07
体育祭は、好きだけど嫌い。
応援したりほかの人の競技を見るのは楽しいんだけど、自分がするのはあまり好きじゃない。運動は得意じゃないし。でも、お祭りみたいな雰囲気とかは、好き。
「あー、暑い…やける…」
「だれてるな」
鉢巻きを締め直しながら鉄朗は言う。いつもすごい練習こなしてるだけあって、鉄朗は私より平気そうだった。プログラムであおぎながら、今やってる騎馬戦を見る。だいたいガタイのいい運動部がやってる。今、山本と犬岡もでてる。インハイ前だから怪我だけは気をつけて欲しい。もちろん、みんなに対して思う。
「鉄朗、あとなんにでるの?」
「あと俺は午後の団対抗リレーだけだ。お前は?」
「午前は次の障害物競争で終わり。午後はクラス対抗リレー」
「障害物…粉まみれになるじゃねえか」
想像して鉄朗が笑った。
障害物競争は、鉄朗が粉まみれになるって言った飴食いとか色々する。足が速くない私でもがんばればそれなりにできるからしたんだけど、去年はパン食いだったから今年もそうだろうと思ったら今年は飴食いだった。粉まみれだけは本当、テンションさがる…。顔洗わなきゃだし、それでまた日焼け止めとか塗り直さなきゃいけないし。
「あれ、息ふきかけてやるより顔をがっ!って突っ込んで口で探した方がいいらしい」
「えー…なにそれ、やだ。あ、集合しないと…」
「頑張ってこい」
集合のアナウンスが流れたから、行かなきゃいけない。立ち上がったら言葉とともに鉄朗から尻を軽く叩かれた。思わずプログラムで鉄朗の頭を叩いた。
集合場所にいくと、犬岡と山本がいた。二人とも勝ってるとこ見えたから、本当この二人すごすぎる。特に山本あの殺気感じるくらいのやる気。山本は、こういう行事が好きだ。犬岡も楽しんでやってた。
「姐さん、お疲れ様っス!」
「あねさん!俺、騎馬してました!」
「うん、見てたよ。すごかったね」
誉めれば山本は少し照れたように、犬岡は嬉しそうに笑った。…かわいい後輩たちだ。いや、部活での私の接点は鉄朗と研磨くらいだけど。だけど(呼び方はともかく)それくらいしか接点のない私にここまで懐いてくれてるから、嬉しく思う。
「姐さん、障害物でるんスか?」
「そう。粉まみれはいやだけどね…。じゃ、そろそろ行かないと体育委員に小言言われちゃう」
「あねさん、ファイト!」
犬岡と山本の応援を受けながら、頷いて集合場所に向かう。
障害物競争は二位で、私にしては奮闘したほうだ。保健員でテント下にいたみっちゃんとハイタッチしてから、粉まみれの顔洗いに行った。そしたら鉄朗が待ちかまえてて、粉まみれの顔を写メられた。すごい、にやにやしてた。
「ばか!消してよ!」
「研磨に送っといた」
鉄朗許さない、絶対にだ。
…だけど競技中の鉄朗は、すごくかっこよかった。
体育祭が終わると、すぐに試験なのは正直萎える。体育祭が好きじゃなくても絶対そう感じると思う。
三年生になると、ひとつひとつの試験の結果が重く感じる。それは中学三年生のときもそうだった。入試までの積み重ねって感じで。だから、一回の考査の結果でも一喜一憂する。
「……うーん、やっぱり数学があんまり点とれなかった」
「それでもほかの教科よくなってるし、あんた全体的に点とれてるじゃん」
みっちゃんと返ってきた答案用紙を、昼休みに突き合わせる。先生が授業で解説してくれたとこはしっかりメモしたから、今はそれを見てる。
「でもさ、毎回同じような問題で点数とれてないとへこむ…」
「あー。まぁ、それはねー。あんだけ勉強したのにーってなる」
「だよね?!」
みっちゃんとは志望大学が違う。みっちゃんは志望校は余裕だって言ってた。私も自分のレベルにふさわしいとこにしてれば、ここまでひいひい言わなかっただろう。けど、志望校はちょっと自分よりレベルが高いとこにした。
「学歴ってブランド、ほしい…」
「うちのお姉ちゃんも言ってたけど、学歴は高くて損はないらしい」
「就活とか便利なんだろうなー」
色々考えたら、やっぱりいい大学出ても損はないって結論になる。ああ、でもその前にセンター試験で合格できないと話にならない…。でも今は勉強に集中できてると思う。現に数学以外は、結果がでてきてる。となると、数学の勉強の仕方が悪いってことかな。…それとも、根を詰めすぎてるか…。
「委員長ー、なんかバレー部の奴がいる」
「!えっ?」
言われて扉の方を見ると、覚えのあるモヒカンが教室…私をガン見してた。なんか、すごい目つきと鬼気迫るものがあって…さすがに引いた。
「…何してるの、山本」
扉開けて声をかければ、山本はいつものようにオーバーな挨拶をしてくる。
「姐さん、お疲れ様です!」
「あ、うん。どうしたの?鉄朗なら今いないけど」
「今日は姐さんにお話があって!」
「話?」
首を傾げた。…ところで、デジャヴ。
