信じていて
『ねぇねぇ!おはなおはな!!』
「まってくださいよー!!」
そう小さな白いワンピース姿の子供が走る後ろで
小さな白い髪色をもった子供が追いかけた。
廊下を走り、その扉を小さな身体ながら少し開けて通る。
そこは、綺麗な草原の先に、大きな樹が青々と姿を現してくれていた。
此処は、在りし日の時間。全てが始まる、時間のお話。
0番目の、罪のお話。
『え〜〜〜なぁんでくぅねぇはよくてもめるはだめなのお?』
「駄目なものは駄目なのですよ。エフェメラルさん。」
そうゴロゴロと身体を回している彼女、
エフェメラルと呼ばれた少女に対し
大神官はぱたりと本を閉じて身体を起こし、彼女の上に立つ。
人差し指を立てて、いいですか?と声を掛けた。
「貴方は私の兄であるルトラール様のお子です。
その為貴方は天使と人間の子供でもあると同時に
頂点に立つ華の者を束ねる華樹が選んだ選ばれしお子。」
天使ではないですし、同時に人間でもありません。
何方にもつかない貴方は、かなりのイレギュラー。
「後々貴方は長い旅に立ってもらいますので、
座学の勉強と戦いを身に着けて貰わねばなりませんので。」
『え〜〜〜〜〜やあ〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜』
「ふふ、駄目ですよ?」
全く引けを取らない大神官にガン無視して
エフェメラルことメルはぶーたれる。
普通に我が子ならしょっぴくのだが、
兄の子であり、可愛らしい彼女に叩くなんて気はさらさらない。
それどころか、あの全王様ですら友達と言って笑っている始末。
彼女を殺すなんてしたらそれこそこの世界の終わりと同等である。
『ええ〜オムくんと一緒にいたらいいんじゃないの?』
「おっ……エフェメラルさん。ちなみにそのお言葉ご存知で?」
『え?オムニス!ぜんなんちゃらって名前はわかんない!!』
「…お許しになられたんですね?」
なんなら次難しい言葉言ったら怒るって言われた。
メル嫌われるのはもっと嫌だから。
そうしょげるメルに、ああそうですかと少し困る大神官。
「困りましたねぇ、出来ればその名は知られて欲しくないのですよ。」
『どうして?』
「名は力を表します。力が強ければ下の者を従えます。」
こんなふうにね?エフェメラル。
そう言う彼に対し、メルの身体がふわりと浮かび上がる。
自分の気を使って自分でふわふわと浮きだしたのだ。
「このように、自分が下か上かもわからない以上、
知識あるものをさらりと外の
ましてや下界の人間になど言ってはいけないのです。」
『つよいの?』
「もしも、のことですよ。」
ん〜〜〜〜むずかちい!!!
っくくく、さようですか。
そうぎゅっとした顔のメルに対し、クスクスと大神官は笑う。
『ねぇ、そのおしゃべりやだよお』
「ん?そうですか?私は別に構いませんが…」
『おべんきょするならそれやだ』
「…はぁ、仕方がありませんねぇ。」
これでいいですか、と指を鳴らす彼に対し、メルは嬉しそうに抱き着く。
「まったく、この姿になっても怒らないのは貴方くらいですよ?」
『えへへ〜〜〜〜!!!すっぴー!!!』
「嗚呼はいはい。お勉強してくれますね?」
『うんする!!!!!おすわり!!!!!!』
元気になった彼女に、いい加減この態勢は
卒業して欲しいと思いつつも、ついつい甘やかしてしまう。
すっぴーと呼ばれた大神官は指を鳴らし、その姿はまた違う。
身長は大体ウイスよりは低く、モヒイトよりは高い程
それでもかなりの高身長である。
髪は前に出していたのを横の耳へと垂れ流し、
メルが作った星の髪飾りを付けらされている。
白い髪の毛は長く、腰元まで伸ばされたソレは
よくメルが編みたいと言って時々させているのもあるが、
この姿は人に見せない様にしたのもあり、
そもそも自分で編むことなどしなくていいのだ。
椅子に座り、軽く膝に足を置いて、
その中に下からずぼっと芽が生えるように
出てきたメルがくるりと本の方に一回りする。
まぁずっとその姿勢なんてありえない。
足が辛くなったら下ろすが、時々足を持って来られるので
流石にその時は指導しているが。基本的に放置である。
衣服は天使の服に近く、ソレが当時の正装だったのだろう。
もう別人の姿で、後ろの輪が二つあるのにも、違和感があった。
『ねぇねぇ』
「なんです?」
『すぴのって、なんにんなったの?』
「嗚呼私のお子の話しです?そうですねぇ、今は二人です。」
もう一人産もうと思えば産めますが、
ちゃんとした子を産みたいので時間がかかっていまして。
そういう彼に、メルは笑う。
りっちゃんとお手手はやく繋いで出来るといいねというのだ。
ええ、とスピスと呼ばれた大神官は笑って答える。
「そういえばエフェメラルさん。貴方私の子に会いになりませんか?」
『いいの!?!?!?!?』
「ええ。人間には華神がいますが、貴方と同い年は一人いますので。」
『どんなこなの!?!?!?』
「人間で言う処の男の子、でしょうか。とてもいい子ですよ?」
良ければ一緒に勉強もしましょうか?したいしたい!!!
