年下同期の価値観の話
恋をしていると自覚したところで、何かが劇的に変わるわけでもなく……。というのも、行動の起こし方がなまえはよくわかってなかったのと、
(この間加古さんと話した後に思ったけど、別に特に今以上になりたいとかは、あんまりないんだよね……)
ということに気づいてしまい、現状維持のほうに気持ちが向いてしまっているのだ。今の立ち位置に甘えてしまってるということだと分かってはいるものの、なんだかんだでこの関係が居心地いいのだ。
変化が怖いのだろう、受け入れられないかもしれないという恐怖があるのだろう。以前太刀川と話した時に、太刀川も今の関係がいいと思っているようだったから、余計に。
間違いなくお互い好意を抱いているのに、なまえは足を踏み出しかねている。太刀川が前のまま、このままの関係がいいと思っているのなら、踏み出してしまったら自分がそれを壊すのではとしり込みしている。そうなるともう、今のままではいられないんだと、堂々巡りな考えをしていた。
(あとなんか、自分から太刀川さんに告白するとか……なんか、負けたみたいで……!)
同時に妙な意地をはってしまっていた。こうなると、進むものも進まなくなるのだった。
「なまえ、そろそろ時間だから早くお土産選ぼー?」
「!あ、うん!すぐ行くよ」
なまえは、ゼミの友人たちと北海道に旅行に来ていた。ゼミ合宿ではなく、完全に仲のいい数名でいくプライベートな旅行だ。2泊3日の日程なので、幸いボーダーのシフトと被らなかった。
多めにお土産をカゴに入れて(ド定番の例の恋人だ)、なまえはゼミの友達と一緒にレジに向かう。
「難しい顔してたけど、ボーダーの人へのお土産選びそんな悩ましかったの?」
「……ううん、別のこと」
太刀川のことになると余裕がなく、顔に出るの本当になんとかしたいなとなまえは思った。
数日ぶりに本部に顔を出し、お土産を配ってまわった。多めに買っておいたので、つつがなく配れた。
高校生や中学生たちは顔に出して喜ぶから、可愛くてたまらないなと思い出してなまえは少し笑う。
(あとで玉狛にいって、小南ちゃんにお土産持ってこう)
連絡はすでにしているので、小南がいる時間帯にお土産を持っていくという話はついている。玉狛支部には小南や林藤支部長、木崎レイジ、迅悠一、林藤陽太郎といった旧ボーダー時代からの知り合いが多いため、なんやかんやで行くこと自体が楽しみだったりした。
「お、いたいた」
お土産配りと防衛任務を終えていそいそと帰ろうとしていたなまえに、聞き覚えのある声がかけられた。荷物が入ったカバンを手にしながら、振り返ったなまえは目を瞬かせる。
「迅くん、どうしたの?」
声をかけてきたのは、玉狛支部の迅悠一だった。
黒トリガーを返してからA級に戻った迅は、ランク戦参加のために前より本部に顔を出すようになったので、最近よく会う。が、探されるようなことがあっただろうかと首を傾げる。
迅はいつものように「食う?」とぼんち揚げを差し出しながら、用件を口にする。
「小南が、太刀川さんになまえをとられる前に玉狛支部に連れてきってっていうから迎えにきた」
「……えー、とられるって……。えぇー……?」
なまえは迅からぼんち揚げを1つもらう。行儀は悪いがそのまま頬張る。普段あまり食べないが、たまに食べると美味しいと思う。
迅は、なまえの反応に楽しげに笑う。
「小南、仲良くしてるなまえが太刀川さんにとられるの悔しいみたいだからな」
「……迅くんが言うと、ふくみがあるからやだな、その言い方」
「いや〜。でも、おれは太刀川さんとなまえならなんとなくこうなるかなぁって思ってたよ」
未来予知のサイドエフェクトもちが言うと、説得力が伴ってしまう。
咀嚼していたぼんち揚げを飲み込み、なまえは「早くいこっか」と強引に話題をそらしたのだった。
玉狛支部についたら、小南と林藤陽太郎がいた。小南とはちょこちょこ会っていたが、陽太郎とは久しぶりだった。
「陽太郎くん、背伸びたね」
「だんしみっかなんとかってやつだ!」
得意げにポージングをする陽太郎に、なまえは笑みをこぼす。子どもは微笑ましく思うので、好きな方だった。
「お土産ありがとう!気になってたのよね、このチーズケーキ!」
「試食したけどおいしかったよ」
小南には小南から頼まれていたチーズケーキを渡し、支部全体としてのお土産はとりあえず迅に渡した。迅はなまえにお礼を述べ、そのままキッチンに向かった。
「なまえ、今日このままうちで夕飯食っていくか?」
「それは、さすがに悪いような……」
「今日は迅が当番だから遠慮しなくていいの!」
「あ、じゃあ食べてこうかな」
「2人とも昔からおれに対してそういうとこあるよな」
と言いつつ、特に気にしてない迅である。付き合いが長いゆえの掛け合いだ。昔を思い出し、なまえは懐かしさを覚えた。
「でも、手伝うよ、迅くん」
「お。じゃあ、ちょっと頼もうかな」
「今日は遊真たちも来るから紹介するわ」
「あー、空閑くんたちね。直接ちゃんと会ったことはないから、お願いしようかな」
なまえはトリオン量故に狙われたり、幼なじみを近界民との戦いで喪ったが、憎悪まではしていなかった。皆殺しだとか、三輪のように囚われてしまうのも分からなくはないが、結局は推し量ることができるだけだ。
(でもそれって、近界民に限らず、今も地球上のどこかで起きてることだし、こっちが遠征してるのもあって、近界民からしても同じこと言えるんだろうな……)
結局は、立場の相違だ。それだけで、あとは本質なんかはそう変わらないのだとなまえは思ったのだ。
「うちの遊真たちはすごいんだからね!」
「うん、知ってるよ。ランク戦のログみてるし」
全ての人類、近界民と手を取り合うのは不可能だ。
だが歩み寄ってくるのであれば、それが人類であろうと近界民であろうと、差し出された手はなるだけ握りたい。
それがなまえのスタンスなので、玉狛第二ともその後割とすぐ打ち解けたのだった。
「あー、たちかわさんのカノジョの」
「違うぞ、遊真。2人はこれから恋人になるんだ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
「迅くん、ほんとそういうとこだよ」
(空閑のやつ、もう打ち解けてる……)
なんやかんやそう言った雑談をしつつ、なまえは昔みたいだなと少し懐かしさに浸ったのだった。