煉獄から脱走する唯一の術
「にしても、とんでもないことになりましたねぇ。
まさか彼女がプラティアを解放するとは。」
「…ウイス、正直僕たちが勝てる算段は?」
「ないわけではありません。が、少々難しいでしょうね。」
あれからすぐに食べていたところに戻り、各々が部屋に入っていく。
華樹の樹の実でも中央に位置する所で会議を行っていたのだ。
因みにメルらは既に眠っている。特にメルの眠さが異常そうだった。
「帰って寸で倒れましたからね。あの感じからして
既に試練が始まっているのでしょう。」
「で、どうやって動く?」
「ひとまずは彼女が消え去るのを待つしかないでしょう。
ソレが合図と言っていましたし。」
「その間に消えてすぐにGOか。」
「一応我々天使がメルを保護に行きます。
貴方方破壊神らは魔女らの相手をお願いしたい。」
「勿論そのつもり。」
だが破壊出来ないのが厄介だよねぇと嘆くビルスに
仕方がないですよと言うのはウイスだ。
「そもそも破壊の対象外に位置する者達。
その為彼らを閉じ込める以外術がないです。」
「飼いならせれば滅茶苦茶強そうなんだがなあ。」
「出来るなら最初からしているでしょうし、
等価交換の桁が不利なものばかりでしょうからね。」
「…ソレをやってのけたのか、あいつは。」
エフェメラルという、存在は。
「正直馬鹿みたいに小さな願いと大きな代償ですからね。
鼻から願いの力といい色々釣り合っていないんですよ。」
「ソレを理解したうえで、
主と慕うんだから怖いったらありゃしないです。」
「お兄様は以前プラティアらと戦ったご経験があるんですよね?」
「…正確には軽く在皺われただけですがね。」
あれだけは、譲れなかった。
なのに、彼女を落とす行為に向かわせてしまった。
「最初からあの子しか見ていない眼でした。
時間稼ぎですら無謀な程に。」
寧ろエフェメラルの方が強かったとさえ思う。
何度も何度も、自分の元にまで帰って来て、華まで渡すのだ。
彼等は、気付いていないのだろう。こっちが本物だということに。
そして、ソレに気付いていないだろう。
メルが故意的に、手渡していたという現実にすら。
彼等は未だに騙されて、メルの味方に入れられてしまったのだ。
その事実を知った神々はそりゃあもう驚いた。
あののほほんとしたというか、無害そうな彼女がだ
そんな大事な物を幼い時から計算して変えるなんて
誰もが想像つかないことをしているというもので。
「本当に敵にしたくない方が敵になりましたね。」
「でも攻撃してこ、ない、よな?」
「いや、場合によるでしょう。
あの子いざとなれば火事場の馬鹿力で正面突破
切り抜けごめんと突き破ってきそうですからね。」
というか実際しそうな未来しかみえない。
「いやいや、天使好きなんだったら攻撃もしたくないとか思うんじゃ」
「そんな甘ったれた考えは今すぐ捨て去るべきですよシャンパ様。」
「ああ?!なんでだよ!!!」
「彼女の願いはなんでしたでしょう?」
「いや、こいつと花冠交換するだけだろ?」
そう言ってシャンパはサワアの方を指さす。
それだけなら可愛いというものとヴァドスは答える。
「彼女は其処ではなく、ひと時だけを望んだのです。」
「そこ?どこ。」
「大神官様も仰られていましたが、エフェメラル様は
花冠を渡すひと時の儚い時間そのものを待ち続け、
そしてその願いが果たされそうになる時に戻られると決めたのです。」
華など、咲かせてはいけないというレベルなのに。
なのに、彼女は咲かせていたのだ。
試し華とは言えど、その小さな花を、一体何時から?
彼女は一体何時の時に咲かせた華だというのだろうか?
