太刀川慶と年下同期の攻防 その5



存分に食べ歩きや観光名所をぶらぶら巡るのを楽しんだあと、なまえと太刀川は帰路についた。……のだが、結論から言うと帰れなくなった。
高速道路で事故が起きて渋滞に捕まり、復旧は未定。一般道路に降りたもののその時点ですでに時間は遅く、一般道路から帰っても着くのは3時か4時くらいになるだろうと2人は考えた。さすがになまえもそこまで運転する気力はないと考え、太刀川もあまり長時間の運転はさせられないと思った。
インターネットで周辺施設を調べてホテルを探してみたが、問い合わせすると土曜日なことと同じようにホテルに泊まるよう考えた人が多く、なかなか空きがなかった。車中泊かと覚悟したが、気づいたのだ。ラブホテルはまだ空きがある、と。
葛藤した2人だが、背に腹はかえられないとなり、太刀川がソファーで寝ることで落とし所を見つけた。

「……何もしないでくださいね……?」
「……分かってる」

そういう風に釘刺される方が意識することもあるんだぞと言いたくなったのを、太刀川は飲み込んだ。言えば、本当になまえは車中泊しかねないと思ったのだ。運転するなまえが1番休まなければいけないのだから、そうならないよう飲み込んだのだ。



下着など最低限のものを買う際に、さすがにその時は別行動になったのだが、太刀川はあることを伝え忘れていたのを後悔した。
ラブホにも寝る時に着る服が用意されてるが、脱ぎ着しやすさ重視のものだ、と伝え忘れていた。

「……こういう感じなんですね、用意されてるの」
「……」

なまえから先に風呂に入らせたのだが、湯上りを見たのは初めてだったうえ、バスローブのような格好は正直目の毒だった。そんなつもりなんてなかったのにと、太刀川は天を仰ぎたくなった。

「……下着とか買う時に言えばよかったな。悪い」
「いえ、これは、もう……しょうがないというか……。というか知ってるってことは、太刀川さんラブホ利用したことあるんですか?」
「俺もさくっと風呂入ってくる」

どんな顔をなまえがしているか太刀川は見れなかった。


今更、太刀川がラブホを利用した経験があってもなまえはなんとも思わないはずだった。過去に誰かと付き合ったことはあるというのは、知っていたからだ。

(でも。もやもやする自分がいやだなぁ)

そんなことを取り留めなく考えながら、なまえは部屋のテレビでぼーっとニュースを見ていた。高速道路の事故は結構な規模だったようだ。幸い、今のところ死者はいないらしい。ただ複数台の車が絡んだ事故だったようで、まだ規制されているらしい。早い段階で気づいてなければ、自分たちもあの渋滞の列にいたり、このラブホテルに泊まることすら出来なかったんだろうなとなまえは思った。
一応下着を買った後に候補のひとつだったセミダブルの部屋がひとつ空いていたホテルの空き室状況を見たが、もう埋まっていた。ほかのドライバーも同じようなことを考えていたのだろう。ラブホテルのほうの受付など分からないなまえは太刀川に丸投げし全部してもらったのだが、その際に「あと2つ3つくらいしか空いてなかったから、やばかったかもな」と言っていた。こちらにも同じようなことを考えた人たちが来たのだろう。ただなまえたちと違うのは、おそらく大半が2人でラブホテルにくることに抵抗のない男女のカップルたちだろうということだ。

(……あらためてだけど、すごいいけないことしてる感ある……!)

