太刀川慶と年下同期の攻防 その4
ラインが送られてきていたので確認すると、教授に評価を確認したらしい太刀川から写真付きで結果が送られてきた。
写真を見て、なまえは感心半分、呆れ半分で呟いた。
「やればできるじゃないですか、太刀川さん」
なまえたちの大学は、Dが「合格基準に達している」だ。つまり最低保証ランク。太刀川はオールDの男だ。それが、いくつかCにあがっているのだ。Cにあがっていたとしても1個だけだろうと予想していたなまえは素直に感心もしたし、ご褒美絡まなくてもいつもこうならと呆れもした。
それは本人には言わずに、素直に褒めたラインを送ると、スマートフォンをいじっていたらしい太刀川からいつもより早めに返事が来た。
「約束、忘れるなよ……って、当たり前じゃないですか」
太刀川ががんばったのだ。それは紛うことなき事実なので、なまえもそれに応えるだけだ。
ラインで「もちろん、覚えてます。どこ行くかとか計画決まったら早めに教えてください」と返信した。
その日の夜には行きたいところの情報が送られてきたので、土曜日だから道も混むかもしれないから早めに出ようとか、細かいところは2人で詰めていったのだった。
そして当日。
数時間の運転があるためバッチリ睡眠をとったなまえは太刀川を拾ってから、高速道路へ向かった。
「昼ごはんは適当にサービスエリアでいいんですよね?」
「大丈夫だ。ついてからが本番だから軽めにしておけよ」
「はーい。あ、眠くなったりしたら寝てていいですから。ついたら起こすんで」
助手席で寝られると気になるとか、腹が立つ人もいるらしいが、なまえは気にしないタイプだ。むしろ、自分の運転を信用してくれてるんだなと、ちょっと嬉しかったりするのだ。
「そうだな。眠くなったらそうする」
慣れた様子でなまえの車の音楽を流す太刀川さん。もう何度も太刀川が座っている助手席だ。なまえも今更、何か言うことはしない。
「太刀川さん、そろそろ遠征ですよね」
「ああ。……なんだ?寂しいのか?」
「終わってからの大学でのあれそれを色々手伝わされるんだろうなというのを考えてました」
「よろしくな」
「よろしくしたくないなぁ〜が本音です。というか、なんで同い年の人は手伝ってくれないんですか」
「懲り懲りなんだろう」
「……自分で言ってて悲しくならないんですか?」
ふと、なまえは気づいた。
「あれ?でも、私が太刀川さんと同学年の人に2回生でやる般教のこととかで聞きに行ったら教えてくれますよ。太刀川さん絡みって分かってるはずなのに」
なまえは今年入学したばかりの1回生だ。だから教えきれないところなどは、太刀川以外の2回生の隊員に聞いている。なまえが太刀川の勉強の面倒を見てるのは周知の事実だ。二宮なんかに聞けば、「また太刀川のか」と呆れられているのだ。
「そりゃあ、お前だからだろ。俺の分まで頑張ってんだなぁって思われて、お前には協力してもいいってことだ」
「……二宮さんからはそういう空気感あったなぁ。というか、太刀川さん。さすがに専門分野が入る3回生からは、私も面倒みきれないですよ」
「困るなぁ」
太刀川がまったく困ってるように感じないから、逆に不安になるなまえだった。
今度はふと、太刀川が思い出したように切り出した。
「そういえば、お前を労るからどっか出かけるぞって言ったのに、お前全然行きたい場所言ってこないな。考えるって言ったっきりで」
「え?あ、あー……」
「忘れてたか?」
「……すみません」
「別に怒ってはないけどな」
確かに太刀川は怒っていない。が、なまえは失念していたことが申し訳なくなった。経緯などはどうであれ、太刀川がなまえのために申し出てくれた事だ。それを無下にしたのと同然である、と。
「今日のこれでってことに。ガソリン代と食費とか、全部太刀川さん持ちで、いいですか?」
「……それでいいのか?」
言外に、もっとわがままを言っていいと太刀川は言っている。それはなまえにも分かっているのだが、元々あまり欲がないのと遠出なら1人でもしているので、これといってすぐに出てこないのもあった。それなら今日、お互いがお互いにご褒美や労りをする方がいいのではと考えたのだった。
「いいです、それで。もしかしたら今日、一緒にいるうちに思い浮かぶこともあるかもしれないですし」
「分かった。じゃあ、なんか食いたいものとかしたいことあったらすぐ言えよ」
「はい、その時は言いますね」
ちょっと楽しいなと、なまえは思った。理由はよく分からないけれど、そう感じたのだ。