5(ウ)

ブーッ、というブザーが重苦しく鳴り響く。上映の合図だ。赤い垂れ幕がゆっくりと上に登り、先ほどまでざわついていた観客席はブザーの音に律されて一様に静まり返る。緊張感を与える静寂に、ワインレッドの座席の肘置きに置く手に力がこもってしまう。これから俺はどんな彼女の姿を見ることになるのだろうか。役を知らされていない以上、自分はただこの座り心地の良い椅子で待つしかなかった。

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