「あの子は本当に見せたくないものはダミーを何重にも伏せて本質を隠す子です。
嫌うことなどないのに、怖がる必要などないのに、それでも隠すんです。」
もしもの時があった時、その瞬間絶望に身を染め、
愛した者達に危害を加えることがないようにと。
「その先までも見据えて、己を律し、
とにかく前だけを向いて走って来たという、
華樹に選ばれ続けた二人のお子ですよ?」
「既に我々全員彼女に一度騙されていますし。」
「なんなら私は一体どれだけ騙されたものか。」
「ですが、手札がある程度バレたと言えば楽では?」
そう言うのはコルンだった。
あれから此処にはすべての破壊神と天使が話をしている。
円卓にその身体を向けて。
その12と1の間に身体を置く彼女に問う。
「なぁ?アルトリア様?」
「…はぁ、現在私は中立に
貴方方が変な形を取ったりしない様に監視している身です。」
心に誓う。約束したものを曲げるつもりはないというもの。
アルトリアの目は、華神としてその身を捧げた者と同じ目付き。
「私からサポートは無いと思って頂きたい。」
「ではメルが死ぬとあれば、その身を捧げるつもりか?」
「ええ勿論。私はあの子に選ばれているので。」
もっとも、その華が変わることを、私は望んで等いやしませんが。
そうアルトリアはちらりと髪の毛を見た。
未だに生えるつもりはないその髪の毛にため息を吐いた。
ヘレスの言葉に対してではないのではあるが。
「まぁそうだとしても、貴方方があの子を殺すなんてするつもりもないでしょうに。今更何を言っているのだか。」
「逆に魔女らがメルを殺すというのは在り得ないのか?」
「なくはないでしょうが、恐らく皆無に近いでしょうね。
プラティアが主と言っていましたが、現にプラティアは封印されています。」
これ以上被害を出さない様に、大神官様自らがその瓶を持っているというのだ。
「かつて、あの人は、大神官様のお子でした。」
「……は?」
「え、うそ、だろ?」
「一番目に生まれたお子です。その為エフェメラル様も大層彼女に懐いていまして、
あの子が初めて名前をフルで呼べるようになったのも、プラティア様でしたから。」
ーねぇ、ぷらてぃあは?
「非常に穏やかで、でも時々子供に戻った様に遊んでくれていました。」
ーなぁ、お前は将来何に成りたい?
「優しく、思いやりのある方で。誰よりも先を見据えて誰よりも早く動く方。」
ーぷらてぃあみたいなおねえちゃん!!
「あの方こそ、真の華神であり、華樹神に選ばれるに相応しい方。実力もあった。」
ーぷはっ、なんだそれ!なれるものなら、なってみろよ
「だから、あんな結末など私は知りたくもなかったし、出会いたくもなかった。」
ーこの最果てで、私は寝ていることにするさ。
「懸命にその身を削っていた彼女が、相応しいはずの彼女が。
愛されていた父親に見放された挙句、
その身をその者に管理されているのですから。」
どうして、なんで。そんな悲しい声が聞こえてきて、片耳をそっと塞ぐ。
そのしぐさに、あっと声が上がる。
「どうしたコニック」
「ああいえ、その、一つそれではいいですか?」
「ええ」
「その仕草、貴方の癖でしょうか?」
「え?これ、ですか?いえ、これはどちらかと言えばプラティア様の方でして。」
真似ていたら上手くなるかと思って試しにしたら癖になってしまって。
そう言った彼女に、そうですかと答える
「それがどうされて?」
「いえ、以前、エフェメラル様も同じ様にされていまして。」
「…待って下さい。それって、どんな感じでした?」
「え?」
「あの子はその時々によって塞ぎ方を変えます。」
「確か、左手で、こう、左の耳を塞いで、右下を見ていた気がします。」
それって確か調理された円卓でしたよねと言うアルトリアに
ええ、と立ち会っていたはずのアルトリアに聞かれて困惑していたコニックが言う。
「…いや、まさか。でも」
「なんでしょうか、何かヒントが」
「…こう言ってしまえば、間違いなく我々
ぼこぼこにされそうで怖いですがそれでも?」
「あの子のボコボコがどれ程かによりますが。」
「プラティア様がされていたのは右耳を塞いで目を閉じるだけでした。
視線を動かせば心境がバレるからするなとも言われまして。」
いやあこっそり真似をしているつもりが
バレバレでしてねぇと笑う彼女に何人かが円卓にずっこける。
「ひょっとして…こんな形です?」
「あっ、そ、そうですそれです!!」
アルトリアはそっと、片手で耳を塞いで、そっぽを向いた。
左手で、左の耳を塞いで、右下を見て、
調理され、残された料理らしき場所をみて。
ぎゅっと胸が痛んで口が開いたのを閉じないまま。
目線を料理が見えない方に向けた。
まるで、その時間が、全てを知っているかのように見えて。
嗚呼とアルトリアは笑ってしまう。
