太刀川慶と年下同期の攻防 その2



なまえは、恋愛経験がない。
太刀川の言動への振り回されっぷりや、駆け引きも何も無い反応からしてそれは丸わかりだ。だが……いや、だからこそ、なのだろう。足掻いてしまうのは。
付き合ってる云々の噂がではじめた時は「ないない」くらいの余裕が、あった。それが今では太刀川の一挙一動に反応し、以前よりも表情が顔に出るようになった。
最初は「あいつらが付き合うのはありえない」と笑っていた周囲もなまえの変化を見て、反応が「もう付き合えば?」になった。

(よろしく、ない)

自分の反応のせいでもあるが、これはよくない流れだとなまえでも分かる。外堀から埋まっているやつなのではと、理解してきたのだ。
太刀川は恐らくそれを意図してないだろう。単純になまえの変化を見て評価を改めた周囲の感想が、結果的に外堀を埋めてしまっているだけなのだ。
本部所属ではなく、たまにしか会わない玉狛支部の小南からも言われたのだ。いよいよやばいのではとなまえが思うのも無理はない。
だがやばいと分かっても取れる手段がなまえには限られてる。

(太刀川さんを、避ける?)

それは悪手だろう。噂に妙な拍車がかかる可能性があるうえ、太刀川は何も悪いことをしていないのだから。誰が悪いとかはないのだ。強いて言えば自分の反応が悪いのだが。

(……うん、諦めよう)

どうにかしようとしたところで何か変わるだろうかとか色々考えた結果、その結論に落ち着いたなまえ。思考停止なのではと自分でも一瞬思ったが、考えないようにした。

精神衛生を第一に。

なんにおいてもそれは大事だから。
現状、太刀川に振り回されるので精一杯だ。周囲の目は無視、それが一番と誰に向かってでもなく言うなまえだった。


「新しい噂聞いたか?だいぶ愉快なことになってるな」
「……太刀川さんも当事者ですよね?なんで面白そうにしてるんですか?」
「こういうのは否定しても無駄だから、だいぶ前から楽しむことにしてる」
「なんですか、そのメンタル。強すぎません?」

本部でトレーニングをしたあとに個人戦を見てたなまえと、対戦相手の順番待ちをしてる太刀川。約束していたわけではないがたまたま集まっていた弧月使いだけで、交代で対戦してるようだ。太刀川は今は休憩の番だ。

「でも、実際お前もすぐ諦めるクチだろ、こういうの」
「そうですけど……でもさすがに楽しむのはできないですね」
「俺の方が余裕があるな」
「なんでドヤるんですか」

思わずジト目で見るなまえ、そんな反応にもどこ吹く風な太刀川。
ツッコミがいたら、そういう会話も噂に拍車をかけるんだぞと言っていただろうが、ツッコミがいない。

「ほら、終わってますよ。次、太刀川さんですよ」
「お。やっとか。行ってくるか」

腰をあげた太刀川は、なまえを見てふとイタズラをする子どものような表情を向けた。なまえはその表情に首を傾げる。

「応援してくれよ?」
「……しなくても、勝つじゃないですか」

至っていつもの調子で返したなまえだが、表情は違ったらしい。太刀川は楽しそうに笑って、行ってしまった。

「……」

これが家だったらまた机に突っ伏していたなとなまえは思ったのだった。



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