04.顔合わせ
建前は五条の監視下に置かれてることになっているなまえ。最初のうちは上からも監視がつけられていたが、最近はそれも緩んできた。元より移動の制限などの縛りもあるうえ、五条悟が相当融通をきかせてくれたのだろう。
その点については感謝しているが、なまえはそれを本人に直接言いたくなかった。のらりくらりとかわされるだけならまだしも、「僕はできる男だからね」とか言われようものなら正直引っぱたきたくなるからだ。
(……防がれると分かってるから、想像しただけで腹が立ってきた)
あの人のことを考えるのはやめようと頭を振り、なまえは家事に勤しむ。まだ前線に出すにはと上層部はなまえにストップをかけているが、まぁそれも仕方の無いことだろうと割り切っている。「一族殺し」をしたことには変わりないのだ。ほとぼりがさめるまで、謹慎させてるという体でもとっておかなければ示しがつかない。と、いったところだろう。
必要な食料等はネットスーパーで買い寄せているので、今のところ不便はない。許された行動範囲内にスーパーもあったが、髪色が変わってからはまだ1人で外に出たことがないので、そちらは気力がある時に行こうとなまえは決めていた。
「……夕飯、どうするかな」
ぽつりと、なまえはこぼす。
五条悟の仕事は多く、本人も忙しくしている。たまに他者に仕事を投げていることもあるようだが。それにしても、家に帰ってくる頻度が少ないのではないかと思う。越した初日はさずかに五条は帰ってきたが、それ以降はなまえは1人か、起きた時には既に五条は出ていたり、寝ている時に五条が帰ってくると言ったすれ違いの生活が続いていた。
普通の新婚なら心が折れそうだが、そこは五条悟とみょうじなまえである。業務的な会話をしつつ、余裕があればなまえは五条の帰りを迎えたり、出立を見送るくらいはしていた。最近、見送る際に夕飯の有無を確認するようになったので、食事面で大分楽になった。
(今日は戻れそうなら戻るって言ってたから、カレーでいいかな)
こういう時はカレーに限る。五条が食べないなら食べないで、冷凍保存すれば済むからだ。
それにカレールウを使わずにスパイスなどを選びながら作るカレーは、なまえにとって楽しくていい気晴らしになった。
根は、真面目だ。
五条悟は前から、なまえのことをそう評していた。実際、プライベートな空間を共にすごしてもそう感じた。彼女なりに妻としての務めは果たそうとしているのだから。それでいて、身内には甘い。
(嫌っている僕に対しても、完全に切る事が出来ないあたりが特にそうだ)
それは縛りのことがなくても、なまえは以前からそうだった。嫌そうにしながらも律儀に自分の相手をし、怒ったりなど反応を見せる。だから五条は学生時代になまえにちょっかいを出した上、今でも嫌がりそうだと分かっててもやってしまう。
五条悟は、みょうじなまえの嫌がったり怒ったりしたときの反応が、昔からたまらなく好きなのだ。
そう、だから、今日のこの行動もなまえの反応見たさでやったと言っても過言ではない。
「──という訳で、今後も関わっていくだろうから紹介がてらつれてきたんだ」
「……お客さんが来る時は連絡して貰わないと困ります」
五条への怒りを抑えながら、なまえはなんとかそう答えた。そして、ちらりと五条が連れてきたお客さん……伏黒恵という少年と、舞野輝という少女を見遣る。まだ10行くか行かないかくらいだろう。2人とも五条が後見人や保護者のような立場をしていると知ってはいたが、なまえが顔を合わせたりしたのはこれが初めてだった。
「カレーしか作ってませんよ」
「十分だよ。なまえのカレーは牛乳で辛さ調整できるし」
「……はぁ、この人に言うだけ無駄だ。──2人とも」
伏黒恵と舞野輝に声をかけると、二者二様の反応が返ってきた。伏黒は落ち着きつつもやや警戒した様子で、舞野は少し怯えつつも興味がある様子だった。
「私はみょうじなまえです。一応、この人の奥さんです」
その後顔合わせという名の食事は終わったが、この自己紹介が最も驚いたと、後に伏黒恵と舞野輝は語るのだった。