『くぅちゃんとおんなじくらいならだいじょうぶまう!!』
「クスさんとは仲良くなられたようで何よりです。」
「うん!!!くぅちゃんだいすき!きっとその子も、メルだいすきになるよ!!!」
「っ!…ええ、是非ともそうさせてもらえると、私も有難いです。」
楽しみと言って本を見るメルに、クスリと笑う。
ですがと指を鳴らし、元の形に戻った。
「もしお勉強するならこの形でもしてもらわねばなりません。」
『え〜〜〜〜やだあ〜〜〜〜〜』
「なんならクスさんにも見せてないんですよ、この形。」
前にルトラールさんや彼女らには見せていたが
いざ子供が出来たらとなれば威厳も何もない形。
流石にまずいと思って作ってみて案外気に入っていたのだが。
どうやらメルはとても不満があるようだ。
「旅に出れば貴方は多くの痛みに触れます」
『すぴ?どうしたの?』
「その痛みに耐えられるようにも、しなければなりませんから。」
『だいじょうぶだよ?メルはとっても強い子なの!!!』
どんな痛みだって、きっとすぐに楽になれる!
『あ〜あ。はやくおはな、さかないかなぁ』
「…っ、いずれ咲きますよ。」
そう、いずれ。
「例え死ぬほど嫌になってでも、ね。」
『…?』
「なんでもありません。それより今日はこの姿に慣れて貰えればいいでしょう。」
やたーそう笑うメルに、はめられた気がしなくもないが、今はこれでいいだろうとため息を吐いた。
コンコンとノック音が聞こえ、はいと答える。
がちゃりと出てきた子達と、後ろの人に声が上がった。
『あるとお!!!』
「大神官様失礼します。…エフェメラル様、お元気そうで何よりです。」
抱き着いたそのオレンジ色の髪色に目に、
二パリとするメルに対して、アルトもふわりと笑った。
「なんでしょう」
「華樹神官様はおいでてないですか?華樹神様も見当たらなくて…」
「会合に出られておりまして、少々席を外しています。
明日、明後日程で帰られてくるでしょう。」
「わかりました。おや、ではこの子は…?」
「その間私が面倒を見ています。」
成程だから此方に。誰も居ない訳ですね。
そう笑うアルトリアにメルは一度帰ると言い出した。
うとうとと眠たくなってきたのだろう。
アルトリアはクスリと笑いそっとメルを抱き上げる。
「すいません、でしたら一度連れて帰っても?」
「構いませんよ。起き上がるまでついてもらっていれば。」
「わかりました。」
「ああそうそう、アルトリアさん。」
「はい」
「エフェメラルさんが起きたらお呼びしてもらっても構いませんか?」
会わせたい子がいるんです。
そうして、華樹の樹の下で、目を覚ましたメルがうつらうつらと身体をぐわんぐわん回しながら前を向く。
頑張って起き上がり、めをこすりつつもアルトリアに連れられ、日差しの真ん中で目を開けた。
そこには
「っ」
『っ』
「っくくく、流石に目が覚めました?」
そう大神官がクツクツと喉で笑うのに、メルはきょろきょろとする。
大神官の後ろには二人の子供がくっついていたのだ。
「ほら、自己紹介を。」
「ほら!」
「っわ!え、えっと…」
肩下、いや背中まで伸びた髪の毛に、前髪が少し長めに落ちて、ぱちくりと此方を見てくる。
『ちびすぴだ』
「え?」
「エフェメラルさん?」
『ぴゃう!な、なんでもないよ?』
なにもいってない!そう明後日の方向を見るメルに、ふふっとアルトリアは笑う。
「貴方がそんなするなんて、照れてるの?」
『てえ?てえてえ?』
「れ」
『え!!!』
「っくく、まだ早いようですね。」
「すいません。如何せん人と天使のお子ですし、人間の流れと天使の流れがごちゃ混ぜで何処から躾をしていいか我々も困り果てていまして……」
一応管轄としたら此方側なんですがという彼女に
大丈夫ですよとみんなでやればいいだけだと大神官は答えた。
「ほら」
「あの、えっと」
『ん』
「っ」
あのねぇとメルは近くに咲いていた黄色いお花を渡す。
『えふぇめらる!あなたは?』
「…さわあ」
『さあ?』
「っ、さわあ!」
『さあ??』
「〜〜〜!!!!」
「っくくく、すいませんサワアさん。エフェメラルさんはちょっと発音が難しいようですので。」
申し訳ありませんが、あだ名で呼ばさせても?
