最も美しい花










「全く、お前は本当に馬鹿だなぁ〜
そんな気じゃあ俺や……どころか
ちっぽけな人間ですら勝てちゃうよ?」



あれ?一体何時寝たんだろう?


「ふぇ〜〜〜だってぇ、皆速いんですもん!」


そう嘆くのは、青緑色の髪の毛を持つ女性だった。


後ろから見ているので姿は見えないが、
髪の長さは胸あたりまで伸びており、
右側に三つ編みをしているが、
綺麗にまとまらないのか何なのか、
左側に髪の毛が束ねられていないまま放置されている。


「だ〜から気のコントロールが
出来ていないって言っているんだ!
お前は華神なんだからちょっと
力んだら幾らでも使えるだろう!?」

「華神だからってポンポンポンポン
花出すと思わないで下さいよ!?
第一花はその感情に乗っ取り
咲き誇るので出来るだけ出さずに動けって
言い出したのは一体何方ですか!?
私全く悪くないですもん!!!」


とんでもない喧嘩を成されている気がする。

あれ待って?私これ止めた方が良いの?


「感情を表に出すのは
敵に読まれるからだと言っているんだ!
お前は下手をすればこの全宇宙の神々が
立ち向かったとしても勝てない。
それ程の才能を秘めているんだ!
ちっとはしっかりしろ!!」
「やあ〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜!!!
私は、私は、ただ、ただ!!」


身体を縮こませ、
腰元に大きな花を咲かせ始めるのに
嗚呼夢だなぁと実感するが、
妙にリアルな言動を聞いて、半分本当なら
凄いなあと他人事のように見ていた。



「ただ、喧嘩して欲しくないだけだもん!!!」



そう言った少女の腰元には、
赤、白、黄、紫色の花が咲いていた。
ふわふわと蝶々の様に見える花びらの姿。


アレは知っている。


確か、…名前は。



『…スイ、』


声を出す時には天井が見えていた。


暖かい日差しに、
今何時だと飛び起きたが
今日が土曜日だったことに安堵し、
大きなため息を吐いた後

今の時刻がまだ出勤ギリギリ
間に合う時間だという早さに
我ながら体内時計は正確で
驚き、笑うしかなかった。


『そう言えば夢で見た植物なんだったかなぁ。』


白い、何かだった気がするが…
絵で描ける程度で、
どうしてもモヤモヤしてならない。
仕方がないので
此処は長年の友である彼に
直接聞いてみることにしよう。

それはいいとして、


『…メル?』

はわ、という呑気な声が出てきて、ぶっと声を出してしまった。
身体は本当に見えて、肩の近くでひょっこりとでて、
今にも泣きそうな声と顔が見えた。

「僕もう帰りたいよお」
『っはははは、そう言わずに〜』
「ううう」
『ほらほら、一緒に行こうよ。』

嗚呼勿論、皆の前では喋らない。
そう約束を交わすメリアに、メルはうんと言う。

夢で見た花を描いて、荷物を鞄に詰め込んで走り出す。
今日は一人ではないのだから、いってきますなんて言わない。


だって置いていく人なんて、この部屋に誰も居ないのだから。



++++++++++++


「メリアさん!お久しぶりです〜!!」
『いやいや、奥さんいらっしゃるのに
お家来てごめんね?悟飯君。』
「そんなことないです!
ビーデルさ〜ん!メリアさんですよ!」

その声にきゃーと声が上がる。
相変わらずの二人に少し苦笑いした。

「久しぶりね〜メリア!!元気してた?
ちゃんとご飯食べてる?痩せてない?」
『あのすいません。お兄さん。
奥さんがめちゃくちゃ声掛けてきます助けろ下さい。』
「あはは、でも心配だってしますよ?
卒業以来殆ど連絡取れなかった人が
急に声掛けてくれたんですから。」


そうよ!そう言った怒りの満ちた女性、
ビーデルにメリアは苦笑いを零すしかなかった。

メルはコッソリとその様子を伺ってみていた。
玄関の奥にある樹の下で、
見ていたのをちらりと見てはすぐに視界を元に戻す。
そうしないと、この二人はとても力のある者達なのだ。


『だって〜お仕事忙しくてね。』
「卒業後どうしてたの?」
『ん〜〜色々』
「…その様子じゃあ、
事務の仕事散々で別の方行ったけど、
長く続かない感じね。」
『でも仕事探しで来てないからね?』
「そりゃメリアのことだもの。分かっているわ。」


なんたって幼馴染ですものね!


