ごちゃ倉庫
◎マグロでも構いませんか?
美人は三日で飽きるっていうけどさー、男同士の場合、マグロは三日で飽きるよな。
どんな美人でも、ずっとマグロはねぇよ。
処女なら仕方ないかなっても思うけどさ。もう何回もしてんだぜ?
何も動かないで奉仕されてるのって、何様って感じだよなぁ。
女じゃないんだから。自分で少しは動いて見せて、楽しませろっつうの。
得意気に言いはなった人間と、それを笑いたてる人たち。
そんな場面を耳にしちゃって、呆然とする俺。
教室の開かれたドア。
馬鹿なあいつらは、廊下に人がいる可能性なんかこれっぽっちも考えてもいなかったんだろう。
大声で下賤な話に花を咲かせていた。
タイミングが悪いね…とよく言われる俺だけど、あの日のことはそんなタイミング悪い俺のワースト3に入るくらいのタイミング悪い出来事であった。
数年たった今でも、あの時のことは覚えている。
放課後。
薄日が入り、教室が橙色に染め上がった時刻。
普段の俺だったら、立ち聞きなんかせず気にも止めなかっただろう。
他人の悪口なんて聞いたって面白くもないし、楽しいことなんてひとつもない。
そんな話を聞くくらいだったら、参考書でも開いていた方がマシだ。
いつもの俺だったら、絶対に立ち止まったりしなかった。
しかし、下世話な噂話をしていた中心人物が、当時の俺の彼氏だったから、ついつい廊下に立ち止まり、好奇心に負けて、くだらない話に耳を傾けてしまった。
聞いた瞬間、後悔した。
俺の事を言っているんだ…、と気づいた瞬間、顔から一気に血の気が引いた。
(マグロで、ねだることだけは一丁前の淫乱の、ユキちゃん)
げらげらと笑われて、目の前が真っ暗になって、恥ずかしさに消え去りたくなって。
同時に俺の存在は、そんな笑われるような存在だったのか…と悔しくもあった。
俺が聞いているのもしらないで、元彼は得意気に俺についての話を続ける。
男のマグロはキモいだけだよな…。
いつまでも硬直したまま動かないんだぜ。
やってくれ…って、誘ったのはそっちなのによ。
前はビンビンに感じるくせに、後ろ触るととたん硬直してやんの。
女じゃないっつーのに。
ただの性欲処理だと思えばいいのにさ。
がちこちに緊張しちゃって、ちゃんと動けっつうの。
クラスメートの中心で、笑いながら王様のように得意げに語るのは…俺の当時付き合っていた彼氏だった。
彼は、サッカー部のレギュラーで学校でも目立つ男だった。
外見も、茶髪で襟足がかくれるほどの男にしては長い髪型をしていて、すこしチャラついた軽薄な男だったと記憶している。
口は達者で、人の気持ちも機敏で、トークもうまい。
でも、言葉は非常に軽くて、自分の言った言葉に責任を持たない。
そんな男だったと思う。
『顔だけで選んだっつうのによ。
全然慣れてないし、なんもしないんだぜ、あいつ。
酷くね?小悪魔ちっくなあんな顔しといて…詐欺ジャン。』
『あの顔は…なぁ…、詐欺だな。』
『だろ?あの顔だったら、もっと百戦錬磨かと思うわけじゃん。
色々奉仕してくれるって期待するわけじゃん。あんな色気がある顔してんだからさ』
嫌な笑い声。
ぐわんぐわんと、頭の中で響く。
…今までの彼への恋心は一気に覚め、もうあいつとは終わりだな、とほんの少し芽生えた恋心にふたをした。
そこまで、当時の彼に思い入れがあった訳じゃない。
好きであっても、ベクトルが違っていた。
男子校で、その時から男同士の恋愛に興味があったにしろ、そこまで俺は彼に依存はしていなかった。
付き合うなら付き合ってもいいか…と思うくらいの軽い気持ちだったと思う。
本当に好きな人ができて、愛がどんなものか知った今なら、あの時の恋愛が、おままごとを楽しむようなものだった、といえる。
恋に恋したい、年頃だったのだ。
少女漫画を夢見る乙女のように、ただその体験をしたかっただけ。
好きと言われれば、流されるように俺も好きかも、と言ってしまえるくらいのそんなちっぽけな愛情だった。
付き合ったのも、彼が好きだと何度も俺に告白して、その熱意に負けた感じであった。
好きと言った事もあるし、ねだったこともある。
