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春先の夜明けはまだ肌寒い。
最低限の生活用品だけが揃う部屋、緩やかに朝日が差し込む窓は曇り一つない。部屋の主は簡単に身支度を整え、訓練場に向かう。まだ薄暗い朝の訓練場、肺を満たす新鮮な空気が眠気を飛ばす。

「やあリヴァイ、今日も早いな」
「•••なんだ、朝から邪魔するな」

普段は誰もいないこの時間、朝一番に見たくない感情が読めない顔の男。不機嫌な返事に対しても慣れた様子で表情は変わらない。リヴァイの舌打ちが静かな場に響く

「今日の午前には新兵が到着する。広場での面会後、全員の動きを確認する。対人格闘と立体起動の訓練には立ち会ってくれ。」
「ああ、わかっている。」

新兵は一通りの実力を見た後、分隊長全員でどの班に誰を配属するかを決める。万年人員不足の兵団。使える人員を見極めるためとはいえ、兵団到着後すぐというのは些か負担な気もするが。

「お前の班に来た奴はどうせ俺に押し付けるつもりだろ」
「下を育てるのも上の役割だからな」
「せいぜい骨のある奴を引き抜いてこいよ」
「善処するさ」


*****


今期調査兵団を志望したのは15名。このうち何名がもう一度この季節を迎えることができるのだろう。兵団敷地内にある大木の生き生きとした新緑が目に入り、そんな感傷的な考えが浮かぶ自分に自然と口元が緩む。

敷地内の広場に到着すると、キース団長、分隊長たちが並んでいた。新兵15名が駆け足で並び、一斉に敬礼をする。この中で試験結果が最上位だった代表が声高らかに挨拶を述べる。

何度してもこの敬礼は慣れない。心臓はトクトクと普段と変わらない一定のリズムで全身に血液を送る。

挨拶の声が裏返った。

団長の周りを囲む分隊長たちを盗み見ようと僅かに目線を動かすと、不機嫌な表情で腕を組む兵士が目に入った。分隊長たちの後ろに控えてはいるが、存在感は体格と反比例している。

調査兵団一員となる決意が聞こえる。

視線を僅かに左に動かす。乱れなく整えられた金髪、鍛え上げられているであろう兵士らしい体格。あの体の隅々まで血を送る心臓はどんな音をしているんだろう。心臓から脳までの血流を追うように視線を移した時。青い双眸が、まっすぐにリタを捕らえる。

「っ••••」

スッと息を吸い、キース団長に視線を移す。代表兵の挨拶はほんの数分、だがリタにはもっと長い時間のように感じられた。心臓の心拍が少し早い。


例年通りの新兵受け入れが終わり、自室へ案内される様子を眺めていると、楽しそうな口元を隠すように顎に手を当てた上官が目に入る。

「おいエルヴィン、使えそうな奴でも見つけたのか?」
「いや、それはまだわからないが、面白そうなのがいたな」
「ほう、お前に目を付けられるとは不幸な奴だな」
「お前も気に入るかもしれんな、•••なかなかの美人だぞ」
「新兵を変な目で見てんじゃねぇよ、エロジジイが」

訓練が楽しみだとつぶやきながら、執務室へ向かうエルヴィン。その後姿を見ながら、1時間後の試験訓練の準備のために逆方向の訓練場へ向かう。
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