そういう彼に、仕方がなさそうにちらりとみてくる。
『さっちゃ』
「っ!」
「ほ、本当にいいんですか????」
「子供同士の事ですし、お好きに。」
「…えふぇ、めら、る?」
『〜〜〜〜〜!!!!!うん!!!!!』
これおはな!よろしくね!!そう手に持たせるメルに、
ああうんとぶんぶん手を振られて
そのまま驚き放置するサワアが
「っえ!?!?」
『っ!!!!』
「え?あ、あれ?なんで」
ぱたぱたと涙を零しだしたのだ。
それには大神官も目を丸めて驚いた。
『どうしたの?どこか、いたい?』
「えっあっ、いや、どこも」
メルはそっと右手で彼の背中を。
左手で掴んだ華をサワアに渡し、その手を握る。
ゆっくりと、身体を抱きしめるように触れる。
『大丈夫、大丈夫だよ?』
「え?」
『おまじない。』
なんか、空から落ちてきたから!
そういっただけ。
そう言う彼女に、うんとサワアは笑った。
ソレを見て大丈夫だと思ったクスが
二人の間に入って来た。
身長はクスの方が大体7歳くらいだろうか、
今よりもかなり小さい上に、髪もまだ短い。
それでも左にぴろりとなんとか髪を結わえている。
対してメルやサワアは大体3歳から
5歳児くらいで彼女との身長さは少しある。
二人とも同じくらいの身長なのに、お互いに驚きはしたが。
すぐに仲良くなれるだろうと、思っていたのが大当たり。
メルはサワアの手を引いて、クスと一緒に花遊びをし始めた。
流石にここら辺一体の花を引き千切られるのも困る。
大神官はアルトリアに彼女らを任せ、一度帰ることにした。
「どうして色が違うの?」
『かかさまに似たって、ととさま言ってた!』
「ええ、エフェメラル様はお母上で在られる
アルメリア様の血を色濃く引き継ぎましたからね。」
まぁ髪色はルトラール様の方を、目の色も恐らくルトラール様でしょうが。
そう言う彼女に、へぇと子供たちが伸びた声で答えた。
「あの、アルトリア様」
「ん?なんですか?クスさん」
「まえに見た時、あんなのなかったんですが」
そう指を指すのは、大樹の上に実っていた果物だ。
嗚呼あれですかとアルトリアが言う。
「アレは華樹神が次の世代へと引き継ぐ時に実る樹の実だと言い伝えられています。」
「樹の実ですか。」
「あっでもお二人は食べちゃダメですよ?選ばれし者以外が食べると、
その身が消える以上に辛く怖いことが起きてしまうとかなんとか。」
「ひ」
「ま、伝説に過ぎませんから。」
『じゃあ、選ばれたひとなら?』
「…華樹神の試練に選ばれることになります。」
多くの子達が死にました。そう言う彼女にメルは起き上がり頭を撫でる。
「一度食べれば身体に華が小さく咲きます。
その華はお試し華というもので、
どんな願いでも華樹神と同等の願いが一つ叶うものです。」
本当に世界が崩壊するとき用にと、
アルメリア様やルトラール様も大事にされています。
使ったかどうか、その危険性から、非常に似た華を置いていますので
本当かどうかも、我々は知らないんですが。
そう模倣品の説明までしてくれる。
「ですが、もし樹の実を食べるなら赤くて丸くて、
甘い果実になった方がより願いが叶うそうです。
青いままは不発に起きるそうなので。」
それに、貴方にはまだまだ早すぎますと頭を撫でられる。
「もしエフェメラル様。貴方が選ばれし者ならば、
私程ではないですが、もっと成長成された時に、
その実をかじって頂きたい。」
『もう、あかくなってるのに?』
「え?」
『だってあれ、あかいよ?』
そう指を指す彼女に、アルトリアは見る。
そこには青々とした果実ばかりで。
なんなら、色とりどりの色をした
まあるい樹の実がなっているというのだ。
それに気付いたアルトリアは少し席を外す。
暫くして、部屋から本を取って来たのかペラペラとめくる。
「エフェメラル様」
『ん?』
「この中のどれですか。」
『…ちがう』
「え」
違う違うとページをめくりだすメルに、
気になったサワアとクスも左右に入って見る。
『これ』
「…………は」
『どうしたの?』
「いえ、なんでもありません。エフェメラル様」
『ん?』
「絶対に食べないで下さい。」
いいですか?だめです。なんで?だめです。
「これを食べれば貴方は此処に居れません。」
