躊躇うな、破壊しろ、完膚なきまでに




それから、メルは目覚めた。
朝、朝食をと身体を起こし、ブラウスに手を付ける。
洗濯は宿に付いた時に風呂と同時にしているから大丈夫だが。

まぁ、違和感あるのもいいかと思いつつ
隣の部屋に寝ていたアルトリアの元にドアをノックする。
はぁいと言われたのでドアを開けようとした時だった。

ぴたりと手が止まる。

はて、何故ドアノブごときで躊躇するのだろうか?

「あ」
『あだ』

ごめんと言われていやいいというメル。
普通にドアが開くかもしれないのに目の前で躊躇していたのが悪いのだ。
これ以上馬鹿になられても困ると奥で音がしたのに
中指を立てても絶対文句ないだろう?ね?
君も。そう、おもうよね?ね?ね?ね?ね?????

「圧をかけるな圧を」
『いだい!!!酷い!!!親にも殴られたっことないのに!!!』

正確にはあるけど!!!!あるんだけれども!!!
こういうのはノリとかそういうのあるじゃん!?!?!?

「うるさい!!ほら朝食を食べにいくが、腹は?」

くぅ〜〜〜〜?と可愛らしく高く、小さな音が部屋に響き渡る。
それに対し、後ろでクツクツと喉で笑う音が聞こえて、
ばっとお腹に手を当てて振り返るメル。

「どうやら心配は要らなさそうですね?」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!』
「ったた、すいません、すいませんって」

走って聞いていたコニックにその身体をトントンと手で叩くメルに
両手で苦笑いしつつも笑って謝る彼をみて、アルトリアとリサは互いを見て笑った。

口を開けてメルは彼の顔を見て首を横に振っている。
髪の毛はまだ綺麗にしていないので、髪がさらさらと左右に揺れているが。

「先に髪を整えられては?」
「ああそれなら、メル、こっちへおいで?」
『ええやだ』
「メル!?!?!?」

一人で出来るもんそう言いながらメルはゴムを取り出し、一度後ろに持っていく。
左右の髪をさらさらと編みながら歩く彼女に危ないですよとコニックがついて行った。

「ふしぎなことに…ああやってみると普通に親子みたいにみえるわねえ」
「どっちかっていうと、義理の姉の子供みたいないち?」
「なに変なことを言っているんだお前らは。」

いいからいくぞというチトラにはぁいと二人も声をあげ、後をついていくのだった。


++++++++++


朝食はバイキング。そう、相場が決まっている。
等と供述するメルに、どうでもよくてはいはいとリサは答えた。

余り入れすぎると食べきれなくて昨日みたいに泣くぞとつつきつつも
そんなこと無いと言いつつ、その後はちゃんとそうなりました。

おかしいなぁたべれる量だったんだけどなぁと
腕を組んで悩むメルの姿を両隣から
界王神のクルとアルトリアが苦笑いで様子をみていた。

「ところで、お前達これからどうするつもりだ?」
「嗚呼、それは」
『一応お金稼ぎに出ようかと。』
「……マジで言ってるのか?」
『いやあいけなくもないと思うんだけど。』

別に資金がなくったって、彼等と会うから旅の賃金くらいどうってことなるのは分かっている。
だが、そんなのに頼るなんて屑だろうとメルが言い切ったのだ。

『自分らの腹に入れる自分らのことなんだからさ。
君ら私の親でもあるまいし。』
「ま、まぁそうだが」
『親だったらふふふふふ』
「いや怖い怖い怖い怖い」

どうしよう〜〜〜と明後日の方向を向いてニヤニヤするものだから、ぞっと引いていた破壊神に、コニックはため息を吐いた。

「何かあてがあるので?」
『ないけど、折角港に来たんだから港らしいことしたくて。』
「あ〜〜〜それなら一人あてがあるよ?」
「アルトリア?」
「ほら昨日の」

嗚呼いたなとリサだけでなくチトラらも頷く。
それに隣に座っていたクルの方を向いて、メルは何の話です?と首を傾げて聞いてみた。
机に軽く猫の様な手を置いて覗き見るように首を傾げるもので、
気付いたクルが少し眉を上げたあと、そっと飲んでいたスープを置いて彼女に向いて話す。

「昨日、我々のことを見ていた者が漁の話をしていたら声を掛けて下さりましてね。」
「今日余裕があれば話しかけに来てくれないかって言われていたんだよ。」
『はぇ〜〜〜〜』
「二手に分かれての行動になりそうだけどな。」
『え?』


そうなの?


