本番が近い。普段よりも大きな身振り手振り、客席に向いた身体、仕込みは上々だ。不思議と声がよく出るようになっている。確認のためのビデオを見れば一目瞭然、練習初日よりも倍の声が出るようになっていた。
「うんうん、良くなってるよ舟橋ちゃん」
「厳しいが愛のある母親……、なかなか様になっているじゃないか」
「ありがとうございます、部長」
私が感謝を述べながら心の中ではいつ寝首をかっ切ろうか画策しているとも知らず、部長はよく通る声で「リハーサルを始めるぞ!」と号令をかけた。それに合わせて部員たちは役を自らの身に降ろしたり、照明の調節をしたり、まるで昔御伽噺で見た小人たちのように働き始める。
私も行かねば。
息を吐いて肩の力を抜き、私はあの薄暗い舞台袖へと向かった。

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