ココが好きな女の子の地獄みたいなお話



一生分の恋と、愛と、独占欲と、執着心を君に。





「赤音さん!」
その笑顔を向けられるあの人が凄く、羨ましくて、妬ましかった。
今でも、死人に負け続けてるなんて、ね。

私は幼馴染の九井一君が好きで好きで仕方なかった。彼は顔の良さを抜けば運動神経も割といい本当によくいる男の子だった。彼はもう一人の幼馴染であるイヌピーこと乾青宗の姉である、赤音さんが好き。
誰よりも私はココ君を見てた私が言うんだ。好きに決まってる・・・まぁ、誰から見ても分かるんだけどね。
私の好きな人には好きな人が居る。小学六年生でこんな恋をするとは思ってなかったし思いたくもない。
でも好きという事実は変わらない。あぁ、そうだ。私は九井一という男が人生で一番好きだ。彼のためなら何でもできると自負してるし、彼の幸せも願うことが出来る・・・と思ってた。











私は今、拗ねている。
なんたって、ココが赤音さんと図書館に行っちゃうんだもん。
私も行こうと思ってたけど、ココがあまりにも嬉しそうだし、イヌピーは一人で先に家に帰ってるって空気読んじゃうし。私は仕方なく図書館への同行を諦めたのだ。
それで、やる事もないし、つまんないし、イヌピーの部屋でただただ不満を漏らしていた。
「私も行きたかった・・・!!」
「行けば良かったじゃん。」
ほんっと、イヌピーはいつも素っ気ない・・・というか、私の話に興味がないんだと思う。さっきからずっと漫画ばっかり読んでいる。
「ねぇ、イヌピー・・・私、ココが好き。」
「知ってる。何回も聞いた。」
イヌピーだけが知ってる。私がここが好きだって事。
振り向いてもらえない私の鬱憤は大体はイヌピーに話すことで発散していた。
イヌピーは本当に素っ気ない。いっつもてきとうな言葉で返事してくる。それでもきゃっきゃきゃっきゃ騒ぐだけ騒いで意味のないアドバイスしかしないクラスの女子よりはマシだった。
「あ、この漫画新刊買ったの!?後で見せてね。・・・はぁ、今頃ココは図書館で赤音さんと楽しそうにしてるんだろうなぁ。ココぉ・・・!!」
「あ、後ね!?この前、ココね。クラスの女子に告白されてたの!!」
「ふーん、」
「でね、ココ君が、好きな人が居るからって断ってたんだけど絶対赤音さんだよね・・・って、ねぇ、聞いてる?いぬぴー」
「・・・聞いてるけど。」
絶対嘘だ!目合わせないし!
「酷い!・・・ココってやっぱりモテるんだろぉなぁ・・・。もう、ここに近付くクラスの女子なんて爆発してしまえば、」
「なぁ・・・、」
イヌピーの声に私は言葉を止めた。
「・・・なぁに?」
「俺も・・・この前告白された。」
?・・・もしかして、マウント!?!?
自分だってモテるぞって!?・・・確かにイヌピーはモテるけど・・・
「凄いじゃん。それで、返事は!?付き合った!?・・・イヌピーもモテるのかぁ・・・やっぱ人生お顔だよねぇ・・・。」
「・・・・断った!」
いきなり大きく声を出したイヌピーに私は思わず方が大きく揺れた。
「・・・ど、どうしたの?」
「・・・別に、なんでもない。」
変なやつだ。
こうやって稀に奇行を見せてくる。これが天然の力と言う奴か!
「あ、そうだ。イヌピー・・・この新刊読み終わった貸して!」
「勝手に見れば。」
そう言ってゲームを手に取ったイヌピー。
言葉は凄く少なくても
イヌピーとの時間は割と気楽で嫌いじゃなかった。
「あれ、瞳ちゃん?」
「あ、赤音さん!」
「赤音・・・。」
あ・・・赤音さんが帰って来たっていう事は・・・
「あ、私そろそろ帰りますね!!」
ココと一緒に帰れるかもしれない。
「そうなの?」
「もう遅いので!・・・じゃあね、イヌピー!また明日!!」
「・・・また明日。」
「お邪魔しましたー!」
荷物をささっとまとめて乾家を出る。
追いつけるかな、、
私は急いで走る。
「あ、・・・ココ!!!!」
「・・・は?・・・瞳か?」
「うん!!途中まで一緒に帰ろ!!!」
ぜぇぜぇと息を切らす私にココは近付いてきてくれた。
「・・・わざわざ走って来たのか?」
「うん!」
「・・・変なやつだな。」
そんな事はない。だって、好きなんだもん。
そう言いたくても私の口はそう発さず、
「そっかな?」
誤魔化すように笑った。ほんの少し、胸が痛かった。
お前なんか眼中にないと言われてるようだったからだと思う。









