことがのちに地獄と知った。


++++++++++

「お風呂ありがとうございました」
『いいえ…あ〜〜〜あ、だぁから私言ったのに。』
「…すいません。」

そう三人とも何とも言えない気持ちになって
帰って来たのをみてメルはすぐに察知した。
女の子のお風呂の後は大体匂いがキツイのだ。

彼女の匂いがするとって思うといたたまれなくなったのだろう。
彼等はなんだかんだ言って自分を慕ってくれる人達。
でも、人間の生活は慣れていないので、
私の言う事が本当に正しいかどうかの把握も難しいことだろうし。

『これに懲りたら先にちゃちゃっと入るんだね?』
「わかりました」
『私ももうすぐ生理くるし、どっちにせよ風呂は最後になるし
なんなら一緒にいちゃいちゃできんしなぁ。』
「生理?嗚呼、あの月経、で……本気で言ってます?????」

マジマジというメルに、あれ程とサワアが首を傾げてメルを見る。
コルンやウイスは彼の顔が見えないが、かなり驚いていることだろう。

『アレよりまぁ酷くはなってるね。息が出来ない時もたまにあるし。』
「…メル、悪いことは言わないので病院とやらにいきましょう。」
『あはは、もう行ってるし、普通に重い方だから薬飲めば大丈夫だって。』
「だとしてもあの痛さも異常に見えました。
今は天使ではありませんので、癒せることすら出来ませんが、
元の世界に戻れば問答無用で消し去りますからね????」
『わ〜〜〜〜こまるねぇ。』

女性が強いのは痛みにというのに。そう笑うメルに、
痛みと知りまさかと言った彼の口を手で塞ぐ。

しーっと人差し指を立てて、ニヤリと笑うのだ。

嗚呼、本当に、貴方という方は、
何処までその身を痛めつけるというのですか。

何も悪いことなどしていないのに。

『大丈夫、これはまだ、夢物語だから。』
「…メル?」
『何にも悪いことしていない良い子だと思うなら
どうか私の今やっていることを全て許して欲しいよ。』
「…っそれは」
『今だけは、どうか、我儘を許して欲しい。』

