ごちゃ倉庫
◎切望
2016-3-16 11:32
切望
例えば。
それは、僕にない物を彼が持っているからかもしれない。
持っていないから、欲しいと望むのかもしれない…ー。
持っていないから、こんなにも彼に惹かれるのかも、しれない。
欲しい欲しいと、願ってしまうのかもしれない。
それは恋、いや。
正確に言うならば
切望。
(切望)
待ち合わせの公園。
そこは相変わらずガラン、として人気がなかった。
小さな公園なので、昼間ですら、ここで遊ぶは子供は少ない。
風に揺られ、キィ…、っと小さく音を立てるブランコが、妙にその人気がない物悲しい感じを作り上げていた。
重苦しいような、悲しげな空気。
カラフルな遊具や、パンダの乗り物が、どこかその楽しげな色とは裏腹に滑稽に見える。
最近では、少し歩いたところに、此処よりももっと大きな公園が出来たとかで、少なかったここの公園の常連は、更に取られてしまったようだとついこの間、母が夕食の時に話していた。
人間、やはり新しい綺麗な物の方を選ぶ。
例え、愛着があったとしても、周りが新しい物を選んでいたら大半の人間も流れるように新しい物を選んでしまうだろう。
特に、日本人という、流され気質は。
だって、きっと僕もそうだから。
誰かに新しい公園の方がいいよ、と言われれば僕は愛着などないものとし、アッサリとここを捨て新しい公園へ行ってしまうだろう。
僕はそんな、日本人らしい日本人だ。
新しいものが好きで、便利なものが好き。
そんな、人間だ。
流されやすい人間。
ふと、物静かな公園を前に思う。
僕が学生の時、まだ少しいたチビッコ軍団も、多分そちらへ行ってしまったんだろうか…。
あんなに五月蝿かった軍団だが、いなくなると物悲しい気分に陥る。
特に夜になると、ここは人気がなく、薄暗いため夜は本当に怖い。
まるで、僕がこの世界に置き去りにされたようなそんな心細い気分にも陥る。
ザワザワっと、風で揺れる木々がその僕の心に拍車をかけた。
(まだかな…。)
公園の真ん中に位置する時計台に目配せしながら、早く早く…と僕は指定された場所で彼を待つ。
冬の空は、6時だと言うのにもうすっかり落ち、夜のモノとなっていた。
空にはピカピカと白い星が見える。
変わりに冷たい風が、僕の頬をピシリ、と叩いた。
刺すように、冷たい冷気が。
ここじゃない場所に待ち合わせにすれば良かった。
もっと温かい場所にすれば良かった。
いつも僕はそうだ。
他人の言葉に流される。
そして、損をするんだ。
性分、と言ったら聞こえはいいけれど…本当はなんでもない。
後でグチグチと愚痴をいうのだから。
男らしくない性格だ。
彼は、そんな僕にいつも馬鹿だなぁ…と笑っていたけれど。
いつも立ち回りの悪い僕に。
彼はいつも微笑むのだ。
僕を虜にする笑みを、惜し気もなく出して。
僕に、笑いかける。
何の損得もないような、裏表のない、笑みで。
いつも僕に笑うのだ。
僕になにも求めずに。
綺麗に。
『君は、本当に馬鹿だなぁ…』
言いながら僕の頭をくしゃくしゃにして。
僕を言いようのない気分にさせる。
形がなくて、胸が騒ぐようなそばにいるだけで心安らぐような気持ち。
沸き立つような、衝動。
最初は気持ちが、何なのかわからなかった。
この、形容しがたい感情が。
また何かに流されているモノだと思っていた。
優しさを与えられた(感謝)と愛情を履き違えていると
そう、
思おうと、していた。
そうだろうと勘違いさせていた。
あの日彼に恋人が、出来るまでは。
決定的な、出来事がおこるまでは。
始めて、《失恋》を味わうまでは。
