08



「!みょうじさん、もうドリンクの濃さ覚えたの?」
「うん、暗記は得意だからね!どう?夜久くんのは?」
「ん、俺のもちょうどいいよ」
「やったー!」

いえい!って、色々教えてくれた芝山くんとハイタッチをする。芝山くんたちから色々聞くまで、スポドリの濃さにも好みがあるんだとは知らなかった。といっても、薄すぎるとスポドリとしての意味が無くなるので、本当にわずかな差なんだけどね。でもそういうのもコンディション左右するだろうし、小さなことだけど大事なことだと思う。
音駒男子バレー部に臨時的にマネージャーに入って、二日目。元から顔見知りだったのもあって、コミュニケーションのほうは問題ない、と思う。

「タオルとかももう干してあるから」
「あねさん、めちゃくちゃ手際いいっスね!」

犬岡はすごいストレートだ。誉めてきたりとか、感情表現とか。気持ちいいくらいに。持ち上げられる事ってそうそうないから、くすぐったい。

「あと他に覚えることってある?」
「作業のほうは大丈夫です。あ、今日はミニゲームみたいな感じで練習するんで、得点つけてもらえますか?」
「うん、分かった」
「流れ弾に気をつけてくださいね?」
「うん…昨日、痛かった」

リエーフが受け損ねたスパイクが、昨日私のお尻に当たった。すごい痛かったけど、リエーフめっちゃ謝ってきたし、悪気あってのことじゃない。それにそういうのって、バレーボールでは割とよくあることらしい。だからぶつかりそうになったら、避けるかガードしろって鉄朗から言われた。
あの勢い、もしくはあれ以上の勢いのボールが日常茶飯事なんだよね、バレーって。それをレシーブとかするって、すごいなぁ本当。

「あ、始まります」

AチームとBチームに別れての、ミニゲーム。
部内でのミニゲームだけど、みんな真剣に取り組んでいた。


片付けとかして、みっちゃんの部活、テニス部の更衣室を借りて着替えた。汗たくさんかいて、制汗スプレーして少しすっきり。髪の毛はまた結び直して、みっちゃんたちにお礼言ってから女テニの更衣室をでる。

「みっちゃん、ありがとー」
「はいはーい。黒尾と帰るの?」
「そう。相手高校のこと聞いておこうかなって」

合同合宿をさせてもらうから、相手を知らないのは失礼かなって。だから鉄朗から今日、相手高校のことを聞く。たしか、音駒のほかにあと4校くるっていうのは聞いてる。

「そういうのなくても帰るくせにー」
「み、みっちゃんうるさいよ!」

時々、鉄朗とみっちゃんは似てる。人をからかってくるときの表情とか…。…私の周りって、そういうのばっかりだ。

みっちゃんたちと別れて、玄関で待ってる鉄朗のとこに行く。今日は研磨は先に帰ってるみたいで、鉄朗しかいなかった。

「ごめん、お待たせ」
「おー、お疲れ」
「お疲れさまー」

ふと、ローファーに履き替えながら、もしも私がマネージャーだったら、こういうのが毎日だったのかなって。…うーん、ちょっと三年間惜しいことしたかもしれない。ほんの少し、後悔。

「私、マネージャーしとけばよかったかなぁ」
「なんで?」
「いや、みんなすごいがんばってるし、鉄朗かっこいいもん」

鉄朗がバレーにひたむきで真剣にやってるのは知ってる。そしてマネージャーをしてたら、それがすごいとても間近にみれた。…私はずっと、鉄朗のそんな様子を「外側」から見てきてて、本当もったいないことした。…っていうのを掻い摘まんで話せば、鉄朗が急に私の腰に手を回して抱き寄せてきた。

「?鉄朗?」
「…なまえ。お前今日、うち来いよ」
「えっ。なんで?今日金曜日じゃないから泊まれないよ」
「合同合宿にくる学校のこと、じっくり教えてやるから」

じっくりって、耳元で言われてそのお誘いがどういう意味か分からないほど、うぶじゃない。だから赤くなったし、それ見て鉄朗が笑っても何も言い返せなかった。


──夏に向けて色々準備をしていたら、ついに夏休みになった。高校生最後の夏。
夏休みに入ってすぐに、他校生との合同合宿だ。初めてそういうのに参加するからちょっと緊張した。あと、迷惑にならないかなぁって不安。一応普段の部活に参加して作業には慣れてきたけど、それでも「合同」合宿だから、その間は部員の数も増えるというわけで。もちろん、普段からマネージャーしてる人たちも一緒にきてるから頼もしいけど、その人たちに頼ってばっかりっていうのはだめだ。

「おはよう、黒尾くん。合宿、頑張ってね」
「はい。責任をもって、なまえちゃんをお預かりさせていただきます」
(本当誰この人)

家まで迎えにきてくれた鉄朗は、早智子さんにそう言った。爽やかっぷりは相変わらず違和感強いけど、言ってることはしっかりしてる。さすが主将。しっかりしなきゃいけないときは、ちゃんとしっかりする男。…別に普段が頼りないわけじゃないけど、いつもが人を食ったような態度というか…。そんなんだから、鉄朗がしっかりまともにしてると、そう思ってしまう。
早智子さんに見送られながら、鉄朗と玄関をでる。外では研磨が待ってて、ゲームをしてた。

「研磨、おはよー」
「うん。おはよう、なまえ」
「つーかお前、ハーフパンツか」

集合場所の学校に行きながら話す。体育祭とか文化祭のときとかもこうやって3人で行ってるから、私の学生生活の行事のときには必ず2人が一緒にいる。中学生のときからそうだ。

