1(ウ)

「演劇ぃ?野郎二人でェ〜?」
「別に良いだろ」
二枚欲しい、と言って買ったチケットの一枚を桃城に渡す。奴はそれを受け取ると、神妙そうな面持ちでチケットの文字に目を落とした。
「何だよ、お前から誘いなんて珍しいな。はっ……もしかしてマムシ、俺に気が……」
「馬鹿野郎!んなわけねえだろ!」
「わあってるよ!そんな怒るなって!舟橋のだろ?」
「フン、やっぱり知ってたのか」
大方あいつから聞いたのだろう。舟橋と桃城はそれなりに仲が良いからだ。しかし、桃城は俺の予想とは裏腹に
「勘違いしちゃいけねぇな、いけねぇよ。俺は舟橋から誘われたわけじゃねえからな」
と言い、人差し指を左右に揺らす。
「そうなのか?」
「まー、お前がそわそわしてるんなら舟橋のことだろうなーって思っただけだよ」
「別に、そわそわなんてしてねえよ」
「説得力ねぇなあ、説得力ねぇよ!俺が来るまでその辺うろうろしてたくせに♡」
「このやろッ……」
「とにかくこのチケットは貰っとくわ!今週の日曜な」
「……おう」
桃城は良いやつだ。突発的に喧嘩をしてしまうことも多々あるが、ライバルとして、ダブルスのパートナーとして、そして友として俺を常に奮い立たせてきた。
まだ、自分は甘えている。廊下を歩いて去っていく桃城の背中を見ながら、手の中のチケットを握りしめた。
「……あいつ、チケット代払わねぇつもりだな」

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