「姐さん!!」
「うわ?!ええっ?!」
「合同合宿のときだけでいいんで!マネージャーになってください!!」
「な、泣きながら土下座やめてよ!」
山本が視界から消えたと思ったら、私の目の前で土下座した。泣きながら。ものすごく、人目を集めた。膝をついて慌てて立ち上がるように言えば、山本は顔だけあげた。泣いてて、めちゃくちゃ必死な顔してた。
「烏野に!マネージャーが増えてたんです!!」
「うん?!」
「なのにうちには!マネージャーが…!ううっ…!」
「まだ泣くの?!ていうか、マネージャー勧誘してたんじゃないの…?!」
「俺が話しかけられる女子は!姐さんだけっス!!」
「……」
なんだかとっても悲しくなった。
部活終わってから3人でご飯食べにいく約束をしてたから、部活が終わった研磨と鉄朗を待っていた。鉄朗は監督たちと話をしてる。今度の合宿のことで話をしてるらしい。…私がいくことになったから、多分そのことも話してるんだと思う。だから鉄朗待ってる時に、研磨に山本の話をした。
「…それで、山本の話受けちゃったの…?」
研磨が呆れ顔だった。私にじゃなく、山本に対してだ。山本が普段から女子マネに飢えてるのを知ってるからなおさら。あと山本の話によると、烏野高校のマネージャーは、美女とかわいい系らしい。めちゃくちゃ羨ましいと力説してたなぁ、山本…。
「うん、なんかあんな勢いで…あんな悲しいこと言われたら…」
「…なんか、ごめん」
「いや、いいよ。それでみんな集中するならさ。あ、でもいきなり合宿いくのも足手まといになりそうだから、しばらく部活のほういって作業覚えるから」
「ん…」
部室前の壁に寄りかかって、研磨とだべる。研磨はスマホのゲームしてて、私も参考書を読んでた。研磨は、私の参考書をちらっと見た。
「勉強…大丈夫なの?」
「んー、数学以外はね…」
「なまえ、数学だけはだめだもんね…」
「ほかはね、そこそこ成果でてるんだけどねぇ」
「おー、悪い。終わったぞ」
「あ、お疲れ様」
監督たちとの話が終わった鉄朗が戻ってくる。部活のあとで、ようやく汗がひいてきたところみたいだ。だけどここに戻ってくるまでに、また少し汗をかいてた。もう夏だからなぁなんて思いながら、「着替えてくる」って部室に入った鉄朗に頷く。参考書を鞄にいれると、「おれは、」研磨が口を開いた。研磨はスマホのゲームをポーズ状態にして、私を少し、見た。
「ん?」
「無理にとは、言わないけど…なまえがいてくれたら楽だし…山本も騒がないだろうし…ただ、その」
「大丈夫だよ。迷惑とかじゃないし」
研磨の言いたいことが、なんとなく分かった。研磨は人見知りだし、人の目を気にするからこそ人を見る観察力がある。だから私のその言葉だけで、私の気持ちを察してくれる。
「…そうなら、いい」
研磨はそう言うと、スマホのゲームを再開する。
「研磨、そろそろ鉄朗くるよ」
「あと少しで終わる…」
「おい、着替えたぞ。飯だ、飯」
着替え終わった鉄朗が出てくる。研磨はそのままゲームをしたまま歩き出す。…器用だなぁ、研磨。そのまま玄関まで歩いてたから、本当器用だ。下駄箱は学年で別れてるから、研磨は二年生の下駄箱の方に向かう。私と鉄朗はクラスが一緒だから、下駄箱も一緒だ。
「さっきの話だけど、」
「ん?ああ、聞いてたの?」
「聞こえた。研磨が言ってたのは、俺も気にしてた」
「……気を使わせてちゃったね」
「いや、頼んだのはこっちだしな。それに、合宿の間だけでもマネージャーがいるのは助かる。他県の学校との合同合宿なんてそうそうできねーから、部員に十分経験させときてえ」
「それなら、いいよ。気にしないで。だって私、バレーしてる鉄朗好きだから。だからそんな鉄朗の力に少しでもなれるなら、嬉しい」
ローファーに履き替えて、上履きを下駄箱に仕舞う。鉄朗もローファーを出して、履き替えてる。…鉄朗、脚長いなぁ。
「…鉄朗?」
返事がないから振り返れば、頭を思い切り撫でられた。鉄朗の手はおっきくてゴツゴツしてて、しかも強く撫でてくる。髪の毛が、ぐしゃぐしゃになる。
「わっ…ちょっ…?!」
「うん、なんっつーか。改めて気合い入った」
「?」
頭から手を離されて鉄朗を見れば、機嫌よさそうになってて、すたすた歩き出してた。慌てて追いかけると、靴をはき終えてた研磨が私に言った。
「前からだけど…なまえって無自覚にクロ煽るよね」
「?!煽ってないけど?!なんでそうなるの?!」
聞いても研磨は答えてくれなかったし、鉄朗はにやにやしてるだけだった。
後日、初めて直井さんと猫又監督に会って挨拶したときに、「お嬢ちゃんが黒尾を煽る才能持ってる彼女かぁ!」とか言われて、本当私は男子バレー部からどう思われてるんだろうと不思議だった。
20140617(20250211)