「え、いけない?今は朝だから涼しいけど、昼になったら暑いでしょ?」

夏の盛りだ。しかも今年も猛暑でしょうとか言われてるから、暑くなるのは確定事項みたいなものだ。日焼け対策に日焼け止め持ってきたし、ハーフパンツでも大丈夫だと思ってた。だから、鉄朗からそういうこと言われるなんて思ってなかった。…もしかして、長ジャーのほうがよかったのかな?
鉄朗は、これ見よがしにため息をついて私の脚を指差した。

「お前、そんな脚出してどうすんだ。どんだけ自分が今エロい格好してるか自覚しろ」
「鉄朗のそういうとこサイテーだよね」

どんな理由があるのかと思ったら…くだらなかった。研磨がため息をついた。私だってため息つきたい。だけど鉄朗は真顔のまま続けてる。

「お前の脚、白くてちょうどいい感じなんだよ。すげぇ撫で回したくなる」
「そんなこと思う変態は鉄朗だけです」
「いいや、女に飢えてる野郎どもなら絶対そう思うからな。だからあとで長ジャーに履き替えろ」
「やだよ。持ってきてるけどめんどくさい」
「…でもさ、なまえ。今回の合宿所の森然高校、すごい虫多いよ」
「えっ。なにそれやだ!」

研磨から虫、と聞いて、思い浮かんだのはおぞましい害虫たち…。…ぞわぞわってきて、鳥肌が立った。そんな私を見て、鉄朗はにやりといやな感じに笑った。

「そうだな。めちゃくちゃ虫がいるからなぁ。お前のその脚に虫がつくかもしれねーな」
「!?や、やめてよそういうこと言うの!」

想像したらさらに鳥肌が立って怖くなった。

「…バス出発前にトイレで長ジャーに着替える…」
「おーおー、そうしとけ」

結局鉄朗の言うとおりになったけど、虫が怖いから仕方ない。


学校に全員集合して、点呼を済ませてバスに乗った。みんな朝から元気だ。

「姐さん、はざーっす!」
「おはようございます、あねさん!」
「おはよー、山本、犬岡。…なんで犬岡、もうおにぎり食べてるの?」
「お腹すいたからっス!」
「それもしかして二度目の朝ご飯?」
「はいっ」

話しながらもりもりおにぎりを食べてる犬岡。すごいな…相変わらずよく食べる。
みんなや監督たちにも挨拶してから、適当に席に座る。前の席には鉄朗と研磨が座ってて、私は一人広々と座ってる。後ろの席は夜久くんと海くんだ。静かにできそうと思ったけど、山本がめちゃくちゃうるさかった。

「ウルセェ山本!」

我慢できなくなった鉄朗が怒鳴る。だいたいいつもこんな感じだからって、夜久くんたちとポッキー食べながら聞いた。

「烏野も結構賑やかだから」
「あー、なんか山本と犬岡と研磨から聞いた。研磨、烏野の子とメアド交換したんでしょ?それ聞いてびっくりしたよ」
「そうそう、烏野のチビちゃん」
「なまえ、お前のど飴持ってきてるだろ、一個くれ」
「あ、うん。鉄朗、袋ごと渡すから好きなのとって。研磨もいるならとっていいよ」

前の席の鉄朗の手に袋持たせて、座席に座り直す。烏野のチビちゃん…研磨の話でも聞いた、「日向翔陽」くんだ。たしか、一年生。鉄朗にも聞いたけど、「烏野全体がそうだけど、おもしろいぞ」って返ってきた。あーあとマネージャーのことは、山本から聞いた。きれいな「潔子さん」と、かわいい系のちっちゃい女の子。
マネージャーの人たちと、仲良くできるといいなぁ。


埼玉の森然高校についた。噂の烏野は宮城からくるから、まだ来てない。遠方から大変だなとのほほんと構えてたら、山本が「うちにもマネージャーがきた!」とか言って回ろうとしたから参考書の角でたたいておいた。
合同合宿に参加するのは、うちの音駒と、梟谷と森然、生川、烏野の5校だ。烏野以外は前から合同合宿やってて、今回猫又監督が烏野に声をかけてこの合宿に招いたらしい。なんでも音駒と烏野は昔からライバル関係で、ゴールデンウイーク合宿で久しぶりに因縁の相手と練習試合をしたって、鉄朗から聞いた。鉄朗は、その因縁の対決を公式戦でやりたいと思ってて、それは烏野も同じだとか。…いいなぁ、青春してる男の子って感じで。

「それじゃ、私たちは今日使う布団干しちゃおう」
「たくさんあるからてきぱきやろうか」

そして私は他校のマネージャーさんたちと自己紹介したあと、早速仕事だった。鉄朗たちもほかの部員さんも練習するための準備に取りかかってる。マネージャー経験ない私にマネージャーさんたち優しく教えてくれて、すごく嬉しかった。

「じゃあ、替えのシーツ洗濯してくるね」
「うん、お願いねー」

カゴ2ついっぱいのシーツ。カゴを持って、教えてもらった洗濯機がある場所に向かう。スピードコースにしないと間に合わないから、洗濯機フル稼働させてスピードコースで回す。ああ、あと物干し竿も出しておかなきゃと思って、外にでる。教えてもらった場所にあった物干し竿運んで載せて、…よしっと。

(あとは戻って、ほかに何するか聞かなきゃ)

指示待ち族みたいだけど、まず教えてもらわなきゃ慣れるも何もない。明日からは自発的に色々できるようにならなきゃと、意気込んだ。




20140618(20250111)



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