太刀川慶と加古望で年下同期に対する話
太刀川慶がみょうじなまえを気に入ってるのは、強いから、だった。
入隊してすぐになまえは黒トリガーに選ばれたため直接手合わせした回数は片手に収まるくらいだが、戦闘スタイルがほかの隊員とは異なるところとそれを抜きにしても戦闘センスが高いところを気に入ったのが始まりだった。それはまず、間違いないことだ。
最初期はなまえも太刀川に対して当たり障りのない対応で、どちらかと言うと古参である迅や木崎、小南と親交があった。入隊前から関わりがあったからということは、太刀川も知っていた。
勉強面で面倒を初めに見てもらったのは、ささやかなきっかけだった。月見が手を貸してほしいとなまえに頼んだのだ。あまりの太刀川の出来なさに絶句こそすれど、なまえはやりきるまで太刀川を決して見捨てたり見限ったりしなかった。
「みょうじは、真面目でお人好しだな」
しみじみとその時に言ったのを、太刀川は覚えている。あの時まだ高校生だったなまえは、きょとんとしていた。
それからずっと、勉強面でおんぶにだっこ状態だ。最近では「遠征から帰った次の日のゼミが朝からだから起こしてくれ」と言ったことをお願いしても、小言を言いながらもなまえは引き受けてくれるのだ。お人好しに拍車がかかった……というより、抵抗をやめた感じだが。
それでいて一緒にいて悪い気はしない。小言を言われることがあっても、煩わしいと感じない。むしろ小言をいう時の反応も面白いなと最近は思い始めたのだ。
戦闘面を抜きにしても、こいつを気に入ってる。
太刀川がそう認識するのに時間もかからなければ、抵抗もなかった。
だが、気に入ってる程度の認識だった。
付き合ってると一部から噂されてると知った時は驚いた。月見や加古から「太刀川くんはなまえとどうにかなりたいの?」と聞かれた時には、面食らったものだ。
「どうなりたいとかは特にないけどな」
月見は呆れたような顔をした。
が、加古から質問されたとき、加古はさらに質問してきた。
「じゃあ質問を変えるけど、なまえに好きな人や彼氏が出来たって言われたら、太刀川くんどうするの?」
「……」
虚をつかれたような気持ちになった。
正直なところ、太刀川はそういう展開を全く想定してなかった。
「どうするも何も、どうもしない」
それはさすがに、と加古は思った。もしもなまえに好きな人あるいは彼氏が出来たのなら、今の距離感のままはまずいと加古が言おうとした時、だった。
「けど、なんだろうな。なんか、嫌だな、それは」
「……」
ともすれば恋心を抱いてそうな人間の発言だが、表情はおもちゃをとられそうな子どものそれだった。加古は、思い切りため息をついてこう言った。
「太刀川くんも、大概よね」
呆れを大量にこめた発言だったことは、さすがに太刀川でもわかった。
だがわかっただけで、太刀川の気持ちはそうなったら気に入らないなという小学生レベルのものでしかない。
あまりつついてもやぶ蛇かと思い、加古はそれ以上何かを言うことはしなかった。
が、投げられた石から広がった波紋は、思わぬ余波となるのだった。