竜胆「兄ちゃんはいつもいいとこ取りだよ!!!!!!」




最近、周りのみんなが可笑しい。
みんな、私のことを避けているのだ。
最初のうちはあまり仲の良いわけでもない子がチラホラと私から離れていった。
正直、大して中も良くないから気にも留めなかったのだ。
しかし、数ヶ月後。仲の良かった友人がバラバラと私から離れていったのだ。
流石の私も、避けられることに気になってしまった。
でも、気にしても仕方ないって思ってた。

でも、数週間前。一番仲の良い中学生時代からの親友が遂に私を避け始めたのだ。
どうして・・・?
流石に私は焦った。
女の子の中では一番仲が良くて、毎日沢山話してたのに。
なんで、なんで・・・?
それから一週間くらい経って、


私はいじめのターゲットとなった。

下駄箱には画鋲と罵詈雑言の紙。
黒板と机には落書き。
机の中には呼び出しの紙。
教科書や体操服はビリビリに破られ、
トイレに行くと水をかけられる。
放課後は呼び出されて暴力を振るわれる。
机や黒板に仕掛けをされるから私は最後に帰って最初に来るようになった。
本当に酷かったのは男子たちに犯されそうになったこと。
あの時は死ぬほど怖かったんだ。

でも、助けてくれたの。
灰谷竜胆君。私の学校じゃ有名な不良くん。
犯されそうだった私に対して男を殴ってくれて、はだけた服もボロボロの髪も整えてくれて、私がいじめにあってるって事を言った時にはやめることをクラスのみんなに言ってくれたらしくて相変わらず無視はされるがいじめはなくなった。
私を大切にしてくれる竜胆君は誰よりも格好良くて私は彼にあこがれを抱いていた。
私なんかが彼と友達で良いのかな。

「竜胆君!」
「あ?・・・清花か。」
「えへ、今日も学校来てるの?偉い!」
「流石に留年は格好がつかないだろ。」

ぶっきらぼうにそう答える彼の後ろを歩く。
彼と彼の兄は皆に怖がられてるからか私が彼の近くにいれば冷たい視線を浴びることはない。
彼は私のヒーローなんだ。
彼の背中を眺めながら私は微笑んだ。
ずっと、竜胆君と一緒にいられたら、いいな・・・。








でも、悲劇は突然だった。

「じ、実はね・・・!!お父さんが・・・通り魔に逢って、死んだの・・・。」

お父さんが死んだ。
優しくて家族思いだったお父さんが。
それからだった、母が狂い始めたのは。
最愛の夫を失った母はギャンブルに嵌り、家事もおろそか仕事はもってのほか。
家に居るのは常に私になった。
そして、ある日。母は沢山の借金を作って、私を置いて逃げた。
どうして・・・っ、
私は沢山泣いた。大好きだった家族は何処へ行ってしまったんだろう。
でも、私が好きだったお父さんとお母さんは私に悲しんで欲しくないよね。
私は平然を装って学校へ毎日登校していた・・・が。

「あんた、りんどー君に近すぎじゃなぁい?キッショ。色目使ってんじゃないわよ、ブス。」
「そんなんじゃ、ない・・・!!ただ、私は・・・。」
「なぁんか、らん君にも好かれてない?あんた。どんだけ色目使えばいいのよ、ビッチ。」
「死ねばいいのに〜」
くすくすと笑う複数人の女子。
私はまたいじめにあっていた。
私は幸せになる事も、憧れの人の背中を追う事も許されないのかな・・・。

「ねぇ、聞いてる?返事しろよ、ブス。」
バチンッとした音と共に頬に痛みが走る。
・・・叩かれた。
そう認識したのは数秒経ってからだった。
流石に叩こうとは本気で思ってなかったのか、相手の女子も目を見開いている。
「ど、どうしよう・・・!!」
「顔は傷付けるなって言われてるのに・・・、」
「こ、殺される!!」
顔を青ざめ、ぶつぶつと呟いてるいじめっ子たち。
何の事を言ってるんだろう・・・?
「っ、明日から、覚悟してなさいよ・・・!!」
「アンタのせいで!!!」
急いで屋上の階段を下がって、その場から離れていったいじめっ子たち。
どうして、私ばっかり・・・。
ヒリヒリする頬を抑え私はその場に力が抜けたように座り込んだ。

「どうして、私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないの・・・っ!!」
目からはただただ涙が溢れた。
もう、死にたい・・・。
私はあと少しで日が沈みそうな赤オレンジの空を見上げた。







「え・・・、」
目の前が真っ白になった。
今日は一段と下駄箱が汚かったから綺麗にして、教室に来たら・・・、

私が知らない男に笑いかけてる写真。
私が知らない男にまたを開いてる写真。
コラ画像だろうか?
なんで、そんな事するの・・・?