++++++++++


どうやらそうらしい。

というわけで、二手に分かれました。


『にしても私大海原に出たかった。』
「絶対やめた方がよろしいかと…」

そうメンバーはメル、コニック、クルの三人だ。
現在浜辺で貝殻やらなにやら浅瀬で採取できるものを取りに来ていた。

流石に綺麗な洋服を汚すわけにもいかないということで
メルの恰好は短パンTシャツ、後ろの髪の毛も上に一纏めにされていた。
横髪はお気に入りだというので、そのままにされたが。

「にしても……元気、ですね???」
「ええ、全く。」

メルの動きはまぁ機敏。蹲って寝ていたり、
暴走しているとは考え付かない。

岩の方をちらりとみたり、
水にちょっと足を付けては逃げたり、
貝殻を見つけようとしたをきょろきょろしたりと、
まぁ忙しないったらありゃしない。

「メル様、流石に一つに絞って確実に行きましょう。」
『え〜〜〜取りこぼしあるからって?』
「分かっているならそうしてください。あと腕をまくらない。」
『や!!!!』

やではありませんから。そう直すコニックに、戻すつもりはないメル。
本当に子供の様にキラキラと目を輝かせて前をみていて。


ほんとうに、知恵の実を、ひとかじりしたのだろうか?


天使を、庇ってまでして。
その華樹の、通りに、華から実った、知恵を。
その身に、宿しているのか、不思議なくらいで。


『わ〜〜〜!!!みてみてみてみてくるくるくるくる!!!!』
「なんでっって!!!!」

メル様危ないことをなさらないで下さいって!!!!!
そう叫ぶクルに、メルはケタケタと笑ってその場をぴょんぴょんと飛んでいる。

両手には大きなカメがメルの手を噛みつこうと必死にばたつかせていたのだ。

『あはは〜〜ごめんね亀さん。クルさんに見せたかったんだあ。』
「メル様…呼び捨てでも構いませんよ?」
『いやいや。』

メルはそっと元居た場所に戻す。きっと卵を産みに陸へと上がったのだろうから。
陸と言えば、そんな名前を言っていた気がするが、気のせいだろうか?
ふわりと背後に、違和感を感じて、上をみた。

『あ!コルンさん!!!こんにちわ!!!』
「」
「っ!?!?!?!?!?」

ええ、こんにちわ、お元気そうですねと言いたそうに微笑むコルンに
クルだけでなくコニックも驚いた。
すぐに言われずともコニックは杖を出してコンタクトをとる。

『見てみて!綺麗な貝殻でしょう?』

本当ですね、余りはしゃぎすぎて、ご迷惑を掛けない様に。
そう言いたそうな彼に、はぁいとメルはいう。

『あ!そうだ!ねぇコルンさん!これね、私が一番会いたい人に上げて欲しいの。』

出来ればネックレスとか可愛いんだけど似合う人?
そう言って彼女はコルンに渡す。そっと手に取り、こくりと頷いた彼はふわりと浮かび上がる。
またねぇと手を振って笑うメルに対し、頷いたコルンはすっと消えて居なくなった。

「メル様」
『ん〜?』
「何を喋られていたんですか?」

コルンさんが来ていましたがそういうコニックに、メルはあのねぇという。

『私が一番大好きな人にプレゼントを!』
「…っ、そう、ですか。」

勿論人伝いだけど、そういうメルに、届くといいですねと答える。
うんと笑う彼女の近くに落ちていた貝殻に、彼は気付いていた。







「これは?」
「メル様がコルンさんを模倣し、貴方に手渡したいと申した物です。」
「っ!?!?!も、模倣を!?!?!?あっ、だから貴方急に連絡を。」
「ええ、少々アレを無意識でやるのは、不味いのではと思いましたが。」

流石に現実として受け入れさせた方がいいとコニックは判断し
その対応をどうするか、コルンとサワアに連絡を取って来てもらった所だ。
現在メルはクルが面倒をみてくれているので、変なことはないだろうと。

「気、動作、感情、それら全て同じで、正直一瞬私も騙されました。」
「成程、もし本人なら目の前で杖も反応するでしょうしね。」

しなかった以上、その現実に、まずいと判断したということだ。
それに呼び出された二人も納得して頷いた。

「それで、どうしましょう。」
「…ひとまずこれはお預かりします。
何時か彼女に渡しますので。その旨をお伝え願えますか?」
「わかりました。それにしても…末恐ろしい方ですね。」
「ええ、我々すらも管轄に入れるのも、納得いきます。」

