「ごめんね。私、ダサい人タイプじゃないんだ。」



少女・鳳麗は塾でも断トツで美しかった。
黒い艶のある髪も。キレのある目と引き込まれるような瞳も。整った輪郭、鼻筋。癖である伏目ですすら彼女自身の美しさを引き立てた。
彼女は進学塾の中でも、全国内でも成績はトップ。
また体育系でも陸上で大会に進出したらしい。
そして極め付きには実家が大企業のお嬢様。
そんなまるで漫画の中から出てきたような十全十美な彼女には友達は少なかった。
あまりの違いに孤立していたのだ。
ここまでくると本当に2次元から来たのかもしれない。

しかし、そんな彼女。
お嬢様中学校にも、進学校にも行く訳でなく市立へ進学することを選んだ。
理由は・・・

「ヒナ。」
「れーちゃん!おはよう!!あのね、実はね・・・ヒナ。好きな人が出来たんだ!!」
「・・・そうなの?」
「うん!ヒーローみたいで格好良い人なんだぁ。」

彼女である。
橘日向。同じ塾の数少ない中の一番仲の良い友達。彼女も麗とは違う部類だが顔が整っており可愛らしかった。
ヒナは友達が多く、麗自身に友達が少し増えたのも彼女のお陰だった。

「そう。」
「えへへ・・・!」

頬を染めて笑う彼女。
そしてそんな彼女を見てる彼・・・・



そう、稀咲鉄太!!!!
塾でトップ。全国でもトップ。神童と呼ばれる天才。
彼は橘日向に惚れており、とんでもない粘着質とヤンデレ体質によって、
謎の日本一の不良に俺はなる・・・!!を極めていた。
恐ろしい視線に気づいた麗は稀咲の方を振り向く。
するとそれに合わせてそっぽを向いた少女。
尚、この時の稀咲の心情を述べると
「やべぇ〜〜〜橘の事を見てたのがバレたのか・・・?」
である。
純情だな、ヤンデレの癖に。()
そして、その時。
やっと麗の中で稀咲という男の顔が認知された瞬間だった。
無論名前は知っていたが、影の薄い彼は彼女にとって眼中になかったのである。

そして、この一連の出来事がこれから約一年後とんでもない騒動を巻き起こすのだ。











麗はその後ヒナと同じ中学校に行って数ヶ月が経った。
ヒナに彼氏が出来たのだ。例の惚れた彼が同じ学校だったらしい。
放課後デートにお邪魔するほど麗は空気が読めないわけじゃない。
麗はここ最近、ずっと一人で帰っていたのだ。

そんな時、彼を見つける。
稀咲鉄太を。
彼女は最初誰だか分からなかったが5秒見つめてやっと思い出す。
・・・稀咲鉄太だ、と。
そして、それから彼女はよく見かけるたびに彼の事をずっと眺めていた。
これが、騒動の始まりのゴングが鳴った瞬間だった。
なぜなら・・・稀咲鉄太。コイツ、ずっと彼女に見られてることを自覚していたからだ!!
そして、この男。
こんな思考にたどり着く。

『まさか・・・コイツ。俺の事が好きなのか・・・?』
そう、見られてるから俺の事好きなのか論である!!!
稀咲鉄太は悩んだ末他の人へと相談した。
本来ならこんな話を他人にすれば自意識過剰と笑われるだろう。
しかし、この話を半間にしたのが運の尽きだった。
半間は稀咲を肯定したのだ。

「ばはっ、ぜってー好きじゃん。」
「・・・そうか。」
尚、この時この男の心情は・・・
俺には橘が居るんだ・・・ごめんな。鳳。
だった!!
本当に好きなのかもしれない。あの表情の乏しい彼女のことだ。十分ありゆる。
これと顔だけイケメンの半間が最後の一撃だった。
稀咲は確信する。
鳳は俺が好きなんだ・・・と。
しかし、橘が好きな手前、そんな浮気のような真似は出来ない。
さっさと振ってしまおうと思ったのだ。
そう思ったら行動は一つだ。
次の放課後。
麗を校門で待ち伏せをし、呼び出す稀咲。

その行為に麗は女子たちにキャーキャー言われ背中を押されながら稀咲へとついて行った。
稀咲が連れて行った場所はよくある告白スポット。
これも半間のアドバイスだった。
稀咲は息を呑んで口を開こうとする。

「実は・・・、」

しかし、麗はそれを遮って表情一つ変えずに言いきった。





「ごめんね。私、ダサい人タイプじゃないんだ。」





稀咲のメガネがずれ、バリンと音を鳴らして割れた。














種明かし。






実は、麗が稀咲を眺めていた理由は
『あの人・・・ダサいなぁ・・・。って思ってたから。』

そして、告白だと勘違いしたのは
呼び出された時周りの女子(+ヒナ)に告白だと説かれたのと。小学生時代、塾で視線が合った時に顔を真っ赤にされて逸らされたから。
麗ちゃん凄いにぶ子なので。

因みに、彼女の母はデザイナー、父はブランド企業の社長。
つまりおしゃれな子なのでダサい人は恋愛対象外なのです。

まぁ。勘違いと勘違いが起こしたおっかしい話でした!!!!




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