主よ、お許しくださいとなまえは神に許しをこうた。
何も無ければいいのだ、それで。
だが何も無いようにという気持ちの他に、ほんの少し何かあるのではと思ってしまっている自分がいるのも事実だった。

(ずるい、考えだ)

何もしないでくださいと口では言っておきながら、なにかを期待している自分がすごくいやだ。自分からは何もしてないくせにと、なまえは自己嫌悪を覚える。
太刀川がドライヤーを使う音がしている。あと少しで太刀川が戻ってくる。
ソファーでそのままもんもんしていた時、このソファー狭いなとなまえは気づいた。
2人がけはできるが、ギリギリのサイズだ。太刀川が寝るときついのでは?と思うくらいには。

「なんだ、起きてたのか?寝ててよかったのに」

乾かし終えたらしい太刀川が出てくる。いつもと少し雰囲気が違うなと思うとまた強く意識しそうになったので、なまえはソファーのことに触れて自分の意識をそらそうとした。

「太刀川さん、このソファーで横になるのきつくないですか?」

なまえが聞くと、太刀川は同意した。

「少しだけな。お前が風呂に入ってる間にためしたけど、横には一応なれた」
「……寝返りとかうてないでしょうね」
「狭いとこは遠征艇で慣れてるから、大丈夫だ」

気にしなくていい、と続けながら太刀川はベッドを指さす。

「そろそろあっちで寝ておけ。俺ももう少ししたら寝る」
「はーい」

まったく緊張したり意識したりしないわけじゃないが、だいぶ落ち着いてきた。と言い聞かせるように思いながら、ベッドに向かうなまえ。

「充電器借りるぞ」
「私のもう終わったんで大丈夫ですよ」

太刀川もいつも通りだ。
それが今のなまえにとってはありがたかった。
のそのそとベッドの布団やらをめくって中に入りながら、ふとなまえは太刀川に声をかけた。

「太刀川さん」
「んー?」
「狭くて寝付けないとか何かあったら、こっち来て大丈夫ですよ」

充電しながらスマートフォンを弄っていた太刀川が、スマートフォンを落とした。そして驚きの表情で自分を見てきたので、なまえは慌てて付け足す。

「なにかしていいとか言ってるわけではなくてですね?!単純に、その……きょ、今日は太刀川さんも疲れてるだろうし、何もしないっていうのが大前提の条件なんで!」

自分から誘うようなことを言ってしまったが、気遣いで言ったことだ。それは確かに何か起こることを思う自分もいて混じり気のない厚意かと聞かれたら、なまえは自信が無いしそんな自分がいやになるが。
明らかに慌てふためいて付け足した部分を太刀川はどういう気持ちで聞いたのか。なまえには太刀川の顔をみる余裕などなく、布団で顔を隠した。

「……お前、そういうこと迂闊に言うな。俺じゃなかったら大変なことになってたぞ」
「た、太刀川さんだから、言えることですよ」
「……」

太刀川が大きなため息をついた気配がした。
そして少し沈黙したあと、「どうしてもの時だけは、そうさせてもらう」と付け足した。
太刀川はなまえの発言に思うところは色々あったが、全部飲み込んでしまったようだ。

「ほら……さっさと寝ろ」
「はい……」

一切太刀川の顔を見れないまま、なまえはベッドに潜り込む。なれない枕とベッドは、他人行儀な感じがすると思った。

「おやすみなさい、太刀川さん」
「おやすみ」

さっきの発言に呆れはしたが怒ったりはしてないのだろうと、声を聞いて思った。よかったと思う反面、自分はこんなにずるい人間だったのかともなまえは思ったのだった。



寝息は聞こえないが静かになった。なまえは寝付いたか、眠りに落ちている最中か。わざわざ確認しにいくことでもないので、テレビを消しながら太刀川は部屋の灯りを落とした。

(……お前もたいがい爆弾発言してくるよな、みょうじ)

今回はさすがに言った自分でもどうかと思ったようで、恥じていたが。だとしても本当に、ああいう油断全開な発言は太刀川が相手でもだいぶよろしくないのだ。それなのに、

(俺だから言えること、か)

都合よく捉えるだろと思いながら、太刀川も横になり、目を閉じるのだった。
布団で顔を隠したりとかのなまえの反応やらが意識に残ってはいたうえこの状況に太刀川も少し緊張していたようで、寝付くのに時間を要したのだった。



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