無邪気にはしゃいでいるメルをちらりとみる。
全くこっちになど見向きもしない。
明日筋肉痛で泣きそうな予感もするくらいのはしゃぎようである。

「あの子この意味絶対分かってないでしょうね。」
「そんなわかり切ったこと言わないで下さい。」
「…すいません。ですが、言いたくもなるのも分かるでしょう?」
「いや分かりますけれども。」

貝殻には、金運やら豊かさの意味もあるのだが、
他にも意味が勿論あって、それには頭を抱えてしまいたくなる話で。

「…ほんと、両方纏めて言ってそうで怖いんですが。」
「止めて下さい。あり得る話ではありませんか。」
「…傷付いた心を癒し、そしてその才能を開花させる。
なんとも狡いお人ですね?」
「…貴方まで言うんですか?コニックさん。」

すいませんと笑うコニックに、サワアは兄弄りはおやめくださいと困っていた。
「才能が開花する力」「傷ついた心を癒す力」それはどちらも、互いに言えているようで。

もし、開花するならば、それは、つまり。

「待っているんですね。ずっと。」
「…ええ、すいません、手のかかる幼馴染がご迷惑をお掛けしています。」
「いえいえ、楽しいので全く問題ないですよ。」

お兄様方と仲良くなれた気もしてね、そう言うコニックに、ねぇとメルが声を掛けた。

『コニックさんでっかい貝殻みつけ、た、よ?』

だぁれ?そう首を傾げるメルに、メル様、と驚く面々。

「」
『あ』

触れようと手を出した瞬間、彼はすっと微笑んで消えてしまう。

「メル様…」
『嗚呼ごめん!』

きっと夢だ、そう、白昼夢を見てしまっていたのだ。

そう思っているメルに、コニックが言おうとしたことをコルンに止められる。
こくりと頷いたコルンがすっとサワアと同じく消えた時。

『…コニックさん?どうしたの?痛いの?』
「っ…いえ、なんでもないですよ、メル様。」
『でも』
「ほら、呼ばれていますよ。」

振り返ると、こっちだと手を振る彼女らに、メルはかけ走って行った。
一度ばたりと倒れて駆け寄ろうとしたのだが、直ぐに止まった。

「…っ、貴方は」

前を向いて、落ちた貝殻も全部拾って走り出した。泣かずにただその場所に。

「白昼夢でも幻でも夢でもないのです」

嬉しそうに笑っておかえりと言うメルに、
ぼそりとつぶやく声はきっと届かない。
だって、あんまりだ、酷すぎる。いくら、残酷だからといって、こんなの。


一番会いたかった人に、手を伸ばして消えたあの瞬間の目が、頭から離れない。

「(どうして、そんなにも、嬉しそうに笑うんですか)」

嗚呼、手を伸ばしたら、やっぱり、貴方は触れれないんだ。
私の目から消えて、居なくなってしまうのだ、と、
自分が思っていたことを再確認するかのように、ゆっくりと飲み込んだのだ。

その痛みを、絶望を、苦しみを、全て、
綺麗に包み隠そうとして、その一瞬を見逃すわけもなくて。

愛おしそうに、その感情に、やっぱりと強く言い聞かせて言う。
そんなことはないのに、本当は彼も抱きしめてやりたかっただろうに。
昼間に会わない約束だからといって、そんな、酷いことを。

嗚呼そうか、そう、させないと、彼女はもう、耐えられない位置にいるのか。
だとしても、酷すぎる。夢でも幻でもない。もう、もうすぐ、そこにいるのに。

貴方はそれでも、嬉しくてたまらないように、その手を振り下ろすのか。

何度も何度も何度だって、縋り付きたい願いに、想いに、手を下ろし笑うのか。

「…ほんと、皆さんよく耐えれますね。」

私なんてきっとこれを知ればすぐに消滅することでしょうに。
コニックはきゅっと手に力を入れた後、そっと前を歩いて近づいた。
彼女がその想いに気付かない様に、そしてその想いに傷付かないように。