このままこいつとずっといるのかな…なんていま思うと馬鹿らしい乙女チックなことすら、考えたものだ。
いま考えると、なんであんなやつをあんなに思えたんだろう、とぞっとする。
最悪のタイミングに立ち会ってしまったけど、遅かれ早かれ別れはきていたのかもしれない。
たった一言で悪い魔法はとけて、簡単にその気持ちが吹き飛んだ。
その程度の気持ちだった。
馬鹿にされたらすぐに切れるほどのあっさりとした細い線のような関係だったのだ。
だから、その日のうちに俺はやつにお別れのメールを送った。
マグロでごめん。別れようよ≠チて。
可笑しな事に、あんなに友人の前で俺の事を笑っていた彼氏だったが、別れを切り出した俺に、別れたくない、どうして別れるんだ、あれは誤解だ等と未練がましくすがってきた。
俺は、それを全て無視したけれど。
別れてから、彼は俺につきまとい、ストーカーのようになってしまい、卒業するまで俺のやることなすことを干渉してきた。
最後の方は、俺はノイローゼになってしまい、みかねた友人が助けてくれた。
そいつと別れてから、何人か付き合ってみたけれど、どうも長続きはしなかった。
昔の彼氏の言葉は、まるで重く十字架のように、俺の心に伸し掛かった。
マグロの、テクなし。
俺は…反論できないくらい、彼が呆れるくらいの…、マグロだったから。
ベッドの上ではテクも何もない、ただの、動けない冷凍マグロちゃんであったから。
どうしても、仲が進展して、いざベッドへ…、となると、足がすくんで動けなかった。
『マグロのゆきちゃん』
あの時の、彼の言葉が、今も俺の胸に染みついている。
ーマグロでも構いませんかー
春の訪れが見え始めた、冬の終わり。
俺、深津幸人ふかつゆきとは、恋人との逢瀬前に一人頭を抱えていた。
恋人との数か月ぶりの逢瀬。
久しぶりにメールのやりとりではなく、じかに会うことができる。
体温を感じあい、抱き合うことができる。
普通の恋人同士だったら、久しぶりの逢瀬なんて喜ぶべきことのはずであるのに。
俺の心は最近、彼と会う前にずっしりと重くなっていた。
会いたいという思いも強いのに、自然に笑顔が作れない。
本当は嬉しくて、顔が緩んでしまいそうなくらい、彼を思うと幸せになるのに。
“あること”を考えると、ついつい強ばった顔になってしまう。
最近はため息も多くなったかもしれない。
好きなのに、どうして俺はこうなんだろう…。
本当に大好きなのに…どうして。
こんな自分が嫌になる。
きっと彼もこんな俺の変化を気づいているだろう。
気遣うような視線が時々何か言いたげに揺れていた。
それでも、俺から言わない限りは気づかない振りをしてくれている。
優しい人、だから。
恋人との久しぶりの逢瀬は、休日の土曜日。
繁忙期もすぎて、久しぶりに休みが重なったのだ。
この日をずっと楽しみにしていて、携帯のカレンダー機能にもしっかりと登録している。
大人な彼は、本当に忙しい人。
俺たち二人の休日がかちあうのは、少ない。
俺も彼も土日休みの仕事についてはいるんだけど、平日は彼が残業続きのせいか、まともに会えたためしがなかった。
休日出勤だって、ここ最近じゃ当たり前のことになっているし、代わりに平日が休みになることも多々ある。
お互いが身体を尊重し休息をとれ…といっているので、連日仕事が続き、たまの休みも疲れていればあうことはできない。
それでも久しぶりに会えれば凄く嬉しいし、彼と付き合えてよかったと思える。
彼に微笑まれれば、俺も嬉しくなるし、彼が何か悩んでいれば、俺まで辛くなる。
会う日数が少なくても、彼自身には全然不満はない。
少しさみしいけれど、ね。
昨日は久しぶりにあえるということで、彼の好きなものをデパートで買いあさった。
大人な彼は、辛いものやお酒が好きだから。
普段の俺だったらあまり買ったことのない食材を冷蔵庫に入れて、彼との休日に思いを馳せる。
わくわくしている気持ちと、でも、このままでいいんだろうかという気持ちと。
彼と会う前はいつも二つの気持ちがせめぎ合い、どこか情緒不安定になる。
早く、会いたい。抱きしめて貰いたい。
だけど…だけど。
それ以上が、怖くなる。それ以上の関係に進むのが。
