春の夜空の下
「っ!!!!」
駆け寄ったサワアが、そっとメルに触れる
胸にぽっかりと空いた穴からは、綺麗なカタバミが咲いていた。
真っ赤に染まって、もう何色だったのかも分からない。
「いま回復を!!!」
「」
そう慌ててきたシンらの手を片手で止める。
首を横に振るサワアに、そんなと声が点々と灯される。
「…貴方は、本当に、お強い人ですね?」
「サワアお兄様……」
「次はすぐにお戻りになって欲しいものです。」
髪の毛をそっと撫で、乱雑になっていたのを綺麗にする。
この花畑のない、華樹の真ん中で、青い空の下、白い髪の毛を下した。
「…お待ちしておりますよ、いつまでも。どこまでも。」
『』
ニコリと嬉しそうに微笑んだメルは、
そのまま目をゆっくりと閉じ、涙を零して眠りについた。
「…し、んだのか?」
「これ」
「す、すまん…」
「死なないですよ、華神は、特に、華樹の見習いであるこのお人は。」
「お兄様……」
下ろしていた髪の毛を上げ、メルの頬をそっと撫でる。
まるで気持ちよさそうに、
手の方に傾ける様に動くような気がしたのは、
きっと夢幻の、白昼夢が、悪さをしたのだろう。
「廻廊を完成させろと、華の者4人の願いを束ねた者ですし」
「嗚呼言っておきますが、4人だけではありませんよ?」
「え!??!?!!?」
そう驚いたサワアに、
おや気付いてなかったのですね
と大神官は目を少し丸めた後に言う。
「12全ての者達全員が、その子の願いにと
その華を、命を。散らせているのですから。」
「…じゅ、」
12………。
そう、12。
「おかげさまで次の華神候補が一切見つからなくて、
もう絶滅したとしても大丈夫かと思っていたのですよ。」
「成程、だから我々は絶滅したとお聞きしていたのですね…」
「ま、その一度しか、私は確認していませんので。」
そう言って大神官はフィズの方を見る。
それに目をそっと背ける彼女に、大神官はニコリと微笑んだ。
「大丈夫、だってこんなにも嬉しそうな寝顔だもの。」
「都佑様……」
「止して下さいよ、理久君!」
「り?」
「〜〜〜ミュラリス様!!!!」
ぷははははと笑うミュラリスに、
赤くなったコルンが目を閉じて思わず叫ぶ。
その名を忘れて下さい今すぐに!泡沫に!!
そう言う彼に、いやむりむりと嬉しそうに笑いつつも
彼の反応をおもいっきり楽しんでいそうである。
「ちょっとまって、じゃ、じゃあ今までの身体って」
「ええ、私の方を使ってくれていましたので…まぁ」
願いに入ったのは、私、それ即ち
「まって、じゃあメルちゃん、次に進めないんじゃ!!!」
「だから大丈夫。」
そうミュラリスは何度も言う。
「だって11番目が命を紡いだのだから。」
「え?」
身体を起こし、ミュラリスとはメルを間に挟んで立ちあがり歩いて来たのを止める。
「…第11章、正義の華神、メリア。」
華樹の記憶、廻廊に基づいて。
そう胸に手を当てて軽くメルの方を覗く様に言う。
笑って、目に涙が溜まっていたのが、ぽたぽたと零れ落ちた。
「あ、そうそう、あと3人に言い忘れ。」
「ん?なんです?こんな時に」
「食べた食べ物の中に一つ言っていない言葉が在ったんだけど」
「あ〜〜〜玉ねぎとやらですか?」
「っ」
「コルン様はお気づきになられましたが…言います?」
「私から言わせるとは…貴方も狡いお人ですね?」
「いやいや」
そう言う彼女に、不死と二文字を答える。
「不死という意味を持つものです。」
「ふ、し…え、待って待って待って待って」
「確か華樹って、え、?」
「…そう、華樹は力により、樹の実を付けます。」
その形その姿によりけりで、食べてはいけないんですが。
そういうルメリアが、そっとメルの頭の方にしゃがんで
軽くその髪の毛を撫でるように、頭を撫でる。
まるで子供が安らかにその睡眠をとれるように、
優しくそっと、撫でていた。
「いってらっしゃい」
ルメリアの言葉に、ふわりと身体から、
メルの様な姿の子がくるりと回って出てきたではないか。
髪の毛は長く、背中近くまで伸びた髪を下の方で結び、
左右の横髪を同じ様に三つ編みにしている。
小さな子供が、うんと言いながら、目を閉じて、
腕を伸ばし、いや、まるで腰元を誰かに抱えられ、
上に引っ張られたように、出てきたのだ。
ーいってきます!