「そうですか。貴方は何処までも、ソレを望んでいるというのね。」
バカバカしい程に、真っすぐなんだから。
「何が分かったのじゃ?それは我々に出せないものだと?」
「確かに今後の生死にかかわりそうですね。知るのは少々酷かと。」
メルの痛みは非常に奥が深い。
一見浅く見える其処は、意外と深い。
加えてその水は重たいのに、温度が気持ちよく中に浸かりたくなる。
でも一度浸かれば最後、空気を吸える場所に等、戻れることはない。
あとはただただ、息をゆっくり吐いて、水を飲み込み、落ちていくだけの地獄。
「…ほんと、貴方方はあの子に救われていないというのに。何故其処迄するのですか?」
「救われておるさ。現に今も尚、なぁ?お前ら。」
「あいつが居なければフェルにも会えなかった。あの時だとそのままこいつに会う前に野垂れ死んでいたからな。」
「わらわも然り。ミラに会わずしたらこやつに会うこともなかった。」
「あの時はその後ですからね。」
「僕らも同じ。あいつに会わないと割ときつい場所あったしねぇ。」
「お兄様らと違うのは我々会ってからですが、ね?」
どれもこれも、メルが助けようと手を差し伸べた、選ばれた者達なのだ。
「あの子は助けていないと言っても、
僕らは助けられたと思っている。それだけでは不満か?」
「…ほんと、困った神様達ねぇ〜〜〜?
そんな原初に近い所まで戻らなくてもいいのになぁ。」
「そういえば原初は華神らだけでなく、破壊神らもですよね?」
「ええ。嗚呼あの子らは捨て駒に近かったから気にしちゃ駄目駄目。」
今の貴方達の方がよっぽど危険だというのに。
アレに目を向けるのは意味がないに等しいのだ。
「それに、貴方方の方がよっぽど原初に近しいもの。
なんなら原初還りに一番近いんだけどなぁ。」
「原初還り?なんですかそれは。」
「華神らは死んだら一度ループされるの。人間やら天使やらね。
何度か忘れたけど、繰り返していくうちに華神に戻ったりして
ふとあの白い世界に飛ばされてしまったりするらしいのよ。」
それは理から離れた存在。
「神に選ばれたとされ、その者達の魂が
ある日突然華神らと同じ作用をもたらす。
原初に還るから、原初還り。」
「ほぉ?我々全員と?」
「あったらマジで怖いわよ。次の理切り替えが末恐ろしいわ。」
もし、それを理解して彼は手を差し伸べたのならば。
あの人は一体何を知っているというのだろうか?
ま、そんなの考えるだけ無駄というもの。
「にしても困りましたねぇ〜まさか我々天使らも管轄に入れられるとは。」
「全くですね。死にはしませんが、死ぬよりも酷ですよ。」
「ですがもし万が一負けたらどうなるのでしょう?」
「嗚呼そこら辺あの子ちゃっかりしてるんで大丈夫ですよ。」
「お兄様そんなあっさりと…」
そりゃそうですというのはクスだ。
「あの子はああ見えて滅茶苦茶頭切れますからね。
モヒイトさんは知っているでしょうが。」
「…流石にあの作戦は参りました。
顔やら性格やら考えることから
桁を外れた別人みたいな考えだすんですからね。」
加えて指示の的確な丁寧且つ
ピンポイントで知らせてくるとは。
本当に困ったものでして。
「ま、気を抜かずにやれば勝てるでしょう。」
「気を抜かせてくる奴らしかおらんのが難点じゃがな…」
「はは、言えてる。」
空笑いするものに、各々も笑ってしまう。
ほんと、面白いゲームを、彼女はもたらしてくるというものだ。
『ほんとなぁ、面白いの出すから困るんだわ。』
「っ!?!?!?」
『あいつも全く種である我を痛めつけるとは何事か。』
「か、らん、こ、え、の方、か?」
『あ〜すまんすまん、正直種明かしをすれば我が奴の種なんじゃが。』
アニュラスのそう言う彼女に正式名称と答える。
『正確には我がアニュラスだ。まぁカランコエというのはこやつが言い出した馬鹿みたいな名前だからのお。』
「ばかって…」
『一応言っておくが、0番目を知った後に出てきたカランコエもアニュラスの種であるもの。』
まぁそれに気付いたのが一人、いや二人しかいないのが驚いたが。
『なぁ?サワア…いや、前世の名で呼んだ方がいいか?』
エテルネルよ
その名に、ぶわりとサワアの気が一瞬膨れたのを、神々も気付いているわけはなかった。
『永久が原初還りなどしたらたまったもんじゃないが…まぁある意味引きあう運命ともいえような。』
「どういうことじゃ、なにが」
「気にしなくていいですよ、ヘレス様。」
「じゃが」
「どうか、何も知らずに。」
そう言う彼の目が、何故か、一瞬金色に見えたのは、気のせいだと、思いたい。
『ま、我はアニュラスとしてのちに戻る。これで全てが戻るというものか。』
「…私は貴方の中に居るお子を連れ戻すつもりですが?」
『我はこの子を連れ戻しに来たという者。お前の様な者に等渡すわけがなかろう。』
それとも言ってやろうか?
