王子に成り損ねたJ

 今日はとりとめない話をしようと思う。暇な君も、こんな俺の話に興味があるという君も、とにかく聞いてくれてありがとう。感謝するよ。

 もう十年も前の話だ。俺は……18だったな。若かった。いやあ、ほんとに18って若いよね。あの時みたいな「よし、勢いでいくぜ!」っていう感覚。今はもうないなあ。あ、でも28は28で楽しいもんさ。勢いはなくなったけど、じっくりゆっくり物事を進めるのもまた一興なんだぜ。まあそれは歳とってからのお楽しみなー。

 まあ。それでだ。本題に入るよ。
 18だった俺には彼女がいたんだよ。優しくていい子で、怒ると少しだけ怖かった。そんな可愛い普通の子。
 よく俺は彼女に「一緒に幸せになろう」なんて、くっさい台詞を吐いたもんだ。でも、それが十代のいいところだと思う。だって本当にできるって信じてたもんな。彼女も「そうだね。一緒にいようね」なんて可愛い返事、くれたっけな。その子とは二年くらいで別れちゃったけど、本当にいい思い出になった。それだけで俺は良い青春をおくれたなーなんて思う。

 それからは進学して、普通に大学を卒業して就職して、仕事に追われてって毎日。で、現在に至る。

「幸せにしてね」

 そう言って一緒に笑った彼女を思い出す。
 あのこと別れて決して数は多くないが何人かの人とお付き合いして、いろんな経験をしたけれど、人を幸せにするのってなんて難しいんだろうって思った。

 自分のメシの用意すら億劫なのに、どうして他人を幸せにできるんだろう。
 職場の上司の愚痴でうんざりなのにどうしたら相手の悩みを解消できるだろう。
 
 どうしたら、どうしたら、どうしたら。

 正直俺は疑問でいっぱいだよ。

 それでもさ、それでもだよ?
 やっぱり誰かと居たいよなあって思う。恋人だけじゃなくて、仲の良い職場の同僚とか、学生時代から一緒に馬鹿やった友達とか、早く結婚しろってうるさい両親とか。
 

 幸せになるってさー別に義務じゃないじゃん?
 個人の自由だと俺は思うんだよ。
 幸せじゃなくたって毎日生活してりゃなんとかなるし、自分から不幸を追いかけてそこに入り浸って、ほんのり暗闇が落ち着くってやつもいるだろ。

 でも義務じゃないから。だから俺は幸せになりたいって思う。

 コンビニのメロンパンうめえ、とか、受付の女の子かわいい、とかでも幸せだからな。
 まあそんな感じで俺の幸せの幅は広いんだ。安い人間だろ。

「幸せになろうね」
「幸せにしてあげる」
「幸せになれ」

 人に望む『幸せ』の言葉には限りない形の種類があると思う。

「幸せになれ」

 たぶん。28の俺が他人に言うこの言葉の意味はこうだ。

「コンビニのメロンパンをおいしく食えるようになれ」

 18の時とは意味がまったく違ってくる。願う幸せが『人生』からコンビニのメロンパンまで落ちてるもんな。規模が違いすぎてびっくりだわ、まじで。

 でもできれば、こんなつまらない話を最後まできいてくれた君たちが、メロンパンでちょっとした幸せを噛みしめてくれたら少しだけ嬉しい。

 じゃあ、メロンパン好きなおっさんのお話はこれでおしまい。
 最後に一言。

「君たちが美味しいメロンパンに出会えますように」



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