食べる、歩く



捏造あり
------------------------------
ルビコンは食糧難だ。食糧事情どうにかしようかと言う段階の前に「アイビスの火」が発生し、コーラルを巡る戦争に至ったので、現地の食糧事情は後回しになってる。ルビコニアンも、そう言った余裕などない。
企業も鮮度などを考え、運び込める食材には限りがある。ベイラムはこだわっているが、アーキバスは効率重視なところがある。
一応社食はあるが本社に比べると種類は少ないし、よくて合成肉とかだ。基本はレーションとかで、何ともまぁ味気ない。
正直、食べることが好きな人間には、ストレスマッハだ。以前潜入したレッドガンの食事はよかった、美味しかった。恋しい。しれっとまた潜り込んでみようか?
……話が逸れた。
食に乏しいルビコン。どうしても何か美味いものが食べたい、となるのは人間の性。
そして、そういう欲望を持つ人間を満たすため、少ない食糧をかき集め(時にはくすねて)独占し、美味い料理にして提供してるアンダーグラウンドな連中がいる。食の闇市のような場所、と言えば想像しやすいかも。
正直高い。足元を見ている。いくら色んなことで経費がかかると言えど、よくそんな値段設定したなというところもあった。
しかしそれが何年も続いてるので、需要がある。
少なくとも、私にはそうだ。

今日はまさにその、食の闇市にいく日だ。
完全なオフ。V.Tのお守りをしなくていい、休日。
私だとバレないよう一日染めのヘアカラーにするために、わざわざ元々宛てがわれていた自分の部屋に戻り(最近はV.Tの部屋で生活してる。週5だと都度の行き来が面倒だから)、化粧もいつもと雰囲気を変える。
はすっぱというか、下層の生活をしているような雰囲気にした。服装も普段と違うものにして、出入りのためのセキュリティーカードは盗まれないようにしつつ外に出ようとした。

「どこに行くか知らないが、俺も暇だから行く」

何故か部屋の前で待ち構えていたV.Tに捕まったので、そのデカイおまけを連れていった。
ここで揉める時間が惜しい。あとどうせ言い含めても無駄なので、説得も諦めた。

「どこに行くんだ?」

染めた私の髪に触れながら、V.Tは聞いてくる。

「ご飯食べに行くんですよ」

そう言えばこの男は行ったことあるんだろうか?と思いつつ、端の方の格納庫にある持ち込みの車にV.Tを乗せて向かった。

もちろん目的地まで車で行くことはしない。
近くに隠せるような場所に停めて、15分ほど歩いてそこに行く。
冷え込んでいるのでV.Tと並んで着膨れした格好で行く。白い息を吐きながら歩くV.Tに視線をやりながら、彼に大事なことを言い聞かせる。

「いいですか?今から行くところでは私のことを、みょうじと呼んでください」
「ああ。お前がアーキバスで名乗ってる名前か」

そんなのもあったなとばかりのV.T。
何故か分からないが、この男はこの名前が偽名だとすぐに分かった。けど、本名を聞き出すようなことはしてこないので、名前に関しては私も何も言わなかった。

「貴方がV.Tだとバレるのもよろしくないので、バレないよう行動してください」

ベイラムの人間……はいないともいえないが、ルビコニアンはいるのだ。バレないに越したことはない。多少のことなら守れるけど、数の暴力は無理だ。だからバレるなと言い聞かせてると、V.Tの唇が弧を描いた。

「なら、お前は俺をなんと呼ぶんだ?」
「……幸い、貴方の名前はそう珍しいものではないので……フロイトと、今日だけは呼びます」
「そうか」

満足そうに笑って、不意にV.Tは私の腰を掴んで抱き寄せてきた。アウターで膨らんでいる彼の体に、同じように膨らんでいる自分の体がぶつかる。

「ちょっと、」
「目立ちたくないなら、こういうことしておく方が自然じゃないか」

ここぞとばかりに……。思えど、もう目的地は近い。揉めながら入るのも得策では無いだろうとため息をついて、簡易的なゲートをくぐった。

ゲートと言えど、センサーとかあるわけではない。
一応武装した見張りはいる。ドーザーたちや、解放戦線が食糧目当てに奪いに来ることがあるからだ。最低限のMTも配置されてる。
旧型だなと、隣のV.Tが小さく呟いた。

ゲートをくぐると、鼻腔に食べ物の匂いが届く。同時に喧騒も。香辛料の匂い、肉が焼ける匂い。呼び込みの声、暖かい食べ物や大鍋からあがる湯気……食事の内容は店によって異なっている。被っているところもあるはあるが、色んな国・星の料理がそれなりにある。
所狭しと並んでる屋台、掘っ建て小屋のような店、それよりかはしっかりしてるけどまぁよくて小さな家だよね程度の規模の店……それらが入り乱れ、人が行き交っている。
人によっては雑多で衛生面を気にする感じだが、私は気にならない。隣のV.Tも、特に嫌悪感はなさそうだった。
V.Tが物珍しげにしているので、手を掴んだ。
ここではぐれたら、面倒なことになる。

「今日は積極的だな」
「黙って」

今の見た目で敬語を使うと逆に浮いてみえるので、いつもより砕けた口調で喋る。V.Tは目を瞬かせた後、楽しそうに目を細めた。

「いいな、その喋り方。今後もそんな感じで喋ったらどうだ」
「いや」

適当な屋台に立ち寄って、ブリトーをとりあえず買う。V.Tも買うと言ったので、飲み物と一緒に買って端の方によって2人並んで食べる。
ハムとチーズでチーズ多めにしてもらったそれに、かぶりつく。ハムの味とチーズのとろっとした食感と、暖かさに一息つく。

「サルサ美味い」
「そう。……フロイト、ここに初めてきたって感じするけど、知ってはいた?」
「ああ、聞いたことはあるな。休みの日はカタログ見たり、戦闘ログみたり、トレーニングしているから行くこともないだろうと思っていたが……思っていたより、面白い」

頬いっぱいに食べながら言うV.T。
表情はあまりいつもと変わらないけど、目が楽しそうに輝いている。その目は興味深そうに、屋台や店を見ていた。
……こういう反応をされると、まぁ連れてきてよかったかなと思うあたり、大概私も単純だ。

「なあ。次は、何食べる?」

サルサソースのブリトーを食べ終わったフロイトは、口に着いたソースを舐め取りながら聞いてくる。私も最後の1口を食べて、飲み物を飲む。

「今日は飽きるまで、気が向いたものを食べるって決めてるから」
「それは楽しみだ。お前の食いっぷりは、見ていて気分がいい」

飲み物を片手に、はぐれないようにと再度V.Tの手を掴む。V.Tは1度それを離すと、指を絡めるように繋いできて、機嫌よく歩き出した。いわゆる、恋人つなぎだ。

(……まぁ、いいか)

今日くらい、V.Tの気分に合わせて恋人みたいなことをしても。

そう思いながら、彼と手を繋いだまま、次の店へと向かった。

「何か食べたいのある?フロイト」
「そうだな。まだ肉が食べたいな」
「じゃあ、肉系を探そう」

まるで現地のカップルのように何気ない会話をしながら、私たちはその日を過ごした。V.Tも普段の適当さだとか自由奔放さが嘘のように、私に合わせて行動していた。

(この男の恋人になる人間は、こういう扱いをこの男から受けるのか)

なんて、ほんの少しだけV.Tの評価を改めたけど……帰り際、カーセックスするぞと言われたので、下方修正したのは内緒だ。



prev | list | next

top page