お願いだから君だけは







危惧していたことが起きた




バンと音を立てて入って来た者達に、身体がびくりと反応する。

「っ容態は!!!」
「血圧80/50、脈拍120、低い上に脈が速い!! 」
「エフェメラル様、起きて下さい、私の声聞こえます??」
「エンヴィ!コロネ!アンダルシア!!」
「いまやってます!!!」

メルの身体の周りで、多くの華神らが適切な処置を施している中
震える子供にそっと寄り添い、アルトリアはじっと
その背中を抱きしめさすってあげるしかできない。




「一応、一命はとりとめたが……」
「っ」
「っなにを」
「なにをしている!!!!!!」

パンと叩かれるアルトリアに、ぞっとする子供に、
子供の前でというラズールに
お前はと叫ぶアンダルシアが胸倉を掴む。

「お前が見ていたんじゃないのかこっっの「不完全」が!!!!」
「っ」
「アンダルシア!!!!」
「……すまん、言い過ぎた。」
「…いいえ、貴方の言う事は正しい。」

華神らとは言えど、人間で、
一人の子供の為にその命を願いを捧げる訳にもいかない。

ある程度の範囲は自分達で対応しろと、
永遠と懇々と互いに言い聞かせていた。

その為か、医療技術やらなんやらの対応は
そこら辺のオペに引けを取らない程になっていたのが功を奏した。

「僕が、僕がわるいんです、ぼくが」
「お前…」
「っふ、ひっ、うう、ごめ、ごめ、んなさ」
「…ごめんね、私もちゃんと言わずに一度切りだったし。」


貴方のお父さんからも、綺麗に言われてなかったし。
そう抱きしめるアルトリアに、サワアが胸でわんわんとなく。
まだ子供で、それもメルと会わせても、数十年しか経っていない。

いや、数百年はもう、経ちそうになっていた。

華神らは、華を、想いを、命に代える。

それは心臓という機関が、本来の形とは違う形になる。
一応肉体やら血液らも人間では変わりないし、
心臓を貫かれると一応痛いし死にかけはする。

だが、華が咲けばそっちに心臓が行くのだ。

その為、通常の人間の時間には、もう戻れない。
多くの者が、見知っていた者達ととうの昔に別れを告げ
現在は自分の持つ華神星で細々と暮らしていた。


メルもまた、同じ様に、身体の成長は天使に似たらしい。
成長は遅く、その分感情の成長だって遅くなってしまった。
そこら辺は人間の感覚に繋がっていた。

サワアらのように幼い頃からよく学び睡眠をとらない者達ではない。
メルは、人間と天使の間に産まれたと、思わせるに充分の形でいる。



「一応飲み込んで消えて溶けてなくなっているのは確認した。」
「っ」
「これから何が起きてもなんら不思議じゃねえ。
アタシらも一応最悪に備えて準備をしておく。」
「ええ」
「…おい、泣き虫小僧。」
「っふ、うう、な、なん、ですかっ!!」

指を出したアンダルシアが、膝を立ててサワアの高さに合わせて手を出す。
それに、ぴたりと涙を止めて前を向いた。

「はい」
「っえ?」
「これ指切りってやつな。約束破ったら指切って針も千本飲ます。」
「アンダルシア?!?!?!?!?!?」

うるせえという彼女が前を向いた。

「お前は自分のやったことが分かるか?」
「…っ、ん。」
「いえ」
「……エフェメラルに、たべ、させちゃった。」
「嗚呼。唆され、果実に口付けた瞬間だったのを
勢いではじいたはずの実を、あいつは一齧りして飲み込んだ。」
「っ」

