駄目なら駄目で構わない




前回のあらすじ

表沙汰:メルとサワアが喧嘩して仲直り
裏沙汰:メルは理をある程度理解し、加えて魔女らが仲間に加わりました

以上

メルは現在フードを取って声を上げた者に賛成していた。

「っあつい!!なんだここは!!!」
『マジでそう!!!死ぬがこの衣服!!!!』
「流石に着替えた方がいいにしても、アレは流石に…」
「そんなこともありつつ、持ってきました着替えろメル!!!」

そう言われて持ち物を持たされたので、しぶしぶ着替えてきたのだが。

『ねぇマジで戦犯だろこれ絶対戦犯…!!!!』
「っ!!」
「おや、可愛らしいお着換えですねぇ〜〜?」
『リサ!!!』
「っはははは!!一応2着くらい大急ぎで仕立てて正解だったよ〜〜〜!!」

嗚呼可愛いねぇと笑うリサにメルは顔を赤らめてプルプル震えている。
淡い緑のバンダナを上で華を使って止め、後ろの髪はそのまま下ろし、
左右の三つ編みはいつも通りに垂れ下げている。

全体的に薄い黄緑色のタンクトップと深い長ズボン。
強いて言うならタンクトップの胸下あたりで
へその中央に向かって長めにカットされていた
その丈の短さと言ったらなんといおう。

腰元は太ももの付け根あたりにある股の骨部分が見えた下から
ビルスらが着ている破壊神の様な緩いアラジンパンツを付けていた。

左右の腰元には金色の装飾。メルはむうと声を上げて叫ぶ。

『私の白いやつ何処持ってったの!返してよ!!!』
「さっきのは少しぶあついから駄目。熱中症になるぞ。」
『やぁ、だ、だとしても恥ずかしい……』
「大丈夫。それにアタシらよりかはまだマシだろ。」
「いやほんと君達驚く位に羞恥性ないね…」

まだメルの方がマシである。リサは胸元を隠しているだけ。
下はメルと同じ様に緩めのアラジンパンツを着ていた。
おもいっきり背中がぱっくり見えているのに、気付いたリサが嗚呼と答える。

「別に通気性とか配慮すればいいだけだし、
お前達に媚び売るつもりもくそもへったくれもねぇからなぁ。」
「…一々癪に障る言い方するね。君、破壊するよ?」
「出来るもんならやってみな?こいつが許せばいいけどな?」
「うぐっ」
「ビルス様、抑えて下さい。一応アレでも彼女の一部なんですから。」
「あ、あはは、おいおい、勘弁してくれよ。」

ウイスのフォローが苦しく、思わず苦笑いするリサ。

「それにしても細いですねぇ〜?ちゃんと食べていますか?」
『うぐ』
「ヴァドスさんがご心配されずとも、
一応お食事はとらせるようにしていますよ?」
「あら、そうですか。なら構いませんが…本当にそんな身体で大丈夫ですか?」
「確かに、少々筋肉どころか肉すらついてなさそうにみえますが。」

薄いなぁと言う二人に、サワアの後ろに思わず隠れる。
背中をトントンと叩き、大丈夫ですよと答えた後二人ともとため息交じりに言う。

「余り虐めてやらないで下さい。」
「…ふふふ、わかりました。」
「ええ」

そのままゆっくりと先を進みだす一行。
前はアルトリアとリサを挟むようにビルスとシャンパが歩き、
その後ろにサワアとメルを挟むようにウイスとヴァドスがついて行っていた。

「それにしても、日に日に力が満ち溢れていまして、
その身体で支えるには厳しいと思ったのですが…」
『嗚呼、そんなに?私そんな感じないけどなぁ。』
「元からそういうつもりで動いていれば
そりゃあ気付かないのも当然でしょうに。」
『むう。サワアが意地悪。』
「なっ!…もう、じゃあ私はどうすればいいんです?」
『ふふ、そのままでいいかなあ〜〜』
「なら言わないで下さい。」