そっと大事に、仕舞い込んだのだった。

++++++++++

リサ達も何とか稼ぎ、充分過ぎるお金に良いんですかとメルが叫ぶ。

「ええ、寧ろこんなに綺麗な貝殻やら食べ物良く採って来てくれたよ。お前達今日は宿に?」
「いえ、一泊だけでしたので。」
「なら此処に泊っていきな。」

そう潮風の優しい夕暮れに笑うお姉さん。
くそてんしかよ。こんちくしょう。惚れるぞ。

「それに、飛んでもない運を持った子もいるんだしな。」
『???????』
「っくくく、お前達、旅人だろう?何処に向かっているんだ?」
「私達はミーヌの街に元々行く予定でして。」
『あれ?レヴィードっぬぐ』

お前、正気か?そういった女性に、メルはうんうんと頷く。
リサらは首を横に振っていたのに、こらといって事情を知られた。

「…成程、訳アリってことか。」
『????????????』
「ちょっと待ってろ。」

そう言われて、少々待っていると、彼女が男性を連れてきた。
顎を使って言うのに、待たせたなと言われてきた。

「アタシの親父だ。」
「えっお父さんだったんですか?!!?!」
『え?え?』
「今日私達この方にお世話になったんですよ。」
『え?!?!?!?!』
「改めて、俺はサークル。こっちは娘のリースレット。」
「どうも。」

ぺこりと頷くメルに軽く手を振る彼女。

「訳アリでミーヌから例の所にいくらしい。」
「…お嬢さん、ちょっと来てもらっても?」
『いいっ、ん?』
「大丈夫、変なことはしない。」

杖をどけてもらっても?そういうサークルに、ちらりとコニックが彼の目をみたあと、
わかりましたと言ってそっとメルの前から杖をどける。
トテトテと歩いて行ったあと、ぺたりとそこにしゃがみこんで股に手をおき、服を掴んで前を向くメルに。

少し目を丸めたあと、クツクツ笑われた。

「っははははは!!!そうか、そうかそうか!!!よしよし、いいこじゃな〜〜!!!」
『〜〜〜!!!ん〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

頭を撫でられ、とても嬉しそうにキュウキュウと喉を鳴らすメルに、更に軽くではあるが頭を撫でる男性。

「成程、そうか。お前さんが」
『んん???会いました?』
「いいや。じゃが、お前さんが、いやお前さんらが言わんとしていることはわかった。」

だが、いいのかと彼は言う。

「その道は険しすぎる。お前らとてひとたまりもないが?」
「それは…どの目で申されておいでで?」
「っ」
『む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』
「っ……め、メル様……」

貴方ねぇと頭を抱えるコニックに、メルは頬を膨らませて威嚇している。


「ミトスからきたんなら、一度樹海を通っておったじゃろう。よくいきていた、いや、そりゃ生きるはずか。」
『ん?どういうことです?』
「うちらの此処が穏やかなのも、他の街らの奴らが戦力を削げる場所に位置しているんだ。」

