太刀川慶と出水公平で年下同期の話
試験期間を無事乗り越えたらしいことは、太刀川の顔を見れば一目瞭然だった。清々しい顔をしている。
隣県のB級グルメの話が流れたときに試験があると聞いたので、それはむしろ流れて当然だと出水は思った。
太刀川隊に大学生は太刀川以外いないので、大学の試験期間などは誰も把握していない。
「みょうじさんに把握されててよかったじゃないですか」
「その後は鬼のようなスケジュールだったけどな」
とは言いつつも、表情はそこまでげんなりしていないのが太刀川だ。なんだかんだでなまえに世話を焼かれてる自覚があるのと、それがいやじゃないのだろうと窺わせる。
最初はなまえも頼まれたから仕方なくといった感じだったのだが、腹を括ったらしい。なんとはなしになぜそこまで面倒を見るのかと出水が聞いた時、彼女は、
「拾った犬の面倒を最後まで見ないのは人としてどうか?という話と、同じだよ」
と、出水に答えたのだ。
責任感があり真面目だとも捉えられるし、太刀川のことを犬と思わないとやっていけないと言っているとも捉えられる発言だった。
「でも正直、太刀川さんがここまで大人しく言うこと聞くって思ってなかったから、びっくりはしましたけどね」
ごねて強行突破もありえると思っていた。ゴーイングマイウェイ、我が道を行く戦闘狂。ランク戦が趣味と嘯くような人物だ。いつもよりランク戦が減らされることにごねたり、あるいは自分のしたいことをもっと優先させるかと思っていたのだが。割となまえの言うことは聞くのだ。
二宮が「最近の太刀川は、みょうじの尻に敷かれているだろう」と言っていたのは、出水の記憶に新しい。
「出水は知らないと思うけどな、あいつは怒らせると怖いんだよ」
「みょうじさんを怒らせるって何やらかしたんですか?」
なまえは交流関係は狭いが、人当たり自体は悪くない。表情の変化をあまり顔に出してないだけで、個性が強い人間が多いボーダー内では常識人に部類される。だから、怒っているところを見たことがないという隊員の方が多いくらいだ。
そんな人物を怒らせたのだ。それも、怖いという感想を抱くほどに。
「あいつのトリオン体、生身と違って貧相だろ?」
太刀川の言う通り、なまえはトリオン体を生身と違う設定にしてる。生身の方が胸が大きく、トリオン体はほぼ真っ平らの少年のような体型だ。一部の男性隊員がその設定を嘆いているのだが、それはまた別の話。
「そうですけど、それが?」
「だから、大きいのはいいことだからトリオン体変えるのもったいなくないか?って言ったら、うじ虫を見るような目をされたし1ヶ月くらい無視された」
「……」
よくセクハラで訴えられなかったな、この人。というか、それは普通に怒られて当たり前だ。
「……他の女の人におなじようなこと言ったらだめっすよ」
「みょうじにもそれ言われたな」
(……許した上に、まだ面倒見てるなんてみょうじさん、お人好しがすぎるんじゃねーかな)
これは確かに犬云々発言もでるなと、出水は密かに納得したのだった。