クスクスと笑うメルに、つられてウイスも笑う。

「本当にお元気そうで何よりですよ。メルさん。」
『いやいや、お兄さんもお元気そうで何よりです。』

あと出来れば身長縮んで欲しい。
おや、あれ程くらいは少々厳しいですねぇ。
そう笑うウイスに、メルも笑う。

サワアとコルン、ウイスの三人がメルの元に行った時の話だ。
小さな子供たちの相手をしていた
メルの目の輝きようと言ったらもう凄まじかったもので。

『嗚呼そうそうウイスさんあれまってサワアこれ言っていいやつか?』
「なんです?何処の話をしようとしているんですか?」
『あの樹海のアレ』
「…嗚呼、別に構わないのでは?」
「何の話しでしょう?」
「旅先の道中に助けられたのですよ。」

貴方も知る、彼女らの姿にね。
そう言ったサワアに、例の彼女らを思い出させ
嗚呼とウイスが答える。

『皆手を引っ張ってくれて、背中を押してくれたんだ。』
「それは助けて貰えてよかったですねぇ。今度お礼を言わねばなりませんが。」
『言いに行こう。そして、演奏会を応援しに行こうよ。』
「え?ですが、あの場所に辿り着くには難しいというか不可能では?」
『いいやいける。絶対に。』

そう言うのだ。メルは、確実に行ける道を見つけている。

『今はちょっと深くは説明出来ないけど、
今度サワアと私とウイスさんとコルン様全員で行こうよ。』
「…ええ、それは是非とも。ご参加させて頂ければ私も嬉しいです。」

彼女らに礼を言えていないのだ。
きちんと伝えきれずに来てしまったのだから、少し心残りではあったとウイスは言う
なら、尚更であってだな。後悔など、全部拭い去ってしまわねばならない。

『金賞取って全国いかないかなぁ〜〜無理かな〜〜』
「きんしょう?なんです?それ」
「貴方達が見ていた彼女らの活動は、
とある団体のとある大会に向けてのメンバーだったのよ。
その大会には金、銀、銅の三種が必ずつけられる。」
『金賞でもその中に選ばれた者達が次のステージに移動できる。』

地域別の勝ち抜き戦って思えば皆分かるよ。
そう言うとヴァドスやビルスらが嗚呼と声を出す。
闘いと同じで、勝ち抜きトーナメント戦だと思えばいい。

実際には違うのだが、まぁ上がっていくところは同じである。
それが単体なのか、集合体なのかの違いなだけだ。

「じゃあ金になれば上にあがれるのか?」
「いいえ、そういうわけでもないんです。」
「そうなのか?」
「金は金でも、その枠があります。
大体その場所ひとつにつき一つ。
あるいは多くても三つです。」

例えば100の団体があり、金賞はそのうち10しかなかったとする。
次に進むには2つしかないという時、金賞の選ばれた10から選出される仕組み。

『人はその外れた金を、出場が出来なかった駄目な金賞。
略して駄目金というものがありましてだね。』
「そんなものになってほしくないと?」
『い〜や、寧ろなって欲しいかもしれないのが困った所でしてねえ?』
「せめて四国までは行かせてあげようよ…」
『四国の駄目金と別の地区の駄目金の差が歴然でしょうに。』

他の地域だと地域別から始まり、県、その周囲、そして全国と進んでいく。
一方で少ない所だとまとまって行われるので、
四国は一つ抜かして県から始まり、その周囲、そして全国と進む。

『まぁ四国の駄目金も美味しいだろうなぁ。』
「そんないいものなのか?駄目なんだろう?」
『上を望むならば、の話だよ。行くことというよりも
成すための道筋自体に意味があるというのだから。』
「…ま、成長してくれたら嬉しいってことだよ。」
「そういうものなのか?」
「それにしても行くとしたら手土産とか此方から持っていく等出来ないのでは?」
『其処ら辺は後で考えるよ〜どうせするとしたら
向こうでぱっぱにでも会って何かしら作って遊びにいくくらいだよ。』

それくらいはさせてほしいというものだ。
なんなら私達は彼女らに一度ならず二度までも助けられている。
正直礼とは言わず、その運すらも味方にして送ってあげたいところだが

そうしたら、私は今度こそ彼女らに見捨てられることになるだろう。
きっと怒るぞ〜?そんなズルなんて望んでいやしないとね。

『だから駄目金くらいが丁度良いなぁって。あわよくば銀とかでもあり。』
「…ほんと、狡い人ですよね、貴方という方は。」

何処までも、その人の可能性だけを見据えて。
己を引いて、その場所を愛おしそうに見つめるだけで。

その中に入ることすら、考えていないというのに。

『いやだって…あ』
「ん?どうしました?」
『いや、滅茶苦茶綺麗だなあって』

ウイスの方を向いて言おうとして、直ぐに気付いた。
此処は山をゆっくりとではあるが上って行っている処。
火山の麓とはいえど、他の陸地よりもはるか高い場所にあるのだ。

