06
うちはお父さんが再婚するまで、家事は私がやってた。といっても、だから本格的に料理できるのかと言われたら違う。簡単な家庭料理くらいしか作れないし、魚料理とかはムニエルくらいしか作れない。
(…がんばれば、塩焼きとか作れるのかな)
あ、そもそもさんまって今の時期あるのかな…。なかったらどうしよう…鯖の塩焼きでもいいかな。でも鉄朗が好きなの、さんまの塩焼きだし…。
なんて考えながら、キッチンに行く。ちょっと今のうちに練習しておこう。
「えーと…グリルの使い方、教えて…」
お義母さんに頼めば、嬉しそうに返事をしてくれた。
鉄朗の家には金曜日に泊まりにいく。毎週泊まることはしなくても、鉄朗の家にいって…鉄朗の部屋で過ごしたりとかしたあとに、ご飯を食べさせてもらったりとかした。だから鉄朗んちのダイニングとかには結構馴染んできてると、思う。だけど、高校生のうちに鉄朗の家のキッチンに立つ日がくるなんて思ってなかった。
「…いいな、エプロン姿」
「そんな見られたら作りにくいんだけど」
家から持ってきた自分のエプロンをつけて、髪の毛を結ぶ。グリル使う練習とかしてきたけど、うまくいくかなとか不安はある。ちなみに、さんまはやっぱりスーパーになかったから、鉄朗と二人で鯖を買ってきた。あとは鉄朗の家に食材があった。(もちろん、鉄朗の家族には許可を取ってる)
「鉄朗、座っててよ。すぐできるから」
サラダと味噌汁と…作る物とその手順を頭の中で確認しながら、鉄朗に言う。今日、鉄朗の家族は用事でいない。だから私がご飯を作りにきた。
「いや、なんか手伝う。サラダなら野菜ちぎるくらいだからできる」
「…切るって言ってよ」
確かにレタスは手でちぎったほうが変色しないからいいけど、今日はレタスを使わないから、ちぎる以外もあるよ。なんてどうでもいいことを言いつつ、手伝ってもらうのは嬉しかったから、鉄朗の前髪をヘアピンでとめて二人で並んで料理する。…結婚したらこうなるのかなとか思いながら、煮干しの腸をとる。ああ、なんかそんなこと考えるとにやにやしちゃう。
「結婚する前の練習ってことで」
見透かしてる…その証拠に、にやって笑いながら鉄朗はそう言ってきた。本当にずるい男だと思う。一生勝てる気がしない。なにより、それでもいいかなぁとか思っちゃってて、もう本当に末期だ。悔しいと感じることが嬉しいとか、私本当マゾかなんかになってしまったのかな…。
サラダ作りと箸だしたりとかは鉄朗に任せて、焼いた鯖を皿にのせる。火はしっかり通ってる。安心しながら、お椀に味噌汁をよそおうとしたら鉄朗が鯖を運んでくれた。
「あ。ありがとー」
「どーいたしまして」
こういう風に手伝ってくれるんだ、鉄朗。…結婚してもこうなら、相当助かる。
(本当鉄朗と結婚したい)
惚れ直した、どうしよう。ていうか私は残りの人生であと何回鉄朗に惚れ直すのかな。そんなことしてたらあっという間に寿命縮んで死んでしまいそうだ。そしてたまに、鉄朗が好きすぎて怖いとかいう結論になる。そのことを前にみっちゃんに話したら、「惚気だ!」ってチョップされた。あれは、ちょっと痛かった。
「ご飯はどれくらい?」
「大盛り」
「はーい」
動揺とか悟られないように、ご飯よそうために鉄朗の方に背中向けた。…とりあえず、ご飯よそってる間に落ち着こう、うん。
ご飯と味噌汁も運んで、二人で手を合わせてる。いただきます、って声がハモって、少し気恥ずかしい。だけどこういうのいいなぁとか、ほっこりした。
「ん、うまい」
「本当?味噌汁しょっぱいとか、魚生焼けとか、そういうのない?」
「ねえよ。めちゃくちゃうまい」
もりもり食べてくれる、鉄朗。鯖の塩焼きの身をほぐしながら笑ってくれたから、よかったって安心する。塩加減とかとりあえず私の好みにしたけど、よかったらしい。今更お世辞を言うような関係じゃないから、鉄朗の言葉は素直に受け入れられた。
「今度はさんまの塩焼きにするね」
「期待してる。あとさんま一匹じゃ足りねえから」
「今日も鯖、鉄朗の分は二切れ焼いたしね」
改めて男の子だなぁって、思った。食べる量も、食べ方も、箸を持つ手とか見てたら。
「…グリルの使い方ね、早智子さんに教えてもらったの」
早智子さん…新しい、お母さんの名前だ。鉄朗は食べる手を止めて、私をみる。その真っ直ぐな視線を受けながら、話を続ける。
「その時に色々話してね…無理しなくておかあさんとか呼ばなくていいよとか、おかあさんって思わなくていいよとか言われて…なんかそれでから回ってたの私だけかって気づいて…鉄朗に前言われた、力抜けってことの意味、分かったの」
早智子さんは、「私はなまえちゃんのお母さんになれるわけじゃないし、なろうとしてもそれはなまえちゃんがそうして欲しいって思ってるわけじゃないから押し付けがましいでしょう」「家族ってそういうものじゃないし、なろうとしてなるものでもないから。だから、前みたいに名前で気軽に呼んで、ちょっと年の離れた姉とか友達みたいとかそういう風にしてほしいの。なんかそっちの方が、多分私たちに合いそうだもの」って言ってくれて、…ほっとした。そして鉄朗の言葉思い出して、ああこういうことだったのかって、なった。
「ありがとう、鉄朗」
本当に鉄朗がいてくれて、よかった。
もう何度、鉄朗といてそう思っただろう。
そう思って何度もありがとうって言って、そして私は鉄朗に何ができるのかなって考える。
私が鉄朗に頼まれればなんでもやるのは、そういうのもある。鉄朗が喜ぶならと思う反面、いつも鉄朗に助けられてばかりだからって、いう。きっと…鉄朗は全部分かってる。
「別に、特別なことなんかしてねえよ」
分かっててこんなこと言ってくるんだ。
本当、勝てないなぁ。…好きだなぁって、なってしまうのも、仕方ない。
(だって本当、そう思うから)
だから多分、鉄朗と別れたら私はだめになっちゃう。
20140616(20240707)