自分の気持ちに、見ないふりをしていた。
気づかないふりをした演技をしていたのだ。
ずっと、本当は自分の奥底に眠る彼への気持ちを気付いていたのに。
理解、していたのに。
僕は、自分と向き合うのが怖かった。
彼への気持ちを知られるのが怖かったのだ。
人の目…
それ以上に、
自分自身が男好きの
おかしい者と
思うのが嫌だった。
幼かった僕の心は、自分の気持ちを隠す事により平穏を手に入れようと必死だった。
自分は彼を好きじゃない。
自分は普通だ…、と。
ギリギリの所で線をひいて、入らないようにしていた。
この気持ちはなんでもない…と。
自分自身に嘘をつく僕。
嘘で真実を塗り固めようとする、浅はかな心。
…でも、駄目だった。
必死に嘘をついても。
最後の最後で、駄目なのだ。
僕の心が叫んでいる。
目隠しは辞めて、息苦しい
と。
最後の最後で、言うのだ。
彼をこんなにも切望し求めているのに…
それを隠す事は出来ない
と。
狂う程に切望した。
その思いは、恋という生易しいものではなかった。
愛という美しいものでもない。
ただの(切望)
胸たぎるただの狂気に近い切望だった。
言葉では言い表せないほどの、
ただ一つ唯一の
切望だった。
切なく望む、僕の真実<ココロ>だった。
恋をすると周りが違ってみえる。
美しいキラキラとした世界。
なにかの恋愛小説でそんな一節を見かけた。
だけど、僕はちっともそんな世界には見えなかった。
汚く黒い醜い自分自身のココロ。
何をしても彼が欲しいと望む浅はかな自分しか。
僕には見えなかった。
一晩悩んで一晩苦悩して眠れない夜を過ごして
自分を壊して
最後に行き着いた答えは
自分の心に素直でいようと思う心だった。
そう、
この恋がいけないモノと誰かに言われても。
彼への狂おしい気持ちは消えないのだから。
今まではほかの人間がいいと言われればなんとなく好きになる僕であったが、彼に至っては少し違う。
自分だけが好きになって
自分だけが彼を好きだと言えて
自分だけしか彼を見えないようにしたいと
そう思ったのだ。
出来るなら監禁し
彼の自由を奪い
衣食から排泄まで全て僕の手じゃないと出来ない彼にしたいと
狂おしい、ほどに
彼を、
切望してしまった。
自分の心に素直になった僕は、彼にとっていい友人であり続けた。
いつか、彼を奪おう。
いつか、憎いあの女から彼を奪おう。
ニコニコと笑いながらそう策略して。
彼に、優しい自分を見せ付けた。
時に頑張れと勇気づけて
まだ彼女も怒ってないと
口にもない事を言って
周りにも彼の1番の親友だと思い込ませた。
誰よりも信頼できる友人だと。
時期が来るまで、ずっと。
彼に思わせ続けた。
ニコニコと、優しい彼に笑顔を浮かべたまま。
ゆっくりゆっくり、
僕を彼の心に浸蝕させていく。
ゆっくりゆっくり
まるでサソリの毒のように
彼へ僕の甘い毒を回らせて。
今日彼が失恋したと聞いた。
僕が嫌いだったあの女と別れたのだ。
僕の計画通り。
彼は僕に慰めを求めた。誰よりも信頼しきった僕に。
僕が予想していた通り。
彼は最後には僕を頼った。
優しい嘘をついて、君を着実に落としてきた僕に。
カチリ、と時計の長針が一つ動いた。
まもなく彼はこの公園にやってくる。
さぁ、どうやって次は彼を僕のものにしようか…
どうやって、彼の世界を僕だけにしようか。
彼も僕を切望してくれるだろうか…。
僕だけの世界でいてくれるだろうか…。
『ごめん…』
彼が少し足早に、駆け足で寄ってくる。
僕はニヤつく顔を何とか抑え、極自然に彼に手を振った。