その嬉しそうに笑った目の色は、綺麗な黄緑色を灯して、
ふわりと泡のように花になって散ってしまった。
「…さ、この身体も綺麗にしてしまわねば。サワア」
「っはい!」
「手伝ってくれますね?」
「…っ、勿論。」
「私もいいですか?」
「クス!ええ、構いませんよ。」
皆さんも疲れたでしょうし、ゆっくり休んでってください。
部屋は此処の外側の方を使って
頂ければというルメリアが指を鳴らす。
各場所にそれぞれの星の文字を描いたのだろう。
その合図により、一瞬でありつつも、長い長い、11番目の時間はこれにて、幕を閉じたのであった。
そう、幕を、閉じる。
++++++++++
そう、これは、メルがもう魂として何処かに行ってしまった余談。
それから、サワアはルメリアからメルを持って来いといわれ
自分でいいのかと言ったら寧ろ貴方以外触れさえすれば呪われるからと
割となったらシャレにならないことをいわれ、仕方がなく抱き上げる。
血まみれになったまま、そのままにしているのは
メルがその、ありのままが良いだろうと判断してのことで。
本当に優しい子に育ったなと、ルメリアは育ての親ではなくも、しみじみ感じていた。
「さ、此処に漬けて下さい。」
「…あの、そんな浅漬けをするみたいに言わずとも」
「さぁさぁ♡」
明らかそうなんだろうなと、サワアは思いつつもメルをそっとその湯船に浸からせる。
血は滲み、痛みを伴うはずなのに、びくりともしないのは、それが亡骸という証拠であって。
何度も何度も、その痛みを大丈夫だと言い聞かせる。
「…華神は、願いが叶えば必ず身体が消えるんですよ。魔女の様に消滅を。」
「え?」
「この子の身体があるということは、それ即ち願いが全く叶っていないという証拠。」
「…っまさか」
「ええ、綺麗に納めずに、一筋の糸を引いて、あの子は外に飛び出したんです。」
そう指をはじいたルメリアの手と同時に、
その紺色と金色が混じったような糸がふわりとあがり、
その風呂場の先を示す。まるでこっちにいると、言いたそうに。
「その魂が誰かに取られるとはまず無いに等しいでしょう。」
「華に、包まれているから、ですか?」
「…ええ、その通りです。仮に食らったとしてもその肉体はあの子の力その者です。」
そんじゃそこらの下界の奴らが、維持なんて出来る訳もないというのだ。
まぁそりゃあ、確かにそうか。
「我々の完璧に近い模倣を作って戦わせたのですから、そりゃあ当然でしょうね。」
「ふふふ、でも、本当に驚きました。まさかこんな形になるとは。」
「…っルメリア様!すいませんお聞きしたいことが!!!」
「サワアさん?」
どうしたのですか?とクスが首を傾げるのと同時に、
なんでしょうとまるでわかった様に言う。
嗚呼この人は本当に!!!!
「…赤本を彼女に渡して、何をしているんですか。」
「…ふふふ♡」
「質問に答えて下さい……!!!」
「あら〜どうしましょう?」
昔のように言ってくれたら言わなくもないけどという彼女に
わなわなと震えた後、はぁとため息を吐いて指を鳴らす。
はらりと、昔のような髪の形に、ルメリアは目を丸めた。
「リアねえさま」
「…そう言われたら、言うしかありませんねえ」
ぱちんと指を鳴らし、また元の髪の毛に戻したサワアに
もう一度と言われて駄目ですとサワアは断固拒否した。
実の姉だとしても、流石にこれはきついものがある。
「確かに、この子に赤本をプレゼントしたのは私ですし、
実は0番目の時にプレゼントしたんですよ?」
「っえ!?!?!?」
「魂にくっつけていたのを私がすっかり忘れていましてね?」
いや〜何処に行っていたんだろうと探していたんですよ〜〜〜と
まるで無くしていた小物が見つかったかのようにサラッと言うが、
「あ、貴方…魂ごと軽く消滅してましたよね……????」
何を呑気に言うんだと呆れ、髪の毛が
ぴょろりと上がるサワアに、ほほほと笑う彼女。
「まぁ、降り立ったところが、
あのミュラリスさんがいた処なのが驚きでしたが。」
「話を逸らさないで下さい。ってミュラリスさん?」
「ええ、0番目は私が死にかけ、
彼女が落とされた時から1番目に繋がる間の時間。」
それは綺麗に完成されていなかったはずだが、
どうやら自分が眠っている間に
ことが上手く進んだらしいというのだ。
「落ちた先で何とか保っていた力を使い果たした
私は、殆どの時間眠りについていましたから。」
「……」
「赤本は元々誕生日プレゼントの予定でした。
貴方が思っている様に、その本は書いた者の想いと
共にこの世界の現実がリンクしています。」
「っそんな本があるんですか?!!?!?」
「ええ。あの子のことですから、
下手な物語を書くなんてないだろうと思っていました。」
まぁもっとも?