俺がマグロだとしって、今までの彼氏のようにいなくなってしまうのが。
どうして、俺は…テクもなにもない、マグロなんだろう。
動きもサービスも出来ない人間なんだろう。
もうまぐろといわれた年頃から随分たっているというのに。
これが、魚のマグロ≠フように極上な身体だったらいいかもしれないけど。
もし、俺が女の子だったら、うぶなマグロでもいいかもしれないけれど。
生憎俺は、男で。
しかも、どうにも、俺は誘っているような、色気のあるエロい顔をしているらしい。
友人や元彼が、しきりに俺の顔はエロい…、と褒めていた。
エロいっていっても、俺的に極々普通だと思うんだけど。
ちょっと自分でも、エロいかなぁ、って思うのは目元にある泣きぼくろくらい。
後は、背だって普通だし、髪だって極々普通の黒いセミロングの髪型だし…普通だと思う。
抱かれるの怖いわっていう感じの儚い可愛い感じの男でもないし。
あ、性格はちょっとおっとりしているかもしれない。
人見知りだし、あまり早い会話についていけなかったりする。
ぼーっとしていたら、憂いているだとか、俺たちみたいな子供っぽい会話にあいつは興味ないんだよ、っとか好き勝手言われた。
人から見たら俺はクールな美人キャラらしい。全然違うのに。
クールで、男も沢山いて、スッゴイテクニックを持った小悪魔キャラ、みたい。
全然違うのにな。
本当は、ちょっとぽけぽけしていて、男も毎回イメージと違うからって振られているか、愛想つかれて浮気されるまぐろなのに。
どうして、みんな俺を小悪魔だとか思うんだろう…。
そんなイメージいらないのに。
可愛いイメージだったら、良かったのにな。
そしたら、思う存分甘えることができるのに。
彼も、俺にそんなイメージを持っているのだろうか。
俺を小悪魔ちっくな男と思っているんだろうか。
「はぁ」
人知れず、ため息を零す。
そっと視線をあげると、彼の部屋の中に置かれた彼が映った写真たてが目に入った。
彼の姿を見るだけで、写真なのに、胸がきゅんとする。
恋する乙女じゃないんだから…とは思うけど、止められない。
写真の中のその人は、俺の隣で俺を見て愛しげに笑っている。
本当にかっこいい。素敵すぎるひと。
俺に久しぶりにできた恋人は、俺をデロデロに甘やかしてくれる、優しい大人の恋人だった。
「剛さん…」
俺の恋人・野々宮剛は、俺より4つ年上の28歳。
某企業で働いている、エリートサラリーマンである。
いつも忙しそうに働いていて、一緒にいられる休日なんて稀だ。
大手企業のホープらしい。
黒い堅そうな髪に、真面目そうなストイックな、顔。
いつもきりりとした面持ちで、俺を見てくれる、優しい人。
普段は無口なんだけど、俺と二人っきりになると甘い言葉をくれたりする。
そんな極上の人。
初対面では、無駄口も叩かずただ相槌を打つだけだっただけなのに。
真面目過ぎて、俺みたいなエロい顔の人間なんて嫌いかな、っと思ったのに、剛さんはこんな俺にも親切で優しかった。
俺の、大好きな恋人。一番好きな、人。
多分、剛さん以上の人なんて、これから先俺の前には現れないだろう。
俺を愛してくれるのも、俺が愛するのも。
剛さんが、最初で最後だと思う。
なんて、剛さんに言ったら重いって言われるかな。
剛さんとは、元々友人の紹介で出会ったんだけど、俺は一目見て剛さんに惚れてしまった。
剛さんも剛さんで、俺に一目ぼれしたらしく…。
お互い、意外に小心者だから、探り探りであっていく間に、剛さんの方から告白してくれて…今に至る。
付き合って、三か月。
キスもした。それ以上の軽いボディートークもした。
ボディトークっていっても、上半身を触ったくらい。あと、触れたというくらい軽くペニスを手で握られたくらい。
軽すぎるボディトークだ。
…俺はまだ剛さんに抱かれたことはない。
剛さんは、俺を抱きたいとは言わなかったし、一緒に同じ布団に入っても寝るだけだ。
恋人同士、普通同じ布団に入ったら、セックスしたくなるものなんじゃないだろうか。
俺の魅力がないからだろうか。
でも、抱かれたら抱かれたで、またまぐろのテクなしって事で、失望されたら…?