ぐっと涙を堪えるサワアに、約束しろと告げる。

「もし申し訳ないと思うなら、いやそうでなくても、約束しろ。」


エフェメラルを、忘れるな。


「…貴方」
「遅かれ早かれ絶対にあいつは長旅に巻き込まれ、
この華樹の神殿に戻らされる運命に入った。」

華が首後ろに見えたから、もう無理だ。
そういうアンダルシアに、そんなと周りがざわつく。

「いいか、よく聞け。」

一度しか言わない。

「華樹が廻ればその者の一番大事な願いが叶わなくなる。」
「え」
「もしそれがお前であれば、直ぐにその手を掴みにいけ。
例えお前のお父さんだろうがお母さんだろうが何だろうが
何が何でも嫌でも縋ってでもその手を取って先に行け。」
「っ」
「完成されると白い世界から一度出れなくなると聞いたことがある。
願いが叶わないまま、綺麗に約束が果たされてしまえば、もうあの子は二度とこの場所には愚か、どんな願いでもどんな祈りでもあの類の人間が生まれることは金輪際無くなる。」

そんなことが、

「記憶が曖昧になるから、戻って来ても基本覚えてない。初対面だと思え。
傷付く顔を見せるな。諭させるな。奴の様なのは猶更勘が鋭い。」

いいか、絶対にその心を見させるな。

「ま、一度白い世界に行けばすぐにわかる。」
「え?」
「魂に刻め。天使のお前は人間に一番かけ離れたところにいる。」

アイツは間にいるんだ。

まだ、手が伸ばせる範囲に居るんだぞ。

「でも、エフェメラルがひいたら?」
「その時は未来のお前が選べ。」
「っえ!??!?!」
「いずれにせよ、あいつが死んで無くなっても次の華樹神候補の為に華が咲くだろう。
そういう時は魔女らも活性化するからな。基本的に果実が実りだした時が合図だ。」

戦争が近々起きるとでもいうのだろうか。

「口を歯を付けているなら猶更お前も選ばれる可能性がある。」

ま、アイツはソレを察知して、飲んだんだろうが。

「え?」
「ったく、これがことがことだから怒っているんだが。」

普通におめでたな話なんだよなぁと頭を上げるアンダルシア。

「ほんとねぇ〜〜〜????」
「え?え?」
「…大事な人が、自分の為に消えたら、貴方はどう思う?」
「っだめ!そんなの、ぜったい、だめなことです。」

とても、かなしい。

そう俯く彼に、頭を撫でる。

「そうね。とても悲しい。エフェメラル様はね、ソレをすぐに知ったの。」

瞬きの様な、その瞬間に。

「え?」
「知らないの?あの子は人間でもある。
睡眠をきっちりとらないといけないのよ?」

その為貴方が来る時以外は殆ど寝ているの。
そう言う彼女に目が丸くなる。

「ずっとずっと、一緒に居てくれて、長い間、
最初手を取ってくれたからってだけで
小さな恩を返してくれる、可愛らしい天使に。」

あの子は恩返しにした行為なの。

「だから貴方がすることは、
ごめんねと、ありがとうっていうこと。」
「…はい。この、サワア。アルトリア様に言われずとも言います!」
「よおし!それでこそ男だ小僧!!!」
「小僧ではありません!サワアです!!!」

そう叫ぶサワアに、周りが和む時に、メルが目覚める。
起きたかとちらり見たアンダルシアの間からサワアが駆け寄った。

「エフェメラル!!」
『あれ?さっちゃん?』

どしたの?私という彼女にごめんねと声を掛けた。

「僕、ぼく…」
『なかないで?だいじょうぶだよ?』

いたくもなにも、なんにもないよ?

だからねとメルは笑って言う。

『今度、仲直りの、花冠を。交換しよう?』
「〜〜〜〜っうん!!!約束だよ?」
『うん』

約束。そうメルは目を閉じて、嬉しそうにサワアと指を切る。

その姿を見て、一同はふわりと消える。








元気になったメルはまだふらふらとしているも、ちゃんと成長している。
人間の季節でいえば、今は3月くらい。桜も咲き始めたりしているので
下界に行って花見をしようかという話も出ていた。