『ねぇリサ!あっちが樹海でその奥が来てた所?』
「んお?嗚呼そうだぞ。そこの草原からこっちに来ているから、
向こうがアタシ達が居た港街でその奥が更にいた処だな。」

そう指を指して休憩がてら話をするリサにへぇとメルは声を上げる。
下に落ちるなよと言われてはぁいと声を出すだけ出して空を世界を見る。

『きらきらで綺麗だねぇ!』
「…この星が好きか?メル。」
『ん〜まぁまぁ!』
「おっと、そうきたか!」

頭を撫でられて嬉しくなって目を瞑る。そうして少し期待をしてしまって。

目を開けて、嗚呼と声が漏れた。





「頻繁に来るのは、忘れない為?それとも戻らないつもりで慣らす為?」
『…どっちもありだなあ。』

額縁に飾ったその場所を見ながらメルは目を閉じて噛み締める。
光りなどない。ただの暗闇に、目を覚ましても空白しか広がらない。

『ねぇ、此処の時間ってどこまでも進む?』
「いや進む戻るの概念が無いから向こうからしたら一瞬の時間になるはずだ。」

例えばAから経由で此処に飛んで、Bに行ったとする。
それも同じだが、Bの時間軸とAの時間軸はずれる。
必ず此処に戻ってこないと、直接AからBの移動は止した方が良いという。

「大体C程ではないが、Bの時間はAからして遅い。
お前が居た11年という長い月日に対して
Aはたったの数か月程の月日だっただろう?」
『まぁ確かに。』
「移動は出来るが時間の進みが変わる。
勿論移動した後戻っても変わらないから注意しろ。」
『じゃあ此処に必ず帰って来ないといけないってことか。』
「勿論時間だけではない。その願いというか肉体の関係もある。」

えっそうなの。

「お前がCに行ってルメリアと共に回復をしていた時。
同時にその身体も魂も残れるように欠片を置いて行く期間が必要だった。
その為1の時間はそっちで対応していたんだよ。」

まぁ2とかはBとかに行っていて、それもイレギュラーで驚いたが。

「額縁に入って移動するのはその願いというよりも元の場所に戻る感じだ。」

向こうを見てみろという彼に対して目を向ける。
其処には一つ額縁が。更に別の方にも額縁が見えた。

「此処はお前が望んだ額縁が立てかけられている。
勿論他の額縁もお前が望んだ時の時間が綺麗に作られているぞ。」

正直それぞれの世界にこんな綺麗に覚えられるのは中々ないという。
Bの方には誰かと友達になろうと、
手を伸ばして握手をしようとしている姿が

Cの方には家族でピクニックを過ごそうとしている絵が立てかけられていた。

「それぞれにお前は移動出来る。勿論廻廊が繋がるあの12の扉からもだ。」
『そっちから移動したら時間は?』
「ほぼ同じになる。こっちの経由に近いからな。
ただし管轄の人間でないと出入りは不可能。」
『じゃああいつらが敵に回った時が厄介か。』
「そういうことだ。」
『此処に来れる人間は?』
「今のところお前以外は知らない。此処に迷い込んできた子なら一人知っているが…」
『え゛』

それもかなり昔の話。もう生きてすらいないという彼に良かったと安堵するメル。

「まぁ安心しろ。魔女や悪魔までも引き連れるお前なら、きっとその形は叶うだろう。」
『…知ってたのね。』
「我を誰だとお思いで?」

この理の中心に位置する神様ぞ。

「其処ら辺の情報など手に取るようにわかるというもの。
まぁお前が知っているように、魔女らは理を一度知ることになる。
全てを知って尚、ソレを理解し、縋り強さを極めた者こそが此処に選ばれる。」

それが、プラティアだったということか。
いやだとしても、後一人は何処に……

「それはお前が決めることだ。」
『え?』
「その動物にするのか、カランコエという我の片割れにするのか。」

それとも、お前の想い人にするのか。

「選択肢など幾らでも作り出せる。お前が決めてお前が作るのだ。」
『神様…でも私、いやそもそも赤本無くしちゃったし。』
「赤い本?ひょっとして、アニュラスの書物のことを言っているのか?」