抱かれたい。でも、抱かれたくない。
失望されるくらいだったら、このままでいい。
プラトニックなままでいい。
剛さんが、俺に飽きて捨てられるまでは。
その日が来るまでは…、このままがいい。
一緒にいられるだけで、いいんだ。
捨てられるその日まで。
「頑張ろ…、」
呟いて、パンッと頬を叩き気合を入れる。
気合を入れ過ぎた頬は赤くなって少し痛かった。
「剛さん…、」
「ゆき…、」
ピンポン、とインターフォンの音が鳴ったと同時に玄関に走る。
ドアを開けたと同時に、ドアの前に立っている剛さんに勢いよく抱きついた。
剛さんは、一瞬、ふらっと体制を崩したが、俺をしっかりと受け止めてくれた。
ぼさっと、剛さんが持っていたカバンが地面に落ちる。
「剛さん、」
ぎゅっと、剛さんの胸元のシャツを握る。
剛さんは剛さんで、俺の背に手を回してくれて、やんわりと俺を抱きしめてくれる。
「ゆき、寂しかったか…?」
「うん、」
寂しかった。
剛さんに会いたかった。
今までの恋人は、けして俺に寂しい≠ニいう言葉を言わせてくれなかった。
どうせ、他の男がゆきにはいるんだろ…って。
いつも、いない恋人について詰られた。
俺だけじゃないんだろ?って。
俺は、付き合ったら、その人しか見えないのに。
もしかしたら、剛さんも、他に俺が男いるとか、考えたことあるのかな。
甘えているのはただのポーズとか考えたりするのかなぁ。
尋ねられたことは、ないけど。
「剛さん…、」
剛さん、俺は、剛さんだけだよ。
身体…まだあげられないけれど…。
俺には、剛さん、だけ、だよ。
想いをこめて、剛さんを見上げる。
すると、剛さんは、かぁっと顔を赤らめて、
「ゆき、キスしたいんだが…、部屋の中にいかないか…、」と、言った。
剛さんは、常識のある大人だ。
こんなマンションの外でキスをするのは…と思っているんだろう。
うん、と頷き、剛さんを家へと招き入れる。
「ゆき…っ」
「つよ…んっ…、」
家へ招き入れた途端、剛さんは俺の背に手を回し、今まで離れた分を補うかのように、激しい口づけをした。
口内をあらすような、激しい口づけ。
ぎゅ、と腰に回された腕を引き寄せられる。
回された腕は、力強く、俺を包むようだ。
俺を離さず、その腕に閉じ込めてくれる。
それが嬉しくて、俺は、すりすりと猫のように剛さんの胸に顔を押し付けた。
「剛さん…好き…、大好き」
俺が小さく呟いて甘えた瞬間、剛さんは、ピク、と硬直した。
「剛さん…?」
「…い、いや…」
おずおず、と身体を引きされる。
なにか…何か、まずい事でもしただろうか…。
なんだか、先ほどまでの嬉しそうな顔から一転、気まずそうな顔をしている剛さんに、不安になる。
「いや、だった?」
「…いや…そうじゃない…。その…、俺の忍耐の問題だから、ゆきは気にしなくていい」
「忍耐?修行しているの…?」
俺の問いに、ますます、剛さんの顔は苦々しくなり、
「そうだ…。すまない…。トイレを借りる」
そういって、急いでトイレへと向かった。
トイレ…我慢していたのかな…。
俺は、地面に落とされた剛さんの鞄を持ち、部屋に向かう。
剛さんの忍耐≠フ言葉の意味を理解しないまま。
*
剛さんは、礼儀正しい。それから、凛々しい顔しているし、真面目。
日本男子、という言葉がよく似合う。
しつけが厳しい家に生まれたといっていたし、家は茶道の家元で、剛さんは昔から道≠ェつく事を習わされていたらしい。
華道に茶道。弓道に剣道。
そんな剛さんは、家にいるときは、いつも簡単な浴衣を羽織っている。
洋服よりも、浴衣や着物の方が落ち着くらしい。俺の家にもいくつか剛さんようの浴衣や襦袢を用意している。
はんなり、とした着崩した浴衣の着方。
これぞ、日本男児、の剛さんだけど、出身は九州だ。
会社から帰った後、剛さんは、必ず浴衣に着替えている。
それも様になっているから、ずるい。
剛さんのスーツ姿も好きだけれど、浴衣姿は、ついついぽぉっとしてしまう。
朝なんかは、いつもはだけているから、俺の心臓は爆発寸前だ。
綺麗な首筋だとか骨張った鎖骨を見るたびに、「かっこいい」と叫びたくなる。
ほんと、セクシーなんだよね。剛さんって。
男の色気っていうのかな…。
真面目過ぎるから、そんなにモテたことがないって言っていたけど、それは違うと思う。
きっと、その剛さんの真面目な空気だとか、なんでも出来るオーラに気負っちゃうんだと思う。
剛さんはふられっぱなしだって、笑っていたけど。
こんな人がもてなかったなんて、世界七不思議に入ると思う。
今日も剛さんは、スーツから浴衣へと着替え、茶の間で足を延ばしていた。
疲れているんだよね。剛さん、出世頭らしいから。