きゅっと抱きしめるその手が腕が、胸を痛めつけてくる。
そんなことを言われたら、許す以外術がないというもので。

彼女は分かっている、これから先にどうなるのかも。
そして、自分がどういう存在だったのかも。

全て、理解して、我儘だというのだろうか。

こんな、小さな世界に、一人11年も長いこと落ちて、息をして。
我儘をと、貴方はなにも言わなかったと聞いているのに。

なにも、なにも、してやれていない。

あの日から、ずっと。

「…わかりました。」
『…ありがとう。』

貴方が望むなら、このサワア、その願いを叶えて差し上げましょう。

天使にと、笑って手を伸ばしてくれる、無邪気で無垢な、貴方の願いを。


++++++++++


曲を聴いてのめり込んだのは誰も居なく、
メルのみがその指をぴっぴっと動かす。

何をしているのかと聞けば、
指揮を執っていると言ったのだ。

こうすれば指揮者の、所謂
彼女の見つめる先の先生とやらの
動きが分かるのだとか。

タクトという棒切れをとり、大勢の者達の指揮を執る者。

人間はこうして暇つぶしをしているのかと、
コルンはちらりと見てはメルの見ていた本を読み進めていた。

最初は綺麗だが途中で汚くなっているのは、
恐らく彼女が途中から書き直しているのだろう。
文字が徐々に綺麗になっていくのは、その年月が物語っている。

最初の文字は、一体どれ程汚かったのだろうか。

そして、それを書き出した彼女の想いは、どれ程強かったのだろうか。

そして、その想いを持ったとしても、
戻れないと知ったその日、
どれ程の痛みを知って泣き叫んだのだろうか。


「(いけませんね…人間の身体に慣れ過ぎていっている)」

気を未だに使えない以上、
直ぐに戻るのは止した方がいいとはいえど
時間が過ぎれば過ぎる程、
今まで生きていた感覚を忘れる感じがする。

メルが何時しか、忘れたくない、
想い出したいと言っていたのが分かる気もした。

これは、天使ですら、毒だというのに。

彼女はそれを、何年も何回も、
その身に打ち付けているというのか。


「(強すぎる…精神を鍛え過ぎた、末路だとでもいうのでしょうかね)」

その笑顔は、時々中を見せてくる。恐怖を理解をさせてくるのだ。
早く帰らねばならない。流石にこれ以上居るのは得策ではないが、
ただメルの前に言った言葉を思い出す。

サワアに、ソレを理解しろと言ったその言葉。

想いを自分の名を姿を今までの形を、維持し続けること。
それ即ち、願いの根本とでもいうのだろうか?

なら、別に願いを思わずとも、
この世界と向こう側の世界は繋がれるはず。


何故想うことで、華を咲かせ、
その身を、殺そうと…いや違う。


「まさか、華神ら全てが神の生贄だとでも」
『コルン』
「っ」
『駄目だよ』
「…何が駄目だというのですか。」

そうぎろりと睨むコルンに、
メルは後ろから彼の首を撫でる様に
広げた手を止めてにやりと微笑み笑うだけだ。

「この世界の神の贄になるとでもいうのですか。」
『さあ?どうだか?』
「…っそれこそ、許すわけがない。」
『でも、嗚呼、可哀想に。』

気付いても、ソレを覆すことなど出来ない。

そう言ってメルは笑って言う。
コルンの胸をトンと叩いた後、メルは己の胸をトンと叩く。

『お前のソレと私のソレは血が違う。
選ばれてしまった者はその身を幾ら変えようと変わらない。
例え願おうとも、その願い以上の力が出なければ覆すなんて不可能。』
「なら覆さないのですか?」
『さあ?どうおもう?』
「っ、またはぐらかして、何がしたいのですか。」
『別に?お前ら天使にバレた所で出来る範囲ではないが、
知らない方がいいってやつもある。』

首を傾げて言う彼女は、めんどくさそうに言う。現に面倒なのだろう。

『仲良くなればきつくなるというもの。
天使なら長い時間の中で気付くだろうに。』

ソレみたいになりたくないだろう?
そう言ったメルがちらりと目を向けたのはサワアの方だ。
それに気付いたサワアがちらりとメルの目を見つめる。

未だその目は、紫色に光り輝いていた。

黒い目と紫が交差する

『ま、別にどうでもいいが。』
「どちらに?」
『おといれ』

手をひらひらとさせ、彼等を三人で固めさせる。
はぁある程度こんなもんでいいだろう。
メルは下に降りて本当にトイレに行く。

その間、今までのことを整理した。
恐らくだが、この世界のどこかに私の本当のマジもんの肉体あると思う。
なんなら、ソレを手にした瞬間、時間が戻ってというか、元の場所に戻れる。

その場所が、何処になるのかも、私は分かってる。

嗚呼、もう、予定表を置かれた紙に触れてぼやく。

嗚呼もうすぐで、私は私に戻るのか』 

最近顔が崩れる。恐らくその時間が近いからだろう。
厄介だな、身体に戻れば、精神を幾ら隠そうにも隠しきれないだろう。
肉体と精神を一致させてこその、この理解の認知をゆがませるというもの。

身体が変われば、その思考回路も変わってくる。

彼等を騙す等、これ以上は難しいだろう。

なんならばれつつあるが、まぁそれも終わる。

コンクール前に、テストが終われば、練習用ホールの場所に行ける。

其処は、何時しか愛おしい時間を過ごした、約束の時間でもあり、その場所が近い所でもある。

そのホールの近くにある土手の下に、願った花畑があったのだ。
恐らく、帰れるとしたら其処だけだろう。なんなら、其処に眠らされているはずだ。
誰も見えない私だけが見えてすやりと、眠る、その肉体が。