目を丸めた少年に、え?知ってるのとメルが聞く。

「いや、知ってるもなにも、アレは代々華樹が選び抜いた選りすぐりの人間のみが書き記せる
この理に選ばれた者が書ける、所謂物語なんでも本だぞ????」

いや最近見ないと思っていたが、誰かに貸したか?
そんなはずは、嗚呼そうかと声を上げた。

「あいつに貸してそのままだったな。成程、そうきたか。」
『え?なになになに、また謎増えたんだが。』
「嗚呼気にするな。どうせエンドロールの先でわかること。」

大丈夫、先に進めと笑う神様。

「我を使うのもよしだ。まぁその本がお前を選んだに等しいだろうがな。」

そう言ってメルの頭を撫でる彼に、くすぐったいとメルは笑って言う。

「ほんと、お前達は面白いから飽きないというのだからなあ。」
『え?』
「そろそろ時間がずれる。流石にこれ以上引き留めるとまずいからな。」

さっさと戻れと言われて突き出された。
ぱっと身体が動いたメルに、どうしたの?と声を掛けられる。

『あ、ご、ごめん。ぼーっとしてた。』
「ええ〜〜〜そりゃないよお」

何の話の途中だったかすら忘れていたので
もう一度説明してもらうことに。ごめんて。


「火山ストリダはこの先数キロを超えた所にある。」

流石にもう日暮れが近いから此処で野宿だというリサに
何処も入る場所ないのではとメルが聞く。

「んん?お前知らないのか?おいアルトリア!!」
「は〜あ〜い〜。なんでしょうがな。」
「お前華の使い方教えてなかったのか?」
「嗚呼、その子小さかったからね。その手の話は皆無だよ。」

そう言ってアルトリアは力を使いつつその周りに草木を生やしていた。

「嗚呼そうかついでだからメルもしてみる?」
『えっあっえっえ、なんしとん????』
「華神の基礎中の基礎だよ。自分の気を種にして地面にぶち込む。」

はいやあ!と思いっきり投げつけるアルトリアに
そんな勢いよくしなくてもとメルは冷ややかな目で言う。

「次にどんな場所に居たいか暮らしたいかとか、その形を頭で想像する。」

手をこうやって組んで祈るように。
そう目を閉じるアルトリアの前には、大きな樹が広がり
その樹の実の中に入れる様な一室が設けられたではないか。
その力に、おおと周りが唸る唸る。

「界王神ら創造の応用版でしょうね。それにしても素晴らしいお力で。」
「その力は衰えを知らないようですね。流石です。」
「いやあ〜〜〜。これくらいは造作もないことだよ。」
『…ん。』

ピンと種を作ってちょこんと地面に植えてみる。
想う様にと言う彼女に、メルは跪いて目を閉じ其処に祈る。
すると花が草木が生い茂り樹を生やそうとしたその瞬間だった。

〈駄目だよ〉

『え?』

〈こっちは駄目〉

そう白い髪の毛の少年がメルの上で手を広げて姿を現したではないか。
その姿に一同が驚きメルの元に掛けようとした時だった。

「っな、か、からだが」
「うごかない…!?」

〈君の種は強力過ぎるから駄目だよ?エフェメラル。〉

『…どうして』

〈これは、僕のだよ?下界の生命らよ。〉

そう言った彼にメルは振り返る。ヒッと声が上がるのも無理はない。
ギロリとサワアを始めウイスら全員がその少年に向かって殺意に近い気を放っていたのだ。
勿論メルが怖がることを考慮してかなり抑え気味ではあったのだが。

固まったメルにふわりと背中から少年が入り込む。

「触れないで貰えると助かります」

出なければ今すぐにでも貴方を殺しかねないので。
そう言うサワアに、おやおやと少年が笑って言う

〈この子がそんなにも大事かな?天使の子よ。〉
「……っ」
『ちょ、駄目だよ神様!なんで出てくるの!?』
「かみさま?」
「メル様ご存じだったので?」
〈嗚呼ごめんごめん、君が物凄く綺麗に管理しているから誰かと見たくなって、ねぇ?〉
「っ!!!!」