『悪魔が善になり天使になったところで、こやつの願いはずっと変わらん。』
「…っ!!」
『ほんと、思い出した時驚いたわ。縋るこの子の願いは、花冠は。』
悪魔が人に落ちた天使の者とのひと時の楽園だったのだから。
そう笑ってカランコエはメルの状態のままサワアの頬に触れてからふわりと上に上がる。
理が書き換えれば、お前が生きる場所もなくなろうよ。
そう言う彼女に本当かとヘレスがサワアに聞く。
「…深くは想い出していませんが、事実ではあります。」
「っ」
「安心して下さい。現在は天使ですから。」
あんな心を呼び覚ますことなど、もう力すら残っていない。
あるのはただ、小さな記憶のみで。
あの時も、紺色の髪色をして、黄緑色の目を灯していた。
黒い髪の毛を、赤い瞳をした自分を。
あの子は大丈夫だと優しく抱きしめてくれて。
その身体を貫いてまで、助けてくれたというのに。
ーいつか、また、あえたら、そのときは、いっしょに、いれたら、いいなあ
それだけだった。たった、それだけの。時間だった。
『…無理もない。ソレは現在の全王様ではなくその前の、前に位置する最初の時間。』
もうとっくに消え去ってもいいはずの魂らが、世界を超えて、その場所に戻って来たというのだ。
「だとしても記憶が引き継ぐことはないのでは…」
『それは華樹自体に入っていなければの話。こやつが居た時代は我の管轄時代だったからのお。』
「…あなた、一体何時から生きているというのですか。」
『最初と言えば最初じゃ。遥か遠い昔のお話。』
もう日付とかの概念はない場所に居る。
『華樹が時々抜かし忘れるからなあ。その時の派生が此処にきたんじゃろうよ。
それにしても、こやつにはまだ言っておらんよな?』
「…そんなの言う権利私にあると思います?」
『…それもそうか。』
「なんなら、それこそ大泣きされますよ。」
何度も何度も、あの子は私の目の前で死んでいるというのに。
その身を庇って、一人で空白に書き換えられて、
そうして辿り着くのが、理自体を変えろという末路か?
あの子が笑える世界は、一体何処にある?何処に存在している?