今はびっしりと固めた髪を崩し、リラックスした面持ちだ。
剛さんは多忙な人。
なのに、会える日があれば、いつも俺の家へよってくれる。
ゆきの料理が一番だから、と、外食よりも俺と家にいることを望んでくれる。
俺を甘やかしてくれる。
「剛さん、ビール、開けますか?」
「ああ、頼む」
「はい、」
剛さんの返事を聞き、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫には、俺が飲まないビール瓶が数本入っている。
いつ剛さんが来てもいいように、とビールだけはいつも冷蔵庫に常備している。
俺の家にきたときくらいは、美味しいものや好きなビールを飲んでゆっくりしてもらいたい。
ご飯だって、剛さんと付き合ってから大分上達したと思う。
今までの彼氏は俺が料理にかける時間よりもさっさと抱き合いたいって人間が多かったし。
バランスを考えた俺の料理じゃ、毎日飽きると言って外食に連れ出す彼氏が多かった。俺の料理は和食で脂っこいのが少ないから、ジャンクフードを好んでいた彼氏たちには俺の料理が受け付けなかったようだ。
ちなみに俺の得意料理は、剛さんが好きな肉じゃがだ。
なんか、俺って奥さんみたい…?新婚さんみたい、かも。
すぐに、机に夕食をセッティングして、コップにビールを注ぐ。
剛さんは、それに毎回礼をいい、「いただきます、」と手を合わせて俺が作った夕食を口へ運ぶ。
俺も同じように「いただきます」といって、おかずに口をつけた。
ーー剛さんは、俺を抱きたくないのかな。
付き合って3か月。
こんなに、身体を求められなかったことはない。
なんせ、俺は子悪魔でゲイの人間から見れば、やりまくっているようにも見えるそうだから。
歴代の彼氏たちは、付き合ったその日に俺とセックスしようとしていた…。
俺が拒否すれば、「かまととぶってんじゃねーよ」とか言ってたっけ。
剛さんのように、ただキスとか抱擁だけの付き合いなんて初めてだ。
だから、不安になる。
プラトニックな関係も素敵だと思う。
素敵だと思うんだけど…やっぱり、俺はそれじゃ足りない。
剛さんを求めたいし、求められたい。
俺は抱かれたら抱かれたで、マグロだから困る癖に、求められなければ、俺を欲しくないのかと、縋ってしまいたくなる。
セックスがうまくなりたい。ううん、剛さんを満足させたい。
剛さんに見捨てられずにいたい。
剛さんによかったと言われたい。
その為には…。
どうしたら、いいのかな。練習、でもすればいいの?
練習、したら上手くなるのかな…。
でも、剛さん以外の人ともう抱かれたくない。
俺は…。
「ゆき…、」
「ん…」
「どうした…?」
「え…、」
「浮かない顔しているが…、」
眉を寄せて、心配した顔で俺の顔を覗く剛さん。
浮かない顔なんて、しているのかな。自分じゃわからない。
でも、剛さんが言うならそうなんだろう。
「そんな変な顔、してる…?」
「ああ…まぁ…。思いつめた顔していたぞ」
「そう…、」
疲れた剛さんを不安にさせるなんて、恋人失格だなぁ。
剛さんに、「なんでもない」と言って、残りのご飯を詰め込む。
急いで口に詰め込んだので、味は全くわからなかった。
*********
「そんで…?」
「え…と、以上だよ?」
「つまり、まだ抱かれてないんだ、剛に」
「うん…、」
はぁ、と、わざとらしくため息をつく友人・和泉さん。
彼は、俺の人生の先輩で…元マグロ仲間。
そして、今は童貞狂いのバーテンダーでもある。
剛さんと、俺を引き合わせたのも実は、この和泉さんだったりする。
今日は、久しぶりに会う事になり、俺の家に来てもらっていた。
和泉さんは俺と同じで、当時付き合っていた彼氏にセックスが下手だと言われたらしい。
以来、誰とも比べる事がない童貞君としか寝なくなったんだとか…。
今では、そのテクニックは極上らしく、和泉さんに童貞をささげた男は一生起たなくなるんだとか、ならないんだとか…。
恐ろしい逸話を持つ人だ。
「ほんと、剛って、仙人みたいな人だよね」
「仙人?」
「そうそう。普通だったら、もっと早く抱いている筈なのに」
ぽそり、と呟いた和泉さんの言葉に、どきりと胸が痛む。
やっぱり、そうだよね…。
3か月も、しかも大の大人が抱かれていないのって、可笑しい…よね。
中学生や高校生の恋愛じゃないのに・・・。
最近の高校生なんて、もしかしたら、俺たちよりもっと、進んでいるのかもしれない。
俺たちは実家暮らしってわけでもないし、部屋の壁だって薄くないからもっとできるはずなのに。
「俺って魅力ないのかな…」
「そんなことはないと思うけど…」
「でも、3か月も、だよ?
