Beloved 1



出会いのきっかけは、なまえの勘違いだった。
彼女が冒険者として依頼を受けた際、彼、タルタリヤも宝盗団の1人だと思ってしまった。
タルタリヤはその時、戦闘狂故の暇つぶしとして宝盗団にちょっかいを出そうとしていた。
それより早く、宝盗団を斬り捨てたのが、彼女、なまえだった。
風のように躍り出て、光のように、あっという間に宝盗団を斬り捨てたなまえは、すぐにタルタリヤに踊りかかった。常人なら反応が遅れるところだが、そこは戦闘狂のタルタリヤだ。遅れることなく反応し、彼女の刃を受け止めた。璃月で見かけるような系統の剣─しかし、見たことがない意匠であり、明らかに上業物だ─が、剣に変わったタルタリヤの武器とぶつかり合う。
耳につくが、タルタリヤとなまえには聞きなれた音が、響き渡る。
近距離で、タルタリヤの青い目と、なまえの赤い目が交わり合う。

「随分と、熱烈な初めましてだね」

なまえの剣を押し返し、一時距離を取りながら、タルタリヤは軽口を言う。なまえは体勢を整えながら、一瞬、考えた。目の前のこの男も宝盗団でいいだろうか?と。

(……違うなら、弁明するはず。それがないから、この男も宝盗団かな)

早計なことにそう結論付け、なまえはタルタリヤの動きを見る。構えはとかず、出方を伺う。すると、タルタリヤが動いた。
元素力で剣に変えていた武器を弓の状態にし、射るには近距離で矢を放つ。
足を狙ってきた。剣でそれを叩き落し、距離を詰めようとしたところを、水元素の攻撃が飛んでくる。咄嗟に身を捩ってかわしたそれが毛先を掠めたあと、再度剣に変えたタルタリヤが、距離を詰めてきた。
ふっ、と、背を反らし、ブリッジをするような体勢から手を付き、バク転のように回転して距離をとり、態勢を立て直したなまえ。
一連のなまえの反応に、タルタリヤは楽しげに目を細めた。

「うん、やっぱりいい反応するね、君」
「……」

弓と剣を切りかえる攻撃パターンに、なまえはまだ少し慣れていなかった。タルタリヤの武器の切り替え方は当たり前だが手馴れていて、攻撃の移行がスムーズだ。弓は牽制にもなるので、少し厄介だ。

(なら、慣れればいい)

そう思考を切り替えて、なまえはタルタリヤへの距離を詰めた。自身が授かった、風元素の神の目の力を使って。
先程よりも早く、鋭く、ついでにタルタリヤが散らした水元素の力を巻き込んだその攻撃に、タルタリヤは益々楽しげな表情になった。

──そうしてしばらく戦闘していた2人だが、なまえの誤解が解けたのは、ファデュイのタルタリヤの部下が、彼を「公子」と呼んだ時だった。
部下が焦ったように声をかけたことで、戦闘の空気がたゆんだのを感じたタルタリヤは、とりあえず部下を下がらせた。いても邪魔になるからだ。

「……宝盗団じゃ、ないのか?」
「は?え……もしかして君、俺の事宝盗団だと思って、攻撃してきたの?」

こくり、と頷いたなまえにはもう戦意はなく、なんだか少し申し訳なさそうにしているようにタルタリヤには見えた。表情が、ではなく、仕草や雰囲気が。
明かされたことにぽかんとしたあと、タルタリヤは声をあげ、腹を抱えて笑った。

「っははは!おもしろいね、君……っ。く、ふふ……!」
「……すまない」
「いや、いいよ、いいよ。俺も楽しかったし。ただ……そうだなぁ。君が申し訳なく思ってるなら、今後も俺と、楽しいことしよう?」

楽しかった。
彼女と戦っていた、数時間にも満たない時間が。
それはタルタリヤの本心であり、ここ数日の退屈感が消し飛んだ。またあの時間を、味わいたいと、タルタリヤは思ったのだ。

「……楽しいこと?」

なまえの表情はあまり変化がないが、声音はなんの事か理解できてないと言った困惑が滲んでいた。にっこりと、タルタリヤはなまえに笑いかけた。

「君との戦いだよ」
「……君は、楽しかったのか、あれが」
「そうだよ。かなり、楽しかった」
「そうか。変わってるな、君は」

歯に衣着せぬ物言いだ。これがまた、タルタリヤには好ましかった。喉を鳴らすように笑いながら、タルタリヤはなまえに尋ねた。

「それで?どうかな?」
「……別に、それで構わないが」

このときのなまえは、ここにはスマホもないし遠距離の連絡手段もないから、これはこの場限りの話になりそうだと思っていたので、軽い気持ちで了承した。ファデュイの情報網や、連絡網のことなど一切把握してなかったし、タルタリヤが絶対にその約束を果たさせるということも想像すらしてなかった。

「よかった!そうそう、俺はタルタリヤだ。君は?」
「──なまえだ」

名乗ったが、互いになんとなく本名ではなさそうだと察した2人は、この時名乗った名前で呼び合うことはなかった。




20240908



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