05
その子は、部活仲間の黒尾の彼女だ。たまに試合を観に来てて、話したりしたこともある。あの子は、研磨とも仲がいい。3人は同じ中学校だった。山本とか犬岡もなんだか懐いてるみたいで、姐さんとか呼ばれてる。でも性格はそういうタイプじゃない。どこにでもいるような、普通の子。
すごい美人とか、アイドル並にかわいいとかじゃないけど、黒尾といるときのあの子は眩しいと思った。
「あ、夜久くん」
職員室から出たとき、声をかけられた。特によく喋るわけじゃないけど、覚えのある女の子の声だ。振り返ると、その覚え通りの女子がいた。
「みょうじさん」
黒尾の彼女の、みょうじさん。いつも黒尾といるところとか友達といるところをたまに見かけるくらいだから、こうやって二人でいるっていうのは初めてかもしれない。みょうじさんは、問題集を持ってた。ちらっと見えたけど、志望校対策の問題集だった。
「質問にきたの?」
「そう。狭山先生に」
「狭山先生、さっき部活の会議にいってた」
「えっ、そうなの?しまった、遅かった…」
みょうじさんはため息をついて、少し肩を落とした。黒尾とよく勉強してるっていうのは聞いたことがある。話に聞いててる限り、頑張ってるんだなって思ってた。
「しょうがないから放課後にするかー…。夜久くんは、どうしたの?」
「進路相談の紙出しにきたんだよ」
「あ…私も出さないと」
「明後日までだしね」
そのまま会話しながら、なんとなく流れで一緒に歩く。クラスは別々だけど、途中まで一緒だからここでさようならもなんか違う気がした。それじゃなんか、よそよそしすぎる。友達というほど親しいわけじゃないけど、他人というほど知らないわけじゃない。そういう微妙な関係だ。
「そういえばそろそろ予選始まるんでしょ?鉄朗から聞いたよ」
「……」
鉄朗って、黒尾の名前呼ぶときのみょうじさんの顔見てたら、なんかこっちがはずかしくなった。
「みょうじさんってさ」
「ん?」
「黒尾のこと、すごい好きだよね」
ぽろっと、思ったままを言ってみれば、みょうじさんの目が丸くなった。そしてみょうじさんはすぐに赤くなったから、黒尾の「なまえの反応が、すげえいいんだよ」って言葉を思い出した。…すごい悪そうな顔して言ってたな、そういえば。
同時にほんの少し、罪悪感。思わず思ったままが口から出たけど、からかいたかったわけじゃないから。
「なっ…え?!や、夜久くん!なんでそんなっ」
「(すごく動揺してる…)じゃあ、またね、みょうじさん」
教室の扉を開けて、教室に入る。扉閉める前にみょうじさんを見れば、まだ顔が赤かった。
(……黒尾が言ってたことに、すごい共感した)
でもそれを言えば主将の機嫌が悪くなるのが目に見えてるから、絶対に言わない。
20140614(20240707)