和泉さん、そんなに抱かれなかった事、ある?」
「まさか…。僕は童貞狂い≠セよ。その日のうちに美味しく頂いちゃうよ」
自信満々に言う和泉さん。流石である。
「だよね…。誘うのは、和泉さんから…?」
「ん〜。気分によるかな。抱いてほしい好みの男がいたら、自分からいくかな」
ふふ、と、魅惑の笑みと言われている笑みを零す和泉さん。
エロス、という言葉がふさわしい和泉さんは…俺と同じマグロであったらしいが…まったくその片鱗が見られない。
自分に自信があり、抱かれるのに臆することがなさそうだから。
いまは童貞しか抱いていないようだけど、絶対テクニックは玄人並みだろう。
「でも、僕はゆきが羨ましいよ」
「俺が…?」
「そー。剛って、極上な男じゃん?仕事真面目だし、恋人大切にするし…無理やり強要もしてこないんだろ?」
「うん…、」
「そんな男がずっと隣にいるって、羨ましいと思うな。
ま、ゆきもゆきで可愛いから、お似合いって感じだけど」
「和泉さん…、」
和泉さんは、童貞狂い。もうマグロじゃない。
だけど、元マグロ。下手、と言われた言葉はずっと消えていない。
俺と違い、童貞に抱かれて毎日過ごすことで逃げた和泉さんは、なかなか本気の恋愛が出来なくなってしまったらしい。
体だけの恋愛でいいや、と思うようになってしまったようだ。
いつか、俺も剛さんと出会う前、和泉さんのように毎日抱かれればテクが磨けるようになるかな…と言ったら本気で止められた。
僕みたいになるな…と。
「誘惑してみたら?」
「誘惑…?」
「そうそう、したいんだったらさ。言えばいいんだよ。可愛くね」
「可愛く…、」
「そう、ゆきは可愛いんだから」
クス、と笑う和泉さん。
俺を可愛いなんて言うのは、和泉さんと、剛さんくらい。
どちらかといえば、俺は美人顔らしいし、透かしてるとか、クールって言われるから。
和泉さんも俺と同じ系統の顔をしている。
だから、同じように誤解されたりするのもあって、和泉さんは俺によくしてくれる。
兄弟、みたいに思われているのかな。
和泉さんと二人で歩いていると、よく兄弟と間違われる。
下手したら女同士にも見えるかもしれない。
「だけど、俺、つまんないって言われたら…剛さんに言われたら、ショックで…」
「慣れている方が、ドン引きになると思うけど。ああいう潔癖症タイプは…。自分でどうこうしたいってタイプじゃないのかな?淫乱ちゃんより控えめなこの方が好きそうだけど?」
「そう…かな」
「そうそう、今日早速誘惑して見たら?」
「きょ、今日ですか…、」
「善は急げ、だよ」
ふふ、と楽しそうに笑う和泉さん
他人事だと思って…。いや、他人事だけど…!
それから、俺と和泉さんは『剛さんをその気にしよう』作戦を立てた。
ネットで『その気にならない彼の落とし方』なんか調べて二人して笑い合っていた。
う〜ん…。
俺たち男なんだけど…。なんだか、話の内容が女の子がするような内容だった。
俺と和泉さんって、もしかしたら、前世姉妹だったのかもしれない。
**
次の週の金曜日。
今日も、剛さんは、仕事で疲れた体のまま、俺の家にきてくれた。
ご飯を美味しそうに食べて、おかわりまでしてくれたし、今度公開される映画を一緒に見る約束もしてくれた。
ご飯が終わって、リビングでくつろいでいる時に沢山、ちゅーもしてくれたし…。
大好きだって何度も言葉をくれた…。
一見無口で、ストイックな剛さんなのに…。
布団の中では甘々なんだよ…。
恥ずかしくなるくらい…。
後は…。そう、後は、誘惑するだけだ。
和泉さんと散々昼間話していた『抱かれ作戦』それを決行するだけ。
お風呂あがりの何も身に着けていない、身体。
きょ、今日こそ。今日こそ、抱かれたい。
抱かれるんだ。
俺は、ぎゅっと拳を握り、意を決する。
気分は…、突撃隊、かな…うん。
俺は意を決し、裸のまま、寝室でくつろいでいる剛さんの元へと向かった。
「…剛さん…、」
「ゆ、ゆき…?」
裸の俺に、え…、と目を見開く剛さん。
丁度本を読んでいたらしい。
本を持ったまま、あんぐりしている。
驚く…よね。いきなり、こんな裸、で。
今俺何も身に着けてないし。
電気もつけたままだから、裸ばっちり見られているし。
「あ、あのね…俺、」
「風邪、ひくだろ…服なかったのか?」
剛さんはそういって、真剣なまなざしで、俺に掛ふとんを渡す。
焦っても動揺もしていないソレに、抱かれたいと息巻いていた気持ちが萎んでいく。
俺が、裸で出てきても、子供の様に嗜めるだけだった。
剛さんは、俺を、そういう目で見ていないのかな…。
子供、だと思ってる?
子供じゃないよ、俺。
恋人同士なんだよ。
恋人同士で裸だったら・・・やることはひとつしか、ないよね・・・?
