ごちゃ倉庫

09/05

◎怪盗さんを逮捕しちゃうぞ。


2016-3-16 11:30

怪盗さんを逮捕しちゃうぞ。



真鍋誠司、29歳。
刑事。


俺は今、非常に不愉快な格好をさせられている。

上半身裸、そして下はパンツ一丁。

…どこの変態だ。

いや、別にこんな格好やりたくてやっているのではないが。

俺の目の前にはニヤニヤと笑う男。

顔は暗闇ではっきりとはわからないのだが、僅かに見える口元は確かに嬉しそうだ。

こいつとは結構長い因縁の付き合いになるが、こんな事をされたのは初めてだ。
いや、むしろこんなに近くにいる事自体初めてかもしれない。


「フフ。いい格好ダネ。
刑事サン。
僕ゾクゾクしてしまいます」
「はっ…。変態がっ…」
「そんなところが好きなんデスヨ?」

やつは俺が動けない事を良いことに無理やり俺の顎を上向き上げる。くそ。凄い屈辱だ。

ぱっと見俺より華奢で細い得体の知れないやつに良いように扱われるだけなんて。

俺は悔しくてギリリと歯を噛み締めた。


「ほどけ馬鹿野郎」
「嫌デスヨ。せっかく捕まえたのに」

いいながらやつは俺の頬に手を滑らせ、俺の頬の感触を確かめるようにその長い指先を動かす。


俺の今の状況ははっきり言ってとてつもなく窮地に近い。

宿敵ともいえる得体の知れない″こいつ″に、身ぐるみはがされ更には身動きが出来ぬように椅子に縛られているのだから。

俺、真鍋政司は、割と大柄で職場では熊男、と呼ばれている。

元より少し足は遅いが力は合ったし俊敏力もあった…筈だ。

刑事という職業は体力あってのもの。
俺はそれを理解していたし、筋トレもマメにしていた。

それなのに…あぁそれなのに、だ。



目の前でニヤニヤと笑っている″こいつ″

俺もあまりよくは知らないが、こいつは最近この街を騒がせている怪盗…らしい。
名前はブルーキャット。

変装が大得意で誰もその姿を見たことがないとかどうとか。


俺たち警察は長年に渡りこいつを追い続け、今日罠を張っていた訳だが、見事にこいつはそれを見つけ逆に俺たちを罠に陥れた。

そして今の状況、だ。
全く笑えない。

罠を張ったが逆にこの得体の知れない男に無様に捕まり、こうして身ぐるみはがされ椅子に座らされている…。刑事としてこれ以上の屈辱ってあるのだろうか。


いや、ない。

きっとない…筈だ。


「俺の、部下は…?」
「あぁ、邪魔だったんで向こうの部屋に放置してますヨ?

僕あなた以外興味ないんですヨネ〜」

嬉しいですか?と嬉しそうな声色で微笑むやつ。
全く持って嬉しくはない。

ただ、仲間が殺されてなくて良かった。
一応こいつは怪盗であり警察の憎むべき相手であり犯罪者だ。

なにが起こっていてもおかしくはない。それこそ、殺されても、だ。

 ふと危険を感じ周りを見てみると…見慣れた風景が視界に広がった。

どうやらここは俺たちが罠を張った美術館、らしい。

とりあえず拉致とかされていないようだ。

このままなんとか朝になれば誰が人が来る…

筈だ。


「俺を、どうするつもりだ?」
「ん〜
別に気に入っただけでどうもするつもりなかったんですがね〜」


そう言いながら奴はねっとりと這うように俺の首筋に指を滑らせる。

細い指先はまるでピアノでも触っているかのようなタッチだ。

はっきり言ってくすぐったい。

「おま…」
「ん〜ちょっと楽しい?ねぇ…誠司さん」
「な…なんで俺の名前…」

再び言うがこいつとこんな近くで話すのも今日が初めてだ。

名前を名乗った覚えなどない。

「別に良いじゃないデスカ。
それより誠司さん…あなたは抱かれたいですか?抱きたいデスカ?」
「は?」
「だから、僕を抱きたいですか?
それとも抱かれたいですか?
僕どっちも上手いデスヨ?」