『え?!?!!?!?!?子供?!?!!?!?!!?』
「ええ、男の子になりそうですけどね。」

かかさまも!?そうメルが輝くのに対して、いいえと首を振る。
中々うまくいかなくてという彼女にあらあらと母親同士が笑う。

『お名前なんてする?!!?なんてする?!?!!?!?』
「貴方が決めてもいいですよ?」
「いいんですか?!?!?!?!」

そんな他の子供にという母であるルメリアに、いいんですと答える。

「お勉強にもなるでしょう?」
「…なるほど。じゃあエフェメラル。」
『ん?』

貴方、お姉ちゃんになるわね。
そう言う母親に、メルは目をキラキラとさせた。

ルンルン気分で帰って来たメルに、何かいいことあったの?とサワアが聞く。

先程あったことを話すと、嗚呼と答えた。

「僕は沢山見ているし、特に考えなかったなぁ。」
『え、もっといたの?』
「うん。でもちゃんと形が保てる子はなるべく出るまで言わないって。」
『…そっか。でてくれるかな。』

お名前考えたくて。そっか。

『メルね、初めてのお姉ちゃんになるの。』
「はっはじめてって……エフェメラル、君の実の弟じゃないでしょ?」
『そうだけど…さっちゃんの、弟も、メルの弟かなぁって』

にへらっと笑い出すメルに、そんなわけないでしょと答えるサワア。
この勢いなら全人類皆兄弟とかいいかねない。
いや、言いそうな未来が見えて怖くなった。

「お姉ちゃんになるなら、泣き虫直さないとね!」
『ああ〜さわあがそれ言うの?』
「ふふ!僕はもう一足先に泣かなくなったもん!」
『そういって此間泣いてたくせに。』
「なっ!あれは仕方がないの!!!」

そう子供同士の喧嘩に、メルはクスクスと笑いだした。
何時だって怒りだすと笑いだすのだ。
最近はソレを合図に「もお」といって許すのが恒例になっていた。

『でも二人きりなのに、メルって言ってくれないの?』
「っ!!!……い、いえる、よ?」
『えー?』
「めっ、え、…メル」
『きこえない』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜馬鹿!!!!!!」

ケタケタと笑って走り出すメルに、待ってと空を飛ぶサワア。
空から攻撃をするサワアにずるいとメルは笑っても許してじゃれ合っている。









『あ〜あ!ずっと続けばいいのにね!!!』
「ん?なにが?」
『サワアとずっと!この青い空の樹の下で!』




綺麗な花畑のある、その上で!





『ずっとずっとず〜〜〜〜っと!』





お花の冠を作って遊べれたらいいなぁ。






そう笑う彼女に合わせ、
ブンと首筋の花が変化するのを、
彼女らは気付かなかった。


そうだとサワアが言う。

「花冠出来てなかったから、明日しようよ。」
『え?嗚呼、最近中々遊べなくなっちゃったよね。』
「うん。そのことなんだけど…えっと、その。」
『ん?』

ちょっと早いけど、とサワアはそっと差し出す。
其処には金色の紐が手の中にあった。

『これは?』
「エフェメラルは沢山髪を結うから。」

貸してと言って少し長くし過ぎた髪紐を頑張って一つに結ぶ。
本当は二つにしていたメルの髪だが、今回は一つに結ば差せてもらった。
伸縮性のゴム状のは難しくて紐を作ってみたが。

「どう?」
『〜〜かわいい!!!!』

ありがとうさわあ!
どういたしまして!

『わ〜〜!!メルこのままにしとく!!!』
「え、いや流石にそれはいいよ。」
『じゃあ明日も結わえてくれる?』
「明日どころか、会うたびにでもいいよ?」

そんなの幾らだってしてやるというサワアに。
じゃあ約束とメルは指を出す。もうと笑うサワアにメルは笑う。

「ほんと欲がないよね、メルって。」
『そう?あるほうだとおもうけどなあ』

だって皆に一人ずつお願いしてるから何にも残らなくて。
嗚呼そういう…案外欲張りだったんだね。
そういうメルがサワアにプレゼントと部屋に入れて何かないかと探していたが

「明日また取りに来るよ。なんなら明後日でもいいし。」
『ええ〜〜それがいいかあ。』

ふぁあと大きなあくびをしたメルに、ボーンと時計の音が鳴る。
どうやら夕方、いやもう夜に近いらしい。部屋のドアを開ければ
外は夕暮れから徐々に暗くなっていた。

「じゃあまた。」
『送っていくよ』
「いいよ。それよりちゃんとお風呂入ってね?」

はぁいと言って手を振るメルに、サワアも軽く手を振って空を飛び帰る。

「ん?…気のせいか。」

殺気を感じ、気になって見たが、何もいないことに安心し空を飛んで帰る。
その気配は当たっていることなど、小さな彼は気付きもしなくて。








次の日

メルはちゃんと風呂には入った。一応。うん。一応。
髪紐頑張って崩さずに洗ったので、綺麗には洗えていないかもしれない。
バレない様にしないとと意気込むメルは、よしと言って探していたのを見つける。

