太刀川慶と年下同期の攻防 その1



太刀川からの衝撃の告白(?)をされてからの、なまえの反応はあからさまだった。太刀川はその反応すら楽しんでいるのだから、なまえからしたら悔しいやらタチが悪いと思うやらだった。ささやかな抵抗として家に招くことに難色を示したが。「今更だろ。というか、ごねてると周りから何かあったってバレるぞ」と太刀川に言われた。バレたら、噂の件に拍車がかかってしまう。それは困るからと勉強会はそのままなまえの家で行っているが、隣ではなく真向かいに座ると言った抵抗ともいえないようなものをした。
のだが、太刀川は自分の発言でなまえはこうも右往左往するのかと、楽しんでいた。こうなると別にそんなつもりはなくても、ちょっかいを出して楽しみたくなるのだ。

「前は普通に隣りに座ってたのにな」
「う、うるさいですよ……手を動かしてください」

今日は太刀川の赤点回避対策となまえ自身の勉強をしている。集中することで太刀川を意識しないようにしようとすればするほど、太刀川が気になってくる。それに、太刀川は口を閉ざしたかと思えば手も動かさずにじっとこちらを見ているようで、なまえの動揺は深まるばかりだった。

「……」

チラリ、と顔を上げてみると、太刀川となまえの目が合う。目が合えばすぐに、太刀川は楽しそうに笑うのだ。

「遊んでますよね……?!」
「おいおい、勘違いで怒るなよ」

はっきりと否定はしない。そういうところですよと内心憤慨しつつ、なまえはそれを誤魔化すようにノートに目を戻す。要点をまとめていたのに、どこがなにやらと一瞬分からなくなった。
くつくつと太刀川が喉を鳴らすように笑う気配がしたが、今顔を上げるとなんだか負けたような気がしてなまえはノートとにらめっこを続ける。

(前はもっと意地の悪そうな顔で、楽しそうに笑ってたくせに……!)

今も多少は意地悪そうな雰囲気はある。あるのだが、もうそれだけではないのだ。太刀川が自分に対して向ける笑みは。
それを理解して振舞ってるのか、そうじゃないのか。前者だとしたら、対人面でも相当食えない人だ。勝てる気がしないとなまえは思う。
……そもそも、(勝ち負けの話にするのもおかしいことだが)ここまで意識してしまってる時点で、なまえの負けだ。

「なあ、試験終わったらまたどっか行くぞ」
「……みんなとなら、いいですよ」
「みんなとだったら意味が無いんだよな。お前へのお礼で行くから、だ」
「?!どういう風の吹き回しですか?」

思わず顔を上げて、太刀川を見たなまえ。お礼を言われることはあったが、こうやって太刀川が行動で返そうとしてるのは初めてだった。なまえが驚くのも、無理はない。

「忍田さんたちからたまにはお前を労われ、って言われたからな」
「……」

口調は人に言われたから、とばかりだが、表情は全然違うのだ。本当にこの人はタチが悪いと、なまえは苦いものを口にしたような気持ちになる。そういう気持ちだけを強く意識して、もう一方の気持ちは無視をする。

「……忍田さんたちの意向を汲む、という意味でなら、いいですよ」

精一杯のなまえの抵抗。
それさえも太刀川は楽しそうに、嬉しそうに、笑うのだ。
勝てない!と、なまえはテーブルに突っ伏すしかできず、その様子に太刀川は声を出して笑うのだった。



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