サワアと声を上げたメルが止まる、いや動けないのだ。
彼が肩から手を胸元で組んでから、動けないことに気付いても遅い。

『さ、わ…?』
〈…エフェメラル〉
「メル、駄目です振り向かないで」
『え?でも』
〈エフェメラル〉
「私は大丈夫なので、ね?」

身体を何とか起こす彼に、困ってでもと声が出る。
周りの者達よりも明らかに違う桁を押し続けているのだ。

へらりとわらってくれる、その姿は。
あんまりにもあの日に、似ていて。

〈…君はそれでも其処を見据えるんだね。可愛らしい存在だ。〉
「っ…」
〈要らないと世界が言うなら、僕が貰うよ?〉
「だれが要らないと言うでしょう?必要に決まっているでしょうが。」
〈随分とした口の利きようだね?躾がなっていないようだ〉
『っ駄目!!!』

手を出そうとした少年の手をメルは両手で取って首を横に振る。
いやだいやだと、その視界が歪んでしまって。

『ヤダやめて、もう、やめてよ。』
「メル様…」
『いらない、いらないから…ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ、いらない。』
〈…泣かせるつもりはなかったんだよ。ごめんね、エフェメラル。〉

そっと背中から抱きしめる彼に、メルは大粒の涙を流してその場に崩れ腰を落とす。
左腕を止めて何とか力を使わせない様に胸で抱きかかえ、震えながらも涙を流して首を横に振って否定する。
少年はそっとメルの頭に頬を置いて、その頭を優しく撫でて目を閉じていた。

『ううっ、ひっ、く、うう、やあ、やあだ』
〈うん。ごめん、ごめんね?エフェメラル。〉
『も、もお、とら、ないで…もう、やなの』
〈…うん、大丈夫。大丈夫だよ?僕らのエフェメラル。〉
「…なにが、おきて」
「膝をついて下さい。」
「っお父様?!どうして」

言う事が聞けないのですか?そう言う彼の顔つきに、ウイスらは跪いた。
その前にそっと跪いて、お許しをと彼は言う。ぶわりと風を出しその姿を現して。

〈良い良い。この子が望んで縋るそのお前のお子がどんな奴が見たかっただけだ。〉
「…無礼をお許し下さい。」
〈此方こそ悪かった。この子も凄く怖がってしまって。〉
『っふ、ひっう、もう、いじめないでえ』
〈っくくくく、分かった分かった。力を解いてやるから。〉

そう言って彼についていた力を全て振り払う。
身体を動かしたサワアが目を少し丸めていた。

〈本当に、お前は選ばれてしまったんだなぁ、エフェメラルよ。〉
『え?なんで?どうしたの?神様。』
〈お前らが手放すなら、人間も悪魔も天使も要らないなら。〉

僕がずっとずっと、傍に居てやろうというのに。
こいつらはお前が一等好きだから渡したくないと言っているんだよ。
そう頬にキスを落とす彼にメルは目を丸めて首を傾げた。

ふと思い出したかの様にちらりとメルの髪を取ってみる。

〈…エフェメラル〉
『なぁに?』
〈約束だ〉
『え?』

戻してあげるそう言って彼はメルの後ろ首に人かじりしたではないか。
その姿にメルは声を上げ、周りは固まった。

『ひぁっ!?!?えっまっ、なに、して…』
〈動かしてごらん〉
『ふぇ?』

股に両手を置いてそのまま前に身体を下ろそうとしていたメルが振り返って言う。

〈ほら、ゆっくり、鳥が羽根を飛ばすように〉
「……う、そ、だろ、あれ、まさか」
「…その昔、この世は一つにありました。」
「お父様?」
「一つの理が一つだけを零し、その一つだけで世界は均衡を崩す。」

