07.彼なりの配慮
初めてセックスをしてから、なまえはその後もたびたび五条とセックスをしている。そして最初こそ余裕がなくて気づかなかったが、避妊……というより、中に出されずに終わっているのでは?と気づいた。最初はそういう趣味かと思っていた。あるいはしばらく性欲処理を優先したいという五条の考えがあってのことだろうと、勝手に思っていた。が、これでは縛りが成立しないとなまえは五条に問いただした。
縛りの内容に年数の指定はいれてないが(こればかりは授かりものなのでと五条と相談の上で入れなかった)、意味がなくなっても困るのだ。
「子を作るのも目的のひとつでしょう?」
「まぁ、そうだけどね」
五条は、はっきりと答えない。答える気がないのだろうか。一体どんな理由があるのだろうとなまえは訝しむ。ここまでこの人が言い淀むのは珍しい、と感じながら。
「……何に配慮してか知らないですけど、作るなら作るでさくっと作りましょう」
「料理感覚で言うじゃん。……まぁ、確かに僕なりの配慮だけど」
サングラス越しに一度五条が視線をさ迷わせたのが、なまえにも分かった。本当に今日は珍しい反応ばかりするなと、なまえは思わずしみじみと感じていた。
「──なまえは、成人式があるでしょ」
「……は?」
全く予想していなかった単語が五条の口から飛び出してきたので、なまえは一瞬理解が追いつかなかった。
ので、成人式という単語がすぐには出てこなかった。どころか、五条から言われるまでその存在を認知してなかった。それくらい、なまえは自分には縁がないものだと思っていた。
「確かに、年齢的にはそうですけど、出ませんよ」
「式には出ないだろうね。それは僕にも分かるよ」
え。じゃあ何を気にしてるんだ、この人……と、なまえは思い切り顔に出した。それくらい、なまえは五条が何に配慮しているか分からなかった。というか、この人こういうことに配慮するのかと驚いていた。
夫婦になって数ヶ月、付き合いは学生時代からなので数年。五条悟という人間の一面を、まさかこんな形で知ることになるなんて……などと、少なからず驚きもあった。
そんななまえの困惑や驚きを知らない五条は、淡々と話を続ける。
「前撮りとかするのかなって。というか、するつもりなかったとしても、した方がいいと僕は思ってるから」
「……現状、前撮りとかの予定もないですけど。した方が、いいって……どういう意味ですか」
混乱と困惑がなまえを襲う。
本当になぜ、五条がここまで「こんなこと」を気にするのか。なまえには理解できなかった。だが、五条はからかいでもなんでもなく、本気で思っているようだというのは理解出来た。
「まずひとつ、あとからやればよかったと思われても面倒」
清々しいまでの本音である。
五条らしいと、なまえは初めて五条の身勝手さに安心した。
「で、つわりとか重くて撮るの大変だったとか体型変わったとかってなるのもいやでしょ?っていうのがあるからね」
「……五条先輩、そんな配慮できる人だったんですね」
「モテるからね」
「顔だけで、でしょ」
中身はクズじゃないですかと言い返せるくらいには、なまえもいつもの調子を取り戻してきた。
まさかまさかこんな配慮があったなんて……、という驚きはまだあるが。
「あと単純に、振袖着たなまえを僕がみたい」
「なんで当然のように見れると思ってるんですか?」
「え。僕ら夫婦じゃん?」
当然でしょー、と五条はなまえの頬をつついてくる。それに鬱陶しさを覚えたなまえは、虫でも払うように五条の手をはたく。だがそれを気にしないのが、五条悟である。どころか、なまえの反応を楽しんでいるのだ。無視が1番なのだが、なまえもまた無視ができない性格をしているため、結局五条を喜ばせてしまう。
「で、どうする?前撮り、やる?」
やるなら予約するよと、前向きな姿勢を見せる五条。なまえはというと、唐突に与えられた選択肢に、躊躇する。
全くもって考えてもいなかった。そのせいか。やるか、やらないか。そこにすら、思考が至らない。
「……考えさせてください」
「よし。予約しておこう」
「話聞いてました?」
「考えさせてっていう時点で選択肢にあるってことじゃん。なら、もうやっちゃおうよ!」
軽薄がすぎるとなまえが訴えても、五条はなんのそのである。
結局、五条の都合に合わせた予約をいれられ、なまえは振袖を見に行くことになるのだ。そして撮影も五条の都合に合わせた予約をとられることになるのだと、この時のなまえは知らない。
さらに先の未来の話になるが、なまえは五条から前撮りの話をされたことと、撮影させてくれたことが思い出に残ることになる。
──五条に看取られながら死ぬ、その時まで。