太刀川慶と年下同期の攻防 その6
ラブホテルで一夜過ごすことになったが、特に何も起こらなかった。強いて言えば寒くなってやむを得ずベッドに入って寝た太刀川を、寝起きのなまえが驚いて枕で殴ったくらいで。
「お前……どうしてもの時はって自分から言っておいて……」
「ほんと、すみません」
朝から頭を下げまくった。全面的になまえが悪いので、当たり前だが。
太刀川もそこまで責めたり根に持ったりしないので、「ギリギリまで寝る」とベッドに戻った。目が冴えたなまえは太刀川を起こさないようにしつつ、ベッドからそっと降りる。
自分の格好を見ると少し胸元が乱れていたが、寝返りを打ったからだろう程度のもので、ほっと息をついた。
(ほんとに、なんにもなかったんだなぁ)
脱衣所で着替えたり、身支度を整えながら安堵したような、少しだけがっかりなような。そんな相反する気持ちになりながら、なまえは自分に対してどうしたいのかと自問自答をしてみる。
(……まだ、どうなりたいとか、自分の気持ちとかも具体的に分かってないくせに)
なまえは曖昧でずるい自分に苛立ちを覚えつつ、顔を洗う。
その後は何事もなく三門市について、太刀川を送ってから解散した。太刀川はこのあと防衛任務だ。一度家で休むくらいの余裕はあるので、よかったとなまえは思った。
なまえも今日は早めに休もうと思って、スマートフォンをリビングのテーブルに置いてソファーに倒れ込むように横になった。
「……はあ」
色々と自分のことを考えさせられた。
楽しくはあったけれども。
「楽しかった、なぁ……」
ぽつりと呟いた気持ちが、答えなんだろう。
まどろみながらもなんとなく結論が出たなまえは、少し表情を和らげた。
少し、時間はさかのぼる。場所は2人が泊まったラブホテルだ。
冷えてきたことで目を覚ました太刀川は、ソファーから起き上がり、ベッドの方を見た。時間も時間なので、なまえはすっかり寝入っているようだ。小さく、寝息が聞こえてくる。
逡巡しつつ、太刀川は腰を上げてベッドに近づく。何か、最悪シーツやカバーのようなものでもいいからベッドから拝借できないだろうかと思ったのだ。寝る前にどうしてもの時はベッドに来ていいとなまえに言われたが、それは最後の手段だ。季節柄、冷え込む時期だ。なまえが車においていたブランケットを借りたり、部屋を暖かくしているとはいえ、就寝時は冷える。
起こさないよう気をつけながら、ベッドを覗き込む太刀川。あかりはつけられないので、見づらいから覗きこまざるをえない。
「……よく、寝てるな」
太刀川は思わず、ぽつりと呟いた。その視線の先には、無防備に寝ているなまえ。くうくうと聞こえてくる寝息は子どものようで、太刀川は表情を和らげる。絶対みせないであろうその表情は、出水達がみたら驚いたことだろう。
太刀川自身も自覚してないのだが、二人でいる時になまえに向ける表情は柔らかい。
(本当に無防備に寝てるから、逆になにかしづらいんだよな)
もちろん、するつもりはないが。
あまりに信頼されてると、逆に毒気を抜かれるというか、付け込みづらいというか。
そんなことを考えながら、なんとはなしになまえの頭を撫でる。熟睡してるなまえの反応はない。起きてるときにしたら、どんな反応するだろうかと太刀川は考えた。途端、柔らかい表情から一変して企み顔になるのだが。
「……さっむ」
ぶるり、と震えた。
一度温まらせてもらおうと考え、太刀川は心の中でなまえに断りを入れてから布団に入り込んだ。温まったらシーツでももってソファーに戻ると考えていたのだが、なまえの体温で温まった布団の魔力に抗えず、そのまま熟睡してしまった。
そして、寝起きの混乱したなまえに枕で顔面を叩かれたのだった。