ごちゃ倉庫
◎ラストラバー
2016-3-16 11:47
ラストラバー
惑星ソクラクス。
時はフィーア歴2238年。
世は三つの国で回っていた。
ゾクトネス、アラモアナ、クリニグ。
その国の一つゾクトネスにある、不思議都市メゾブネ。
大大陸の真ん中に位置するそこは、貿易が盛んであり、また物資が豊かだ。
この国には、立地的なせいか様々な種族がいた。
可愛らしい猫娘、力持ちなフランケンシュタイン。
そして……、
「くそ…、覚えてろ……。
俺は…最強…」
暴れん坊で有名な、狼男と
「ふぅ。御馳走様、狼クン」
美貌の化身とも言うべき美しい吸血鬼。
吸血鬼と狼男。
話は突然始まる。
そう。
それは、まるで、定められたような出会いだった。
####01.出会い####
「くそ、テメェ、この俺様に何をしたッ」
真夜中の闇夜。静かなハズの闇夜にけたたましい怒鳴り声が響く。
都市、メゾブネの裏通りで男が一人地面にはいつくばっていた。
そして、はいつくばっている男の前には黒い服とマントを着た、眼鏡をかけた男が立っている。
はいつくばっている男とは対照的に、飄々と立っている男の顔はとても涼しげで何を思っているのかその表情からはわからない。
眼鏡に隠された瞳は、とても沈んだ冷たい色をしていた。
「くそっ…」
地面にはいつくばり、悔しげな声を出している男の名はアキド。
一端の若者で、盗賊紛いの悪さもしていた悪党だ。
なんでも、このアキドという男は、この国では珍しい狼の血を引く狼男だ。
大柄、というわけではないが、しなやかな筋肉がついているアキドは身が軽く、しかも力がある。
丁度頭には獣耳がついていて、数メートル先の会話まで聞こえると言う。
満月の時には自我を忘れ狂暴になり、街を荒らす事もしばしば
狼のように足は速いわ、力はあるわ、頭は回るわ血の気が多くあちこちで喧嘩をするわ……。
街でもほとほとアキドの行動に困っていたのだ。捕まえようにも、アキドの逃げ足には誰も追いつけないし、それどころか何人で囲んでも勝負したらあっという間に負ける程強い。
アキド自身も今まで誰にも負けた事がなかったし、自分はこの国で1番強いと信じていた。
今の今まで。
目の前にいる飄々とアキドを見下ろしている男に出くわすまでは。
「さて…と」
アキドの前に立つ男はかけている眼鏡をおもむろに服の袖で拭きながら、口を開く。
ゆったりとした、一音一音噛み締めるような口調で。
「街で噂を聞きまして。
なんでも、君凄い悪党らしいじゃないですか」
男の低く淡々とした冷静な口調。
《凄い》といいつつも、その口調があまりに淡々としていて、何とも思っていないように聞こえる。
現に、この男はあっという間にアキドを地面へはいつくばらせた。
今まで何人相手にしても、負けたことなかったアキドを。
この男は赤子同然に一瞬にして、地面に叩きのめしたのだ。
同じくらい…いや、アキドより細い肢体の癖に。
一瞬目の前の男がアキドの前で舞った、と思った途端、首筋にチクリと痛みが生じ気づいたらアキドは地面に倒れこんでいたのだ。
「はんっ、だからなんだ?
退治でも頼まれたのか?