竜胆君や蘭君が見たら・・・
私嫌われちゃう。
それが狙いなのだろうか。
黙々と思考を巡らせる。
しかし、水をぶっかけられ私は我に返る。
「ふっ・・・!!調子乗ってるアンタにはお似合いよ!!!」
昨日のいじめっ子が笑いながらそう言った。
調子なんか、乗ってないのに・・・!!!
「あ〜美香〜。美香が虐めすぎちゃったから泣いてるよ、コイツ。」
「え、マジぃ?キッショ。あっははは!!」
下品な声を上げ笑ういじめっ子に私は声が出なかった。
どうしてそんなひどいことが出来るの?
ほんとうに、私が何したって言うのよ・・・!!
下唇を噛み締め、いじめっ子たちを睨む。
「はぁ?何その目。」
「調子乗ってんじゃないわよッ!!!!」
思いっ切り腹に膝蹴りを食らう。
吐き気と共に激痛が走った。
私は急いで周りに助けを求めたが周りは私と目が合った瞬間、顔を背ける。
まるで仕方ないというように。
親友・・・いや、元親友と目が合った。彼女はただただ呆然とした顔で私の事を見つめていたが、悔しそうに下唇を噛み締め顔をそむけた。
なんで、アンタがそんな顔すんのよ・・・
アンタが私の事を堕としたんでしょ?
アンタらが。
私は感情が抑えきれなくなった。
「私が、私が何したの!?!?
アンタ達がいきなり私をハブって私の事虐めたんでしょ!!
自分勝手よ!!私の気持ちも知らないくせに!!!」
そう叫ぶと周りの子はみな目の色を変え、顔を怒りに染めた。
「何アイツ、白々しい。」
「いまさら何言ってんのよって話よね・・・、」
・・・どうして?
私何したのよ。言ってくれればいいじゃない。
なんで、なんでよぉ!!
強く握りすぎた拳が痛い。拳を開けて見てみれば赤く染まっていた。
口の中に鉄の味が広がる。
下唇を噛み過ぎたみたいだ。
顔をあげれば、元親友と目が合う。元親友は皆と違って顔を悲しみで染め、目線を下に向けていた。
何を隠してるの・・・?
そんな疑問で一杯一杯の時、

バチンっ____
また頬を叩かれた。
「ビッチが何言ってんのよ。」
「もしかして無意識なワケ?」
「引くんだけど・・・ありえないわぁ・・・。」
軽蔑の目、蔑んだ目。おまけに、元親友からあふれる涙。
こみ上げる感情に耐えきれなくなった私は教室から走って逃げた。


いやだ、もういやだ。
おとうさんもおかあさんも、だれもいない。
私は独りぼっちなんだ。
もう、もうやだ・・・、

気付いたら、屋上に居た。
青がどこまでも綺麗に広がっていた。
あぁ・・・、
私はフェンスに駆け上る。
竜胆君や蘭君には申し訳ないけど、私・・・








先にばいばいするね。













「なぁ、清花。何しようとしてんの?」
声が、した。
「・・・蘭君!?・・・え、えっと、私・・・。」
「大丈夫だよ、もう蘭ちゃんが来たからな〜。ほら、こっち来い。」
まるで小さな子供をあやすように手招きをする蘭君。
「・・・っ、だめ、だめなの私・・・!!生きてちゃ、だめなの・・、」
「そっかそっか〜そうだなァ。清花は俺と竜胆の大切なやつだぞ?」
その言葉に決心が揺らぎそうになる。
だめなの、私は・・・!!
「ら、らんく・・・。」
「こっち来いよ。ずっと一緒にいような?俺と竜胆だけはずっと一緒にいてやるからな。
俺だけはずっとお前といるからなぁ。」
きっと氷すらも直ぐにドロドロと溶けてしまうような甘い声。
ずっと、一緒にいてくれる・・・?
「ほんと?」
「そうそ。俺だけは清花を愛してやれるからな?はら、こっち来い?」
らんくんだけが、わたしをあいしてくれる・・・・?
いきてちゃいけないわたしをうけいれてくれるの?
なら、なら・・・いっか。
フェンスを乗り越え蘭君の懐へと駆け込んだ。
何故だか涙は出ない。
ただただ、暗くて黒い何かに満たされているような気がした。
あはは・・・
「らんくん、ずっと私を愛してくれる・・・?」
「勿論だぞ❤






あァ、やぁっとオチって来てくれた❤」

そう、小さく呟く蘭君を私は知らない。














バタンッ___
屋上のドアが大きく音を立てて開かれた。
ぜぇぜぇはぁはぁと息を切らす竜胆は兄と思い人が抱き合う姿を見て目を暗くした。
思い人は目に光が灯なってなく、闇に吸い込まれていた。
そして肝心な兄は顔を赤く染め、とろけたような顔。
竜胆は一歩遅かったと後悔した。






「・・・兄ちゃんはいつもいいとこ取りだよ!!!!!!

俺があんなに頑張って周りの奴ら買収したり清花の悪い噂流して、俺が弱ってるところを付けこもうとしてたのに、自分だけ一番いいところ盗りやがって!!

そうやってポーズ取るのも嫌い!!!」

やはり、どう足掻いても兄弟なのだ。
悔しそうに顔を歪める竜胆に勝ち誇った笑みの蘭。
彼らの会話は光を失っていまや人形のような姿になった彼女の耳には届かなかった。







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