『ん〜〜〜でもサワアにはちょっと合わないなあぁ』

可愛らしい物が好きなメルは、シンプルなものを好む彼に合わせれず困っていた。
花冠は今日できるし、少々早い誕生日プレゼントは貰ってしまった。
お返しにと、この気持ちに相応しい相応のをとちらり見た。

そうだこれだと大事に閉まっていたものを取り出して笑う。
胸元に戻していると、ちらり同じ華を見つけた。

『んん????まぁ、いいか!』

胸元の付け根を目印に違う方を渡せばいい!
そう思い込み同じ場所に全く同じ華を持ってメルは外に出る。

『あ!さわあ〜〜〜!かかさまあ〜〜〜!!』

そう走っていたメルに、二人が笑う。

「ごめんね、ほんと」
「いえいえ、お勉強になりますので。」
『何話してたの!?』
「エフェメラルの御父上であるルトラール様のお話。」
『わあくそながったらしい』
「エフェメラル?????」
「っふふふ、ごめんね?最近人の真似事にはまってて。」

幼少期特融のソレだという彼女に、嗚呼と納得がいく。
もうメルの鼻は伸び切っていた。
えっへんとまで言い出しているし、なんなら威張っている。

苦笑いするサワアに、メルを頼むわとルメリアに言われ、はいと答える。

「リアねぇ様に言われずとも、このサワア!エフェメラルの世話してますよ!」
『ああ〜!メル世話いらない!一緒に遊ぶの!』
「ええ?それ世話っていうんじゃないの?」

ちがうよお!なんでえ?そう二人がはしゃぐのに、クスリと笑うルメリア。
そっと二人を抱きしめいい子ねえと笑う。それに、二人して二パリと笑いあう。

『うん!メルね、お姉ちゃんになるから最近いい子強い子元気な子なの!!!』
「そう」
「すいません、一応説明したんですけど。」
「ふふ、そう言わせてあげて。そうだ、ねぇエフェメラル彼のお名前って候補決まった?」
『えっとね、きまったよ?こ、こお、こおおおおおお』

コで三文字なんだけど、待ってね取ってくる。赤い印してたの
そう言うメルに、たったか走って行くのをみてふっと笑っていたのが変わる。

「りあねぇ様?どうされて」
「サワア。ルトラールの言う事守れるわね?」
「え?なにっ」

ドンと扉の方で地鳴りと共に音が鳴る。

何の音だと思って慌てるサワアにルメリアが前に一歩出た。

「へぇ、流石に空けているとは聞いたが。」

まさか、本当にいるとは。
ひっと後ろに下がるサワアに、声を掛ける。

「メルを部屋から出さないで。」
「っはい!!!」

あの部屋は特に二人以外は入らせないようにしている。
そう言う彼女に急いでサワアは駆け足から空へとスピードを変えた。

走るよりかはまだ早いのだ。

「…強く生きてね。優しく強い、天使の様な天使さん。」
「……え?」

ドンと言う音と共に風がぶわり広がり、そのまま開けたドアにサワアが転がり入った。

『さわあ!?どしたの!?まじゅつのおべんきょうでもかいさいとうじょうした?!』
「ったた、そんなことより、エフェメラルドアを閉めて!!」
『ええ?そんなドアなんてすぐにしめ』