ふん、俺様ぁ悪党だからな!」
「その反抗的な態度、ますます好みですよ」
男は外していた眼鏡をつけ、ゆっくりと綺麗な弧を描きながら唇をあげる。
余裕ぶったようなその姿に、負けん気の強いアキドは怒り狂いそうになる。
血の気が多いアキドの沸点はそれはそれは低い。
それにこの余裕の表情にも、イライラと苛立つ。
いかにも、アキドの事など、小物扱いしているようで。
「……好み?おまえ……ふざけやがって…」
ギッ、と悔し紛れにアキドは男を睨みつける。
だが……
男を睨みつけた途端、アキドの頭に酷い頭痛が走った。
まるで、頭を鈍器で何度も殴られているような、単なる頭痛とは言えない、酷い痛みの。
「痛ぇ」
「駄目ですねぇ……。《ご主人様》にそんな口の聞きごたえしては」
「てめえ…俺に……何かしやがった…な…」
「いやだなぁ、そんな睨まないで。優しい僕でも怒っちゃいますよ?」
クスクスと笑いながら、男はしゃがみ込み、無理矢理アキドの顎を掴み、上を向かせる。
アキドとしては、はいつくばり、顔を無理矢理上げさせられる事など屈辱以外の何物でもない。
こんな、隷属的な姿…
今すぐその顎を掴んでいる手を引きはがし、殴りつけたいのだが……
如何せん、身体にちっとも力が入らなかった。
何かされたのだ、この目の前の余裕の笑みを浮かべた男に。
「テメェ……」
「君が狼男で助かりました。
探していたんですよ、狼の血の引く人間を。
僕は吸血鬼でね、こうみえても、とてもとてもひ弱なんです」
「はぁ?ひ弱?ってか吸血鬼って……」
男の言葉にアキドは眉を寄せる。
この国では、吸血鬼は天使と同じく、神の遣いと言われており、その存在は非常に謎が多い。
というのも、既に絶滅寸前の種族らしく、この国に50人もいない程の少数種族だからだ。
げんに、今までアキドは吸血鬼に会った事がなかったし、その存在そのものを否定していたものだ。
吸血鬼は一説によると、この世界で1番魔力を持っていて1番強いとかかれていたから。
自分が1番強いと信じていたアキドはその存在を受け入れられなかったのだ。
だから首筋に痛みが走っても、大した事ないと思い油断したのだ。
「くそ、吸血鬼が俺に何のようだッ」
「そうつっかからないで下さいよ。
僕の望みはとても簡単な事ですので。」
「望み……?お前が、俺に?」
「えぇ、君に」
ニッコリと相変わらず読めない笑みを浮かべる自称吸血鬼。
(初対面なのに吸血鬼野郎がわざわざ俺に何の……)
全く初対面な人間の望みなど聞きたくもなければ、そのニコニコ笑っている面を殴り飛ばしたい。
だが、今それは出来ないでいる。
いくら頑張っても身体にちっとも力が入らないのだ。
地面にはいつくばる姿は誰がみても滑稽なものだろう。
(この吸血鬼の力か……?)
アキドは悔しげにキツク唇を噛み締めた。
「くそ、どうしてたてねぇんだッ……」
「それは僕が吸血鬼で君の血を吸ったからですよ。
知ってます?僕達吸血鬼が血を吸えば、僕達の意のままに出来るって話」
「何…そんな馬鹿な……」
「げんに君は僕に手が出せない」
そんな事出来る訳がないだろ!と言いたいが男のいうとおり身体は全く言うことを聞かない。
犬のようにはいつくばったままだ。
否定しようにも、今のこの現状が真実を物語っている。
「僕の望みは簡単です。君が欲しいんですよ、狼クン」
「俺……が?」
「貴方は狼人間だ。
普通の人間より血の気が多い。
それに僕は、これから巨大都市レゾアに行かなきゃならないんです。
我が種族を滅ぼしたとされる人物を追い…」
殺す為に。
殺す、と言った瞬間、男の瞳に憎しみの色が見えた。
今までただ淡々と喋っていただけの男なのに。
突然笑顔が消え失せ、恐いほどの憎しみを見せた。
それは一瞬、普段戦いなれているハズのアキドですら身震いするほどの、恨みや憎しみだった。
「……なぜ、血の気が多い俺を?」
「レゾアに行く道中は獰猛な人間が多い。
僕ら、吸血鬼が魔法を使うと体力が減るし、太陽の光はまだしも、火には滅法弱い。
だから餌に血の気が多い狼男がいいと思いまして。狼男は、力も強いし、奇襲されても返り討ちにしてくれそうですしね。
それに、旅先で途中で狩るのは面倒だと思いまして君を探していたんですよ」
つまり、ただの餌にするだけの為にこうして捕らえられているのだ。
この吸血鬼の、食料として。
「……俺を餌にする為にか…くだらねぇ……。
非常食か、俺は……
復讐なら一人で勝手に」
「君に拒否権なんか、ありませんよ」
男がアキドに手を翳す。
と、途端痛み出す頭。
「くっ……」
どんなに気を紛らわそうと首を振ったところで、その痛みは和らぐ事はない。
既に支配されてしまったのだ。目の前の男に。
「くそっ」
「君はただ、僕に血を差し出せばいい
そうしたら可愛がってあげますよ」
「くそが…。覚えてろよ」
アキドは悔しそうに吐き捨て、キツク、吸血鬼を睨んだ。
最悪な出会いをした狼と吸血鬼。
無理矢理、吸血鬼に自由を奪われた狼男は仕方なしに吸血鬼の旅に同伴する。
その旅が、長くそして険しく、吸血鬼の存在が変わってしまう旅になるとは思わずに。

