08.2回目のデート



なまえと五条悟が結婚し、夫婦になってから数ヶ月が経った。季節が変わり、夏にさしかかる。
縛りなしで夜刀神を降ろし、一族を皆殺しにした反動で体の所々が蛇化しているなまえは、半袖や薄着になることは叶わず、薄手とはいえ長袖を着て過ごしている。五条も夏でも黒ずくめなので、パッと見は全く涼しくなさそうな夫婦だった。
その格好でそれぞれ出かけるものだから、人目を集める。五条は身長が高くて見目がいいため、視線をただでさえ集めやすい。なまえは日傘をさして人目を避けるようにしているが、五条と並ぶと結局あまり意味の無いことだなと思った。

「それで、連れ出して映画ですか」
「そ。家でいつも映画みてるでしょ?たまには外でもみよう」

家で1人でいるときの過し方を知られていることに、なまえは不審そうに眉を寄せた。

「……なんで知ってるんですか」
「視聴履歴から知った」

あー、と納得したものの、なんで視聴履歴見てるんだこの人……と、それはそれで不審に思ってしまったなまえだった。こういうところ……呪術が絡まない話になると、基本的になまえは五条への信頼がないに等しい。五条もそれを分かっている。分かっていながら、振る舞いを改める気は無い。

「今日はこの映画みようか」

映画館におかれている上映中の映画のフライヤーのひとつを指さしながら、五条は言う。海外映画で、フライヤーを見る限り、サスペンス映画と言った雰囲気のものだった。話の内容は、明るくはないだろう。だが、基本的にいわゆるクソ映画以外なら観るなまえは、みてみようという気になった。

「……ネタバレとか先読みしないでくださいね」
「さすがに上映中にはおしゃべりしないよ」
「上映前もやめてください。先輩、そういうところありそうなので」

信用ないなぁと言いつつも口ぶりはさして平素と変わりない五条だった。



「……フライヤー、ポスター詐欺のクソ映画だった……!」

視聴後、なまえは映画館を出た後に虚無感と脱力感に襲われていた。対し、五条はケロッとしている。どころか、楽しげだ。

「いやー、清々しいまでにクソ映画だった!一番スカッとするのが仲間が死ぬシーンだったね」
「……クソ映画みたのに、楽しそうでなによりですね」
「クソ映画はクソ映画なりに面白いんだって。これが分からないなんて、なまえもまだまだだなぁ」
「分かりたくないですね」

お金を出したのは五条だ。もしこれを自腹で見ていたら、さらに虚無感が増していただろうなとなまえは思った。

「……映画代とか、ありがとうございます」
「ん?いいって、別に。夫婦なんだし」

なまえは、五条の懐の痛み具合は気にしてない。(特級呪術師の稼ぎは知っている)が、それはそれとしてちゃんとお礼は言うべきだと思ったのだ。──そういったところが、五条に気に入られ、からかわれる要因だとは気づいていない。

「どうする?コーヒーでも飲みに行く?」
「……そうですね」

なまえにとって今日は、最初に生活用品を揃えた時以来の、久しぶりの外出だ。いつもなら五条と外で長時間過ごすくらいなら家に一人こもることを選ぶところだが、久しぶりの外出という状況が、ほんの少しだけ五条への嫌悪を上回った。
……が、桃のフラペチーノを飲んでる時に「フラペチーノってラーメンと同じカロリーだから、僕ら今ラーメン飲んでるね」と言われたので、やっぱり帰ればよかったかなとなまえは少し後悔した。


フラペチーノを飲み終わると、今度は五条の買い物に付き合わされた。冷やかしだったり、適当に買い食いをしたり、だとか。ファンシーな喫茶店にパンケーキ目当てで五条が入っていくので、なまえの方がすこし気後れしたものだった。
先程のフラペチーノがまだ胃に残っているなまえはアイスコーヒーのみを頼んだが、五条は目の前で甘ったるそうな柔らかいパンケーキを食べている。

「……毎回思いますけど、よくそんなに甘いものばかり食べられますね」
「頭回してるとさ、甘いもの欲しくなるでしょ」

そっからそのまま甘党になっただけだよと言いながら、五条はパンケーキに添えられていた果物を食べる。ベリー系のその果物は瑞々しく、甘酸っぱそうだった。パクパクと食べている五条を見ながら、なまえはアイスコーヒーをストローで吸う。暑いので、その冷たさが非常に心地よく染み渡る。
やっぱり薄い生地でも、この時期に長袖はつらい。
そう感じても二の腕の一部が蛇化しているため、なまえには外で半袖を着るという選択肢がなかった。

「なまえもアイスくらい頼めばよかったのに」
「アイスだと、冷たくなりすぎそうなので」

店内のクーラーはちょうどよく効いている。アイスを頼んでいたら、なまえの場合は体が冷えきった可能性がある。たとえ、今は長袖を着ていて暑くてもだ。

「そういえば冷え性だったね」

クリームを切り分けたパンケーキに塗り、五条はそれを口に運ぶ。美味しそうに食べる、というより、食べたいから食べているだけの食べ方だった。効率重視で食べているなというのが、なまえにも伝わる。
が、家での食事は、五条ももう少し砕けた雰囲気だったようなとなまえは思い返す。恐らくだが五条は、外と内で切り替えているのだろう。

「……外でも美味しそうに食べたらどうですか?」
「十分美味しいと思ってるよ。いる?」
「いりません」

そもそもさっき、五条曰くラーメンに相当するカロリーのフラペチーノを飲んだばかりだし、となまえは思った。……同じようにフラペチーノを飲んだのに、カロリーを気にせずパンケーキを今食べている五条の体型を見て、なまえはちょっとだけ腹を立てた。

「先輩ほんと、ムカつきますね」
「なんで」

さすがに唐突にそう言われれば、五条も理不尽に思ったようだ。詳しくいえばいじりのネタになると思ったなまえは、なんとなくですと返しておいた。
最後の1切れのパンケーキをフォークにさしながら、五条はなまえを見た。

「つまんなかった?」
「いいえ。息抜きにはなりました。クソ映画以外は」
「そ。なら、いいよ」

淡々と会話をしながら、五条は最後のひと口を飲み込んだ。
──なまえにそういう認識はなかったが、かくして、2回目のデートは、淡々と終わったのだった。



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