何が?と聞くほどもう俺は初じゃない。

それにベタベタと触ってくるこの状況。
上半身裸、身ぐるみはがされた状態。
変に危ないやつの声色といいオーラ…

 これはもしかして…もしかしなくても貞操のピンチ、ってやつだろうか。


嫌な汗がダラダラと出てくる。


抱きたいか、抱かれたいかと言っても得体の知れないやつを抱く趣味はないし、何よりこいつは怪盗だしそして何より


「お前男だよな」
「疑っているのならみます?」
「イイイイイイっ」

俺なんかより断然細い体をしているが、声から言って男だ。

喉仏もあるし。

変装という可能性もあるが、この男の俺に抱きたいか抱かれたいか聞くって事は…


″ふたなり″とかメルヘンチックでない限り当然男の印であるシンボルがある訳で。


「か、考えなおせ。
こんな熊男抱きたいか?抱きたくないだろう。うん。

それに俺は自慢じゃないがテクはないぞ?
抱くにしても乱暴だし」

あぁ、全く持ってこんなの自慢じゃないし言いたくないが貞操の危機だ。仕方がない。

俺ははっきり言ってテクはない。

 今まで抱いてきた女全員誠司さんって荒々しくて…本気でやったら壊れちゃいそうと抱いた後日一週間以内に別れを告げられている。


ちなみにそんな俺だからここ最近恋人はいない。

所謂右手が恋人、ってやつで。


「僕熊さん抱くの好きなんですよね。

それに誠司さんになら…
めちゃくちゃにされてもいいかな…」


語尾にハートマークをつけながらブルーキャットは俺にすりよりピンと胸にある飾りを指で弾いた。

強者現るマズい…
非常にマズい。


縛られて身動き取れない俺。

そしてかたやこんな熊男に抱きたい、抱かれたい言いながら先程からベタベタと俺の体に触れる奴。


なんだろう…

今日は厄日なのか。


「くっ…」
「ふふふ。
誠司さぁん、もっと甘い声出して下さいよ〜
ね?」

奴の右手が忙しなく俺の体を這う。

胸に腹に更にその下の部分にも。

先程自分で言った僕上手いです発言はもしかしたら本当かもしれない。

非常にヤバい。


色々とアレが。


察してくれ。

「おいッ」
「ん〜」
「おいったらっ」
「五月蝿いですね…」
「んんんー」

俺の反論虚しくブルーキャットは大人しくさせるためかいきなり俺に唇を合わせた。

く、こいつ…

さっきから全部がうますぎる。

俺は巧みなやつの舌の動きに翻弄され、息を切らす。


ただの舌の愛撫。
しかも中学生とか童貞じゃあるまいし、キスの一つだ。


なのに、俺はブルーキャットにいいように翻弄され、足腰は力なくその体をクタリとブルーキャットによりかかっていた。


「誠司さん、可愛いです…」


うるせぇ、バカヤロウ。
そう言えない自分が憎い。

俺は未だにハァハァと荒い息を吐き、ブルーキャットの腕に抱かれながら、やつを睨みつけるだけという形になっている。


そんな寄り掛かっている俺に、愛おしそうにゆっくりと頭をなでるやつ。
こんな状況なのに、優しげなその手つき。

俺とは敵な筈の、怪盗なのに…


「貴方が…ずっと、好きでした…」


一瞬、月の光で見えたマスクに覆われた奴の瞳は…
切ないくらい、俺を見つめ揺らめいていた。

「好きです…誠司さん…」


そしてまたユックリと、俺の顔に自分の顔を近づけていく…。

ビービー


「っ…」

けたたましい、警報音。

仲間の誰かが気絶から復活したのか…


俺の唇に後少しで触れそうだったブルーキャットの唇は、警報音が鳴った為に俺から身体を遠ざけた。


「ちっ…」

忌ま忌ましそうに言うブルーキャット。
この分だともうすぐ仲間が来るだろう。

俺は未だにブルーキャットがいるにも関わらずほっとため息をつく。

「誠司さん…」
「な、なんだ…」
「そんな顔、しないで下さい。
監禁したくなりますから…」

か、監禁…。
それより、そんな顔ってどんな顔だ…。

未だに夜目じゃない俺だが、やつはこの暗闇の中俺の顔がわかったのだろうか。
悔しい。
俺はさっと顔を地面に落とした。

「また、今度…」
「ブルーキャット…きさまっ」
「貴方を手に入れる為にまた来ますよ

誠司さん」
「なっ…」


そういうとブルーキャットは名残惜しげに俺の頬をひとなでし、背を翻しやがて気配を消してさっていった…。


夜の、世界へと。



やつと直接会ってから二ヶ月…。


「誠司さん、本当にブルーキャットに関しては熱心すねー」
「うるせー」


俺は未だにブルーキャットを追っていた。

怪盗だからもちろん捕まえなくてはいけない相手だが…


俺はあれから変なのだ。



あいつの事を考えると頭がパンクしそうになるし、顔だって赤くなるし…

俺は…


「誠司さん…、顔真っ赤ですよ」
「…っうるせー。
早く行くぞ」

かっと染まった頬がバレナイように俺は不機嫌を装い走った。

この気持ちに、蓋をして。


ただ、やつだけを捕まえる事に専念しようと

俺はブルーキャットが犯行を行う場所へと急いだ。

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