01
私が黒尾鉄朗と同じクラスになったのは、中学二年生のときだった。
目つきがいいとは言い難いし、あの髪型(未だに寝癖のせいとか信じられないけど、あの寝方を見たら納得してしまった)がものすごく人目を引いてて、私は一方的に黒尾を知っていた。あと、一年生のときのクラスメートが黒尾のことをかっこいいとか言ってたから。
一方的に私が知ってるだけで、黒尾は私のことなんて知らないだろうと思っていた。黒尾のように人目を引く容姿も格好もしてないし、特別運動ができるだとか頭がいいだとか、美人だとかいうわけでもないし。だから、驚いた。
「同じクラスになるの初めてだよな、みょうじさん」
新学期で隣の席になった黒尾から、そう声をかけられて。びっくりして凝視してた私に、黒尾は笑っていた。
(…笑うと、意外とかわいいんだ)
ぼんやりそんなことを思ったけど、後々かわいくない笑顔まで見るようなことになるなんて思ってもなかったし、黒尾が私のことをなんで知ってるのかまで気にしなかった。
(まぁ、同じクラスで隣の席になる奴の名前をクラス発表の用紙でみたのかな)
それくらいにしか考えてなくて。そして呑気に「あ、一年間よろしくね、黒尾くん」とか返していた。我ながら脳天気だなと思った。でも不思議に思っても、思っただけで終わりそうな気もしてる。その時の私からすれば、名前を知られていたことは驚いたけど、不思議がるほど不自然なことだと思えなかったから。それを後に黒尾に話したら、「鈍感というか脳天気というか…」って呆れられたのは、今でもよく覚えている。
(…友達に、黒尾くんの隣の席になったとか言ったら、羨ましがられそう…)
あとで一緒に帰る友達の反応を想像しながら、なんでか話しかけてくる黒尾に相づちとかを返していた。
話の内容は黒尾の好きなバレーのことがほとんどだった。そういえばバレー部人数少ないんだっけと思い出した。あまりバレーは詳しくないけど、黒尾は私が不思議そうにしてたらすぐに気づいて教えてくれたから、よく知らなかった黒尾のことを「親切で丁寧だなぁ」とか思ったりしてて。意外とクラスメートとしてうまくやっていけるかもしれないとか、考えた。
「みょうじさん、バレー好き?」
「えーと…ごめん、あんまり詳しくない」
「ああ、やっぱり?なんか一方的に喋ってごめん」
「いや、いいよ!聞いてておもしろかったから」
「それならよかった」
見た目に反していい人じゃん、気さくじゃん!…なんて、密かに感動してた。
(よかった、隣の席になった黒尾くんが、いい人で…)
「なまえ!よかった!一緒のクラスだー!」
「!うわぁああよかった!友達一人もいなかったらどうしようって、思ってたの!」
一番仲良くしてた友達が、教室に入ってきた。その子と同じクラスになって安心してはしゃいでる私の横で、黒尾も友達に話しかけられていた。
初めて話した日は、そんな感じだった。
そんな、あっさりとしてて割とどこにでもあるような初めましてだったのに、三年生になる前に私は黒尾に告白して、黒尾に受け入れてもらえて。そして高校三年生になった今も付き合いが続いている。中学二年生の頃の私はそうなるなんて全く思ってもなかったし、黒尾のことを素直に気さくでいい人と思っていた。
実際は、黒尾鉄朗は策士だ。だけど、結果的に幸せだと思えてるから、悔しいけど私は黒尾に転がされてるくらいが色々ちょうどいい…のかも、しれない。
──そんな感じで付き合い続けて、私たちは高校三年生になった。大なり小なり喧嘩はしてるけど、初めての彼氏とこんなに長く続いてるなんてと感心されることが多い。
黒尾にいじられることはあるけど基本的に大事に知れてるなと感じるし、私もそんな黒尾を大事にしたいなと思ってるから、続いてるんだろうなってなんとなく思ってる。けど、なんか気恥ずかしくて、誰にも言えない。
それはそれとして、今日は帰りたくないの…。だとか、自分から餌を与えるような行為はしないようにしてる。
絶対に言わないし、そんなこと思ってようと思ってなくても、「今日泊まってくだろ」と確定事項のように言うのが黒尾だ。あの頃の気さくさと優しさはどこ…かに行ったわけじゃない、けど、どんどん強引さとか出してきたのが、黒尾だ。
それに「騙された!」とかいちゃもんつければ黒尾はにやりと笑って、「別にそういうの嫌いじゃないだろ」とか言ってきて。…悔しいけど、黒尾だからかっこいいとか許せるとか、思ってしまったから、私も大概末期だ。自覚してる、認めてる。それでも素直に、「はい。お好きにどうぞ」とかいうのはなんかしゃくだから。いつもささやかや抵抗をしてみる。だけど黒尾はそれさえも楽しそうにしてて、悔しいったらない。この、黒尾の手に転がされてる感…。
「どーせ私は単純で分かりやすいですー」
脱がされた下着を拾いながら、少し拗ねたようなふりしてみる。黒尾は楽しそうに笑っていて。おもしろくないなぁ…なんでこの男はこんなに余裕なんだろう…今、パンツ一丁のくせに。内心そう思いつつ、使用して汚れたティッシュをゴミ箱にいれて、パンツを穿く。
「ていうか、制服のスカート脱がさせてよ…シミついたりとかしたらどうすんの」
「すぐなら洗えば落ちるだろ」
「そうだけどさぁ…」
黒尾にスカートにシミができてないか確認してもらう。毎回のこととはいえ、すごく間抜けな光景なんじゃと思いながら、黒尾にTシャツを渡す。春になったとはいえ、まだ寒い。黒尾は起きあがって、素直に受け取った。
「サンキュー」
「ん。…ていうか、なんで私の制服脱がせないの?」
「着衣のがエロいから」
「次から自発的に脱ぐことにする」
今まで疑問に思ってたことをようやく聞いたらこれだ。黒尾はナチュラルに変態だ。これは付き合ってみてから分かったことだ。…それに慣れちゃった私は、多分もう他の男の人と付き合っても物足りなく感じそうだ。なんてことだ。…とか考えても、結局黒尾以外の男の人と付き合う未来とか望んでもない。
「脱ぐなよ」
「脱ぐよ!そんな発言聞いたら!…って、あのさ、私服のときは、脱がせてるよね?」
そういえばと、気づく。制服脱がせないなぁなんて思ってたけど、私服のときは素っ裸にされている。なんなんだろう、その差は…。
「ま、まさか私の私服ダサいとか?!」
「いや、そうじゃなくて」
黒尾は首の後ろを掻きながら、なんてことないことのように言った。
「制服で着衣っていうのが、興奮するだけ」
「もう本当あんたって男は」
なんて残念な男だ。
…でも、そんな残念な部分だとか、余裕なくなったときの黒尾の様子とか、そういうのは私しか知らないことで、そう考えると優越感を覚える。
(…ベタぼれってことだよねぇ)
黒尾は私が相当黒尾のことを好きだとよく分かってる。だからこうやって今ニヤニヤしてるし、多少変なことしても私なら受け入れるって分かったうえで色々やってるんだ。…ああ、もう。悔しい。結局黒尾にいいようにされてて、それでもいいかなとか思ってることが。そしてそれも、黒尾に見抜かれてることも。
「なまえ、こっちこいよ」
「……仕方ない」
お願いされたからだからねと言って、腕を広げて待ってる黒尾の胸に飛び込む。
大好きだ、このやろー。
20140613(20250210)