花冠を作ろうとして止めた、その場所が。

あと、二週間か。コレを何とか留めさせ、
彼等を逃がし、私はそのまま0を知ってから
元の場所に戻り力を入れる。

そうだ、書き記せば全く問題ない、
彼等の言う通り怖くなんてない。

あの場所に、行かねばならない。
この黒髪の子供を置いてでも。おいて、なんて。

いやだと、思ってしまうのは、
この時間が長すぎたからだと言い聞かせたい。

いやだ、そうすれば、一体どれ程の痛みが
待ち受けて居るか、私は知っているだろうに。

嗚呼でも、それ以外、方法を作らなさそうにする私が、おもいっきり


『馬鹿だなぁ』


とは思うのだ。



++++++++++


そう、そして、いつの間にかあっという間に過ぎ去った二週間である。
いや滅茶苦茶短かった。そして滅茶苦茶濃かった。

もうコルン様の威厳が皆無だったのだが、
犬を抱きしめながら愛でた日々は
もうなくなるのマジで泣きそう。

メルは赤本を片手にじゃあと父親に言う

『サワアらのこと、日程通りに。』
「ああ」
「日程?どういうことですか?」
「今日は特別に君らに演奏ちょこっとだけ聞いてもらえるってさ。」

昼休みになったら抜け出して外でご飯食べて良いって
メルはなんだかんだ言って色んな場所を旅してきた者
さらっと息をするように顧問に言って許可を貰えてきたのだ。

外でするなら別に構わないし、
邪魔にならなければそれくらいの人数構わないだとね。

前に買った洋服以外にも、そういや久しぶりにとメルは言う。

『前着ていた天使の服も袖通して置きなよ?』
「あれですか?いいので?外で着てはいけないのでは…」
『今回はあの周辺人通りが点で居ない処。
加えて君らの姿的に遊びに来た子供って見られるだろうし。』

下手に考えらえることはないとした判断だった。

『お姉ちゃんの有志をとくと見ていて欲しいのだよ!!!えっへん!!!!』
「…これは帰った時が酷そうですねぇ〜〜〜〜」
「っくくく、それよりも寂しくなりそうですよね。」
「流石にこんな騒がしいのから一人になるとねえ」

何か別れの話になっているが、絶対バレていないんだよな?な???

まぁいいかと思ったメルはごちそうさまと朝食に手を合わし、席を外す。
お皿はウイス達が当番制で面倒を見てくれているのでお言葉に甘え、
楽器を背負い、サワアからお手製のお弁当を持ってリュックに詰め、その鞄を持って言う。

『じゃ、お前達、またあとでな!行ってきますお父さん!』
「ああ、いってらっしゃい。」
「転ばないで下さいね〜」

そう言うウイスにメルは外から手を振ってはぁいと答える。
たったったと階段を下りて、自転車で走り去る彼女をみて、さあと声を上げた。



金属の音が響く。音のすり合わせが、このホールで響く。

『(もっともっともっともっと)』

何度も繰り返し、何度も練習し、音を突き詰めた。
一応サワアやコルンらにも見て貰ったので、魂よりも身体にしみこませている。
この肉体を持った彼女も、きっと、このまま本番に持ち越せるだろう。

と言うかそうしないと私が呪い殺しに戻ってきそうだ。

ま、しないし、そんなことして欲しくて言うなら猶更したくないが。

奏者の響きが、一つの音程に合わさって、響き一つの束になって飛ぶ。
その形はまるで、華の一つのようだ。


「このオクシスの廻廊という意味を誰か調べて来たか?」

そう言う指揮者の姿を見つつ、外からちらりと光が見えて笑ってしまう。
手を振るわけにはいかないので、見ていたのがバレた。

「千代木」
『あっはい!!!なんでしょう親方!!!!』
「へいらっしゃいじゃないが」

そう言ったメルに、周りがクスクスと笑い始める。
いやぁ〜こういうところはどうも癖になっていやして。

「廻廊という意味は知っているか?」
『はい。長い廊下、宮廷とかの渡道の意味や
安全に移動できるという意味を持っています。』
「正解だ。じゃあオクシスというのは?」
『え』