そうニコリと笑って
胸に手を当てて言うビーデルこそ我の友であり、
幼馴染のビーデル、そして悟飯だった。


「にしてもどうしてまた?」
『嗚呼、ねぇ悟飯君、この花知らない?』


そう言って一枚の紙を渡す。
乱雑で申し訳ないことを説明する。


『最近ちょくちょく夢を見てて、
かなりファンタジーなんだけどね?
花を沢山咲かせる人のような変な者を見るの。』
「花を?」
『そう、しかも身体に。』
「身体に?何かの具合が悪いとか?」

心配そうに声を掛けるビーデルに
自分はすこぶる元気なことを伝える。
これ以上は彼に相談する件でもある。

『そう、あと登場人物がこんな形してて…』
「へ〜〜じょうず、に、か、けて…」
『色が入れば分かるんだけどね、
紫色だったり青かったりと
わりととんでもない色だったりするんだけど
…って、悟飯君?ビーデル、どうしたの?』


ぴたりと登場人物の絵を見せると止まった二人に
首を傾けたメリア。それに、悟飯が一つ声を掛けた。

非常に、言いにくそうに。

「メリアさん」
『はいはい、なんでしょう?』
「つかぬことをお聞きしますが…」

カチャリとメガネを上げてそっと聞いた悟飯に
この時、メリアは知らなかった。

これがとんでもなく長い話の幕開けになろうことも。
そして自分がどんな世界を走り続けているのかも。

そう、後にメルは語る。
これは、確かに在った時間なのだと。
私達二人は、とんでもない場所に来てしまったと。


悟飯の言葉が、胸に響き続ける。



ねぇ、メリアさん。

神様って、信じます?



++++++++++++

『神様?いや〜ないない在り得ない!!
いる訳ないじゃない〜!』

現在進行形で、背後に隠れている彼女はガン無視だが。
華の神様って言ってもそんなわかるわけがない。
これはただの空想で、疲れているだけだと思い聞かせる。

そうしないと、なんかいけない気がしたから。
彼女には悪いが、こうしないと、バレる気がしたから。
バレてもいいのに、というか、その話をするために来たのに。

どうしてか、彼等に知られてはいけない気がして
すぐに怖気づいてしまって嘘を付いてしまったのだ。

すいません。既に背後に居ます。神様。

「でっ、ですよね〜!」
『…もしも居たら色々問い詰めたいくらいだわ。
そんなことより、こっちのお花調べてくれない?』
「分かりました。それではお預かりしますね、あと」
『ん?』
「もし、何かあればこれ。」

そう言われて貰ったのは小さな豆だ。

「どうしても身体が動かない時に食べて貰えたらと。」
『わ〜ありがとう!大事に取っていざという時食べるね!』

それじゃあと言って出て行ったメリアに
ニコニコと笑って居た夫婦がドアの音と共に顔を変えた。

「ねぇ、悟飯君、その絵ってもしかして…」
「うん。これ、絶対、お父さんが
よく行っているところの神様だよ。」
「私も少しは戦えるから分かるけど、あの子…」
「分かってる。メリアさんは人間なんだけどね、ちょっと違う気がしてたんだ。」
「え?」
「僕や父さんみたいな地球人じゃないような…そんな感じ。」

というか、さっき何か感じたんだけど。
気のせいだろうかと悟飯は考えてビーデルに言うのを止めた。
彼女に幽霊類の話をして嫌がるのは目に見えていたからだ。

話を戻し、一人だけ、気になる子はいた。
ビーデルのような可愛らしい子でもあるが、
それよりも


「気を感じ取れない?」
「うん。怪しいと思って、彼女には
少しいたずら的なことではあったけど、
試したことがある。」


気配を消して、近づいたりと驚かす行為だ。
あまり進めるものではないが、試したことがあって


「正直外されたことがないんだよね。
気を使える訳ではないのに、感じ取れない。」
「へ〜確かに他のクラスの子からしたら、
何処か違う感じはあったわね。」
「最近夢を見るって言ってたけど、まさか…ね?」


そう、そんな訳はない。
それに、この花。


「(メリアさん…貴方に何を伝えたいんですか?)」


幾つも描かれた花の中で、たった一つだけ
とても綺麗に鮮やかに色を付けられた花があった。
白や赤の花弁らが描かれている中
中央から外れた所に、黄色を灯した花が。

目を引いて、それしか見えなくなる。

その花は、花言葉は、ぐっと噛み締めた。


「…とりあえず調べて適当に返しておくよ。
こんなことがウイス様やビルス様に
知られたら、彼女も大変だろうし。」
「な〜〜〜にが僕に知られたくないって?」
「いや、メリアさんがビルス様達に会ったことが
あるかもしれない、とか、特に、な、に、も…」


