ごちゃ倉庫

09/05

◎片思い


2015-12-15 10:15

片思い




本気にならない恋だった。
本気になってはいけない恋なのに。

僕は貴方が好きになってしまった。



<片思い>

ぼんやりと、窓を見る。
部屋の隅に存在する西側の窓。部屋の雰囲気に合うように付けられた淡い緑色のカーテン。

寒くなってきた最近では、夜になると薄い結露が窓についていた。
もうすっかり冬になったらしい。

曇りかかった窓ガラスを見て少し安心する。
はっきりと俺の姿が映し出されないから。
この、自分となんて向き合いたくなかったから。
雲っているくらいがちょうどいい。うっすらとした影を映しているくらいが。


僕はベッドに腰掛けながら、未だに隣で眠っている彼…横溝さんを横目で盗み見た。
横溝さんは規則正しい寝息をたて、胸を上下させている。

 珍しい。横溝さんがこんな、僕の前で寝るなんて。

よっぽど疲れたことがあったのだろうか。
普段は真面目で、けしてこんな風に寝てくれないのに。

真面目な横溝さんだから。

こんな機会、もうないかもしれない。

僕は横溝さんの姿を焼き付けるように、じっとその横溝さんの寝顔を見つめた。


僕と横溝さん。

僕と横溝さんの関係は…
褒められたものではないが援助交際だ。

高校生の僕を、横溝さんが買ったのだ。
といっても高校生だという事は横溝さんには秘密にしているけれど。

ただの‘売り’ってことにしている。
横溝さんは僕が高校生だという事は知らない。

横溝さんは客としてはとてもマナーがあるいい人で、それから優しい人だった。

そう、とっても泣きたくなるくらいに、優しいヒト。

優しすぎて不器用になる、ヒトだった。
『僕の妻がね、浮気をしろというんだ』
そう、初めて会ったときに言われた。
浮気をしろ、なんて普通の妻だったら言わない。
むしろ、浮気をするな、くらい言うだろう。

『僕の妻はもう長くないから。だから妻が言うんだ。私じゃない、別のヒトと恋をしなさいって』
『どういう意味?』
『私が死ぬ前までに、別の誰かと付き合いなさいと。彼女は僕を残して逝ってしまうことがよほど心残りらしい』

横溝さんはそういって、不自然に唇を歪ませた。

『浮気しろって言われたから浮気するの?』
『ああ。それが彼女の、望みだから。俺を救ってくれた彼女の望みだから』

どうやら横溝さんはとことん妻が好きなヒトらしい。
言われたからする、なんて。
でも、ここで些細な疑問。
何故、浮気相手が男の僕で。それから何故、別の誰かと付き合わなくてはいけないのだろうか。奥さんは、横溝さんを別の誰かと付き合わせようとするのだろうか。

それを聞こうとしたら、僕は横溝さんに唇を塞がれた。


『何も聞かないでくれ、お金は払う。だから…』

必死に、言い募る横溝さん。
その時の顔があまりに必死で…。

僕は何も言わずに首を縦に振ってしまった。



『何も聞かない。だって、僕らはお金だけの関係でしょ?』

その時、横溝さんにまだ恋をしていなかった僕は、そんな言葉を軽々しく吐けた。
まさか…そんな言葉を吐いた自分が、こんなに横溝さんを好きになることなんて思いもせずに。

こんなにも、この言葉が自分にとって、痛手になるなんて、思いもせずに。

横溝さんは、僕をまるで壊れ物を抱くかのように、抱いてくれた。
家に帰れない僕を、時々は宥めて。
泣きたいときはそばにいてくれて。

お金≠フ関係を忘れてしまいそうなくらい、優しくしてくれたんだ。
誰よりも、優しく。
時に、悲しく。


恋なんて、どこから恋になるのか。そんなものは大抵皆わからない。
僕も。
そんな恋に落ちていた。
わからないうちに、自分でも気がつかないうちに、横溝さんを好きになっていった。
僕の唯一≠ノなってしまうくらいに。

お金だけの、関係で。
貴方には奥さんもいて。
ほかには何も教えてくれないヒトなのに…。

僕は、横溝さんを好きになっていた。

とっても、好きになってしまった。

不毛な片思い。


いき場のない、思い。
「…ん…」
「あ、起きた…?」
「…とうまくん…?」

眼をパチパチと瞬かせる横溝さん。いつものきりりとした顔が、どこかぼんやりとしている。
どうやら、まだ寝ぼけているらしい。
普段まじめなヒトなのに…こんな横溝さんは珍しい。
僕はそんな寝ぼけ眼の横溝さんに苦笑しながら、彼の体にすりよる。

「横溝さん…」

貴方が好きです。本当に、好きになってしまったんです。

お金なんか、いりません。
僕は…。

思いが、心の中を充満する。
だけど、それは言葉にならずに、頭の隅に追いやった。

だって、こんな思いは、横溝さんにとって無駄なものだから。

ただの、お金の関係の浮気相手にこんな思いをもたれても、横溝さんはきっと迷惑だから。
これは不毛な片思い。
思いが通じるなんて、夢にも思わない。

恋の大半は、実らずに終わるもの。

そして、きっとこの恋も…。


「抱きしめてください…僕を…」


今日も、言えない。

貴方への思いが。

ぐるぐると、胸を締め付けて。

ただ、ないてしまうくらい好きなのに。

今日も、言えない。

貴方が好きなコト。

コレハ、カタオモイ……。


『貴方が…』

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