『そうなの?』
「ええ」
『める、きらわれる?』
「ええ、いや、嫌うで、すまないでしょう。」
ならたべない!そう言う彼女にそれでこそと笑うアルトリア。
それじゃあ遊びましょうという彼女に、お勉強はとサワアがいうも
今日くらいとクスが背中を叩いた。
その草原の上に開かれた樹の実は、
「禁忌の知恵林檎が見えています。」
非常に危険な状態です。何か危惧が起きる予兆では。
そういったアルトリアの現在は、それから数日が経った頃。
華神ら全員を集めた、会議中の中だった。
「だとしても、まだ起きていないだろ?そんな子供のまねごと如きで…」
「アンダルシア。口を慎みなさい。」
「だってよ〜エンヴィ。お前らも分かるだろ?」
そいつは「不完全」
「完全体での話しならまだわかるが、見た者の判断一人は無理だ。」
それに、そいつは代わりのまだ見習いに近いレベルでずっとソレだ。
最初に生まれたにしては少々難しいってもんだ。
そういう赤髪の彼女に、事実ですからねぇとアルトリアは首を横に振る。
「ですが、情報はきっちりお伝えしましたよ?」
それをどう扱うかは、貴方達「完全体」のお仕事である者。
「厄災が起きぬように、務めるのも我々神々の力である者。」
「引継ぎの状態でかあ?もうやることねぇだろ!」
うちの方も殆ど出来ている。そう手を振るアンダルシアに続いてそうですねと答える。
「24の宇宙もあるのです。半分の華神らは後々弟であるスピス様の
お子達に管轄を任せらえるとお聞きしていますので。」
我々もそろそろ引継ぎの世代に代わり、12は少なくとも手放しつつ、
次第に我々の部分である原初の12も解体しなければというのはラズールだった。
「それに、禁忌の果実って確かなんだっけ?」
「…はぁ、勉強不足。」
「ああ?!?!?」
「華の者全てを統べる者。地を根に生やし、統べる大地の根源であり頂点の者。」
「その者が大地も天をも全てを支配するには流石に無理がある。」
「全王様はその全ての力をお持ちであるが、力に殺されないように、二つに分断した。」
それこそが華樹神、華を持つ者。華の頂点で在り、全てを統べる者の総称である。
「その力が半強制的に組み込まれ、
問答無用で選ばれてもないのに誰でも作動する。
歩く全王とまで異名がついてしまった果実。」
「ある、えっかじ、え?」
「選ばれなければ匂いに誘われるようになっているんですよ。」
その周りで一番華樹神に近い子の、大事な子に、食わせるようにね。
「っ、そ、それって最早生贄じゃ」
「だから禁忌と言われているんだ。喰えば破壊も創造も、この宇宙の理すらも覆せる力を持つ。」
ま、丸々食べればの話だがな!!!!
「ですが、一口でもかなりの威力はあります。
華を持つ資格も、同時に選ばれてしまうことは承知の上でしょうがね。」
「そんなやばいやつ、あんなところにあっていいのか????」
あいつらよく最近あそこで遊んでるじゃねぇかと言う者に対し、
それも議題の案件でもあるとアルトリアが言う。
「エフェメラル様は我々のことを下とみず、同じ扱いで接してくれています。」
此方がむきになれば悪い方向に向く。
言う事を聞いてと言えばすぐに返事する彼女の純粋を飼いならした方がいい。
「一応食うなと言って食べてはいませんが…」
「それも何時まで持つか、ってことか。」
「それにしても幾ら何でも早過ぎません?
たしかアルトリア様でも大体10歳程度だったと。」
「ルトラール様の頃がどうかはわかりませんが、
何方かに似たらその可能性だってありえましょう。」
いずれにせよ、危険性が拭えないのは確か。
それに、とちらり後ろを向いた。何時もだったら後ろに居てくれる、大元の、華神がいないのだ。
「プラティア様…一体何方に行かれたのかしら。」
「アルトリア様…」
メルの面倒だけでなく、サワアらの面倒もよく見てくれている
彼女は、大神官らが最初に産んだお子。
メルは一番が一緒という理由でプラティアのことを大層気に入っている。
なんなら、彼女が最初にプラティアとちゃんと名前で言えているのだ。
色んな方向から喧嘩を買われても怖い文無し。情があるのかしらないが、
大神官ら父親を始めとし、我々やメルらも手加減してくれている。
その強さは、上を知らない。