なんだ言えないのか?という彼に、いや、言えますがとメルは俯く。


『…オクシス、ギリシャ語で、「酸性」「酸っぱい」と言う意味です。』
「嗚呼正解だ。直訳すると、酸っぱい廊下みたいに見えるが、この曲調、よく似た形になっている。」

廊下の様に長く続いているくせして、
音が徐々に上がっていき、また一気に下がりと
まるで廊下ではなく

「螺旋階段を歩いているように感じる」
『(あ)』

不味い、今気を察知した。あの白い糸、ピンと見えたその姿は今見えてはいけない。
此処に何人の人間が居るというのだ。今此処で戦えば、この子が責められるのは間違いない。
何とか隠し通せと、思っている間、メルはその目を一点に集中した。

「フルートに、クラリネットに、サックスに、とタスキを渡していくと思いきや
途中から増えては次にその間でずれてと、一度次の新しい場所に行けば後戻りしてと、
それはまるで、その時間を忘れないように刻むようにしている。」

嗚呼、そう、そうなのだ。忘れたくなんてない、忘れたいなんて、どれ程思いたくなかったか。

「そうして、この曲は徐々に増え、11番目で一気に演奏が変わる。
まるで集大成の前の様に、各々が個々を持って音を奏で、最後に一つに束ねる。」

なあ、お前達、クローバーという花は知っているか?
そう言う先生に、うんうんと頷く生徒。

「なら、高梨」
「はい!」
「お前、そこら辺に咲いている花は見たことがあるか?」
「え、ええ」
「じゃあこれは?」

そうボードに出してきた先生に、ええと首を傾げる

「それ、華です?」
『っ』
「…そう、花に見えた奴手をあげろ」

そう言われておずおずとメルは手を挙げた。
なんなら私以外あげない。理解が無いからと言う意味か、それとも。

「先生それ雑草ですよね?それもよくないやつ。」
『っ』
「嗚呼、そうだ。カタバミは余り宜しくない
と言われているが、実はこの曲カタバミが採用されている。」
『ええ?!?!?!』
「え?!?!?どこ!?!?!?!」

思わず私も反応してしまったではないか。
ちょっと酷いこと言わないで欲しい。

「カタバミは片喰、片方を喰われたという漢字を書いている。何故だか分かるか?千代木」
『えっ!?!?あっ、えっと…そ、その…いいんですか?言っても。』
「嗚呼寧ろ他の奴言えるか?」

そう言われて全員が首を横に振るのでぎょっとしてしまった。

『え、えと……カタバミは太陽に当たらない間
葉をぺたりと下ろす草花です。それはまるで、
葉が欠けたように見えるから、食われたという
意味を持ったというなんかそういう一説をみました。』

というかそういうものなのだが、濁して正解だろう。

「その通り、花は太陽を追いかけ成長するのと同じく
カタバミも彼女が言った通り、太陽がある間は葉を広げる。」

そして

「夜の間はずっと其処にあるのにも関わらず、葉を閉じているんだ。」
『(ずっと?)』

なら、私のその力は、最初からあるというもの?
じゃあ、その「太陽」は、一体何処に生きている?
そう、もう、気付いているはずだ。

このホールで、音を響かせる、その時間を知る私ならば。

「…お前達の光は音は、確かに酷い所もある。
それは人間どうしようもないものだ。
培う技術は人それぞれ、感情もそれぞれだ。」

だが、その音を束ねて、
その太陽に全員が一点に集中したその時こそ、
光を見出し、本来ある葉を最大限に広げることが出来る。

「一人一人がその太陽を見て、協力すれば、
どんな大きなことだって勝てる
っていう思いを込めた音楽なんだよ。これは。」
『(太陽を…追いかける、話?)』

違う、でも、在っている。
そうメルの中で、徐々に膨らむ感覚を見つけた。
ざわりと、音が聞こえる。

「それが、課題曲にも実は繋がっているんだ。」

そうばさりと課題曲を開いてという彼にメルも遅れながらもページをめくる。

「アンゲロニアの薄命光線だが、これ実は漢字違うの分かったか?」
「えーわからないー」
「薄命の命の部分は本来明るいの字を使う。じゃあ何故命にした?」

わからない、わからないよ、そう思うメルに、
気付いてか指揮者は周りに言い聞かせるように答える。

「じつはこの二つも、先程の自由曲も続いているんだ。」



「アンゲロニアという花を知っているか?」
『(知らない)』

確かに描いただろうが、正直其処迄覚えていないのが正解か。
一応花々の辞書は腐る程書き記したし、なんなら論文も何個か書き殴ったくらいだ。
なので絶対に書いただろうが、そんな花言葉忘れてしまっていた。