樹海の間に魔物がすくっているらしく
魔物を倒しても樹海で迷子になるか、
樹海を抜けてもまた強い魔物がいるらしい。

それで削げたところに、此処の街がある為、下手に戦争が出来ない、攻め入ることは不可能だという。

「ま、残されてしまったともいえるがな。」
「おやじ……」
「いや本来特にお前さんら異質な者らは囚われやすいんじゃが。」

それだけ守られて居りゃあ、魔物も樹海も大泣きしたじゃろうなぁと笑う男性にメルは首を傾げる。
見せた方がよさそうだと言った男性が指を鳴らす。するとどうだろうか。


「っな!?!?!?」
「こっこれは!!!!!!!」
「お前さんが出会い、守ってくれた、全ての者。」

其処には、部屋にとどまらず、外に出たメルが屋根の上に上がって周りを見渡す。

海から空から多くの光が、ふわりと形を保ったまま、メルの方を向いて笑ってくれていたのだ。


『わ!!さっきの黒髪さんたち!!!』

見つけたメルがあのねぇと声をあげて手を振る。

『ありがとうみんな!!!みんなのおかげで、大事な人達守れたよ!!!』

そう言ったメルに、見ていたサークルだけでなく、コニックらも驚いたが、

「っ、ほ、んとうに、驚いた。」
「え?」
「本来、守られる者は動くことはない。」

なんなら、その形すらも中々保てないというもの。

「なのに、形を分かる程に保ち、それ、を……」
「じいさん?どこを、み、て」

チトラが見た先に、各々も見上げる。
メルもそれに気付いて上をみた。
其処には、

「っ」
『……ん!』

クレヨンで真っ黒に塗りつぶされた男性が、
輪を持ったまま、メルの前に浮かんでいたのだ。
嬉しそうにぽろりと涙を流して、ごめんねと笑う。

ほかの形よりも、何よりも、綺麗に見え、縁は金色に輝いていて。

『ありがとう』

そう言うと、どういたしまして、との声と同時に全員が綺麗に消え去った。



「…本当に、驚いた。予想以上だ。」
「だろう?」

メルはたったと軽快に地面に降り立ったのを、まだ空を見ていたのを、戻してメルに向けた。

「おまえ、いったい…いや、聞くまでもないか。」
『ん????嗚呼あのクレヨンみたいな人って誰?』
「っ、そ、れは」
『ん?』
「ほんとうに、やさしいこ、なんだな、おまえは。」

そう頭を撫でるサークルに、メルは首を傾げた。

「…今のはお前が出会った者達全員だ。」
「っ親父!!!」
「これくらい言わせてやれ。酷過ぎる。」

幾ら何でもそう言う彼に、メルはんん?と首を傾げていた。

「あの樹海はな、お前が手を取ってくれた子達は、
お前が且つで出会い、お前を見てくれた、記憶であり、力そのもの。」
『きおく、ちから?』
「嗚呼、手を取って背中を押してくれたということは、かつてお前が同じように手を取って押してくれたんだろう。樹海は自分がしてきたことが同じ様にされるからな。」

反映される、それは、つまり。

「姿を見せるなんて普通は在り得ない。それ程の想いを知れば忘れるはず。」

なのにお前は、何処までも誰も彼もを、覚え続け彼等も覚えている。

「それは人が信頼や愛情とかそういう言葉を越えた境地の域。」
『じゃあ、あのとっても綺麗だった人は?』
「…お前の心その者だよ。お嬢さん。」
「おやじ」
「優しくされておったんだな。そして、それが誰よりも何よりも、どこまでも、お前も理解していた。」

それなのに、黒く染められていたのは、理解したくないから。

「それを知れば、全てが無くなってしまうから。」
『…っ』
「これ程のことを、持っているんだ。…ちょっと待ってろ、つてがある。」

そう言われて、部屋に戻されている間ねぇとメルは聞く。

『昼間に居た人の顔なの?』
「…それは」
『そっか、でもね、私みえなかったんだ』
「は?」

あのように、見えたのだと、メルは笑って悲しそうに言った。
それに、コニックは目を見開いて驚いた。

黒く、あの、クレヨンが、その顔を埋め尽くしていたのだというのだろうか。
彼女の力は、どれ程、彼女を苦しめたら気が済むのだろうか。

『いつも夢を見る時も真っ暗だから気付かなかったけど、そっか。』
「っ違います!!!おやめください!!!!」
『いいよ?いいんだよ?』
「いけません!!!!」

手を取り強く想えと叫ぶコニックに、メルは笑う。

『優しいね?コニックさんも、皆、みんな』
「…っメル様」
『くらいと、なんにも、みえないから!』

クレヨンで塗りつぶされた場所なんて、みえないのだから。
ソレを気付かせないだけ、と言ってもういいと腕を掴み、そっと肩を貸した。
お許しをという彼に、メルは沢山泣いた。ボロボロと、上を向いて、泣いた。

声を出さずに、彼に抱き着いて、ぎゅっと掴んで。
まるで、声を失ったかのように、奪われたかのように
その時だけは、一度も声を出さずに泣き続けたのだった。


++++++++++


「寝かせたのか。」
「ええ、沢山遊んで疲れたでしょうし。」

彼が帰って来ると、メルをコニックが眠らせ
そのままくたりと腕の中で眠っている。
小さな身体で、その身に余る大きな力に、翻弄されつつも、
少しずつ確実に、物にしようと懸命に藻掻いているのだ。

その手助けがこれしきで、申し訳ないくらいで。

「すまん、言うべきではなかったか。」
「いえ、後々分かることでしょうし…それより、そちらは?」
「明日早朝、船を出してやろう。ツテに相談しておる。」

これは向こうの地図と、行き来のチケット代わりの貝殻を貰った。

「リート」
「え?」
「鍛冶職人のリートとやらを当たれ。奴なら絶対に力を貸してやろう。」

ま、貸さねばトンボ帰りしてこい。俺が乗り込んで叩き切ってやる。
そう言う彼に、其処迄言わせるとは…どんな奴だ。

「それに、なにもその子だけではないらしいしな。」
「…っ」
「…いずれにせよ、方角が知りたいだろう。そいつの腕は確かで、行き先の方向を指し示すコンパスを作っている。」
「こんぱす?」
「嗚呼、ソレを作って貰ってから、元の道に戻って行ったらいいだろう。」