ぺたりとついたその身体に、上を見上げる。

『?????』
「…成程、腐るというよりも、それすら満たしていないではないか。」
「っ!!!!メルを放せ!!!」

そっと抱き上げた彼に、杖を持ったサワアが力を使うも、全く歯が立たない。

『おにいちゃんだあれ?』
「…君が何時か殺す人間だよ。エフェメラル。」
『…わ、たし、が?』
「嗚呼…おねんねしておきな?」
『うん』

胸の中ですやすや眠る彼女に、
すっと黄色い花を見つけて手に取る。
成程とキラキラした方を手に取った。

「流石に完成させられてたか。」
「っめるを!!」
「いらんからやろう」
「っわ!!!」

黄色の花一輪を持って出ていく彼は綺麗に溶ける。

「おい終わったぞ。」
「あら、そう。適当にどうぞ。」
「なら散るとしよう。」

ぬかりなくな。分かっているという彼女に対し、彼は綺麗に消えた。

「っ何をしているの…!!!!」
「なにも?お前も何も要らなくなってな!!!」

キンと音を立ててルメリアを飛ばす彼女がちらりと見えた者。
すやりと眠る、そのドアの先にいる、小さな紺色の髪色に笑う。

「…酷いことを言ってやろう。」
「え?」
「あの子のお試し華はもうない。」

その言葉に、隙が生まれ、ルメリアの身体にぽっかりと穴が開く。


『かかさま?』
「え?める!?どこにまって!!」

ばっと起き上がったメルが走って行くのを、サワアは追いかける。
予想以上にメルは裸足で滅茶苦茶早い。普通にサワアが空を飛ぶくらいと同じである。
追い付けずにいると、急に止まったのでメルに軽くぶつかってなにと目を丸くした。

『か、か、さま?』
「っ」
「…に、げな、さい」

倒れていた身体を何とか起き上がらせ、ふらつきながらも起き上がる。
その姿に首を横に振るメルに、サワアが手を取った。

「メル!!」
『っだめやだ!!』
「っなにいってるんですか!!!」
「いい加減にしなさい!!!」

その言葉にメルがびくりと反応し、目に涙が浮かび上がっている。
彼女がそう怒鳴るなんて、そうそうないのだ。
おいきというルメリアに、ゆっくりとでも戻る彼等を逃す彼女ではない。

「っぷ、らてぃあ……お前!!!!」
「りあさっぐ」
『あっああ、うっあああ』
「あいつも優しいのか、残酷か。いや、後者だな。」

メルの身体を軽くとって空から見下げる彼女に、
圧を更にかけていくのに、ぴしゃりと青紫色の光が見えて叫ぶ。

『やめて!!さわ!あ!!かかさま!!!』
「っメル!!!っぐ」

駄目だ我慢しなきゃ。そうメルは強く想い、首を横にふるってばっと見る。
その彼女の目はギラギラとして怖かったのに、何処か、ふとおもう。

『……寂しいの?おねえちゃ』
「っめる!!!!」
「…私が?寂しい?」

そんなわけがない。綺麗に完璧になる。
もうお前らがいなくなれば、この場所はもう終わり。
天の者しかいない、ひとなど存在しない境地になる。

「人はもう見捨てられたのだ」
『っ』
「さ、先に捨てられろ。」

駄目だ、幾らなんでも、勝手に捨てるなんてそんなのあんまりで。
メルは手に力を籠めて放つもヘロヘロと落ちる気にむきになる。
なんで、どうして、うまくいかないの!!!