「実はさ・・・俺、赤音さんに告白しちゃった・・・・、」
さっきまで楽しかったのに。いきなり語りだしたココの言葉に、
頭が痛かった。胸がはちきれそうだった。
でも、悟られちゃいけない。バレちゃいけない。
「それで、返事は・・・、」
私は平然を装って聞いた。

「なにあの煙」
「火事かしら・・・」
通行人の会話が邪魔をした。
ココの興味がそっちへと動く。私も仕方がないから煙を探した。
あれ・・・、
「あの辺て・・・まさか!!」
そう言って駆け出したココ。
煙の方向は乾家だった。最悪の予想が頭をよぎった。
私もここを追いかけ、乾家へと向かって走り出す。


・・・乾家だった。
最悪の予想が当たってしまったのだ。普段運はとことん悪いくせにこういう予想は当たってしまうのだから憎たらしい。
ココが周りの人に聞きだす
「中から女の子が出てきませんでしたか!?」
赤音さんを探してるんだ、
「さ、さあ?」
「ちょっと見てないわね」
「消防車と救急車はよんだよ。」
間に合う訳ないじゃんか。ここまで何分かかると思ってるんだ。
このままじゃ、イヌピーが・・・赤音さんが死んでしまう。
「間に合わない!」
私が考えてるうちにココはドアを蹴り家へと入っていった。
家の中が炎であふれてるのが見える。
私も行かなきゃって、思った。思ったのに、足は動かなかった。
その場で私は足がすくんでしまったのだ。
怖い・・・、
恐怖に足が引っ張られてるみたいだった。

ココが毛布で誰かを包んだ状態で背負ってくる。
きっと赤音さんを連れてきたんだ・・・なら、イヌピーは・・・!!
ここで私はやっと、恐怖から解放される。
ココを、助けに行かな・・・
「赤音さん、もう大丈夫だよ」
「今!救急車来るから!!」
「違うよ・・・ケホ、ココ」
「オレは赤音じゃない、青宗だ・・・」

え、、、。どうしてだろうか、私の足は動かなかった。
この日から、すべてが変わり始めて、すべてが狂い始めたのは言うまでもない。
機械の一部が壊れれたように。






それからココは私に目もくれなくなった。
赤音さんは奇跡的に助かったらしい、でも治療するには4000万円かかるんだって。
でも、乾家にそんな余裕はない。
だから、ココが赤音さんを救うために4000万稼ぐんだって。
ココはこれまで見たこともないような怖い形相で、私に目もくれなかった。
「・・・そっか。」
「ココはきっと、汚い手にも染めようとしている。」
「・・・、」
本当は少し、ほんの少し、喜んでる自分がいる。
所詮私たちは子供。自分たちだけで数千万も稼げるわけないじゃんか。所詮子供の戯言。
赤音さんがい無くなれば・・・私に振り向いてくれるかもしれない。そんな事を思ってしまったのだ。