「俺、魅力、ない?」
「ゆき…?っ…、」
剛さんにぶつかるように体当たりして、布団に押し倒す。
驚愕に目を見開く剛さんに、俺は勢いのまま、口づけた。
少し厚い、剛さんの唇。それを何度も、甘噛みしながら、舌を侵入させる。
剛さんは、俺の行動に、ぽかんとしていた。
「ゆき…、」
「抱きたくないの…?抱いて、くれないの…?俺…駄目…?剛さん、抱く価値、ない…?」
「ゆき…、」
「つよしさん…好きだから、俺抱かれたいのに、俺…んっ…、」
唐突に、キスされた。
少し、強引で、荒っぽい、キス。
後ろ髪を掴まれ、より深く口づけされる。
侵入してきた舌は、荒々しく絡められ、唾液をも交換させられる。
いつもの剛さんらしくない、ちょっと荒いキスに、ぞくぞくする。
ようやく、長いキスが終わるころ、俺はふにゃふにゃになって力がぬけていた。
剛さんは俺の手をひきベッドに転がす。
そしてそのまま胸に手を這わせていた。
「いいの…か…、」
掠れた、どこか切羽詰った声で尋ねられる。
「いい…」
「抱くんだぞ。」
「うん…、」
「そう…か…、」
剛さんは、俺に確認を取ると、着ていた浴衣をはだけさせた。
途端、剛さんの鍛え抜かれた胸板が、視界に入る。
「ゆき…、」
「んっ…、んっ…ふ…、」
剛さんは口づけながら、俺の身体に手を滑らせた。
「ゆきの・・・、ここ、ピンクで可愛いな・・・」
「んっ、」
乳首をつんつんと指の腹でつつかれる。
剛さんの長い指。爪先で引っかかれると、キュンと乳首が疼く。
その指で、ぎゅっと摘んで欲しい。
つつかれるだけじゃもどかしい。
俺、女の子じゃないのに。
剛さんに触られると、ぞくぞくする。
「ゆき、」
くるくると、乳頭周りを指先で円を描くようになぞられる。
「ん、ぁ・・・、」
「胸で感じるのか・・・?可愛いな」
「・か・・わいくない・・・」
「可愛い」
じわり、と頬が赤らんでいくのがわかる。
ゆるゆると、乳首付近をなぞる指先。
ちがう。もっと、強い刺激がほしい。
もっと、もっと強い決定的な刺激が。
このままじゃ、もどかしくてどうにかなってしまう。
「剛さん」
「ん?」
じわり、と涙腺が滲む。
わかってる、くせに。剛さんは時々意地悪だ。
抱かずに胸ばっか弄るから、俺のおっぱいは女の人のように刺激に敏感になっている。
剛さんの、せいで。
もう・・・
「や・・・、」
「ゆき」
「ギュってして。もどかしいよぉ・・・。んああ・・・」
俺が泣き懇願すると、剛さんは俺の望み通り、胸をぎゅっと摘んでくれた。
欲しかった刺激を受けて、軽く身体が痙攣する。
「んああ・・・、」
「ゆきのここ、胸だけで反応してるな・・・。胸もコリコリして・・・。ここも・・・」
「あ・・・」
ジジ、とズボンのファスナーが下ろされ、ペニスをとられる。
俺のものは既に半泣き状態だった。
「ゆきのここ、いつも少し虐めたら泣いてしまうんだな・・・」
「それは・・・、」
だって。
仕方ないじゃんか。
「剛さんが・・・、俺を、いじめるから・・・」
小さく呟けば。
剛さんは、嬉しそうに俺に微笑み返し、顔にキスを降らせる。
その間、俺のペニスはしっかりと人質?として取られており、剛さんの手腕にただただ喘いでいた。
「あ・・・や・・・、」
「ゆき・・・、」
「こえ、や・・・聞かないで・・・っ、」
「どうして・・・?」
「恥ずか・・・しい・・・」
男のくせに、こんなに喘いで。
女の子じゃないのに、こんな媚びた甘い嬌声が出るなんて。
「いいよ、可愛い。ねぇ、ゆき・・・ここも・・・いいか・・・?」
耳元で囁きながら、剛さんの指が1本俺のアナルに入った。
太くて長い指先。
ゆっくりとそれが、俺の中に侵入してくる。
ようやく、抱いてくれる気になっている。
ようやく…剛さんは、俺を抱いてくれる。
嬉しい。
嬉しい、筈なのに。
俺の身体は、アナルに入れられた指1本で硬直し、剛さんの愛撫に溺れることはできなかった。
繰り返される、愛撫。優しい口づけ。
気遣う、声。
剛さんに、楽しんでもらわなくちゃ、いけない。
また、マグロって言われる。
下手だって、呆れられる。
怖い…。
動かなきゃ、いけないのに…。
俺の身体は、俺の意思とは裏腹に、硬直し動かない。
密かに震えるだけだ。
「ゆき、」
優しく、声をかけられる。
それに、泣きたくなった。
こんなに、こんなに剛さんは優しいのに。
俺は、抱かれることすら、ちゃんとできない。
こんな硬直していたんじゃ、マグロ、どころか冷凍マグロ、だ。
「ゆき…、」
「剛さん…、」
「震えてる…、」
俺の手を取り、静かにつぶやく剛さん。
その手は確かに小さく震えていた。
剛さんは、その手にうやうやしく口づける。
その騎士のような、仕草に、じんわりと涙腺が緩む。
「焦らなくても、いいんだぞ…。ゆき」
「つよし…さん…、」
「怖いんだろ…」
優しく、俺の頭を撫でる剛さん。
それに、こらえていた涙が溢れる。
怖い。抱かれたいのに、怖い。
抱かれなくちゃ、いけないのに、怖い。
抱かれるのなんて、慣れているのに。
初めてでも、ないくせに。
「ごめんな…さい…俺…ほんとは…」
口ごもる俺に、剛さんは、優しく笑いかけ、
「俺は、ずっと、ゆきの傍にいるんだから。まだまだ時間はある、だろ…、」
といってくれる。
「でも…、」
「今日から少しずつ、慣らしていこうか?ゆきは、俺に抱かれてくれるんだろ?ずっとそばにいてくれるんだろう?」
「うん…うん…、」
ずっとそばにいる。
剛さんも、ずっとそばにいてくれるの。
優しく撫でてくれる手に、ぽろぽろと涙が落ちる。
「良かった…。なぁ、ゆき…、」
「ん?」
剛さんは徐に、俺の手をひき、自分の半身へ。
そこはゆるやかに変化しており、熱くなっていた。
まだ浴衣を半分着ている状態だから、正確にどうなっているかわからないけれど。
「剛さん…!?」
「あのな…ゆき、俺のをお前に入れたい…入れたいんだが、な…」
「うん…?」
言いづらそうに口ごもる、剛さん。
まさか…剛さんも、マグロ、とか…。童貞、とか…?