「憐れだなあ」
『…プラティア?』
「」
『っぐ』
「…いや、お前はやっぱり生かした方が良いか。」

っげほっごほと、首を絞めていたのを止めて突き放す。
ルメリアの元に行き、闘い始めるのを、瞬で止める。

『…か、かさま?』

ぱたりと前で倒れる彼女に、
メルは身動きが取れないまま首を横にふるう。
いやだ、そんなのない。

いつしか聞いていた、生きること、死ぬことのお話。
誰もかれもに聞いて、寂しそうになったのをして止めたお話。
それが、目の前で起きている。

「さ、わ、」
「っ」
「め、るを、たの、みまし」
「駄目です、僕だけじゃ、貴方も、貴方が生きなければ!!!」
「め、る?」
『っ』
「ごめんね」

その言葉だけで、そっと目を閉じる彼女の胸が綺麗に止まる。
華はボロボロで、もう身体は赤く、その場所も、手も。

『っひ』

赤い手に、ゾッとして下に付けて、
草花が汚れてしまって、手が震える。
自分がしてしまった。汚してしまった。

「メル。部屋に入って右側の更に右のドアを開けて下さい。」
『え?』
「ルメリア様が言っていたのを聞いていました。ドアを三回ノックして。」

自分で言うなら、開けて開けてドアよ開けて。
確かそうだったはずだという彼に、サワアはというメル。

「いいからはやく!!!!」
『っあとできてよ!!ぜったいだよ!!!!』
「ええ…メル」

そう言われて振り返る。

「これが終わったら、花冠を交換しましょう。」

その言葉に、うんとメルは頷いて強く駆け足で戻る。
さてと、ゆっくり立ち上がり、サワアは杖を持ち直した。

「…絶望的な力の差で、それでも立つか。」
「っさて、どうでしょうか!!」

ばっと飛び出し、蔦に絡まれつつも気を抜かずに全力で戦うサワア。
メルは扉を開けて扉の前で先程言われたことを言ってはドアを開ける。
正解ならば白か黒の世界が広がると聞いているのはメルも知っていた。

だがどうやって言えばいいのかまで、メルの知能は追いついていなかったのだ。

何度か開けていると、高いぱんという音に身体が止まる。

『……さわあ?』

気になって駄目だと思っても身体が動く。
戻って思い出さなきゃと思っても、その姿に、息が出来なくなった。

ぺたりと向こうの扉先で寝ている彼に、身体が動いた。

「ん?」

駄目だ、絶対に帰ったらいけない。怒られちゃう。
でも、それでも、それでもいやだ。

一緒に入ろうって逃げようって言ってくれた。
彼の言葉を、私は守ってやらねば、彼は死んでしまいそうで。

もう二度と、彼に会えなくなる気がして怖くてこっちを選ぶしかなくなった。

走り続けるメルをみて、プラティアは目を細め憐れだなとぼやいた。
げほっげほっと吐血をするサワアに、メルがサワアに声を掛けながら
走っていたのを何とか止めてる。痛みが出て足を見れば、下が草原なのだ。
急に変な動きをしたら足が切れるのは分かっていたのに。

痛みを考える暇があれば人をとメルはサワアの身体に固まった。

『さ、わ、あ?』

天使は死なない。そう、それは、その前のお話。
余りにも小さな力であれば、綺麗に消えてしまうのは分かっていた。
サワアは分かっていても、時間稼ぎくらいはしたくて。

でも、

「っめ、る、なん、でかえっ」
『ど、して?ねぇ、なんで?』
「に、げて」
『やだ、っ、やだやだ、やだよ!』

一緒に、一緒に逃げようよ!手を取るから!ねぇ!あるいてよ!飛んでよ!
そう泣きだすメルに、サワアは泣かないでとメルの頬に手を当てる。

「お、ねえ、ちゃ、な、るん、でしょ?ほら、なか、ないで」
『〜〜〜〜〜!!!!さわあ。さわあが、いないと、やだよお。』
「〜〜〜っ、ぼ、くだっ、て、きみが、いないと、い、やだ。」

もらい泣きしたのか、サワアもポロポロと涙を流す。
その時、バンという音と共にプラティアの身体が落ちる。

「…クス」
「っはい」
「君は大神官に伝えてきておいで。」
「でもメル達は」
「いいから、メル」
『?』
「クスに挨拶を。」

その言葉に、メルはそっと起き上がりクスに駆け寄る。

『またね。メルの大好きな、メルだけのお姉ちゃん。』
「…エフェメラル?何を。」
『いって。メルの力あげるから。』
「えっって!!!」

これ風の強度あげすぎいいいいいいい

そう文句を言うクスが軽く吹っ飛んでいったのに、メルはケタケタと笑う。
ああおもしろいと笑っているのに、サワアはふっと笑って痛みに苦しんだ。

魔女の力はじわじわ来る上に、ずっと気を消耗させてくるので
サワア程だといくら天使でも回復が遅くて間に合わない。
すぐにメルはサワアの元に駆け寄る。


「…随分とやってくれたなぁ?」

【プラティアよ】

その言葉にゾクリと感じる音に、メルですら震えた。
ととさま?そう言う彼女の声などもう、聞こえない。
本気で戦い始めた彼に、サワアは何とか起き上がり、
地鳴りの音もあるが、とにかく扉の近くに、かつ廊下の方に来た。