あるとしても、その小さな一瞬だけの時間だけであって。
私もあの子も、そんなこと望んでいやしなかった。
手を取ってくれたあの日から、思い出したというのに。
嬉しそうにでも、悲しそうに、その手を取って引いてくれた。
綺麗な草原の、青い空の下で。
夢にまでみた、その小さな花冠を。
ひと時だけでも、笑えられたら。
この理に葬られた憎しみやら恨みなんて、
そんなの、どうでもよくなったのだから。
『…だとしても、けじめはけじめ。分かったな?エテルネル…いや』
天使サワアよ
「…勿論、その覚悟の上で。私は此処にいますので。」
『…なら、良いか。』
メルの身体で6を作る。
『六日後、こやつは眠りから覚める。』
「む、むいか…」
『其処からウイス、ヴァドスお前達は
ナダリア大流砂、フォミン街の方に迎え。
クカテルとクスはその目的地で待機をしろ。』
「何故です?此処から移動するのでは?」
『恐らく肉体と魂が完全に癒着した状態がいい。
それくらい魔女らもすぐに理解するだろう。』
少なくとも十日辺りでは決行になる。
向こう側の時間合わせもあるからという彼女に成程と声が漏れる。
「全てが終わるまで仕事は一時中断しろと
大神官様からのお達しも来ていますから。」
「お父様が…」
「下手したらこの世界全ての終わりが肩に乗っかりましたからね。」
「さらっと怖いことをいうでない!!」
「…でも、何故そんな限られた日数を?」
『こいつに言い聞かせないといかんのが主じゃなぁ〜〜〜』
はーーー面倒くさいと円卓の上でふわふわと
中央辺りで浮かび出すカランコエは嫌そうな顔をしている。
『ったくなんで我がこのようなことをやらねばならんのじゃ。
元の力とその他諸々の記憶から色々を差し引いてこの時間。
ああああ!!!!どうしてこうも面倒事ばかり引き起こすかのお!!!』
「い、いら、だって、ます、ね????」
「でしょうねえ〜〜〜記憶の操作から色々面倒ですから。」
特にああいう子は。
「お主、隠しておったのか。」
「なんのことでしょう?」
そう解散された中、ヘレスは前を歩くサワアに声を掛けた。
先程の話しは無かったことにしたのではとギロリ見つめるソレは天使のする目ではない。
「…あやつが、メルが泣くようなことがあれば、わらわとて黙っておらん。」
「…人間が、どれに対して言うのやら。」
「っさわ」
「アレに触れないで貰えますか?」
ダンと壁に付いたサワアの目は、何処か、金色の色にも見えて。
びくりと反応して固まったヘレスに、すいませんとサワアは答える。
この輪がどうなってもいいというのは、それは、まさか最初から。
「ひとつ、ひとつだけ、きいてもいいか?」
「……なんでしょう。」
「お主が会ったその日は、楽しかったか?」
その時間は、あの子と、遊べたか?
そうサワアの後ろの服をきゅっと掴んで聞く
その姿は、其処ら辺の町娘にも見えて、
深いため息を吐いた後頭を掻いて答える。
「ええ、そりゃあもう、死ぬほどにはね。」
「…そうか。それならばいい。」
「え。本当にいいんですか?」
「嗚呼!それにとんでもなく長い月日をかけて漸く会えたのじゃろう?」
そして、我々が勝てばまた、お主らは何処かで再会する。
それはまるで、決められた約束を果たすかのように。
「それだけで、わらわは充分じゃ。」
「…ほんと、似なくていいんですよ。」
「お主らがそんなにも健気なのでな。つい。」
「…魂を喰らい続けて
小さな花を編んで綺麗に出来たと笑う子がいた。
振り返ると、黒いみすぼらしい自分を見て、悲鳴など上げず大丈夫と心配そうにして近寄って来たのだ。
流石に驚くし、汚いこの血肉に触れたらただでは済まされない。
それでも彼女は懸命に自分を救い、何なら審判の時にも前を向いて叫んだのだ。
「この子はちゃんと向き合っていい子にいます。だからどうか、消さないでと。」
そしてあの子は消そうとした私の代わりに消えました。
まぁ、その後後を追う様に綺麗に消えちゃったんですがね。
ヘラりと笑うサワアはぱたりとドアを閉める。
ヘレスはそんな彼が月の方に入らないのを知る。
まるで月に当たれば死んでしまうかの様に。
その身体を扉の近くから動かさないまま、話している。
「其処からの記憶はありませんが、この場所に天使として産まれた時、
あの子に初めて会った瞬間に、触れた手で華で想い出したのです。」
それは、あの花冠と同じ華で。
偶然だと言いたくても、必然にしか見えないソレに、涙が落ちた。
最初泣いていたのだ。実は、それに大丈夫と言われて触れるその手も。
同じ様に、彼女がしてくれたように、優しかったのだ。
