小南桐絵と年下同期で雑談



なまえが使う黒トリガーは「無貌」という名前だ。
なまえ以外を選ばなかった黒トリガーだったので、なまえが起動させるまでその能力は誰も知らなかった。緊張しつつなまえが起動させたとき、まずロザリオの形状がぐにゃりと崩れた。驚き、凝視していると不定形のままでいたため、なまえは困惑した。とりあえずもとの形に戻らないかなとロザリオを想像したとき、不定形な状態から一瞬でロザリオに戻った。
トリガーをオフにしたわけではない。オフにしようとしていなかったのと、オフの時のロザリオと細部が違ったのだ。なので、この黒トリガーは使用者の想像通に作り変えられるということだと判明した。形状だけではなく、性質も想像し設定できた。

なまえは「無貌」を頭から爪先まで覆う形状にした。アメコミヒーローのようなスーツをイメージし、自分に合うように細部を調整した。そして性質は「身ステルス性能」と「相手のトリオン攻撃を吸収、反射する」というのに設定している。これをデフォルト設定だが、状況に応じては「無貌」を武器に変えたり、性質を違うものにしている。形状変化はともかく、戦闘中に性質を何度も変えるとトリオンの消費が増すというデメリットがあるため、性質の変更は余程のことがない限り戦闘中にはしないようにしている。
なまえ自身は格闘戦を得意としているため、基本的にデフォルト設定のままで十分だった。一応ほかの性質設定もしているが、デフォルト以外のものをなまえが使うというのは追い詰められたり相性が悪い相手と当たった時だけだ。

能力はボーダー内で知れ渡っているが、それよりも広まっている部分があった。
幼なじみが黒トリガーになり、形見同然の黒トリガーは、みょうじなまえしか選ばなかった。という、部分だ。
これがなまえの入隊理由に関する噂の初恋云々に拍車をかけているらしい。特に、女性隊員の間で。10〜20代の若い女性が集まれば、やはりそういう話に花が咲くのは道理であり、ウケのいい美談になりそうなものがあれば結びついて広まりやすい。……にしても、あまりに広まりすぎている。根付さんが噛んでるのだろうかと少しなまえは思った。(だがあまりにやる意味がないだろうと思い、すぐにないなと切り替えた)

「そんな感じで、太刀川とあんたの噂がさらに尾鰭ついてたわよ。両片思いだけど幼なじみのことを引きずってるあんたはボーダー辞めたあとシスターになるから、結ばれてないんだって」
「……」

笑いを堪えきれてない小南に対し、感情を失ったような顔になるなまえ。
本部で久しぶりに小南と会ったのでお茶をしていると、雑談の合間に小南が思い出したかのように話し出したのだ。

「……加古さんが言ってたの、それか〜……。もー、ほんとどっからツッコミ入れるべきかな、これ」
「というか、シスター云々ってなによ?聞いてないんだけど、辞める予定でもあるの?」
「ない、ないない。もし辞めることになったらシスターの道もありかなとか、太刀川さんと付き合うくらいならシスターになるとか。そういう話から、尾ひれとして広まったんじゃないかな……」
「付き合うくらいならって、嫌がりすぎでしょ」

さすがに太刀川に同情するわと小南が呟く。なまえは、噂のことを思考の隅に追いやるように話を変える。

「シスターって私からしたら身近だし、あとみんなが思うほど現代のシスターって厳しくないよ」
「そうなの?修道院とかに入るんじゃなくって?」
「それはある。でも、期間とか細かいところは所属する修道会でそれぞれ違うし。修道院制度も……やめよう、勉強みたいになっちゃう」

楽しくお茶をするための時間だ。小南に興味のないキリスト教の話を詳しくするのはよくないと判断し、なまえはこの話を打ち切った。
カトリックとプロテスタントの違いも日本人は曖昧だ。そこから話していけば、太刀川に勉強を教える時みたいになりそうだった。

「とりあえず、辞めないならよかった」

ちょっと安心したような様子を見せる小南。
騙されやすいから、噂のことも少し信じたのかもしれない。こういうところがかわいいんだよなぁと、なまえは頬を緩ませた。

「大丈夫、やめないし太刀川さんと付き合うとかもないよ」
「そこはもうめんどうだから付き合ってもいいんじゃないの。むしろ、今の距離感で付き合ってないって言っても説得力ないからね!」
「なんで??」
「むしろこっちがなんでだから!……というか、なんで太刀川と付き合うのはないってそこまで言いきれるの?」
「えーとね、根拠とかじゃなくて……。単純に、付き合うならもっとしっかりした人がいいなあって」

人並みに理想はあるらしい。
だから、理想とは違う太刀川をないと「思うし」、「思いたい」のも女心としては分からなくはないと小南も少し納得はできた。……が。

「太刀川といるときにすごいころころ表情変わってるくせに……」
「……そ、れは、まぁ、あの……うん」
「なんだ、自覚はあるのね」

じゃあ時間の問題かと小南が言えば、堪えきれなくなったらしいなまえは頭を抱えたのだった。



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