仲間、なの?
少し期待していた俺に、剛さんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ゆき、あのな…俺な…かなり、巨根なんだ」
「きょ、巨根…?」
「そう、」
そういって、体制を変え、あぐらになった剛さんは、下半身の布をめくる。
露わになった、剛さんのものは…
その、確かにデカかった。
俺が今まで見ていた中で、一番といっていいくらい。
ビック、マグナムだった。
俺のが可愛く見えちゃうくらい。
「あの…、」
「ゆきに入れたい…だけど、俺のは、その、デカいから…。かなり慣らさないとダメ、みたいなんだ…」
「な、慣らす…」
「ああ、その、痛いらしいから…。だからな…、少しずつ、慣らしていきたいんだ。ゆきを、俺の身体に…」
「俺を…?」
「そう。なぁ、ゆき…」
剛さんは俺の顔に己の顔を近づけて、耳朶を噛む。
そして、少し掠れた甘い声で、
「俺の、触ってくれないか」
と、言う。
「あ、あの…」
「俺のに慣れてほしいんだ…。」
「剛さんの、に…」
「そう。ゆきのも、触っていい?」
「う、うん…」
言われて、そっと、剛さんのを触る。
触った途端、ピクリ、と動くソレ。
なんだか愛おしくて、熱いそれをやんわりと握った。
剛さんも、露わになった俺のをまるで壊れ物のように触り、優しく、俺がパニックにならないように、ゆっくりと愛撫していく。
優しい、初めての行為に、まだ抱かれていないのに、与えられる快感に小さく啼いた。
「つよし…さん…の、熱いし、大きい…、」
「そうか…、」
「俺の手、気持ちいい…?」
べたべたに手を濡らしたまま問うと、剛さんは苦笑し、
「気持ちいいよ、」
と、いってくれる。
俺の手で、喜んでくれている。
その事実に嬉しくなり、俺は、丁寧に剛さんに愛撫をし続けた。
*
初めての戯れは、お互いの性器を触るだけに終わった。
剛さんは、焦らなくていいと言ってくれる。
お互いの欲をだし、俺たちは、またベッドでいちゃいちゃしている。
いちゃいちゃ、といっても、身体を軽く触るくらいで、性的なものじゃないけど。
だけど、今までベッドでいちゃいちゃはあっても、今までは服を着ていたが、今日はあれから服を着ていない。
だから…、その、剛さんのビックマグナムが俺の脚に直接あたる訳で…。
ちょっと、恥ずかしい。
剛さんに、デロデロに甘やかされて、身体が蕩けている時だった。
「ゆきは、初めてなんだろ…」
不意に、剛さんがそういったのは…。
「え…、」
「焦らなくていい。ゆっくりいこう…な」
「あ…」
そういって、頭を撫でて、ゆるく笑みを浮かべる剛さん。
それに、何も言えず、黙る俺。
何も言えなかった。
だって、もしかして、今まで俺を抱かなかったのは、俺が初めてだと思ったからかもしれなかったから…。
初めてじゃない、とすぐに否定できなかった。
初めてだから、大切にしようとしてくれたの?
あんな優しい愛撫をしてくれたのは、俺が初めてで壊れないため?
でも、俺、初めてじゃない。
マグロだけど…、今まで彼氏もいたし、散々抱かれてきた。
俺、剛さんが初めてじゃない。
もし。
もしも、俺が処女じゃないって知ったら、軽蔑する?
処女じゃないからって、抱いて、やっぱり下手だったら…がっかりされちゃうのかな…。
新たに出てきた問題に、俺は頭を抱えた。