1番目の時間に人間が要らないから貰うなんて
別の約束を交わしてまで肉体と本ごと
そこに置き去りに、いままでそのままほたくっていた〜
なんて、私は当然。知りませんでしたが????
そう何か恐ろしいのを察知した
サワアとクスが固まるも、まぁ良いでしょうと答える。
「それにしても、その本はどちらに?」
「そういえば、此方に来た時に持ってきてい……いや、まさか」
「私の事も思い出したのならば、
似たように持っていった可能性は
充分、ありますねえ?」
「っ!!!!!!こっっっの!!!!!」
メルの顔を見て怒ったサワアだが、彼女はいない。
亡骸だったのを思い出し、へなへなと肩を落とした。
「まったく、本当にどうするんですか、この人。」
「ふふふ、すいません。無邪気なままで落とされてしまったので。」
「…まぁ、いいですよ。」
どうせ、また戻ってきてくれるでしょうし。
先程起きたことを、サワアは思い出しながら、
そう言いながら、その身体にそっと触れる。
お湯の温度が、まるで生きているかのようにも
感じてしまうから、困ったもので。
嗚呼それなら、どうか、勘違いして、差し上げましょう。
「貴方が私の事を本当に振り向いてくれそうなその日まで。
……私はこの時を忘れるなんてひと時もしませんから。」
その一瞬すらも。
「…まぁ〜。」
「ん?なんです?」
「いやいや、なんでも?」
「…サワアさん、メルに似ました???」
「え?な、なんです???」
私何か言いました?いいえなにも。
いや絶対その感じ言いましたよね!??!?!
そう驚くサワアに、やけに長く煩いと思っていた
破壊神らが様子を見に来た。
「なにを騒いでおるのじゃ」
「なんでもないです!!!」
「っふふふふ、ほんと。貴方はおかしい子ね?」
「アルメリア様……」
「何処に行っても、何をしていても。
誰かの心を綺麗にして、華を共に愛でようというのだから。」
サワアは、つい先ほどあったはずの記憶を掘り起こす。
メルが自分らの事を少し照れくさそうにも自慢してそうに言う姿。
ー自慢の弟ですから!!
