06.初夜語り



五条悟が手を出してきたのは、これが初めてだった。手馴れた様子でなまえをベッドまで運び、これまた慣れた手つきでなまえの服を脱がせた。
やっぱり顔がいい男は女を食いあさっているんだなという偏見を募らせながら、なまえはされるがままだ。五条は脱がせたり脱いだりする合間、なまえにキスをする。まるで慈しむような優しいそれは、正直なまえにはむず痒くて仕方なかったのと、

(この人、縛りでしかない行為でも、こういうキスをするのか)

と、戸惑いを与えた。
なまえにとって五条とのセックスは縛りのひとつに関わるものなので、義務にすぎない。
だが、五条はそう思っていないのではと、舌を絡ませられながらなまえは思った。思わず押し返そうと舌を動かしてしまえば、ここぞとばかりになまえの舌を五条は弄ぶ。なまえを抱き込むようにしながら、である。
こういう抱き方をされる言われはないのにと、なまえは繋がった唾液の糸を見ながら五条に言う。

「せん、ぱい……別に、こんな丁寧に……恋人にするみたいに、しなくて、いいんですよ……」

所詮は縛りありきの行為だ。
恋人のように抱く必要など無いはず。
これがなまえの主張だ。
五条は唇を舐めながら、答える。

「なまえは、恋人にするようにって思えたんだ」
「?……そう、ですけど」
「そういう風な抱き方、今までの女にしたことないよ」

その言葉の意味がよく理解できなかったなまえ。どういう意味かと問う前に、下着越しに恥部を撫でられ、思わず体がぴくりと反応してしまった。

「せん、ぱい……っ」

下着の隙間から、ぬるりと指が入ってきた。くにっと、割れ目に慣れたように。
急すぎたが痛みはない。驚きがあったので少しなまえは、五条を睨んだ。
サングラス越しにその視線を受けながら、五条は笑う。

「やっぱり、処女じゃないね」
「……処女のが、よかった、ですか」

ならお生憎様と言おうとした言葉は、五条の発言で引っ込んでいった。

「誰かのものだったのを、僕の好みにしていくのは楽しいからちょうどよかった」

などと、五条は宣ったのだ。
内心引いたなまえだが、五条にひゃんひゃんあえがさせられることになり、それについてはすぐ何も言えなかったが。

(あれ、私が男だったら、即萎える発言だった)

と言うのは、思ってはいた。


翌日、五条の整った顔が目の前にあったので、なまえは一瞬ベッドから蹴り落とすか迷ったが、体がだるかったのでやめた。
それよりも放っておいてお風呂に入ろうと起き上がろうとしたが、五条の手が伸びてなまえの服を掴んだ。なまえは舌打ちをして、振り返る。

「なんですか」

さきほどまで寝ていたはずの五条は、今は起きている。寝たフリだったのか、眠りが浅かったのか。どちらか分かりかねるが、五条はしっかりとなまえの服を握っていた。
へらっと笑いながら、五条はそのままなまえを引き寄せようとする。早くシャワーを浴びたいなまえは、踏ん張ってこれに抗う。その抵抗の様子すら楽しそうに、くつくつと五条は笑う。

「昨日はほら、なまえがすぐ寝ちゃったからピロートークできなかったし。朝だけど、しようか?」
「不要です。なんですか、その気遣い」

そんな気遣いするくらいならシャワー浴びさせてくれとなまえがもらせば、一緒に入る?と五条は宣ってきた。反射的に、枕で叩こうとした隙にベッドになまえは引きずり込まれる。
思わず身体能力を高めて本気で抗うか迷ったが、五条に押し切られて買ったこのダブルベットに何かあってもいやなのでなまえは諦めた。というか、朝からそこまでする気力もなく、引きずり込んできた五条の腕が体に回ってきてもそれを軽く叩くだけだ。
顔には全力で拒否感がでてるが。
五条はまたも楽しそうに笑いながら、まるで子どもがお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるかのように、なまえを抱きしめた。

「なまえは朝、何食べたい?僕はクロワッサンかな。パリパリふわっふわのやつ」
「ないんで買ってきてください、1人で」
「あそこのカフェのチョコクロワッサンいいよねぇ」
「食べたいならおひとりでどうぞ」

会話のドッジボールである。
五条は気にしてないが、なまえはさっさと解放されたい空気がかなり出ている。

「……先輩、まさか、毎回セックスの度にこんな不毛なやり取りするわけじゃないですよね?」
「ピロートークは大事って言うでしょ?」

しれっと返してきた五条に、もっと違う気遣いを見せてくれとなまえは心から思った。

「いりません。私と先輩は、そういうのではないでしょう?」
「うん。だけどね、僕がしたい」
「自己中心的すぎませんか」

そうだよ、僕はわがままなんだと綺麗な顔で綺麗な笑みを浮かべながら、五条はなまえの蛇化した目元を撫でる。反射的になまえが目を閉じれば、その隙にとばかりに五条は唇を重ねてきた。

(あ。これ、流されるやつだ)

となまえが気づいて抗おうとしたところで、後の祭りである。



prev | list | next

top page