なら二つ、でも、均衡を崩してしまう。
ならば、三つにしてしまおう。互いに見つめあい、
その小さな輪の中に、その理は維持し続けようと。

「そこは全ての始まりであり全ての終わりであるところ。」
「その、全王様とかいう奴も、そこから?」
「勿論。そしてその理を司るその者が、あちらにおられるお方。」

全てを統べる存在。名など、恐れ多くて声すら出せないというのに。

小さな声がぽつりとつぶやく。

『…アニュラス?』
「っ!?!?!?!!」
〈…へぇ?どうしてそれが僕だと思って?〉

腰をぺたりと下ろしたメルの元は
いつの間にか金色の草原が生えていた。

そのうえでメルは首を傾げて少し身体をずらして言う中、
その背中に生えて来ていたモノに目が留まる。

「……まさか」
「なぁ、なんか白いのみえねぇか?なんだあれは」
「翼ですよ、リサさん。」
「え?翼?」
「そうですか、やはり、そうだったのですね。」

道理で全王様もお喜びになられるというもの。
そう納得する大神官にどういうことだとリサは言う。

「あの翼は天使の翼ですよ。リサさん。」
「え?でも」
「まぁ、天の意味が少々違いますが。」

メルは身体を逸らせ、少年の方を向いて首を傾げていた。
ちらりと向いた視線に、左側からメルは背中を見てみた。

其処には、白い翼が、徐々に姿を現し、
その翼を大きく広げようとしていたではないか。
綺麗な白い羽根は、何処までも透き通っているようにも見える。

指を鳴らした少年に対し、メルの衣装も変化した。

翼が動けるように背中はくっぱりと広がるも、
胸元部分は前を隠す意味でも布が布かれる。

腰元は金の装飾が施されつつも、その下は太もも半ばで白い布は切れていた。
白い身に包んだ彼女の頭は、バンダナの代わりに草冠が置かれていて。

紺色の髪色と、黄緑色の目が綺麗に生える。

まるで何も分からないかのように、つぶらな瞳で少年を見続けていた。

『…これは?』
〈君が捥いだ翼と同じものだよ。大事に保管されていたから馴染みやすいだろう?〉
「っ!!!!」
『えっと、どうやるの?』
「メル、だめ」
『え?』
「サワアさん」
「…無礼をお許し下さい。」
〈よかろう〉

今僕はとても気分が良いという彼に、メルはねぇと声を掛けた。
何故かサワアらに意識を向けてはいけない気がして。
それは的中しているのを、肌で実感するのだ。

だから、だから、こっちをむいて?

私が貴方に両手を指し伸ばすから。

大丈夫、もう、なんにも、怖くなんてないよ?

『神様、お願い、使い方教えて?』

この綺麗な綺麗な、大きな翼を。
そう言ったメルに、少し目を丸めていた少年がニコリと微笑んだ。

勿論喜んでと。深くお辞儀をして。


〈君の知る鳥たちの感覚で翼を広げてごらん?〉
『えっと、こう?』
〈そう、上手だね。エフェメラル。〉

うんと笑うメルは、そっと少年から両手を取られて
まるでダンスをするように手を合わせたまま少し上に持っている。

『うん?うううううん、んんんんんんんん』
〈ぷっははははははは!!!!ひい、やめて、くっくるし!!!!〉

口を開けて笑う彼に、むうとメルは怒る。
頑張ってるのにいと文句を垂れている中、ごめんごめんと笑って答える。

ぱたぱたと動かすメルだが、空を飛ぶなんてことは知らない。
そもそも記憶があるのは大体飛んでも数度くらいである。
そんな永遠とばんばか飛んでいるわけではないのだ。

〈君は翼を持っても空に飛んで帰って来れるかな?〉
『え?神様なにを。』
〈おや?この僕の名前をもう忘れちゃった?〉
『え?あ、うん。忘れた。』
「っ?!!?!?!?」
〈…もうほんとに君って正直過ぎるよね。〉

流石に其処迄来たら消滅とかしないというか、なんというか。
そう空笑いする彼にメルは首を傾げた。


〈アニュラス〉
『アニュラス?』
〈そう。僕の名前だよ?僕の愛しい、エフェメラル。〉
『わぁ!も!くすぐったいよお!』

すっと翼を触って頬に摺り寄せる彼に、メルはバタバタする。
足を前に出して、ジタバタと忙しなく動いていた。

よっと起き上がって身体を起こすことで、その姿を理解する。
翼は大きく、その地面にすら羽根が落ちているくらい。
身体にしては大きいのに、その重さはとても軽く、大体の目途が分からないくらいだ。

いつの間にか裸足になっていたメルの首元には金色の首輪の下に、エメラルドの宝石が垂れ下がっていた。
左右に金の鎖が装飾され、エメラルドの雫左上と右下部分には草の装飾が付けられていた。

それは、この世界にいやこの理全ての頂点に君臨する者の、使いに位置する者。


人はそれを、「天使」と呼ぶという。