それは、少々胸が痛かったことだが、それでも、嬉しかった。
周りの者達が、メルを囲んで、別れを惜しむ中、大丈夫と笑う。
それだけではない、この子は、このお人は、どの世界に行っても、
どの時間軸に旅だったとしても、誰かに救われていたのだ。
多くの者達に囲まれて、大丈夫だと、その小さな傷を、抱え込んで。
「…ほんと、困ったものです。
帰ったらどれ程言いたいことがあるのやら。」
「ふふふ、お手柔らかにお願いしますね?サワア。」
「善処はしましょう。善処は。」
「あらあら〜〜〜〜」
暫く使っていたのか、穴が開いていたその場所は綺麗に塞がれていて。
メルを抱き上げたサワアに対し、クスが指を鳴らす。
水は綺麗に消え失せ、何なら髪の毛を結んでいた紐も綺麗に解け散った。
「どちらに寝かせておけばいいですか?」
「そうねぇ〜〜どうしましょう?」
「…あの」
「ん?」
「ぴ」
そっとドアの方からこっそりのぞいた彼女に、全員の目がそっちに向いて、心臓をきゅっと掴まれた様に声を出す彼女は、
「ミュラリス様ではありませんか。どうされました?」
「や、あの、その、えっと、ですね????」
「はっきり仰りなさい、と、おや?なんかデジャヴを感じる気が。」
「メルの精神も割と色濃く残っていますので。」
「ああ、それで?何用で」
「嗚呼そうそう、メルなら華樹の樹の下か、中央で寝かせて欲しいと思いまして。」
そう先に走った彼女に「これ走らない」とコルンが注意しつつもドアからでて、彼女の後をついていく中、
サワアは腕に眠っているようにいる、メルの亡骸を抱き直して後をついていくのだった。
「此処がいいかなあ」
「どうだろうな、メルの感覚がわかれば…っと、言っていれば来たなお前ら」
「どうも」
「皆さん中に入られなかったのですか?」
「いや〜それもあったが、報告をと、大神官様にお伝えしてたんだよ。」
魔女の瓶を受取っていましてね、
という大神官に、嗚呼と各々が声を上げた。
そう言えばそんなことがあったと。
色々一瞬のうちに起きているので、
情報量がパンクしそうなのだ。
特にその、メルと共に飛び落ちてしまった天使3人は。
「それにしても意外ですね?」
「ん?」
「シアージュさん、貴方まだ彼女と結ばれていないはずなのに、何故外にでられたのです?」
「ええ?!?!?!?」
「そうなんですか!?!?!?!」
「嗚呼!一応皆が言ってそうな感じがしたから言っただけで、確かに結ばれていない。」
ならなんでという者に、そりゃあとシアージュが目を向けた。
「私はそいつの力に酷く似ているからな。」
「わ、私?」
「ミュラリ……お待ちなさい、それなら猶更おかしいでしょう。
貴方が登場したのは彼女らから推察するにメル様が飛び込む前の段階。」
「既に理解し、気付いていれば。あんな額縁なんぞ壊してでも飛び込めるというもの。」
「…まって壊したの????ねぇまって?!!??!?!?」
そう気付いたミラやらフェルが飛び込んでいった。
なんなら穴から「あああああああ」とか「いやあああああああ」とか叫び声が聞こえる。
恐らく、その中が悲惨になっていることだろう。
「修復もあんだけ暴れたらかなりの時間が費やされます。」
「手伝いましょうか?」
「いや樹の中、なんなら華樹の記憶に触れるで済みませんので。」
「…なら、休憩くらいはお付き合いさせて頂ければ。」
流石に全部投げ出して、だなんてサワアらは考えていなかった。
それくらいならと、お願いしますと言ってメルトリアがぺこりとお辞儀をする。
「ね、カタバミってさ、種類腐る程あるの知ってる?」
「急に何を言いだすんですか。」
「華ってさ、色ごとに言葉が違うんだけど、
カタバミって華ごとにちょっと変わるんだよ。」
というか、一つだけ、選ばれた花があって。
そういうミュラリスが、その先に手を伸ばして指す。
そこは、真ん中に、黄色の花が、白に変えて咲き誇っていた。
「オキザリス」
「え?」
「花言葉は、また、次の話しで。」
12番目とでも、いうんです?そう言うコルンに
勿論とミュラリスは後ろに手を組んで笑って答えた。
「ならなおのこと、其処に寝かせるべきでしょう。」
「サワア様…!」
「っな!!!待って下さい!!身体が!!!!」
小さな花の隣で、メルをそっと横に降ろす。
すると、突如片方の手は鼻元近くに、もう片方は下の方に。
まるで、その体制が、正常のように動き出したではないか。
生きていてというのに、いえと声を出したのは
第10の界王神であるゴワスだ。
「恐らく反射でしょうな。そこそこ大きいですが。」
「死んだときに動くアレですよね?大きすぎません???」
「ま、それ以外ならば、そうしたかったのでしょうな?」
紐が、そう言う様に。そういうゴワスの前には、
ふわりと金と紺色が入り混じる紐が一つ見えていた。
「嬉しそうですね」
「ええ、とっても」
気持ちよさそうに、身体を丸めるように、其処で眠るメルに、
ふわりと黄色いタオルケットを取りだしてかぶせる。
彼女がずっとずっと、大事にしてくれていた。
あの所々、綺麗ではない、歪なこの、タオルケットを。
「おやすみなさい。」
願わくば、早いお目覚めを。
そうサワアはメルの頬にそっとキスを落としたのだった。