本当は。本当は私には宛があった。
もしかしたら4000万払えたかもしれなかった。
おじいちゃんが、本当は大企業の社長さんでお金持ち。
おじいちゃんは孫の私を沢山甘やかしてくれて、色んなお願い事を聞いてくれる。
それでも私が欲しいのはココ。小学校低学年で私の我儘は跡形もなくなくなった。
きっと久し振りの我儘におじいちゃんは喜んで叶えてくれる。
好きな人の幸せは願わなきゃいけない。いつの日にか誰かが言った言葉だった。
その時は良い言葉だなんて思った。
でも、あんな言葉・・・残酷すぎる。
私にはとてもじゃないけど願う事なんてできなかった。
私には赤音さんが生きるという選択肢を選ぶことが出来なかった。

私は、何も知らないふりをしたのだ。
少し前の好きな人の幸せは願えるなんて、馬鹿言ってた自分を刺してやりたくなった。






二年が経った。
結果から言うと、赤音さんは死んだ。ココは間に合わなかったんだ。ココに残ったのは行き場のない金と、汚れた手。
ココはそのまま汚い世界から足を洗う事はなかった。
また、イヌピーが暴走族に入った。
憧れの人の創った暴走族に入ったらしい。
でも、その暴走族は憧れの人が創ったものとは程遠く、酷い組織だったらしい。
そして、イヌピーは少年院に入った。

一方、私は。あの日から彼らと離れる選択肢を選んだ。
親に頼み込んで全寮制のお嬢様女子中を進学したのだ。
酷い奴だと思う。本当なら二人と一緒にいるべきなのに、自分だけ苦しさと悲しさに逃げて。
でも、正直。やっと離れてほっとしてた。
ココを見てるとあの時赤音さんを救えるかもしれなかったのに何もしなかった罪悪感に胸が痛くなった。
イヌピーを見てると、死んだ赤音さんを思い出す。
全てが、私の苦しめる要素だった。
私は罪悪感から逃げたんだ。
今思う。なんで逃げたんだろう。








三年が経った。
イヌピーが出所したらしい。
久し振りのイヌピーからのメールはただただ簡潔で、
「高校一緒が良い。」
とだけ書いてあった。
これも聞いた話なのだが二人は今沢山手を悪に染めているらしい。
これも、私もせい。
イヌピーのストッパーを、ココ好きな人を奪ったから。
「分かった。」
私も、メールにそれだけ返信してガラケーを寮のベットへと投げた。
私は、また寮生でなくなる。
凄く、怖かった。
久し振りの二人は別人なのでは?
私の知ってる人じゃなかったら?

凄く、怖かった。









「久し振り・・・だね。」
「あぁ。」
卒業式、寮を去ってお迎えに来てくれたのはイヌピーだけだった。
「・・・ココは?」
「ボスと居る。」
ボス・・・暴走族のてっぺんだろうか?
「えっと・・・背、高くなったね、見ないうちに。」
「瞳も変わったな。」
何を話せばいいのだろう、今更。
大変だったね?・・・馬鹿か。私は関係ないと言ってるみたいじゃないか。
もっと、私が言わなきゃいけないのは、
「・・・ごめんね。」
「・・・なんでだ?」
知ってる癖に。
「私だけ逃げた事。ごめんね。」
「別に、そんなこ・・・、」
私はイヌピーの言葉を遮った。
「許さないで。」
許されちゃいけない。許されたらまたココにあの頃みたいに触れてしまう。
それだけはダメ。
私も、変わらなきゃいけない。
「許しちゃダメ。イヤ。」
「・・・分かった。瞳は・・・まだ、ココのことが好きなのか?」
おずおずと訊いてくるイヌピー。
「・・・うん、好き!」
この時の私の顔は、イヌピーしか知らない。