「こっちからはしったらだいじょうぶ」
『…さわあは?』
「あとでいく」
『うそ。うそつき。こないよ。』
「ほんと。」
『うそ。こないよ。いくじなし。ごうじょうばり。ふんだりけったり。』
「…それ、なんか違うくない?」

そう言われて煩い煩いと叫ぶメル。
えぐえぐと泣きだしたメルに、サワアはならと声を掛けた。

「僕はどうすればいい?」
『え?』
「僕はどうしたら、君は笑ってくれる?」
『それは…その。』
「…ねえ、める」
『な、に?いやだ、ききたくない。』

あとにして。いまがいい。あとがいい。
そう押し問答が繰り返される。

「ぼくまてるよ」
『いや、え?』
「いいこで、いてあげる。」

そうポロポロ涙を流すサワアに、だからねと指を出す。

「めるも、いいこでいて?そしたらぼく、むかえにいってあげる。」
『…ほ、んと?いいこ、なら、きてくれる?』
「うん。いいこでなくても、めるが、てをのばせば。」

どこにだって、とんでいく。

そう笑うサワアに、メルはうんと指を合わせる。

「だから、わらって?」

めるは、わらったほうが、かわいいよ?
そう言われて、目を丸めたメルに、メル?とサワアが言う。

『…ん!』

そう、笑って見せるメルに、サワアは目をキラキラさせて、うんと笑った。
これが正解。これが正しいのね。

『おぼえなきゃ』
「え?」
『なんでもない。それよりこれ。』
「なにこれ」

ぷちっと千切ったメルはサワアにはいどうぞとプレゼントする。

『メルのお華!』
「〜〜〜〜!??!?!?!?!?!」
『なんでも一つ、お願い叶うよ?』

作ったやつと混ざってるから、どっちか分からないけど!
そう笑うメルに、尚更もらえないと言われるが、ぐっと押す。

『じゃあ貸してあげる』
「は?」
『だから、かす。わかる?』
「い、いやわかる、けど、え?は?」
『サワアはメルのこと沢山覚えてくれる代わりに、メルは沢山いい子でいてあげる。』

だから、もし、サワアが、その時になったら。

『メルのお華、返していいよ?』

勿論食べたって良い。そう言う彼女に、ならと手に取る。

『やくそく』
「…ん。やくそく。」

明日なんてこない。願いなんて叶わない。
皆嘘つきだと思っても、自分が招いた種だ。
私が頑張って果実から離れたら、いや、そんなのどうでも良い。

あのことに、後悔なんて何一つない。

サワアがどうにかなるくらいなら、
何処に行っても居なくて、帰った先も、何もないならば。
待たせるくらい、やらせてしまえばいい。

そうしたら、長い時間過ごす彼らは何時しか忘れ去る。
そうしたらいい。そうしたら、私だけが生き残る。
その時は、一人じゃない。彼は何処かに生きているのが分かる。

それだけで、それだけでいい。

欲など捨てろ。今すぐこの場で。
華になど渡すものか。この欲は、自分だけの願いだけだ。
なんなら、世界が全て終わったとしても。

この願いだけが、残ればいい。

嗚呼、どうせ、華に願うなら、そうしたらいい。

どうせサワアだし。どうせすぐに忘れるだろう。

うんうん。天使だもの。私の事なんてどうでもいい。

『…ダイジョブ。いける。』
「…ま、いいか。」

どんという音に気になり、無理矢理サワアはメルの華を消し去る。
前に大神官から杖を仕舞う要領で仕舞い込んだのだ。

「っいってめる」
『でも』
「大丈夫。何処に行っても、何をしていても。
僕が、此処から。お空から、君を見てあげるから。」
『〜〜〜〜っ!!!!』
「だからどうか、前を向いて。お空を見てて。」

何時だって其処に、生きているから。

そう笑うサワアに、うんと今度こそ強く頷き駆け出す。
ソレを見て、安心してサワアは今度こそ意識を手放したのだった。