ごちゃ倉庫
◎いくじなし
2015-12-15 10:13
いくじなし
キミは、永遠なんか信じないと言った。
【いくじなし.】
暖かな5月の午後。
さんさんと太陽は照り続け、5月だというのにじわりとしていて暑い。
生活するのが辛くなる異常気象だ。
大量の汗をかきシャツもピタリと肌についていて言いようのない不快感もする。
なんで今年はこんなに暑いんだろうか…温暖化が進みすぎだ。
これから先例えば10年後なんかは人が住める温度なのだろうか?
どうしようもないことを考え、パタパタとノートで仰ぎながら、ふと僕は同じようにノートを仰いでいる隣にいる雅也を盗み見る。
雅也はシャツの胸元を大きく開け器用に片手で煙草を持ちながら、同じようにもう片方の手で小さなうちわを仰いでいた。
彼の額にも少しではあるが汗の滴が見えた。
「ねぇ…」
「ん…?」
僕の方を見つめながら口にくわえていた煙草を消す雅也。
その煙草を消す仕草が妙にイタについていて色っぽく見える。
手慣れている、っていうか…。
一体いつから、彼は煙草を吸い始めたんだろうか…、
そんな事もわからない。僕は知らないのだ。
「暑いね」
「あぁ…」
いくじなし…
自分で自分を罵りたくなる。いいたいことはこんなことじゃない。
もっともっと沢山彼としゃべっていたいし聞きたいことも山ほどある。
最近、彼の事がよくわからなくなった。
いつ煙草を吸い始めたのかも僕はしらない。いつの間にこんなに美丈夫な男になったのすらも。
僕は何も知らないのだ。
雅也の事が大好きで大好きで…、
でも考えれば考えるほどに弱気になって。
心に溜まる、不満の洪水に押しつぶされそうになる。
聞けばいいのに、聞くのが怖いんだ。
雅也を好きになる度に、雅也が遠くなりわからなくなるから。
「雅也…」
「あん…?」
君は、雅也は‘永遠’なんか信じないと言った。
だから‘愛’なんて不変なもの信じないと言った。
それでもいいから…僕は付き合ってくれとせがんだ。
こんな関係でもいいと、そう言ったのは僕なのに。
最近この関係が凄く怖くなる。
壊れそうで、なくなりそうで。
彼は僕を好きじゃない。
煩わしいのが大嫌い。変わる変化が大嫌い。
だから僕は何も言えない。
この何とも言えない雅也との関係を壊したくないから。
いくじなし、だ。
「雅也…、」
もしも僕にもう少し勇気があったら…
そしたら雅也に永遠の愛をあげていただろうか。
もしも僕がもう少し自分に自信があったなら。
「熱いね…」
こんな、壊れたテープレコーダーのように同じ事を何度も繰り返す事はなかっただろうか。
もっと雅也とのこれからを夢見る事が出来ただろうか…。
「あぁ…、」
雅也は何か言いたげに口を開いたが…またすぐに閉ざした。
彼も、また僕達の関係を考えているのかもしれない。
このおかしな関係を。
でも雅也もいくじなしだから…きっと言えないんだ。
愛や恋が怖い、いくじなしだから。
だから彼は永遠なんか信じない。
「雅也雅也」
今日も暑い。
そして今日も僕は言いたい事は隠しながら生きていくだろう。
「あぁ」
雅也が僕に見切りをさし、彼からさよならするその日、までは。
僕はきっと何も言えないのだ。
「壊してよ…。僕を」
いくじがない僕はどうせなら彼に壊される事を望む。
どうせ永遠がないのなら…――――
彼に壊されてボロボロになったほうがまだ幸せだ。
「嫌だね…」
雅也はそういうとそっと僕に唇を落とした。
ああ、
全く
雅也も
いくじなし…。
僕を壊す勇気もないなんて。
僕を壊すことすらしてくれないなんて。
愛すらくれないくせに。
酷い男だ…。
僕らお互い
いくじなし…ー。