「こういう花なんだが、回していってくれ」

そう言う彼に、ほらおいでと手招きする。
あっやっばとメルがびくりと反応する。
メルの弟さんという彼に嗚呼いうでないとメルはぎゅっと顔を縮めさせた。

とてとてと歩いてくる彼らが可愛すぎて見れないけどみたい!!!!!!

「先程の話の続きだが、アンゲロニアには別名がある。
別名エンジェルラベンダー。花言葉は「過去の恋人」」
『っ!!!!』
「薄明光線は太陽が雲に隠れているとき、
雲の切れ間あるいは端から光が漏れ、
光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象で、
一説によると、雲の切れ間から差す光のような梯子が
天から地上に伸び、そこを天使が上り下りしている
光景を見たとされる。」

その言葉に、もうわかったか?とメルの方を向いてにやりと笑う。

「エンジェルは日本語で天使。天使の梯子を掛けた、
その先は、雲の隙間から太陽が。
カタバミはその太陽を見つけて葉を広げ花を咲かせる。」
「っ…」
「…此方の方が一手上手でしたね。」
「ええ」
「その階段を、螺旋階段の様に、安全に廻廊として上っていく。
ソレを音が、人が、天に華を渡すという意味だ。」

勉強になったかな?という彼にはいとサワアがウイスとニコリ答える。
演技に関してはこの二人はぴか一であるのだ。
コルンは照れくさいのか、子供として言うのは嫌なのか、
プライドが許せないのか分からないが黙ってそっぽを向いていた。
いやどちらにせよ可愛い。三人とも元の髪型にちゃっかり戻しているが。
おいこら外に出るつもりは私していなかったんだが。

「いや〜本当は見せるつもりはなかったが、
丁度天使の恰好をしているからと思ってな。
お姉ちゃんが作ったんだろう?説明できるか?」
『え゛ガチで言ってるんですか先生…!!!!!』
「そりゃドラゴンボール皆知らない奴もいるだろうからなあ?」

壇上に上がりますという彼に、
勿論と何なら椅子に座らせるという公開処刑付きである。
いやごめんとメルはサックスの方から上がって来た彼らに謝罪する。
ウイスがいえいえと苦笑いである。

「じゃあこの子から。」

きゃーかわいいーという声が聞こえてそちらの方にペコリと杖を持ってお辞儀をするウイスに
きゃーと黄色い声が聞こえる。

嗚呼もうこうなりゃやけだ。
メルは又にサックスを立てて抱える様に抱きしめて話し出す

『ドラゴンボールの世界では、地球がある宇宙を第7宇宙と呼んでいます。
その第7宇宙を司っている破壊神って神様の付き人に天使ウイスという者がついています。』

彼はその形を似せました。そういうのにへぇと声が聞こえた。

『天使は各宇宙の破壊神に付いていまして、全部で12あります。』

まぁ勿論?現在は、彼らが知るべき内容では?の話だが。

『その次が…あ〜〜〜〜、第8宇宙の天使、コルンです。』

ちょこんと乗せられ、もう早く終わらせと言わんばかりに
目を閉じて汗をかいているのが見える。
嗚呼本当に公開処刑でごめんよ。早く終わらせるから。

「コルンってホルンみたいだよねー」
『(あああだから早く終わらせろおおおお
主に私の生命の危機を感じるううううう)』

ねぇねぇと声を掛けられる彼が滅茶苦茶タジタジしている。
ウイスやサワアはにっこにこである。私は内心ひやっひやだが。

「次が?」
『嗚呼、次がサワア。第2宇宙の天使です。』

天使で揃えました何なら杖迄再現クソリアルです。
そう言ったメルにマジで特技かよと声が上がる。


えっへん、ちなみに作ったんじゃなくてマジもんな!!!