メルはそっと右手で彼の背中を。
左手で掴んだ華をサワアに渡し、その手を握る。
ゆっくりと、身体を抱きしめるように触れるように。
何時かのあの子も、同じ様に触れてくれた。
黄色い綺麗な優しいその光を灯した、小さな花を持って。
泣いたのは、うれし泣きだったのだ。
貴方にまた、出会えたのだと、噛み締める様に。
「…こんなの、幻滅しますよね。そんなこと言われても」
「何がじゃ」
「え?」
「初めて会った時、お主は嬉しかったのじゃろう?悪魔でも普通のありふれた時間に、触れさせて貰えて。」
「それは、そ、うですが」
「その恩返しというか…また、同じ様に一緒に生きたい。それがあやつを捕まえるその想いなのじゃろう?」
それだけで充分伝わるというものじゃ。
大丈夫と、仕える破壊神は背中を押して言う。
「お前はわらわの宇宙を見る破壊神に仕える天使じゃろう?」
「…っ!!ほんと、貴方という方は。」
「っくくく、それに、あやつの全てが知ったその時」
一体何処に向かうのじゃろうか。
「トゥルーエンドに、いくらしいですよ?」
「とぅ、なんじゃそれは」
「真実へ。あるべき、場所に。と言う意味らしいです。」
「…猶更いいではないか!!!!」
悪魔が天使に変わり、天使が人間に
落ちた者が這い上がり、天に居た者が落ちた。
それはまるで、惹かれ合うかのようにもみえて。
「愛じゃのう」
「…正直愛とか恋とかの域ではない気がしますが。」
「ふふ、よいよい!あ〜そういえばあやつに貰っておったがアレはなんじゃ?」
「あれとは?」
「ほれ、あのアなんとかの」
「あのお方、ひょっとしてアニュラス様のことで?」
「そうそう、そやつから貰ったじゃろう?アレはなんじゃ。」
嗚呼とメルの華名の話しであろう。
その中に悪魔の記憶はなくは、なかった。
そう、そうなのだ。
「あるにはありましたよ。」
「やはり・・・!」
「でも、正直これは教えたくないです。」
「何故じゃ?やっと結ばれるというのに?」
「知ったらきっと、あの子は自分の胸を引き千切って消えて居なくなる。」
そうしたら、この理は変わらない。また、同じ様に何処かで出会うだけ。
そんなのはいけないとヘレスはサワアに掴みかかるが、サワアはそっと手を下ろさせ首を横に振る。
「これは私の罰でもあるのです。貴方には関係の無いこと。」
「じゃが」
「大丈夫です。私はあの子が全てを知るその瞬間に死ぬのですから。」
「…は?」
「我々がともに居れる瞬間など、もう、何処にも存在しない。」
ソレがルール、ソレが、掟なのだ。
たった一つ、その手を取って生きるなんて。
瞬きのこんな時間だけでしかない。
「華樹神になれば、あの子か私のどちらかの記憶は消し飛びます。
まぁこの感じだと私の方になるでしょうがね。」
「っ!!!そんな!!!!」
「ご安心下さい。あの子だけの記憶だけが、消えるだけなので。
仕事に支障は付きまとうことはありませんから。」
「むごい、なんて…むごいことを。」
「あの子は強い子ですから、耐えてくれることでしょう。」
笑って、その身の華を引き千切って自害しそうだが。
それは仕方がない行為になるだろう。
そうさせないようには極力するつもりだが。
「もし、理に行けば?」
「あの子の事です。あの感じからして
現在のシステムを変えるでしょう。
そうすればどちらにせよ我々は会えなくなる。」
大丈夫ですよ。元々会えることすら
奇跡でしたし、おかしい話なんですから。
あんな大昔の願い事など、果たせるわけもない。
そう、そう、想いたいのだ。
そう言い聞かせたいのに、あの子は何度も何度も繰り返して言うのだ。
諦めるなと、その想いを、魂に、刻み込んでしまえばいいと。
生きろというのだ。そっちの方がよっぽど酷だというのを、分かっているのだろうか?
「いずれにせよ、あの子は私から離れることになります。」
「…そんなのわらわが許さん」
「許して下さい。というか出来るわけが」
「出来るように手を放さぬようにしようとしたお主はどこにいった!!!!!!」
「ヘレス様…」
「勝っても負けても駄目なら、その先を行くまで。」
「…あの、へ、ヘレス様?なにを仰って。」
「あやつが叶えたくないというなら、叶わせない様に動けばいい。」
「え???」
「こしょこしょこしょ」
「……正気です????」
「嗚呼これなら、奴は驚くし、お前達はずっと一緒におれるじゃろう?」
「いや、え、貴方一体」
わらわは第2宇宙の神なるぞ?
「破壊神、ヘレスじゃ。」
「…ほんと、貴方達には呆れます。」
人間らは、恐ろしいことを考え付くのだから。