序(ウ)

舟橋が演劇部であることは知っていた。彼女と初めて言葉を交わしたきっかけ、それが演劇部の先輩からプリントを渡すように頼まれた時だったからだ。
彼女は俺がテニスをしている姿を見たことがあるようだったが、俺は彼女が演劇をしている姿を見たことがない。だから、唐突に彼女が「観に来い」と誘ってきた時は一瞬反応が遅れてしまった。
そんな風に人から誘われたことが無かったから、素直に嬉しいと思ったのだ。俺の顔は怖いからと、俺のことを遠目に見る奴が多かった中で、舟橋は俺に近付こうとしてくれた。
単純に、ただそれが嬉しかったのだ。

トップページへ