私は、ココ君が好きだ。
















「・・・えっと、久し振りだね、ココ君。」
「・・・瞳か?」
見かけた。お昼の街で不良と一緒にいるココを。あれは間違いない。
間違えるはずはない。
耐えきれず話しかけた。
怖かったけど、好奇心が勝ってしまったのだ。
ここでも最低だ、私は。
「うん。久し振り。」
「・・・あぁ。」
「えっと・・・、」
何を言えばいい?なんて声を掛ければいい?
「・・・、怪我とか、してない?」
「・・・まぁ。」
あぁ、なんでこんなに話が続かないんだろう。
なんてこんなふうに変わっちゃったんだろう。
嫌だ、
「えっと・・・ごめんね。忙しいのに話しかけて!じゃ、じゃあね・・・、」
「は、ちょ、」
私は思わず走り去った。
なんて意気地なしなんだろう。
凄く、怖かった。
この変化が怖かった。
この日から私とココ君は暫く会わなくなる。









「イヌピーの組、負けちゃったの!?」
ココ君とは対称に私とイヌピーは普通に話してた。
本当に、あの頃みたいに。
きっとこれはイヌピーの配慮だ。私の気持ちを汲んでの配慮だろう。
「・・・あぁ。それでも後悔はしてない。」
少しうれしそうな彼。私も寒さで固まりかけてる顔が少し緩む。
「そっか。」
「憧れの人に似てる奴を見つけたんだ。花垣と言ってな、凄いヤツだ。今度会ってみるか?」
イヌピーの吐いた息が白く空気上に浮き上がる。ここまでイヌピーが饒舌なのは珍しい。
きっとそこまで凄い人なんだろうな。
「うん。会ってみたい。」


「イヌピー!」
私の体は固まった。
ココ君の声。
「あ、イヌピー。ココ君が呼んでるから・・・じゃあね、私は帰るね!!」
「ひとみ・・・、」
少し寂しげに見つめるイヌピーと、私の姿に驚くココ君が見えた。




私は、死人にすら勝てない。
なら、もうあきらめてしまえと。
そう私は思う。
しかし人間は複雑だ。そう思ってても結局は・・・
恋心は消えてはくれなかった。やっかましいなぁ・・・、
好き、好きだよ。
「・・・好き。」
小さく呟いた。
言葉にしても意味はないらしい。
ならどうすれば恋心は消えるのだろうか。
好きだし、私だけ見ていて欲しいって思う。
でも、罪悪感が邪魔をする。
赤音さんを見捨てた罪悪感にココ君と関わりたくなくなる。
でも、恋心が邪魔をする。
まだ赤音さんの影を追いかけてるココ君へと私が寄り添ることが出来れば、ココ君は私の事を好きになってくれるかもしれない。
そんな事を思った。

でも、私にはそんな価値はない。
私と私がせめぎあう。
感情の渦に巻き込まれる私は何が何だか分からなくなる。
それなら、それならせめて合わないようにしよう。

でもね、会いたいな、ココ君。



理性って邪魔だね。

















体を動かす。もうこんな時間、早く帰らなくちゃ。
何だか・・・嫌な予感がするな。近々何かありそう、、、
寒い風が私の懐へと入り込んだ。







深夜。日なんて真反対まで落ち冷え切った夜だった。





ピロンッ___
無機質な音が部屋に響く。
サブディスプレイにイヌピーの名前とメールマークの表示。
「・・・イヌピーだ・・・、」
何かあったのだろうか?
私は携帯を開きメールを確認した。
やはり彼のメールは相変わらず簡潔で、
地図が添付され『来てくれ』と書かれただけのメールだった。
現在深夜。この時間に家を出るのは正直どうかと思うが呼ばれたのなら仕方ない。
メールに『了解』とだけ送り、カーディガンを羽織りガラケーと財布だけを手にして私は家出る準備を進める。
玄関を開ける音を聞きつけ玄関へと来た親からこんな時間に何処に行くかと言われる。
「・・・イヌピーの所。」
「はぁ・・・危ないマネはよしなさいよ。いってらっしゃい。」
幼馴染だからか、イヌピーの名を出せば注意位で済む。多分出さなかったら死ぬほど嫌がられるだろう。
「うん、用事終わったらすぐ帰るよ。行ってきます」
私は玄関のドアを開けて、閉める。
まずは場所を確認しないとなと思いショルダーバッグから取り出したガラケーとにらめっこしながら道を進んだ。







