加古望と年下同期で噂に関する話



「最近、噂がまたグレードアップしてるみたいね」
「把握するのも否定するのも煩わしくて耳に入れないようにしてるから……」

加古から告げられたことを詳しく話される前にと拒否反応を示せば、笑われた。


なまえが把握しているだけでも、ボーダー内で囁かれてるなまえに関する噂は、大まかにわけて2つだ。
まず1つ。これはなまえの入隊理由に関するものだ。「さきにボーダーに入っていた初恋相手の幼なじみが亡くなって黒トリガーになった。亡き幼なじみの意志を継いで、その黒トリガーを使っている」というものだ。
あながち、間違ってはいない。事実が混ざってるから、余計に面倒なのだ。
幼なじみがさきに入隊し、黒トリガーになったこと。意志を継いだ点はあってるのだが、

「初恋相手ってどっから出たんでしょうね……」
「人のウワサだからねぇ。おもしろおかしければそれでよし、美談ならより美談にって感じで憶測から尾ひれがついたんでしょう」

幼なじみが異性だったのも、要因のひとつだろう。
情はあれど、あれは恋愛感情と呼べるほどではなかった。一番近くにいた、大切な他人。それが最もしっくりくる関係なのに、勝手に初恋の相手とされて噂まで広められてるのだから人間というのは本当に…と、最初は頭を抱えたものだ。もうこの噂に関しては諦めた、のだが。

「私としては初めて2つ目の噂聞いた時、思わず笑っちゃったけどね」
「……太刀川さんと付き合ってる云々、ですよね」

2つ目が、これだ。
前も出かける時に噂が云々と、なまえも杞憂していたものだ。
付き合いのある隊員たちは付き合ってないと分かってるしどういう仲なのか把握してるから、この噂を聞いた反応は大体みんな加古と同じで笑うのだ。ありえない、と。
なまえもその噂を初めて耳にした時、「太刀川さんと付き合うくらいなら、私生活面でのことが色々無理すぎてシスターになる」と言ってのけたくらいだ。
「嫌がりすぎだろ」と同じ場にいてその噂を聞いた太刀川は、さすがに少し抗議していたが。

「それでこのふたつが合わさって、噂がグレードアップしてるみたいよ」
「……」

嫌な予感がしたなまえは、詳細を聞く前から顔を顰めた。さすがに加古も、苦笑いになる。

「そこまで嫌がるなら言わないけど…大体どういうのか想像ついてるんじゃない?」
「……嫌な感じに美化されて広まってるんだろうなぁとは」
「そういうこと」

ストローをくわえ、飲み物を飲む加古。
美麗なので、それだけでも絵になる。所作もきれいだからなおさらだ。

年が近いのもあり、加古となまえは仲がいい。
入隊時期はなまえの方が少し早いが、特に互いにボーダー内での先輩後輩という意識はなく、ほどよい距離感で付き合えてる。なまえにとって数少ない、仲がいいと言える隊員の1人が加古だ。

「真面目でお人好しでつい太刀川くんの面倒見ちゃうって言うのもわかるけど、噂が困るならもう少し距離をとるか面倒みるのやめたら?」
「……一度投げ出したくなって連絡無視してたら、連絡なしに部屋に来て課題手伝ってくれって言われたことあったから」
「太刀川くん必死ね」

なぜもっと自分で努力しないのかと思わずに居られない。戦闘狂だからか。

(……なまえなら見捨てないって分かってて、やってるんでしょうね)

太刀川慶も迅悠一と同じで、食えない男だ。
なまえの性格を理解した上で、振舞っている部分はあるのだろう。
良くも悪くも、太刀川慶はなまえを気に入っている。強者だからというのもあるだろうが。

「……本当にいやになったら、骨の1本や2本折ってでも拒絶するのよ?」
「それは、さすがにやりすぎなんじゃないですか……」

難色を示したなまえに、加古は続ける。至極、真面目な顔で。

「男は調子に乗りやすいし、スイッチ入ると大変よ」



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