色彩言語

 ひとつひとつの色に名前をつけ、花のように愛でて、そしてその名にふさわしい歌を贈ろう。貴女が選び取った結末を嘆くのではなく許すことがでたらよかった。きっとそれができたらこうはならなかっただろうから。





「ナカハラさん、今日は元気がないのねえ」

 病院の個室をあてがわれた初老の女性はアキに微笑んだ。真っ白になった髪は、病床にあっても丁寧に櫛が通されている。下がった目尻と口の端の笑みが心根の穏やかさを表しているようだった。

「そう見えますか?」
「ええ」
「でも、マツシタさんが気づいてくれてちょっと嬉しいです」

 職場の同僚も上司も、誰もアキに興味なんてないのだ。アキだって興味がない。身近なものと自分を守るだけで精一杯なのに、どうして他人にまで心を裂けるのだろう。無理な話だ。

「ふふ。おばあさんのお節介じゃなければいいんだけどね」

 アキは首を振る。

「私は、嬉しいです」

 淡く笑う。きっと私は誰の一番にもなれない。シンの一番にも、リホ姉さんの一番にも、勿論マツシタさんの一番にも。

 人を愛するのに順位も貴賤もないのだとして、でもそんなのどうせ建前でしょう。

「私は貴女の笑顔が好きよ。元気をだしなさいね」

 だから、この『元気になれ』というシンプルな言葉は嬉しい。きっと建前じゃない。きっとなにも含まれてない単純な言葉だ。

「はい。ありがとうございます」

 きっとこうして、彼や彼女を愛せば良かった。装飾せずにありのまま、剥き出しに。

 私達にはきっとそれが必要だった。

 目に見える美しい色を、愛せば良かっただけなのに。



 目に見えるそれはとても痛かった。



13.01.08

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