太刀川慶と年下同期の攻防 その3



なまえは愕然とした。
太刀川が麻雀できると知ったからだ。

「……なんで麻雀の役とかルールは覚えられるのに、勉強のことは覚えられないんですか?!」
「楽しいものはすぐ覚えられるんだよ」
「興味のあることにしか記憶力振らない人は、これだから……!」

事の発端は、試験勉強対策の予定について、だった。以前宣言したようになまえがスケジュールについて言えば、「この日は諏訪さんたちと麻雀する」と太刀川が言ったのだ。「教わるんですか?」と聞けば、「もうルールと役は完璧だ」と返答がきたのだ。
太刀川の普段の勉強での覚えの悪さをよく知ってるなまえは、愕然としてしまったのだ。

「もう……脱力感が、すごい……」
「はははは。お前ほんと、真面目だよな」
「なに笑ってんですか元凶!」

思わずむきになれば、太刀川は楽しそうにするだけだ。なまえはさらに憤慨したくなるが、反応すればするだけ太刀川を楽しませるだけだと自分に言い聞かせた。

「……もう、いいです。そういう人なんだなって、諦める方が、いいんで」
「それが賢いな」
「だから、元凶……!」
「でも、俺ができるようになったら、お前がこういうことしてくれなくなるだろ」
「……」

思わぬ爆弾を放り込まれ、固まるなまえ。
そんななまえを見て、太刀川はさらに楽しそうにするのだ。

「……っ、太刀川さん、本当に……!」
「いやー、お前のそういう反応見られるようになるなんてな。俺は最近、毎日が楽しい」
「おもちゃにしないでくださいよ……!」
「いやいや。可愛がってるんだよ」
「そういえば許されると思わないでください!」
「思ってない。その反応見たさでしてるからな」
(なんでドヤるんだ、この人……!)

そんな人に転がされてる自分が腹立たしいと、なまえは思うのだった。

「話変わるけど、お前も麻雀やらないか?」
「……メンツ、誰ですか?」
「諏訪さんと東さんと冬島さんとか」
「そのメンツに混ざれと……?さすがに私でもちょっと躊躇しますし、行って大丈夫なんですか、それ」
「まぁ大丈夫だろ。最初は俺が教えてやるし」
「なんでそんな積極的なんですか」
「たまには、俺が何か教えてみたい」
「素直だなぁ……」

ここで勝手なとか思わないあたり、なまえのお人好しさが出てるなと太刀川は思うのだった。同時に、そこがつけ入るところでもあると太刀川は分かっているのだ。だから、現状そこに全力で付け入っている。あらゆる意味で。

「……太刀川さんが次の試験の評価が前よりよければ考えます」
「ずるいぞ、それは」
「ずるくないです。むしろ甘々な条件ですよ?具体的にBまであげろとか言えばいいですか?」
「Bはきついな。どうやってB以上キープしてるんだ?」
「真面目にやってるからですよ」

ボーダー内ではA級1位なのにと思いつつ、それは言わない方がいいなと口を閉ざしたなまえだった。

「どうせやるなら麻雀以外の方が、やる気がでるな」
「何がですか」
「ん?お前がくれるご褒美の話」

なぜご褒美になるとなまえが困惑してるのをよそに、何がいいかと考える太刀川。麻雀のことを言い出したから、なまえは条件を提示しただけだ。それがどうして、ご褒美の話になるのか。なまえには全く分からなかった。

「どこまでなら許す?」
「ご褒美がどうとか本当になんでそうなったのか分からないけど、何かを私に頼むなら常識の範囲内でお願いします」

正直太刀川が何をしてやれば喜ぶのかとかこの時のなまえは考える余裕も、断る気力もなかった。ただ何かをしなきゃいけないなら、これだけは絶対に守って欲しいというのを伝えるので精一杯だった。

「……みょうじ、試験明けはいつ休みだ?」
「えっと、いくつかありますけど……なんですか?何させる気ですか?」
「評価あがれば俺の遠出に付き合えって思ってた」
「ああ、車出す感じですね。それなら、この日とかこの日とか……」

スケジュール帳を手にし、試験明けの休みで都合がいい日をいくつか指すなまえ。太刀川はそのうちのひとつを指し、

「じゃあ、俺の試験の評価あがったら、この日は俺の遠出に付き合う、でいいか?」

と、最終確認をとる。
なまえは素直に頷いた。

「それくらいなら、まぁ。ただ、行きたい場所とかは太刀川さんが決めてくださいね」
「任せろ」

あくまで頑張ったらの話で、しかもご褒美感覚のそれがはたから見たらデートなんだよとツッコミを入れる人がいないのだった。



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