なんならこの樹海を通っても普通にいける。
そう言う彼に、ではそれを他の国も持てばとコニックが言うも
ソレは無理だとサークルが断言した。

「奴は幾ら大金を出そうとも作らない時は作らない。
それにその島自体、願いの強く無いものは全員たどり着けない。」
「…瞬間移動系でもですか?」
「流石にそれはやったことがないから分からんが、それなら気を頼りに行くだろう?恐らく途中でぶれるだろうな。」
「なるほど。」
「これくらいはさせろ。」

ソレを見てしまった以上は、味方にならざるを得ない。
そう言う彼に、では有難くと頂戴する。

『さ、わ…』
「〜〜〜っ!!!!!」
「どうした?」
「…いえ、なにもないですよ。」

なにも。そう。


「だから何もしていませんってば。」
「そりゃ見ればわかりますから。」

貴方の気がそう言わせないんでしょうから言ってるんです…!!!!
そうメルはぐっすりと眠っている処に座っているサワアに
ぐっと小さく声を出さずに叫ぶコニック。

いやまぁ確かにメルの事を引っ張って抱きしめたのは悪かったとは思う。だがアレをしなかったら、あのまま綺麗に消えて居なくなってしまいそうな危機感を覚え、反射でやってしまっただけなのだ。

「構いませんよ、私の名前も覚えていることですし。」
「……姿を現せない、ということだったんですね。」
「ばれちゃいましたね。」

気付いていたのかと言うコニックに、ええと答える。

「額縁に飾られたのを見た瞬間分かりましたから。」
「……そうでしたか。」
「自分の顔も、恐らく認知等出来ないはずなのに。」

彼女は、私と言って下に寝ていた自分の肉体にお辞儀をしたのだ。
嬉しそうに覗き込むように、きれいだと、微笑んで、涙を零して言う。
本当は、見えていなかったのかもしれない。いや、そうに違いない。

額縁に飾られた顔も、いや、逆に見えた方が残酷かもしれない。

いや、下手したら

「コニックさん」
「…すいません」

きっと、綺麗な笑顔で見えていたのだろう。
なのに、彼も自分も、顔が分からない。
だからこれは夢だと言い聞かせても、誤魔化しが効く。

なら、それにあやかろうというのだ。
そうしたら、傷付くことはない。
そう、そうしたら。

「我々も」
「ん?」
「ちゃっかり我々の姿も見えました。」

貴方だけでなく、全ての天使、破壊神、界王神までも。
勿論、全王様や、大神官様らも、その中に、綺麗に見えた。
黄色に輝いて、少し形が朧げではあったが、確かにいたのだ。

恐れ多すぎるとは、思った。そして同時に、優しすぎるとも。

「これで泣かせたらただじゃおきませんよ」
「おや、貴方もこの子の肩を持ちますか。」
「そりゃそうでしょう。
そんな人間何処探したっていませんよ?!?!」

いや、いてたまるものか。こんな人間がポンポンポンポン。
出てきたらたまったものじゃない。

「いやはや、どんどん敵が増えるから、
私は貴方を見せたくなかったんですが。」
「お兄様……流石にそれ本当にしたら
怒って帰って来なくなりますよ?」
「っくくく、程々にはしますよ。」

嗚呼これ絶対するな。未来がそっとみえて、
どうかこっちに火種が来ない様にと祈るしかない。

「全く、姉上も怒るでしょうし。」
「そうですねぇ、本当に、困りました。」

ほんとうに。

「望めないと知りつつも、貴方はその足で走って追いかけて来てくれるのでしょうから。」
「…ほんとなんで告げて差し上げないので?」
「おや、それを掘り返します?」
「いや……まあいいですか。」
「ふふ、そうさせてください。」

互いに想っても、華樹は許さない。
彼女の神は、それを、許してはくれないのだ。

だから、いや、逆か?

「…いやいやいやいや、そんな馬鹿な。」
「どうしました?」
「…いえなんでも。」

まさかとはおもうが……分かっててしたとか?
いやいやいや、それこそないないないない。
そうできるならもっともっと、難しく…ん?

そうか、簡単だからこそ、難しいのか。

「ま、私らは港に着いた辺りで交代します。」
「頼みますね。」
「勿論。大神官様の頼みですし。」
「ええ」