「天の使いといういみで、天使という名前が付けられた神様の一種。
まあこんなもんで、昼休憩前に演奏を届けて終わりとする。」

休憩明けにはちょっとパート練習させて、一人一人呼び出しするからなー
はーいという声に、そうそうと顧問がとんでもない爆弾発言を出す。

「千代木はちょっと今年のコンクール欠場になるから」
『は?!?!?!?!?』
「なんで!?!?!!?」
「あれ、お前お父さんから聞いてなかったのか?
丁度その日引っ越しの話がって聞いていたんだが……」
『え゛まって聞いてないんですが?!?!?!』

あーごめんと舌を出す彼に、いやそういうのはさあと頭をがっくりとさせる。

「なのでそのまま引退という形になる、という訳で千代木挨拶」
『え゛いま゛?!?!?!?』
「そりゃ今しかねぇだろ、ほら。」

そう言われてええ、と頭を傾げながらも
楽器片手に、メルはその壇上に立つ。

『え〜〜〜……少々頭が悪い言葉を
つらつら話すかと思いますが、
温かく聞いて下さい。』

そう軽くぺこりとお辞儀をして、メルは話をする。

『私は、正直楽器に触れるなんて、したくなかったです。』

こういうのは正直に言った方が良いと思った。

『初めて触れたのは母がピアノを弾いてくれた時でした。
その時は花も大好きでよくピアノの上に飾って
その音をイメージして弾いてくれていたんです。』

それは優しくて、酷い時間。それ以外しか、見せない、残酷な時間。

『でもその母は8歳の時に居なくなりました。
今では虐待だったなとは思いますが、それ以来
花どころか、音に触れたくなんてやる気もなかった。』

でも、周りを見て、自分の相手の事ばかり見ていてはいけないと思った。

『音が悪いんじゃない、自分に意味が見いだせないことが嫌だったんです。
正直笑うとか感情とかって皆さんが思っている以上に私は出来ません。
全て演技で、誰かがやっていたことを模倣していたに過ぎない。』

嘘つきでごめんなさいとお辞儀をするでも、でもね。

『それでも本当の感情というものを、
私は貴方達と一緒に生活を共にするうえで
少しずつ分かった気がします。
そうして、今では花も音も、
食べ物の味すらも感じれるようになりました。』

普通の生活が、今漸く出来るようになったのだ。

それは私の力ではない。

『皆さんが皆さんとして、
一人一人がそこに居てくれたから、
私はこうして笑えています。
ちゃんと一人で自分の足で立って、
息が出来るようになりました。』

改めてお礼を言わせて。ありがとう。本当に世話になりました。

『これから先、多くの難関に立ちはだかると思います。
でも、この日を、何時かこの時間が、
貴方達の助けになれたらいいなっとおもって、
恩師に言われたことをお伝えします。』

ーねぇ、メル。

『”辛いなら苦しいなら立ち止まっていいんだよ。
一緒に歩ける人が何時か隣に一緒に立ち止まってくれるその日まで。
どうか止まってていいんだよ。”この言葉に私は救われました。』

貴方達が救われるならば、どうか、覚えていてください。

『私はこの日を忘れない。忘れません。
どうか貴方達がより良い人生を過ごせるように、
私は此処に音と共に貴方達と最後の時間を過ごさせて下さい。』

この、瞬きともいえる、一瞬を。

そう言ったメルがご清聴ありがとうございましたと
言って大きな拍手が巻き起こる。

「彼女は本日をもって引退とする。予定が急で申し訳ないが、そういうことだから。」

お前ら此処が本番だと思えとぎろりと指揮者の目が変わる。

「音は一度しか来ない。その一瞬を噛み締め、一つの太陽だけに絞れ。いいか。」

その言葉にメルだけでなく皆がはいと大きな返事をする。
すっと指揮棒が空に停止する。そして動き出してから音が一つに纏まったではないか。

その音を遠くからコルンらは聞いていた。
メルの方を向けば、嬉しそうに演奏を共にしていた。

ただただ、その時間を、愛おしそうに、噛み締めて。