02.2人の日常
呪術師界隈にとってバタついたクリスマスが過ぎ、落ち着きを取り戻してきた年末。冬休みに入ったなまえは、年越しの買い出しに伏黒恵と来ていた。
浮き足立った周囲の空気に特に流されることも無く、2人は淡々と買い出しをこなしている。
「悟お兄ちゃんは、年越しは無理そうって」
スマートフォンのメモアプリに記録した買うものを確認しながら、なまえはスーパーのカゴを手に取る。流れるように伏黒はカートを引っ張り出し、なまえからカゴを受け取ってカートに載せた。
買い忘れや思ったより足りてなかったものと、お菓子やジュースの買いだめだった。
「……その呼び方、そろそろやめろよ。来年から教師と生徒になるのに」
「あー、やっぱりまずいよねぇ。でももう、口がそれで覚えてるから意識してかないと……えーと、さとるせんせい?」
「そこは五条先生だろ」
伏黒から冷静に突っ込まれ、なまえは苦笑いを浮かべる。
伏黒より先に五条悟に保護されて一緒にいたなまえからすると、今更苗字で呼ぶなど逆にくすぐったかった。が、伏黒が言う通り来年から呪術高専に通って教師と生徒になるのだから公私は分けるべきだろう。そう考えたなまえは、頭の中で何回か五条先生というのを繰り返した。
「そういう恵こそ、ちゃんと呼べるの?」
「当たり前だろ。……おい。それ、ついこの間も買ってなかったか?」
「もうなくなっちゃった」
「太るぞ」
「ちゃんとその分動いてますー!」
伏黒から嫌味でもなんでもなく、こんなことを言われるのだ。もはや2人の間では定番と化したやり取りである。気心の知れたら幼なじみ特有の空気感。なまえは、それが無性に落ち着いて好きだ。
「ていうか、接近戦ならまだ私の方が恵より上じゃん」
ふふん、と勝ち誇ってみせるなまえ。それに対して、伏黒はさして表情を変えることなく、カゴに自分の飲み物を入れながら返す。
「ゴリラだもんな」
「それはさすがに怒るよ、恵」
幼なじみと言えども許せないものがある。なまえがあからさまにムッとして見せれば、伏黒はその整った顔で、少し愉快そうに笑う。
口では、なまえよりも伏黒の方が上なのだ。
なまえが言い返しても内容と語彙力の差か。悲しいことに、口ではなまえは伏黒に勝てないのだ。
だからあえて……子どもっぽいと分かっていながら、こうやって態度に出してなまえは抗議してみせるのだ。これまた悲しいことに、大概は流されるのだが。
「恵、そんなんじゃ高専の先輩たちにシメられ……でもやり返しそうだ、だめだ」
「勝手にだめ扱いすんな」
概ねメモに記入していたものはカゴに入れたため、2人はレジに向かう。レジを待つ間はそれぞれスマートフォンを触っていたが、今更そういう沈黙や行動が苦になるような間柄でもないため、そのままレジで会計を済ませた。
なまえが会計をし(ちゃんと領収書を書いてもらった)、商品は伏黒が詰める。2人にとっては当たり前の作業分担だった。
そして当然のように伏黒が重い方を持つのだ。これには何度かなまえが自分で持つと言ったのだが、伏黒は譲らなかった。
「うー、さむっ!恵、風避けになってよ」
「そこは遠慮しろ」
と言いつつも、結局伏黒の方が背が高いため、なまえはしれっと伏黒を風邪避けにして歩く。今更、伏黒も深く言うことは無い。
「ガキ使、今年もみようね」
「……ん」
言葉短にだが、それでもちゃんと返してくれる伏黒。マフラーの下で、なまえは小さく笑う。
今年も一緒に年を越す。
少しベクトルは違うが、その「当たり前」が、なまえも伏黒も大切で愛おしいと思っていた。
2017年の年末の、ある日の2人の日常の1ページだ。
──後処理や何やらでてんやわんやしていたのも束の間、別件で五条悟は上層部から呼び出されていた。
「報告は受けた。なんの問題もなく、3年過ごせたと」
「後見人としての意見を聞こうか」
頭が固い、保身主義……そういった上に五条悟は嫌気がさしていたが、ことこれに関しては五条も他のことより慎重になる。
自分たちが「みょうじなまえ」という呪いをかけ、人間にした彼女のことだからだ。
「特級神呪・みょうじなまえは、問題なく呪術師として働けるかと。この3年、本人の情緒も術式も安定しているので」
中学3年間、何事もなくすごす。
これが、なまえが上層部から呪術師になるための条件として出されたものだった。なまえは3年間、情緒が著しく不安定になったりすることも、術式が暴走することも無く、卒業を迎えられそうだった。
「……よかろう。だが、高専に入れても定期的な報告は必要とする」
特にこれに異はない。むしろこの程度で済んだのだから、五条はなまえの成長を内心喜んだ。
「私がつくのでご安心を」
口調は丁寧だが、五条悟は五条悟である。
最強で軽薄。
上層部もそれを理解した上で、一部は苦々しくしていることだろう。
「それで、等級は?」
「3級からでよいのでは?」
「そうですね。呪術師としての経験は無いので、それくらいでいいかと」
これに関しては、珍しく上層部と五条の見解が一致した。まめに報告しておくものだなとどこかで適当に思いながら、五条はなまえの反応を想像してあとは適当にやり過ごしていたのだった。