ついた場所はぼろく、廃墟ともとれる場所だった。
急いで中へと入る。
すると、電機は付いており、私は中へと入った。

「イヌピー?・・・どうしたの、その怪我!?」
イヌピーは酷く怪我をしていた。
また、もう一人知らない人が居た。
誰だろう・・・?
「あぁ、大丈夫だ。・・・コイツが花垣武道だ。」
「えっ、」
結構弱そうだよ・・・?憧れの人なんだよね・・・?サンドバックとかじゃなくて、
イヌピーの考えてる事は私には大体理解できないことが多い。考えるだけ無駄だと私は思考を止め、口を開いた。
「えっと、私。イヌピーの幼馴染の大友瞳。よろしくね、花垣君。」
「は、はい!花垣武道っす・・・よろしく、お願いします。」
花垣君、ボロボロだけど大丈夫なのかな?
「そういや、イヌピー。なんで私よばれたの?」
「俺の怪我と花垣の怪我の手当てをして欲しい。」
あ〜、確かに軽い手当はしてるけどあんましっかり出来てないもんな、
「うん、良いよ。」
「それと・・・話がある・・・。」
話・・・?









「ココ君が・・・連れ去られた・・・?」
イヌピー君の話は衝撃的だった。私はあまりの衝撃に体が動かない。
手当てをした後に聞いてよかったと思う。
ココが連れ去られたのは彼は金を集める才能があるかららしい。
「・・・すまない。」
イヌピー名は何に対して謝ってるの?
「なんで、謝るのか分からないよ・・・、」
「ココを引き留めることが出来なかったのは俺の落ち度だ。」
っ、、、
「そんな事ない・・・!それだったらもっとちゃんと向き合わずに今更後悔してる私も悪い!!いぬぴーはこんなにぼろぼろなのになんで自分ばっかせめるの・・・?」
意図もしない涙が零れる。
私の姿に後ろで慌てる花垣君が目についた。
「・・・お前だって自分ばっか責めてるだろう。」
「そ、れは・・・私が悪いんだもん!!私が、私が・・・私がいけないの。
本当ねは。4000万集めれたかもしれなかった。でも、・・・嫉妬にかられた私、しなかったの。4000万を集めようともせずに逃げたの。ぜーんぶ、全部、私のせい。」
へにゃりと笑う私にイヌピーは顔を歪めた。
「いぬぴー。アンタイケメンなんだからそんな顔しない方が良いよ?」
「俺は、お前がココのことを好きだと知って何もしなかった。俺も悪い。」
そんなの、違うじゃん。全部私のエゴなのに、
「俺は、何もできなかった。」
目を伏せるイヌピー・・・綺麗で本当なら少女漫画みたいにときめくはずなのに、私の心は痛くて痛くて仕方なかった。
「・・・私も、ココ君に会いに行く。」
けじめ、付けなきゃ。
好きだなんて言わなくていい。好きだなんて捨ててしまえばいい。
でも、もう会えなくなっちゃうのは嫌。
このままバラバラなのは嫌。
ちゃんと、
「ちゃんと、はなす・・・!!」
「あぁ、そうだな。」
イヌピーの顔は、寂しそうに笑ってた。