後ろを振り返って、終わったと思った日はない。
悟飯はメリアに謝るしかない未来を想いながら叫んだ。

++++++++++++


「へ〜夢、ねぇ?その幼馴染って子は?」
「幾らビルス様みたいな神様でもメリアは渡しませんよ!!」
「ちょ、ビーデルさん!」
「何?僕にたてつこうっ」
「ええ!たででも何でも付いて追い出します!!
メリアは優しくて可愛い私の大事な幼馴染なんです!」

ピンク色の可愛らしい髪の毛を周りに指を指され、
賢いふるまいをしてはいなかった。
ビーデルの姿を見て何時も君のような姿なら、
嫌われないかなぁ。
と泣いて笑って居たのを憶えている。

周りに気を遣い、自分の生きたいように生けずに、
これからもずっと誰かの傍を思いながら過ごすなんて
本当はして欲しくない。


「ビーデルさん。そのメリアさんとは、どのようなお方なんですか?」
「本当に至って普通の女性です。歳は僕達と同じくらいですが…」
「そう言えばメリア、悟飯君と同じで幾つになっても若いままなんですよ。」
「……へぇ?それはそれは、可愛らしいお方なんですねぇ。」


お茶をするウイスにビーデルは苦笑いを零した。


「ビルス様が見られたお方は髪の色はどのようなお色だったのですか?」
「んん、君らの色合いで言うとだなあ…
白、いや、桃色だったか。目は確か、黄緑色近かった。」
「…え」
「ちょ、ビーデルさん!?」


青ざめた顔で、熱い紅茶を地面に落としたビーデルに
悟飯が火傷をしていないか確認している間、本当ですか?
とビルスにビーデルが声を掛けた。


「ん?嗚呼、僕は神様だからね。嘘はつかない。」
「…嘘、え、でも、まさか。」
「ビーデルさん?」
「悟飯君知らないかもしれないけどね、
メリア、目の色ってコンタクトで変えているの。」
「え?」

「昔小さい頃虐められて、
髪の色も桃色だったけど、黒に染めてた。
私そのままが良いよってずっと言い聞かせてたのに、
私まで虐められて喧嘩するのみたくなんて無いからって…」
「そんなことが…」
「メリアの目ね、綺麗な淡い、黄緑色なの。」


それはまるで、何かが芽生えたような、若々しい若葉のような。


そんないろ。そう言ったビーデルの言葉に、
ウイスの目が少しだけ細くなる。
その言葉のあと、差し出された用紙を見て
ビルスだけでなくウイスの目が丸くなる。

紙に書かれていた、
夢に見た自分達の姿の間に描かれた少女。
その少女の腰元には花が咲いており、
嬉しそうに笑って居た。

黄緑色の髪の毛を描いた少女と、
桃色の髪色の女性と、白い髪の毛の女性が。
笑って話をしているように描かれた場所。

「…こいつには会えるか?」
「ビルス様、相手は夢であれど、
現実では会ったことが無いお方。
ましてや女性となれば日を改めるべきですよ。」

こんな夜分に失礼など、
無礼にもほどがあります。


赤子を持つ女性にとっつき睨む破壊神がいてと
嘆きだしたウイスに、
ビルスが分かった分かったと観念した。


「じゃあ何とかして。
明日の朝こっちに来させろ。」
「え?ええ、わ、分かりました。」
「ウイス」
「はい、では私達にはこれにて。
おやすみなさいませ。」
「お、おやすみなさい。」


そう瞬間移動して消えた二人に、
疲れたねとビーデルは笑って答えた。






++++++++++++






「それはまるで、何かが芽生えたような、ねぇ?……ウイス」
「ええ、少々興味深い話でした。…が、ただ一つ気がかりというものでしょうか。」

そう顎を引いて真面目な顔をするウイスに
ビルスはお前もか、と答える。

「ビルス様もですか。」
「あの髪色の子供を忘れるわけがない。」

それは、メリアが描いた小さな子供の様に見える者。
三つ編みをしていた者に、二人は見覚えがあったのだ。

「絶対メルだろ。」
「わかりませんよ?真相はその方にお話をお聞きしないと。」
「あああああ今すぐ乗り込みたい!!!」
「いけません」
「にしても、なんでそいつが僕の弟子を知っているんだ?」

ボリボリと頭を欠いて、お前なら知っているかと
思ったんだけどと言うビルスに
私も憶測だけなのでと首を横に振った。

「だよね…何者かが僕達の記憶を操作している?」
「それは在り得ないことかと。
いずれにせよビルス様が転寝して
いらしていなかったという証明になりましたね?」
「そっ、だ、だからそうだって言ってただろ!?」

おほほほほと笑うウイスにビルスは怒る。
今日はそのまま地球に泊まることにした二人に
この後ベジータの胃が痛くなることは知る由もない。