「なんで私は行っちゃダメなの?!ココ君との最後の話せる機会かもしれないのに・・・!!」
「人を殺したやつらが居るんだ!」
「別にいい!!・・・お願い、行かせて!!」
「・・・ダメだと言ってる。」
なんで、分かってくれないの・・・。
総長の妹が死んだらしい。相手側のチームが殺したらしい・・・。
相手は人を殺すことに躊躇ない卑怯な奴ら。
だからなんなんだ。最後かもしれなんだよ。
「最後かもしれないのに・・・、」
「ココは必ず俺が取り戻す。」
「確証がないじゃん!!絶対行く、私も行く!!!」
「危ないんだぞ!!」
イヌピーが声を荒げた。
正直、怖かった。普段無気力に関心が少ない彼が怒鳴るのは・・・珍しかったから。
それでも、
「行くったら行くの!!!!」
「だからいいかげ・・・、」
死ぬほど大きな声を出した。
「わ、私は・・・・私はココが好きなの!!!!!!!
人生で一番好き。
愛してる。
ココに愛される赤音さんが憎たらしいほど愛してる。
死人に口なし!!

死んだ人が何言ってるかなんてどうせ分かりやしないから、私、言うね。
赤音さんが妬ましかった!
私も・・・ココに愛してほしかった!!!!」

「っ・・・俺は・・・お前が、・・・

・・・仕方ないな。」
諦めた様に、目じりを下げて笑うイヌピー。
「ありがとう・・・、イヌピー。」
私はイヌピーのバイクにまたがった。









私は非力だ。私はどうして女なんだろう。男だったらきっと喧嘩できたのに・・・、
喧嘩に参加できずただいるだけの私に嫌気がさした。
ココ君とイヌピーの一騎打ちが終わって他の奴らが出てきた。
誰かが頑張ればその頑張った奴も倒される。
花垣君が直向きに戦っても相手は上を行く。
もう主力は全員潰れた。
このままじゃ花垣君もやられちゃう。
止めなきゃ、いけないのに・・・、
止めないといけないのに。
「もぉ、やだ・・・」
明らかに全体的に東卍の勢いは下がってる。
なんとか、しないといけないのに・・・、


あぁ、いつだって私はそうだ。すぐに逃げて楽な方へと楽な方へと逃げる。
赤音さんが死んだ時なんか一番ひどかったな。
なぁんだ、私なんかが頑張ったなんて言っちゃいけないんだ。
もっと、頑張らなくちゃ・・・いけないのに、
頑張ろうって思っても足が動かないの!!怖くて怖くて体が動かないの!!!
自分が嫌い!!それなのにまだココ君が好きなところも嫌い!!!
好きなら本当に好きなら足を動かせばいいのに!!!!!
ライバルを見捨てられるくらいの残忍さがあるなら、勇気もあってよ!!!!!
最後かもしれないのに、もう会えないかもしれないのに、
大好き、愛してるって、なんで言えないのッッッ!!!!
もしかしたら、赤音さんが居た時も、好きだってちゃんと言えれば何か変わってたかもしれないのに。
どうして言えないの!?
会えなくなったら関係が崩れるとか関係ないんだよ!?
失うものもないじゃん!!!!
なのに、どうして怖いの・・・

「・・・ばかみたい。」



・・・そうだ。私、嫌われたくなかったんだ。
ココ君に愛されることを諦めようとは思っててもずっと、嫌われても良いなんて一ミリも思ってなかった。
嫌われる事だけは避けたかったんだ。
ばっかみたい。
変な気持ちはっちゃって、
沢山の人巻き込んで人生ここまでぐちゃぐちゃにして。
ばかじゃんか。
ばかみたいに恋してる。バカみたいに愛してる。
言いたい。本当は言いたい。
でも、
もうやめにしよう。
嫌われればいい、いっそ。
最後だから勇気ぐらい出してみよう。
足が動かなかったら意地でも動かす。転ぶくらいの勢いで。
体が動かなかったら意地でも動かす。ぶっ倒れるくらいの勢いで。
声が出なかったら意地でも叫ぶ。枯れて次には声が出せなくなるくらいに。
嫌われたら、嫌われたでやっと失恋できる。
もういっそ、嫌われてしまえ。
そうすれば、呪いは解けるから。

私はすっと大きく息を呑んだ。
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああか!!!!!!!!!!」
私に一気に注目が上がる。
正直視線が痛い。
「ばぁか!!!!!お前ら全員バカ!!!!!私含めてここに居るお前らぜーんいん、おバカさんだよ!!!!!!」
「あ"!?」
「喧嘩ばっかりで力で解決できると思ってるお前らも、意気地なしな私も、ばっかみたい!!!!ばかなら馬鹿らしくもっと諦めずに戦えば!?どーせ、一生馬鹿なんだから、もっと馬鹿らしくすればいいのよ!!!!!勝てなくても、バカだから諦めんなよ!!!!!!!!!!!!!」
正直、何を言ってるのか分からない。心の底から出てきた我儘だった。
「誰だてめぇ!!!」


「瞳ちゃん・・・!!・・・東卍は負けねぇ!!オレがいる限り東卍は・・・負けねぇんだよ。」
イヌピーは合ってた。
花垣君、確かに凄いや、
思わず笑顔になってしまう。
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
さっきの態度にムカついたらしい下っ端が私を襲い掛かる
「アンタが調子乗ってんじゃん。」
私がそんなんでやられると思わないで欲しい。
ハイキックでぶっ倒れた敵から花垣君に視線を移す。
「何してる鶴蝶・・・。早くとどめを刺せ!」
相手側は花垣君の覚悟に胸を打たれたらしい。ただただ、立ちすくんでいる。
「カクちゃんじゃオレには勝てねぇよ。目ぇ見りゃわかる、負けらんねぇって覚悟がねぇ」
「どけ鶴蝶。じゃあ、テメェにはあんのか?タケミっち。
その『死んでも負けらんねえって覚悟』がよぉ!」
銃・・・?
銃を持った男が花垣君へと銃口を向けた。
「オイ!なんだよソレ。ガキの喧嘩だろ!?」
「お前何びびってんだよ?」
・・・凄い。私は感化されてしまった。
花垣君、凄いよ・・・。
でも、本当に撃たれたら・・・


バンッ______
銃声が響いた。
私は瞬間的に目をつぶってしまうがすぐに目を開けた。
・・・足、撃たれてる・・・!!
「どうしたよ?稀咲・・・。足撃ったってオレは死なねぇぞ」
嘘でしょ・・・・。流石に、
「負けられねぇ理由がいくつある?オレにはマイキー君みてぇなカリスマもねぇ。ナオトみてぇに賢くもねぇし、ココ君みたいに器用でもない。ムーチョ君みてぇに体もでかくねぇし、ドラケン君みてぇに喧嘩も強くねぇ」

「だから、オレにできる事は一つ!!諦めねぇ!死んでも諦めねぇ事だ!!」
大丈夫だ。花垣くんなら、死なない。













花垣君は、凄い人だ。
花垣君のお陰でどれだけの人が奮い立たされたのかな、バイク音が響く。
・・・無敵のマイキーがやって来た。
彼も感化されたのかな?
二万人のハンデと言い切った彼を見ながら私はそう思った。



マイキーくんとイザナの喧嘩中、瞬間私は自分の為にその場を走った。

私も諦めてやんない。
私は好きな人を思いっきり蹴ったのだ。
近くにいたイヌピーも目を見開いている。
「痛い、ココ君?」
「・・・お前、なんか変わった?」
「へへ、分かった?変わっちゃった、沢山。」
「あのね、私ね・・・、」

君が好き。
言うはずの言葉は口からは出なかった。
「・・・生き地獄に居るんだ!」
ココは生き地獄。一生終わらない地獄三人の地獄。
なら、三人じゃなくなればいい。


稀咲という男が銃を取り上げようとしていたところ、私が奪い取る。












「くそくらえ!!!!!!!」


その場に銃声が広がった。








私の一生分のありったけの恋と愛と独占欲と執着心を捧げた君に、
私の一生分の沢山をあげた君に、


一生分の私の全てを。
大好きだよ、ココ。


























もう私に口は存在しないんだけどね。





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